魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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燐火自身も勉強していますが、好きこそものの上手なれです。

毒親から解放された日根見ちゃんはゴリゴリ生物学を取り込んでおり、そっちに聞く方が早い。

そういう判断を燐火は出来ます。





群狼
序、狼について


狼について、日根見ちゃんと話しながら聞く。今日は小川先輩は先に帰った。かなり空手熱に火が入ったらしく、家で自主練をしたいらしい。ちんたら歩いて帰っていられないと言うことで、走って帰っていった。

 

学業がおそろかにならないか心配だが。

 

元々勉強は出来るらしいので大丈夫だろう。

 

それで日根見ちゃんに話を聞いていたのだが。

 

やはり狼は、元は猛獣ではあっても、犬の先祖であるだけのことはある。人間に対して其処まで敵対的ではないし、動物としても生態は温厚だという。勿論猛獣だから群れで獲物を容赦なく襲うし、人間が襲われることも古くはあった。

 

だが、人間に対する脅威度では野犬の方が高いと言うことだった。

 

なんでも野犬は狼と違って人間を恐れないこともある。

 

一度人間のくびきから外れて、群れをなした場合。

 

それこそ熊以上の脅威になる事もあるのだそうだ。

 

大型犬になると、本気になると人間ではまず勝てない。

 

そういう話もされる。

 

ケルベロスが、まあその通りであると言っている。

 

確かに四つ足の安定した肉食獣である。大型犬となると人間の半分からそれ以上の体重はある。

 

人間は一回り小さいヒヒと同じ程度の身体能力しかないこともある。

 

はっきりいって、勝ち目がないという話も納得できる。

 

中型犬も侮れないそうだ。

 

なんでも狼に近いのは柴犬であるそうで。

 

柴犬の温厚な性格を知っていると驚く部分も多いのだが。

 

そもそもとして狼の本性を内に隠している、ということもある。

 

猟犬として獰猛な犬も珍しくはないのだが。

 

それはそれとして、イヌ科の生物は侮れないのだそうだ。

 

ただネコ科は更にその上を行くらしく。

 

虎などを例に出すまでも無く、現時点で地上にいる肉食獣の中で、武器を持った人間を除けば最強の位置に君臨する。

 

特にシベリア虎は凄まじい強さを誇るらしく。

 

巨体を誇るグリズリーですら、シベリア虎の前には獲物に過ぎないとか。

 

人間が生身で立ち向かうのは100無理。

 

武器と訓練、それに猟犬、人数をそろえて狩っていくのが基本。

 

そういう話をされた。

 

いずれにしても、狼もそういう、人間が素では勝てない相手。

 

問題は次である。

 

「それにしても犬に極めて近いのに、どうしてこうも嫌われたんだろうね」

 

「家畜を襲うからかな」

 

「ああ、なるほど……」

 

牧畜民にとっては、家畜を襲う狼は許しがたい怨敵だ。

 

これについてはどこでもそうであるらしい。

 

モンゴルなどでも狼は普通に飼っている家畜を襲うらしく、そのあおりで人間が襲われる事もあるとか。

 

アメリカなどでも、牧場を狼にやられて大きな被害を出す例は古くには多く。

 

あの高名なシートン動物記に登場する狼王ロボも、実在の狼ではあるのだが。家畜に対する被害が凄まじかったため、本職であるシートンが駆除のために呼ばれたという経緯があるそうだ。

 

この狼王ロボの逸話はほぼ実話に基づいているそうだが、それにしても確かに牧畜家からしてみれば、大量の家畜を殺されればそれは恨みも重なる。

 

狼によって多数の人間が殺されたことよりも。

 

恐らくは貴重な財産である家畜を奪われたことの方が恨みが大きく。

 

そういう点では、人間も容赦なく殺す熊などよりも、狼が悪魔化されたのも。狼による実質的な被害の方が大きかったし。熊は狼に比べて頭が悪かったというのも理由であるらしい。

 

まあ熊も下手をすると村一つを潰されたとか、そういう記録がアイヌに語り継がれているようだが。

 

三毛別羆事件とかの悲惨な事故の例を見る限り。

 

確かに過去に大きな被害はあったのだろう。

 

ともかく、狼が別格で嫌われているのはよく分かった。

 

文化圏次第だが。

 

燐火は日根見ちゃんと分かれた後、ケルベロスとそれらについて話をまとめておく。

 

ガルムにスコルといい。

 

フェンリルが背後にいる可能性が高いからだ。

 

狼としても魔としても、世界の神話で屈指の怪物。

 

とにかくあらゆる情報を得ておかなければならないだろう。

 

話しながら家に着く。

 

この間大量のダイモーンを駆逐してから、数日ダイモーンが姿を現していない。

 

