魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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次々と現れる狼や猫……いわゆる食肉目に属する魔。

その大本締めである魔獣の正体が何であるのか、突き止めるのが急務となります。

世界の神話でも屈指の強さを誇る魔獣といえばロキの子フェンリルですが、そうである保証はありません。

逆にそうである保証もないのです。





それは魔狼の王であるのか
序、闇の中で


闇の中。

 

いくつかの影がいた。

 

再上座にいる邪神は、ここ最近の戦績に満足している。それに対して、魔の獣は、決して満足はしていない様子だ。

 

「思ったよりこの国の魔祓いと神々は出来るぞ」

 

「いや、それは共通認識であったはずだが」

 

「それ以上だったと言うことだ。 現時点で計画を修正するほどではないが、オーディン一派を潰すほどではなかったかもしれん」

 

「ふむ、どうしてそう思う」

 

手の内を見せすぎたかもしれない。

 

そう、魔の獣。

 

銀の毛並みを持つ狼は言う。

 

その姿は闇の中でもうっすら発光していて。

 

それでありながら、光ではなく明確に闇を示していた。

 

邪神はふっと笑う。

 

「この国では在来の神々と、後から来た神々が、世界でも類がないほどうまくやれているからな。 それだけ細かいもめ事も起こったし、それで神々が鍛えられているのさ。 一神教が広まらなかったのはなぜだと思う」

 

「教育水準の高さも理由ではあろうな」

 

「それもあるが、唯一絶対なんて思想がそもそも非現実的だと分かる程度の多様性が存在していたことが要因だ。 今、自称先進国では多様性とか抜かして意図的にものを醜くするのがはやっている。 ポリコレだとかいうのだったか。 あんなものは、今までルッキズム至上主義をしてきたことのただの裏返しであって、結局のところ逆張りにすぎん。 ポリコレを絶対正義としている時点で、多様性などないのさ。 この国は神々からして多様性を受け入れてきた。 多神教の強みであるな。 ただ、それでも昔は色々ともめ事もあったのだが」

 

「……」

 

魔獣がふうと嘆息した。

 

多神教だったのに。

 

それを捨てて、結局一神教に帰依してしまった故国。

 

その惨状を思い出したのだ。

 

神話は物語と成り果て。

 

今では神々の名前さえ忘れられてしまっているていたらく。

 

だから力だって落ちた。

 

何度も魔祓いにも敗れた。

 

しかも、連れてきた奴には、さっさと裏切る者まで出た。あのウェウェコヨトルに至っては。

 

あっさり神社を建てて貰い、其処で信仰を受けている有様だ。

 

もっともウェウェコヨトルに関しては、計算の内だったが。

 

「それでどうする。 計画はこのまま進めるか」

 

「邪魔が二ついる」

 

「一つはオーディンだな」

 

「ああ。 そしてもう一つはヘラクレスだ」

 

オーディンははっきり言って同じ穴の狢だ。

 

この国に支配神格として降り立つ夢を未だに捨てていない。

 

元々勝利の神として、勝つためだったら手段を選ばない神なのだ。それが負け続けていれば、その存在意義が揺らぐ。

 

ましてやトールまでが倒れた。

 

物語と化しているし、神話存在だから、死ぬことはないが。

 

再具現化には数百年はかかる。

 

それもあって、もはや手札はない。

 

オーディンには必殺とも言えるグングニルもあるが。

 

神話では、これがあまたの巨人や魔を倒した実績もない。

 

トールの方が多数の巨人や魔を倒しているくらいである。

 

つまり実のところ、オーディンの個人武勇はそれほどたいしたものではないのだ。

 

ラグナロクでもあっさり食い殺されるように。

 

「オーディンは戦略が厄介だったが、既にその手腕は衰えきっている。 特にこの国に来たのが致命的だったな」

 

「ああ。 オーディンが冷徹な勝利だけを求める軍神だと知られていない。 元のオーディンが策略家である事はほぼ知られず、かっこいい名前とかっこいいアイテムだけが知られている状態だ。 トールにしても近年は英雄としての像が知られていて、この国では原初の荒々しい武の象徴だというイメージがない。 それは我らにとって追い風ではある」

 

「それでもオーディンはまだまだ手札を持っている。 今後利害が食い合うと面倒だ。 早々に仕留めるべきだが」

 

