魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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中学生になった上に妹も出来た燐火の周りでは、色々と環境が変わります。

それまで家の買い物をしたりはしなかった燐火も、親と一緒にそれを覚えるようになります。

かなり大変ではありますが、こういう社会経験は早い内からやっておくべきでしょう。





1、変わる環境

おかあさんと一緒に買い物にいく。

 

子供に財布を持たせるような危ない真似をおかあさんはまだするつもりはないようである。

 

馬鹿な親になると、平気で子供に大金を持たせたりして、管理を丸投げしたりするようだが。

 

まだ子供のうちにろくでもない金の使い方を覚えたりすると、絶対良いことにはならない。

 

それをおかあさんは知っている。

 

燐火に対してもそれは同じだ。

 

杏美をベビーカーに乗せたまま、スーパーで買い物をする。

 

基本的に今回は夕食の買い物について。

 

杏美はまだ粉ミルクと母乳の状態なので、離乳食はいらない。まだまだ食べられる状態ではないのだ。

 

無駄遣いをしない買い方をおかあさんに習う。

 

これは実はおとうさんにおかあさんは教わったらしい。

 

おとうさんは就職氷河期とやらでとても苦労した人らしく、Vtuberになるまで七転八倒の人生を送ってきたとか。

 

やっと最近それの精算があちこちでされるようになり始めて。

 

更には就職氷河期を作り出した要因だったものがどんどん社会から取り除かれていった事もある。

 

おとうさんはどうにか家庭を作ることが出来たが。

 

それまでに数え切れないほどの苦労をしてきた。

 

燐火が色々起こしたとき、対策の手際がいやに良いなと思うことはあるけれど。

 

それはそれだけ、体で覚えることになった傷。

 

それに苦労から来るものだったのだろう。

 

買い物を終えると、結構なお値段になる。数日分の食事で、結構なお金が消える。

 

これでもかなり節約しているらしい。

 

最近は出来合いをやめて、料理をするようになったこともある。

 

料理は基本的におとうさんに教わるのだが。

 

一緒におかあさんと隣で教わる。

 

それもあって、燐火は一緒に勉強をしているようなものだ。

 

家に帰る。

 

帰りは車だけれども。

 

杏美の世話は、その間は燐火がする。

 

幸い杏美は車酔いはほとんどしない。

 

おかあさんも元警察官だからか、非常に安定した運転をするので、安心感もある。

 

家についてからは、テキパキと手分けして冷蔵庫に買ってきたものをしまう。これも、すっかり慣れてきた。

 

その間も杏美は交代で見張る。

 

まだまだ、目を離せる状態ではないからだ。

 

片付けが終わってから、燐火は外で鍛錬のルーチンをする。

 

黙々と、的確にこなす。

 

ケルベロスが、成長痛の時などは、色々とアドバイスをしてくれた。今が恐らく成長痛の本番か、山を越えた辺りだ。

 

無理をするとちょっと良くないかもしれないらしい。

 

まあ、それは側でアドバイスをしてくれる頼りになる冥界の番犬がいるから大丈夫である。

 

ひたすら、正拳をたたき込み。

 

合気の訓練を続ける。

 

素振りもする。

 

最近は普通の竹刀では物足りないので、重りをかなりつけている。そろそろ真剣でも良いかもしれない。

 

鍛錬を終えた後、家に入り、宿題をやる。

 

既に高校一年の勉強を終わらせようとしている燐火だが、宿題も勿論手を抜くつもりはない。

 

一つずつ丁寧に片付ける。

 

このくらいの年から、出来る子出来ない子ははっきり分かれてくる。

 

燐火はしっかり勉強をしていて良かったと思う。

 

九九が出来ない子が普通にいるのを見ると、それはどうしても感じてしまうのだ。

 

隣の席にいる女子が、一夜漬けについては凄いが、翌日は全て忘れてしまうタイプで、それで九九すら怪しい。

 

それである程度の点数は取っているけれど。

 

あれはいずれ成績が致命的に落ち始める。

 

燐火はそれを見ているが、別に何かするつもりはない。

 

実際問題、中一になると色気づき始める女子も多くて、その子もその類だ。燐火を怖がっているようだが。

 

同時に変に色気づいていて。

 

それで学業がおろそかになっているのなら、自業自得だろう。

 

知ったことではない。

 

宿題を片付けた後、勉強を進める。途中、二度杏美の世話を代わった。

 

まだ言葉を話せない杏美だが、あんパンのヒーローは大好きなようで、絵本を読むときゃっきゃっと嬉しそうにする。

 