ヘラクレスさんも警戒してくれているようなので、安易に仕掛けられないというのも有るのかもしれない。

 

いずれにしても、対策は練らなければならないだろう。

 

ケルベロスから言われて、犬と狼の戦闘時の習性について調べておく。

 

「本物の大型の狼になると、燐火の力量では倒すのは不可能だ。 勿論魔法のステッキ……その鉄パイプを使っても厳しいだろうな。 ただ、神話の狼になってくると話は変わってくる」

 

「そういう意味では神話の狼の方が対処は楽なんだね」

 

「そうなる。 銃は効かないかもしれないが、人間の英雄や魔祓いが倒せる範疇での動きしか出来ない。 理由は簡単で、人間が想像し設定したからだ。 人間がどれほど凄まじい強さだと設定しても、どうしても想像力の域を超えることはない。 だから、燐火でも対応は可能だ」

 

「分かった。 具体的な戦術を詰めていこう」

 

ケルベロスと細かく打ち合わせをする。

 

歩法は有効だ。

 

相手は拳法武術で言うと達人並の動きをしてくる。これは当たり前の話である。また古代の人は、今の人よりも動物を丁寧に観察していた。これも当たり前だ。食事や生活に直結したのだから。

 

実際フリッグ戦では、事前に知っていた蛇の知識が大きく役立った。

 

そして狼だけならともかく、人間の主観が入り込む。

 

ここにつけいる隙があると、ケルベロスは言う。

 

「俺もそうだが、どうしても人間は悪魔を擬人化する。 別の動物を元にしている悪魔であっても、そこには人間の思考が入り込む。 これはどこまでいっても、人間が主観的な生き物であるからというのが関係している。 それは燐火も見てきただろう」

 

「うん。 自分の主観で気持ち悪いから殺して良いとか、普通に考える奴は幾らでもいるもんね」

 

「その通りだ。 そういったゴミカスは幾らでもいるし、どうしてもその傾向は大なり小なり神話にも現れる」

 

情けない話だが。

 

ただ今回は、それが活路になる。

 

黙々と鍛錬を続ける。

 

ケルベロスの言うとおり、やはり師範から教わった歩法は、役に立てる。相手が狼の魔であってもだ。

 

完璧に狼のままだったら、むしろ通じないだろう。

 

観察はしてくるかもしれないが。

 

あくまでそれだけだ。

 

観察だけしたら、後は圧倒的な身体能力差で直線的に殺しに来る。それくらいの力の差があるからである。

 

まあ、狼はそれほど人間に攻撃的ではないから、あくまで攻撃的な個体であったら、の話だが。

 

ともかく、実際の狼と今回の相手は違い。

 

人間が混じっている。

 

実際スコルが見せた、緻密な広域戦略からのマグニに対する瞬殺劇。あれは狼だけでは無理だっただろう。

 

人間の要素が入っているから出来る。

 

それにだ。

 

エヴァンジェリンさんから聞いたが、スコルを一瞬拘束したあのルーン、グレイプニルの試作品らしい。

 

スコルが即座に足を切り落として逃走する判断をしたのも当然で。

 

一瞬早かったら、スコルを倒すことは可能だったようだ。

 

勿論相手は魔だから、足を失っても再生はしてくるだろうが。

 

それも完全に復活させるには時間が掛かる。

 

だとすると。

 

既に分霊体が出てきているガルムや、スコルと並ぶフェンリルの息子であるハティが出てくる可能性もある。

 

フェンリル自身が出てくる可能性も当然考えなければならないだろう。

 

勿論、もしも相手がフェンリルだったら、だが。

 

手強いが。

 

ただ、逆に言うと人間の思考が入り込んだ結果。

 

獣としては弱体化している。

 

其処につけ込むしかない。

 

訓練を終えて、ルーチンもこなして。それで家に入る。

 

疲労はあまりない。

 

今ではルーチンをばっちりこなしても、体力には余裕がある。ただ筋肉はそうもいかないので。

 

ケルベロスが丁寧に疲労骨折などが起きないように、見てくれている状態だ。

 

家に入ると、杏美の世話をする。

 

あーとかうーとかしかまだ言えないが、杏美という名前には反応するようになってきている。

 

恐らく燐火の夏休みが終わる頃にはしゃべり始めるのではないか。

 

そういう話を産婦人科でおかあさんがされたらしい。

 

いずれにしても楽しみだ。

 

年がだいぶ離れているけれども。

 

充分にかわいいのは確かなのだから。

 

まあ、それで笑顔が浮かべられるかというと話は別。どうしても表情筋はやっぱりまだまだ死んだままだ。

 

その日はダイモーンも出なかった。

 

風呂に入って、勉強をがっつり済ませて、それで眠る。

 