「ならば手札をいくつか更に削らなければなるまい。 後オーディンの手元にいそうな手札はフレイとフレイヤやヘイムダル程度だが、あれらは別にそこまで警戒するほどの神格でもない」

 

相談が冷静に進められる。

 

食うか食われるかの相談だ。

 

そして、これを淡々と、対等にやれるのが。

 

この邪神と魔の獣の強みだった。

 

既にオーディンが謀略家としての手腕が、特に日本に来たことで衰えきっているのが大きい。

 

もはや奴は。

 

半端な武勇とアイテム頼りの、もうろくしきった老神にすぎないのだ。

 

「いくつか布石を打ち、オーディンを引きずり出したいところだ。 この国でもっとも信仰されている存在を活用できないか」

 

「困ったことに信仰対象は多くてな。 仏教家、神道系、それに神道にしても最高神だけではなく、あまたの神が信仰されている。 最も信仰されているのが源氏の軍神である八幡と、それに豊穣神である稲荷という有様でな」

 

「軍神はともかく、随分とわかりにくいな改めると」

 

「それでいながら仏教系の最高神は如来達だろうが、大日如来をはじめとして何体もいるし。 日本系の最高神である天照大神は多数の配下神に守られて基本的には表には出てこない。 どちらも引きずり出すのは難しかろう」

 

「ふむ……」

 

第三者の声が割り込む。

 

それは、いかにも狡猾そうな声だった。

 

「場を引っかき回して見せましょうか」

 

「そういえばおまえがいたか。 どういう風にするつもりだ」

 

「へへへ、これでも僕ちんもトリックスターの端くれでね。 残念ながらお二方ほどの力はありやせんが」

 

「……いずれにしても、魔祓い達の能力を考えると、トールでもあっさりとは勝てないほどだというのは前回確認できた。 助っ人で呼んできたヒドラも帰ってしまったしな。 良いだろう。 せいぜい引っかき回せ。 ただし、危地に墜ちても助けはないぞ」

 

邪神がいうと、頷いてさっとそれ。

 

「コヨーテ」が消える。

 

北米神話におけるトリックスター。

 

神格としてのコヨーテだ。

 

それから、魔の獣もその場を去る。

 

邪神は頬杖をつきながら、ほくそ笑んでいた。

 

そろそろ、出る時かもしれない。

 

この国の魔祓い達は侮れない。百数十年ほど前、邪神は明治維新に乗じて一気にこの国の価値観を陥れようとしたが。

 

その時も手練れの魔祓い達によって打ち払われ。

 

以降は力を蓄えることになった。

 

八十年ほど前の敗戦の時に出られなかったのは、その時のダメージがあまりにも大きかったからだ。

 

今は回復したが、それでも八割と言うところか。

 

この国の人間の精神が急激にすさんできている。

 

それもあって、力は確かに充溢はしている。

 

それはそれとして、まだ動かない方が良い。

 

あの魔の獣は、恐らくは簡単には倒されないはずだ。それに、である。

 

悲願は、結局今も叶っていない。

 

いずれにしても、今は待ちの時だ。

 

数限りない戦乱を経てきたこの国で、そのいくつかの戦乱に邪神はかんできた。そのたびに魔祓いに倒されて、結局願いは成就しなかった。

 

それでも諦めていないのは。

 

国津の神々や。

 

在来の神々ですら神社があるのに。

 

未だに自身は封印すべき悪神であるという判定をされているからである。

 

もう価値観をひっくり返すしかない。

 

それについての準備も進めている。

 

幸い、人間どもの腐敗は良い感じで進んでいる。この国だけではなく、世界中がそうだ。

 

馬鹿を支配するためにもっとも都合が良い思想である一神教ですら、今は屋台骨が揺らぎ始めている。

 

誰も教会に行かない。

 

そういう事を、一神教関係者が嘆いているほどだ。

 

後は一神教の背後にある支配システム。

 

唯一絶対の正義という思想が崩れれば、雪崩を打つように全てが壊れていくのだが。

 

まだ先になるだろう。

 

だから、先駆けになる者が必要だ。

 

今回こそ。

 

そう、邪神は考えていた。

 

 

 

夏休みが終わった。

 

さっそく席やロッカーを丁寧にチェック。

 

問題なし。

 

それで席について、授業の準備と、宿題の提出準備を開始する。

 

ぽつぽつと生徒が登校してくるが。

 

真っ黒に日焼けしているのもいる。

 

