魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
ダイモーンを祓う。
今日は休日だが、これで五体目だ。町中で出現している。それもあって、ずっと走り回っていた。
当然、日女さん達も出ている。
この数の、同時出現。
ちょっと尋常ではない。
悪運をばらまくダイモーンは、簡単に人間を堕落させる。本来はここまで邪悪な存在ではないし、アガトダイモーンとなればむしろ人に有益ですらあるのだが。
これらのダイモーン。明らかに様子がおかしかった。
ともかく、次に向かう。
カトリイヌさんも勿論抑えに出てくれている。
指揮を執っている菖蒲さんから連絡。
大きな気配だという。
「後十二カ所、ダイモーンを祓ったら来てくれる?」
「分かりました。 必ず」
「これはどこかしらの神格ね。 魔祓いがそろうまでは、私でどうにか抑えるわ。 こんな時に父さんがいてくれればね……」
確かに強烈な気配だ。
ケルベロスが、最短路を示してくれる。
面倒なことに、複合魔は一体もいない。
まだフリッグ一派には最低二柱の魔もしくは悪神がいる。
だとすると、複合魔を出してきてもおかしくないのだが。
いずれにしても、燐火にしか対応できない。
走り回る。流石に二十㎞以上走ると、疲れがたまってきた。とりあえず、十四体目。後三体だ。
抑えに回っていた魔祓いも、菖蒲さんの援護に続々向かっている。
気配がどんどん大きくなってきている。
これは、急がないとまずいな。
車が来る。
公安からの指示で、自衛隊が回してくれたようだった。
とりあえず乗せて貰い、魔祓いの体力を温存する。
ケルベロスが車かと言いながら、それでも最適路を指示してくれる。渋滞などを完全に回避するのを見て、自衛官が目を見張っていた。
車での移動中、消耗を少しでも回復するべく、スポーツドリンクを口に含む。
そして残り三体。
どれもたいした相手ではなかったが、即座に祓った。
流石に息が上がる。
ケルベロスが、次が本番だと気を引き締めるように促してくる。それは分かっている。だから、今必死に頑張っているのだ。
現地に向かう。
雷がドカンドカンと墜ちているが。
ともかく現地に到着すると、嫌な予感がした。
雨は降っていないのに、何度も雷が落ちている。現地の近くで。日女さんが負傷して、うずくまっていた。
「日女さん!」
「燐火か。 気をつけろ。 菖蒲姉でも苦戦する相手だ。 こんな時に一線級の魔祓いがあらかた出払っているなんてな」
「これは、生半可な神格ではないぞ。 燐火、飛ばしていけ」
「分かってる」
ケルベロスに言われるまでもない。
すっと息を吸い込むと、短期決戦のつもりで出る。
山の中。
自衛隊員が、倒れた魔祓いを運び出している。もう何人もやられているようだ。死んでいないならそれでいいが。
傷口が炭化している者もいる。
再起不能者も出ているかもしれない。
最前線にいくと、凄まじい斥力を感じた。
これはひょっとすると、体が進むなと警告してきているのか。
ともかく、それでも進む。
やがて、がっぷり四つに愛染明王と組む……なんだあれは。
ともかく、何か良くわからないものが見えてきた。
カトリイヌさんが目を回して転がっている。
セバスティアンさんだけ残っている。若い方の護衛の人がカトリイヌさんを担いで、離脱していった。
「ダイモーン、全て片付けました」
「お流石にございますな。 相手は北欧神話の上級神格。 ご油断召されぬように……!」
エヴァンジェリンさんが、必死にルーンを組んでいるのが見えた。
つまり押さえ込んでなお、菖蒲さんと互角以上にやりあって、横やりを片っ端から返り討ちにしているのかあのモヤモヤ。
何者だ。
トールだとしたら、しゃれにならないのだが。
燐火も無言で突貫。
そいつが、雷撃を放ってくるのを悟り、横っ飛び。
その瞬間、仕掛けたのはセバスティアンさんだ。ソロネから放たれた光がモヤモヤを直撃。
その体を貫いていた。
「む、ぐうっ!」
「面ッ!」
燐火が面をたたき込む。
鉄パイプの火力を最大限生かした一撃は、モヤモヤに明らかに痛打を入れていた。
がっぷり四つに組んでいた愛染明王が見るとボロボロだ。
どれだけの死闘だったのか、一目で分かる。
モヤモヤが形を為す。
まだ若い神か。
極めてマッシブで、一目で強いと分かる。
だが、此奴も消耗している。
菖蒲さんとの死闘、無駄ではなかったのだ。
エヴァンジェリンさんが正体を特定した。
「北欧系で雷神、そしてこの力量。 しかしトールではないとなると、天才たる私は見抜いたぞ。 貴様トールの息子のどちらかであるな」
「ふっ、その通りだ。 俺こそはマグニ。 ラグナロクを生き残……」
「死ね」
不意に割り込んだ第三者の声。
全員が備える暇もなく、マグニが一瞬で首をはねられ。更には、全身をズタズタに切り裂かれていた。
神だからそれでも滅びることはないだろうが、消滅レベルのダメージだ。
割り込んだ何者かは、忘れるはずもない。
スコルだった。
首だけになり、転がりながら。消滅しつつもマグニが恨み節を述べる。
「き、貴様……! フェンリルの……!」
「覚えておけ脳筋野郎。 戦略というのは、他に選択肢をそいでいき、確実に勝てるように手を打っていくことだ。 人間を利用しおまえを弱らせ、更にはダイモーンを活用して人間の消耗も加速させる。 そしておまえが倒れることで、面倒なオーディンは更に手駒を失った。 どうせヴィーザルが倒れた後は、大駒を切るのをオーディンが惜しむのは分かっていた。 オーディンに嫌われているおまえが次は来るだろうともな」
「ぐ……う……っ」
「次はトールをよこすんだな。 ま、親子そろって脳筋である以上、我らの敵ではないが」
即座に鉄パイプをたたき込む燐火。
思わぬ一撃に、痛打をぶち込まれたスコルが、即座に飛び退き。
更にエヴァンジェリンさんのルーンを受けたが。即座にルーンで縛られた左後ろ足を切断して離脱。
逃がしたか。
エヴァンジェリンさんは、倒されたマグニを浄化して封印する。
誰もが冷や汗を掻いていた。
ここになって存在感を出し始めたオーディン一派。
そして、躊躇なく足一本を捨てて逃走したスコル。
これは手強い相手だ。
フリッグともフルーレティとも違う。もしもスコルの後ろにフェンリルがいるとすると。
今までとは比較にならない、恐ろしい戦いになるかもしれなかった。
(続)
ヴィーザルに続いてマグニを倒される北欧の神々。
ラグナロクでフェンリルを打ち倒すヴィーザル、トールの息子として活躍するマグニ、それぞれを失ったのは極めて大きな痛手です。
物語と化して衰え始めているオーディンが、焦りを募らせていきます。
それが思うつぼであるというのに。
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