杏美の夜泣きも多少は楽になってきたか。

 

負担を減らせるように準備を計画的にしていることもある。

 

おかあさんの負担も小さくはないが。

 

それでも耐えられないほどではないようだった。

 

 

 

ダイモーンが出る。

 

これからルーチンをやろうとしていた時だったが、即座に出る。これはもう、何度となくやっているから慣れている。

 

ささっと着替えて走る。

 

白仮面だ。

 

一瞬だけ道を突っ切るときに見られたらしくて、そういう声が掛かったが。スマホで撮影されるほどとろい動きはしていない。

 

ケルベロスが呆れる。

 

「やはりそろそろ格好を変えよう。 最悪ばれるぞ」

 

「それは困るね」

 

「普段着のままだとまずいからな。 いずれにしても、後で何か考えよう」

 

「……少しイメチェンするくらいでいいかな」

 

ぼやきながら走る。

 

ともかく、駅の裏手に出た。

 

いるが。

 

問題はそこじゃない。

 

ダイモーンが、大型犬くらいのサイズの何かの複合魔だ。あれは、なんだ。

 

ケルベロスが、なんだあれとぼやいている。

 

そいつは犬には違いないのだろうが。

 

どうも普通の犬とは思えなかった。

 

「複合している混合型だが、北欧系の気配ではないぞ。 どちらかというと……」

 

「しかもあれ悪神だよね。 ちょっとしゃれにならないんじゃない」

 

「そうだな。 即座に戦力を集めた方が良いだろう」

 

「分かってる」

 

連絡を入れる。

 

程なくして、カトリイヌさんが来る。なんだかほかほかしてるが、どうも風呂に入っていたところを慌てて出てきたらしい。

 

髪が濡れてる。

 

日女さんが少し遅れてきて、カトリイヌさんを見て呆れた。

 

「なんだ水でも被ったのか」

 

「お風呂の最中だったのですわ!」

 

「それは災難だったな。 で、あれか」

 

「どこの文化圏の魔でしょうか。 ダイモーンは祓えますけれど、それ以外はちょっと……」

 

燐火が疑問を呈すると、日女さんが手をかざして、日本系ではないと断言。

 

カトリイヌさんも手をかざして、悪魔じゃないと断言した。

 

なんだあれ。

 

しかも雰囲気が、今まで見たことがない。

 

だが、活路が意外なところから来る。セバスティアンさんが、手をかざしてみていたが、特定したのだ。

 

「あれは以前見覚えがあります。 南米系ですな」

 

「南米系!」

 

「厄介だぞ。 あの辺りのは、おまえ等が散々殺し尽くしただろ」

 

「そ、それは……申し開きも出来ませんわ」

 

しゅんとするカトリイヌさん。

 

南米の不幸な歴史は燐火も知っている。コルテスだのピサロだのという最悪の破落戸どもが侵略と略奪の限りを尽くし、更には病気まで持ち込んだことで、文明が完全にクラッシュ。

 

更にその後、南米に乗り込んだ神父が大量虐殺を実行したのだが、それは「異教徒などは死んだ方が幸せである」とかいう許しがたい理由からだった。

 

チンギスハンやティムールといった征服者は虐殺者として歴史的に糾弾されているが、南米やアフリカで行われた文化破壊と略奪の壊滅的な有様に比べると、はっきりいって過大評価も良いところであり。実際にはその地の文化も人々も殺し尽くしていない。虐殺はしたし、それは糾弾すべきだが、それでも文化圏が滅ぶような事はしていないのだ。

 

これに対して、南米での虐殺は過小評価されている。南米では破落戸どもと一神教関係者、それに持ち込まれた疫病により、文字通り文化ごと殺され尽くしたのである。それどころか、膨大な貴金属も全て奪い尽くされた。その徹底的な殺戮ぶりは、チンギスハンやティムールの比ではない規模だったのだ。

 

そのため、南米文化の神によっては、名前が判明していないものが未だにたくさんいて、「第何神」とか便宜的に呼ばれているくらいだ。

 

日女さんが即座に公安に連絡を入れて、対南米の魔祓いを呼んで貰う。ただ、来るまでに時間が掛かる。

 

その間に、相手はこっちに気づいたようで。ふっと笑うと、至近に空間転移してきていた。

 

さっと散開。

 

戦闘態勢を取る。

 

魔祓いは出来なくても、袋だたきにして押さえ込んでおけば。魔祓いが来た頃には、再起不能には出来る。

 

ただこの悪神。

 

どうも油断している様子もないし、今のところ戦うつもりもなさそうである。ただ、ニヤニヤとこちらを観察していた。

 

「声を掛けられてきてみたが、なんとも面白い国であるのう。 とにかくあまたの神々に寛容で、わしもここで暮らしたいものだ。 神社とやらを建ててくれんか。 そうすれば、悪さはせんぞ」