これは燐火だけではなく、おかあさんもおとうさんも喜ばれる。

 

それもあって、燐火はせがまれると絵本を読む。

 

せがんでいるのはなんとなく分かるからである。

 

燐火も少しずつ、赤ん坊のことが分かり始めたのかもしれない。

 

夜泣きはするが、それは許容範囲。

 

燐火としても、耐えられないほどではなかった。

 

ただ時々、交代で世話をする。

 

おかあさんとしても、かなり疲れているようだ。これはしばらくは、仕事どころではないだろうなとも思う。

 

無言で宿題を終えると、風呂に入り。

 

そして、ケルベロスに声を掛けられた。

 

ダイモーンだ。

 

さっと出かけて、片付けてくる。こればかりは、先送りにするわけにもいかなかった。

 

 

 

翌日。

 

放課後。

 

学校で、亀野が上級生に囲まれて、何かされていた。明らかに泣いている亀野を、にやつきながら上級生が蹴りつけている。

 

あれは完全に立場が逆転したな。

 

助けてやるかと思ったが、その上級生達の肩を、笑顔で別の上級生が叩く。すごみながら振り返ったそいつらが、真っ青になっていた。

 

見覚えがあると思ったら、ボクシング部か。

 

「そいつがアホでどうしようもないのは事実だが、まさかカツアゲとかしていないだろうな」

 

「ち、違う!」

 

「此奴に昔、気にくわないって理由だけで弟を殴られたんだ! 弟はしばらく右目が使えなくなって、歯も折られた! それなのに此奴の親が反社だったせいで……」

 

「ああ、それについては先生が此奴と此奴の叔父さんと一緒に謝りに行っている筈だが、謝礼金とか足りなかったか? 弁護士と話して治療費も含めて払った筈だが。 もしも感情的な観点で気が済まないのだったら、おれが代わりに殴られる。 殴ってきな」

 

無言になった上級生達は、それでそそくさと行った。

 

両腕が一年は使いもにならない。

 

それだけじゃない。

 

今まで後ろ盾になっていた兄貴や馬鹿親の反社連中は、全て牢屋や少年院に放り込まれた後だ。

 

今の亀野は、厳しい真面目な叔父さんに、一から全部たたき込まれている状態であるらしく。

 

当然髪は黒く染め直しているし。

 

格好だってまともになっている。

 

泣いている亀野に、上級生はさっきまでのにこやかな笑顔はどこへやらという雰囲気で叱責していた。

 

「おまえが今までやってきた事が帰ってきている! 分かっているな」

 

「は、はいっ!」

 

「来い。 今日も徹底的に鍛える。 おまえが今までいた場所は、ただの温室だったって思い知らせるところからだ。 リハビリもかねて、徹底的にやるからな!」

 

亀野が引きずられていく。

 

どうやら燐火が手を出す必要もなさそうだ。

 

ふっと笑うと、そのまま部活に出る。

 

空手部では、淡々とルーチンをこなす。

 

たまに組み手をしてほしいと言われるので、頷いてやる。

 

相手が格下であっても、組み手は全然問題ない。むしろ素人の方が変な動きをするので、突発的な事態の対応を練りやすくなる。

 

これはケルベロスに聞いたことだ。

 

瞬殺するだけではなくて、そういう相手の普通ではない動きを見て、あらゆる局面での経験を積め。

 

言われたとおりに、そうする。

 

ケルベロスも、黙って見守っていた。

 

今の空手部はいわゆる競技型のだが、別にそれでどうこういうわけでもない。空手単体では、其処まで強くないし。

 

何より空手のタイプ関係なく反社の類とつるんでいるろくでもないジムだって幾らでもあるらしい。

 

この部活は非常にぬるいが。

 

ただ、カルト化しているような体育会系部活よりは、なんぼでもマシだろう。

 

ただ、設備があまりないので。

 

燐火は廃材を使って、訓練用の的を制作。

 

組み手を頼まれていない時は、それをひたすらルーチンの相手にしていた。

 

他の空手部員は、それを見て少しは何か触発されたのかもしれない。

 

今までサボっていたのが、ある程度鍛錬をするようになってきている。

 

どうして空手部にいるのかよく分からない、おとなしそうな子が声を掛けてくる。

 

「そ、その、平坂燐火さん」

 

「何か」

 

なんだか日根見ちゃんを思い出すな。

 

ただこの子は、見た目は模範的な優等生だ。

 

口を開くと駄目なタイプであり。

 