 

「その前に、そのダイモーン。 貴方誰からそれをもらいました」

 

「それはいえんな。 ただ、神社とやらを建てて祀ってくれるなら、そっちについてもいい。 流石にスポンサーの名前を言うような裏切りはできんがな」

 

日女さんが公安にそれも含めて連絡しているようだ。

 

南米系の魔祓いはまだこっちには来られないようだ。

 

以前ブードゥーの魔祓いと一緒に仕事をしたが。それも系統が違うらしい。

 

咳払い。

 

いつの間にか、菖蒲さんが来ていた。

 

「時に貴方のお名前は。 私は菖蒲と言います」

 

「ほう、これは凄まじい力の持ち主のお嬢さんだ。 わしの名は、ウェウェコヨトル。 おまえさんがたがいうところの、アステカ神話の神よ」

 

「アステカ……」

 

「生け贄を思い浮かべなさったな。 確かに残忍な生け贄をしていたのは事実であるが、それも世界の終わりを恐れるが故でな。 アステカでは厳格に生け贄を捧げていたが、インカでは比較的寛容だったのじゃよ」

 

燐火が口をつぐむ。

 

ケルベロスに言われて、世界中の神話を調べているのだが。

 

確かに南米では、生け贄の悪習がどうしてもあった。

 

どんな文化でも、古くには生け贄があったのだが。これは一番大事なものを捧げることによって、大災を防ごうという意図からきたものだった。日本でも古くは生け贄の風習があったし。

 

なんなら、ある村では昭和まで奴隷制に近いものが残っていて、それが生け贄の風習に近い形で機能していたという実例がある。

 

そもそも一神教ですら、生け贄に否定的になったのはキリスト教からであり。

 

神に捧げられる犠牲については、むしろ肯定的である側面もあったのだ。

 

ともかく。抵抗する気がない相手を殺すことはないだろう。

 

それで皆の意見は一致したようだ。

 

また、祀るのであれば。

 

その過程で、無害かも出来るらしい。

 

地鎮祭専門家などの中には、そういった荒神の無力化を為す専門家の神職がいるらしく。今までそうやって何柱もの荒神を無害化してきた実例があるそうだ。

 

ともかく、ウェウェコヨトルのダイモーンは祓ってしまう。

 

それを抵抗せず受け入れたので、燐火はまあいいかと判断した。

 

後は専門家に任せるだけだ。

 

ただ、この神はちょっと調べると、結構面倒なトリックスターらしい。抑えている間、かなりの人員を割かなければならないだろう。

 

ロキを例に出すまでもなく、トリックスターというのは基本的に何をするかよく分からないのである。

 

いずれにしても今燐火が出来ることはない。

 

ウェウェコヨトルに手の内は見せない方が良い。

 

それだけだ。

 

いずれにしても、元々はかなりの高位神格のようである。南米の文化が徹底的に破壊されたことで弱体化されているが。

 

それに、調べるとコヨーテの神格か。

 

北米でもコヨーテはトリックスターとしての神格として、現地で語り継がれてきたという。

 

だとすると、なおさら警戒しなければならないだろう。

 

後は任せて、家に戻る。

 

ケルベロスが、対応は満点であったがと。

 

何か含みを込めた。

 

「何かまずいことがあったの?」

 

「いや、あれは恐らくフェンリル……かはまだ分からないが、スコルの背後にいた魔が呼び出した存在だとみて良いだろう。 だとすると、どう動くかは見切っていたはず。 スコルの駆使した高度な戦略的行動を見るとなおさらな」

 

「スコルがそもそも黒幕の可能性は?」

 

「それも否定はできん。 フェンリルは弱体化しているし、敢えて危険を冒す必要もない。 ヴィーザルを倒したのも、フェンリルが背後にいる事をにおわせて、それで警戒させる事で力をそぐことかもしれないからだ」

 

厄介な相手だ。

 

この初手降伏してくる相手ですら使いこなしているとなると。

 

或いはだけれども、相手はフェンリルではない可能性もあるということか。

 

もっと悪辣で賢い神格だったらどうするのか。

 

しかしロキということはないだろう。

 

あれはラグナロクの頃には悪神と化しているが、それにしてもたいした武勇はない存在だ。

 

これほどの強力な神格達を従えられるとは思えない。

 

ともかく、家で、ルーチンをこなす。

 

こうして頭を空っぽにして、迷いを晴らす。それが今は、一番いい気がしていた。






とにかくまったく手の内が見えない相手。

すくなくとも、生半可な人間よりも頭が良いのは確定です。

燐火はこの後も、この狡猾極まりない相手に苦戦を続けることになります。


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