そのためクラスでは地蔵とか言われているらしい。

 

自分の弱点を知っているからか、全く口を開かないらしくて。ほとんど声を聞いた生徒がいないとかいう話だ。

 

燐火よりも更に背が高いが。

 

はっきりいって全く鍛えている様子が無く、でくの坊である。

 

背丈は無駄になっている。

 

無駄に色気ばっかりはあるので、もう一~二年で男子にもてるかもしれないが。燐火の知ったことではない。

 

「正拳突きをちょっとやってみたのだけれど、どうにもうまくいかなくて」

 

「分かりました。 先生には聞いてみたんですか?」

 

「色々自分で試行錯誤してみなさいって」

 

「ああ……」

 

あの先生、空手の実力はあるが、指導者には向いていないタイプか。

 

ケルベロスも呆れる。

 

「こういうずぶの素人に、努力しろとか突き放すのは最悪の悪手だ。 具体的にどうするか、訓練をどうやって積み重ねるか。 それを丁寧に教えて、基礎を作ってからがそういう「努力を独自にする」段階になる。 努力というのは所詮目標に対して行動することであって、最初に筋道をきちんと設定しなければ、それは徒労に終わってしまうことがとても多い。 この程度のこと、これだけの教育の実績がある国の教師でも、分かっていない事があるのだな」

 

「情けない話だけれど、そうだね。 柔軟性に欠ける採点とかしている先生を見ると、それは返す言葉もないんだろうと思う」

 

「とりあえず基礎を教えてやれ」

 

「分かった」

 

とりあえず、姿勢から順番に教える。

 

燐火が丁寧に教えているのを見て、他の部員が目を見張っていた。

 

この生徒、鈴山巡というのだが。

 

ともかく、本当に力がない。

 

だが、力がなくても出来ることはいくらでもある。

 

燐火だって純粋なパワー勝負では勝てない相手を、幾らでも沈めてきたのであるのだから。

 

黙々とどうすればいいかを教えて、そして実演。

 

その後、本人にも丁寧に教え込んでいく。

 

飲み込みが良いな。

 

勉強の方は本当に出来るらしいと聞いていたが、これは単純に頭が良いのかもしれない。燐火としては羨ましい限りだ。側でつきっきりでケルベロスがついていて、それでも涼子に勝てなかった程度なのだ。

 

燐火の素の頭の回転なんてしれているのである。

 

「そうです。 重心をそうして、腕だけではなく、全身を連動させて打撃を相手に伝えます。 巡さんの体重を全て活用すれば、一回り大きい男性の内臓を正拳で破壊することも可能です。 練度が上がれば、ですが」

 

「燐火さん、発想が怖い……」

 

「武道ってのは基本的に相手を破壊するためのものです。 それが精神修養に使える場合もありますが、基礎は戦闘技術です。 人間は戦闘技術を極めて、やっと同サイズの動物とやり合える程度の力しか持っていません。 ほとんどの身体能力をドブに捨てている。 それを思うと、鍛錬は無駄ではないですよ」

 

理路整然と説明すると。

 

いかにもやる気がなさそうなギャルっぽい一年上の女子生徒も来る。

 

一応道着だけは来ているが、やる気がないのが目に見えていた。

 

「燐火っち」

 

「?? そんな呼ばれ方したの初めてですが」

 

「あたし小川苛斂。 ちょっと今の、あたしにも教えて。 努力だけしろってほっぽり出されてて、どうにも出来なくて困ってたんだ」

 

「はあ、構いませんが」

 

実は内心は警戒している。

 

ある程度人間の善悪は分かるようにはなってきたが。この人がまともな人かはちょっと分からないからだ。

 

ともかく、基礎の演舞を見るが。

 

ああ、なるほど。

 

半端に知っている人間から、適当に教わっただけの動きだ。中途半端な力量の先輩達から、雑に教わっただけだろう。

 

「全然うまくならなくてさ。 明らかにうまい燐火っちに教わりたいと思って」

 

「不思議な呼び方ですね。 ともかく、順番に説明します」

 

「良い機会だ。 人に教えるには三倍の知識がいる。 試される時だぞ燐火」

 

「分かってる」

 

ケルベロスは歓迎的なようだ。

 

このいかにもギャルな先輩は、中二だが、なんか男遊びとか派手にやっていそうな雰囲気で、ちょっと近寄りがたい。

 

だが、見た目でそんなの判断するのは良くないだろう。

 

教えていくと、丁寧に話を聞くし。

 

実演するとしっかり見ている。

 

そして実際にやって貰うと。

 

運動神経そのものはいいのか、燐火が作った的に対して、かなりいい正拳をたたき込んでいた。

 

どすんと音がする。

 

おおと、声が上がった。

 

「すっご! 今までこんな音出たことないよ!」

 

「まだまだこの十倍は威力が出るようになりますよ」

 

「十倍!?」

 

「大げさでは無く本当です」

 

見た感じ、小川先輩はガタイも燐火より良いし、体の力を引き出しきればそれくらいの力は出せるようになるだろう。

 

頷くと、燐火は自分のルーチンに戻る。

 

鈴山さんと小川先輩が大真面目にやり始めたのを見て、無駄ではなさそうだなと思う。

 

訓練でやるべきルーチンについても説明したから、燐火がこれ以上ああだこうだ口を出す必要もないだろう。

 

部活の終わりまで、みっちりルーチンをこなす。

 

終わった後解散するが、ものすごく距離を小川先輩がぐいぐい詰めてくる。

 

「燐火っちが一年の不良をもうあらかたシメて、二年生もだいたい制圧したって話本当っぽいね! 何をやったらそんなに強くなれるの!? あたしにも教えて!」

 

「は、はあ。 逆にどうして強くなりたいんですか」

 

「あー。 あたし運動神経は良いんだけど、今まで良い先生にあたったことがなくてさ。 なんでも半端だったんだよ。 見かけもこんなだから、遊んでるとか思われることも多くて。 これでも結構成績は悪くないんだよ?」

 

まあ、成績の善し悪しは主観にもよる。

 

もう司法試験の準備を始めている涼子が、上には上が幾らでもいると言っていたくらいである。

 

中学になってもやりとりをしているが、クラスで二人、涼子より出来る子がいるらしい。

 

すぐに追い越すと息巻いていたが。

 

いずれにしても、成績が良い悪いは主観だ。燐火だってそういう友達がいるから、自分の成績が良いなんて思っていない。

 

「燐火の場合は空手、柔道、合気、剣道をやっています」

 

「すご! 戦闘民族にでもなるつもり?」

 

「いや、燐火くらいの鍛錬はスパルタでは当たり前だったのだが」

 

「……ケルベロスも基準がおかしいような気がしてきた」

 

燐火もちょっと辟易するが、一緒に帰ると言い出したので、日根見ちゃんも紹介することにする。

 

明らかになんか雰囲気が違う小川先輩を見て日根見ちゃんは一瞬慌てたが、案の定ぐいぐい間を詰めていく。

 

距離感が独特だな。

 

そう思って、ちょっと面白いと思った。

 

この出会いも、ケルベロスが撒いてくれている幸運によるものかもしれない。いずれにしても、この先輩、話した限りでは悪人だとは思えなかった。

 

 

 

ギャルと言われると、どうしても派手に男遊びをしていると思われる。

 

小川苛斂はそれを知っていた。

 

小学校の頃から見かけが派手だった。

 

おしゃれは嫌いではなかったし、他人に言われて格好を変えるのも嫌だった。だから嫌われた。

 

女子からは浮いていると言われたし。

 

男子からも近寄りがたいと言われた。

 

パパ活をしているとかいう噂まで流されたっけ。

 

その噂をされたとき、苛斂は意味が分からなくて困惑したが。先生に呼び出されて、それで意味を知って。

 

大泣きしてしまった。

 

あまりにも酷い。

 

見た目が派手だというのは、そんなに問題となるのか。

 

結局人間、第一印象が大事とか言っておいて。

 

結局見ているのは見かけだけではないか。

 

苛斂がスクールカーストの上位にでもいれば、話は違ったのかもしれない。だがそのクラスでは、優等生ぶっている非常に邪悪な女がそういうのを締めていて。それで苛斂は目をつけられる事はあっても、そういうグループと見なされることはなかった。

 

不良扱いは、小学校時代ずっと変わらなかった。

 

だから勉強した。

 

上には上が幾らでもいる事は分かっていた。

 

だけれども、ハンデがたくさんあった。

 

先生は苛斂が本気でパパ活をやっていると思っている者もいて、そういう教師は「字が汚い」だの「線がまっすぐではない」だのの意味不明な理由でテストを減点した。そのせいで100点を取れなかったテストが何回もあった。酷いときには字が汚いという理由だけで、全問正解していたテストを50点にされたこともあった。

 

悔しいから勉強した。

 

それに、小六に上がった頃には、露骨にまずい中学生に声を掛けられるようにもなった。苛斂の「悪名」はそれだけスクールカースト「上位」の人間によってばらまかれていたのである。

 

自衛が必要だ。

 

そう判断した苛斂は、空手を始めた。

 

だけれども、最初に入った道場は、苛斂の見かけで判断して、ろくに教えてくれなかった。

 

そういう道場をなんこも回った。

 

五つ目の小さな道場で、やっと基礎をある程度教えてくれたが。その先生はあまり強くも教えるのもうまくもなかった。

 

だから、基礎は教えてくれたが。

 

強くなることは出来なかった。

 

ただ、防犯ブザーを常に持つようにしたのと、クラスの女子が三人がかりで絡んできたのをつたない空手で撃退したこともある。

 

それで、少しだけ自信がついた。

 

それから暴力女というレッテルも貼られ。

 

学校では苛斂が一方的に悪いことにされて、更に成績をことあるごとに下げられるようになったが。

 

それでもなお、スクールカーストの女王を気取っている生徒に勝つことが出来るようになった。

 

スクールカーストなんてゴミだ。

 

悟ったのは、その時であったかもしれない。

 

苛斂は頭が良いほうじゃない。

 

それは分かっている。

 

だが、周りは授業なんて真面目に聞いていないし、テストが終われば習ったこと全部忘れている。

 

そんな程度の輩だらけだ。

 

それを理解してしまうと、どれだけ先生から意地悪されようと、まずは理解していくのが大事だ。

 

そう思うようになった。

 

見た目の派手さはどうにもならない。

 

それにおしゃれだって好きだ。

 

幸い苛斂の両親は理解がある、とまではいわないが。少なくとも苛斂をできが良いとされている姉にくらべて差別するようなこともなかった。学校に呼び出された時は、先生の言いがかりを全て反論もしてくれた。

 

ただ、化粧だけはまだ早いから絶対にするなと釘は刺された。

 

見かけが派手だという理由で苛斂を叩いている教師が。

 

スクールカーストの女王気取りが化粧をしている事を見逃しているのを思うと、非常に不愉快だったけれど。

 

自分で勉強して、化粧品は決して体にいいものではないものもある事を理解すると、納得して化粧をするのはまだ早いと判断できた。

 

中学に上がると、対応は一変して。

 

見かけが派手な苛斂は普通に格好良いとか言われるようになり。

 

困惑しながら、ふざけるなと内心で何度も思った。

 

それから空手部に入ったのは、小学生時代の延長からだ。

 

一年の時は基礎しかやることがなかったし。

 

道場で教わっていることも含めて、何一つ新しい発見がなかった。

 

道場の先生はいい人だが、本当に弱い。

 

教えるのも下手。

 

それもあって、本当に最小限しか出来ない。

 

それで、自力で調べて色々やっていたが。ネットでの情報は玉石混淆。とてもではないが、強くなれそうにない。

 

それで困っていた。

 

二年になって、それは絶望に変わりつつあった。

 

だが、そんなとき。

 

燐火が現れたのだ。

 

あの子、化け物レベルだ。そう思った苛斂は、即座に接近。そして、一瞬で今までの謎とか、試行錯誤が氷解するのを悟った。基礎は決して無駄にはなっていなかった。燐火は本当にいい先生に当たり続けたんだと一発で分かった。

 

師匠を紹介してほしいと、今度頼むつもりだ。今の道場は、決して居心地は悪くないんだが。先生が弱すぎるのである。これで教えるのが下手でなければ、それでも良かったのに。

 

燐火の動き、一発で分かるほど洗練されている。同年代の男子どころか、高校生の半グレを単騎で複数潰したという話を聞いているが、それも嘘ではない事が一目で分かるほどだった。

 

灰色だった中学生活が。

 

彩りを帯び始めている。

 

そう、苛斂は思っていた。

 

派手なギャルとか言われている苛斂だが。実際には灰色の中にいた。だから、家に帰ってから、歓喜を爆発させて。

 

姉に気味悪がられたのだった。







※小川苛斂について

燐火の空手部の先輩です。見た目で損をしているとされる人間はいますが、派手な方向の見た目で損をしているタイプですね。

遊んでいそうとか思われた挙げ句に色々あったので、自衛のために空手を始めた過去があります。

下心丸出しで近づいてくる男を散々見ているため、見た目と正反対に男が大嫌いだし、それで勝手に嫉妬しまくる周囲の色気づいた女も嫌いです。

それでいながら結構人なつっこいので、色々面倒な性格ではありますね。


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