別にどうでも良い。

 

健康的に外で過ごしていたのなら、真っ黒にもなるだろう。燐火も比較的焼けた方である。

 

毎日ルーチンを欠かさずこなしていたからだ。

 

それは、どうしても焼ける。

 

だが、それを誇ったり自慢するつもりはない。

 

宿題をそろえて、HRのあと、さっさと提出する。

 

案の定、宿題が終わらなかった生徒や。

 

中には宿題を一切やらなかった猛者までいるようだが。

 

学校側でもそれは対策していて。

 

宿題をやってこなかった生徒は、これから授業を受けずに、宿題が終わるまで別教室で徹底的にやらせるらしい。

 

それで数人が連れて行かれた。

 

まあ、遊びほうけて宿題をやらなかったというのであれば、自業自得である。燐火が知ったことではない。

 

宿題が終わりきらなかった生徒もそれで何人か連れて行かれた。

 

これから缶詰ということだ。

 

それで生徒が少し少なくなったが。

 

夏休み明けの学校は、普通に始まった。

 

 

 

授業は今日は午前中だけだが。

 

缶詰の連中は、午後も授業だ。今日は部活もなし。それで、さっさと帰宅する。

 

日根見ちゃんはしっかり宿題を終わらせたらしく、一緒に帰る。小川先輩は連絡が来たが、今日は八子さんに誘われたらしく。

 

八子さんが雇われで師範代をしている道場に行くそうだ。

 

鞍替えというのも変だが。

 

今までの、先生は善人だが教えるのが下手な道場よりも。

 

より鍛錬を積める道場があるのなら、そっちの方が良いだろう。

 

それに、である。

 

できるだけ武道にしても学問にしても、色々な刺激を受けた方が良い。これについては、絶対的真理である。

 

今、小川先輩は空手に関して本気で取り組み始めている訳で。

 

その姿勢は、力量関係なく、素直に賞賛するべきだろうと燐火は思う。

 

帰路、日根見ちゃんが色々話してくれる。

 

夏休みは尾瀬に行ってきたらしく。珍しい動植物を山ほど見たのだという。特に良い経験だったのが、ユウレイソウともいわれる銀竜草を見たことだったとか。

 

本当にいいものを見たと、とても嬉しそうである。

 

ただ、場所などは教えてはいけないらしい。

 

尾瀬は観光ガイドがしっかり見張っているが、それでも無法をする奴が一定数いる。それもあって、色々厳しいのだとか。

 

「それでも珍しいものがたくさん見れた! 感動だったよ!」

 

「良いことだと思います。 知識を実経験で更に補強するのはとても良いことですよ」

 

これは掛け値なしの本音だ。

 

実際問題、歩法をフルーレティ戦で実戦投入したとき。

 

新しい壁を破った気がした。

 

ただ、武の極みはずっと先にある。

 

それも分かっているから、まだ油断は出来ない。

 

日根見ちゃんは生物学者になれるのであったら、なってほしいが。

 

話によると、植物関連の仕事をするなら、最低でも千種類くらいは覚えて見分けられないと話にもならないと言うことで。

 

それだけ厳しい世界であるらしかった。

 

ともかく燐火はいくつか細かい話を聞いた後、日根見ちゃんと別れる。たまに充子にここで会うこともあるが、今日は単に時間が合わなかった。

 

さて。

 

背後からつけてきている奴がいるな。

 

無言で振り返る。

 

気配からして、人間だ。

 

「出てきなさい」

 

「ひっ!」

 

わらわらと茂みから出てきたのは、男子二人と女子二人だ。

 

同じクラスの人間じゃないな。

 

ただ見覚えがある。

 

確か別クラスの奴だ。

 

「こそこそつけ回すのは感心しませんね。 どういう理由でつけてきていたかいいなさい」

 

「ご、ごめんなさい! ぶたないで!」

 

「ぶたないから話しなさい」

 

なんで燐火がぶつことを前提にしているのか。

 

確かに不良なんかは全部潰して回ったが、それは学校の環境を過ごしやすくするためだ。今では燐火に目をつけられるのを恐れて、不良は学校で縮こまっている。

 

基本的に武力がない相手、害意がない相手に暴力は振るったことはない。

 

どうしても、その辺りは伝わりにくいのだが。

 

怯えているばかりなので、踏み出すと。

 

一人、気が弱そうな男子が吐く。

 

「あ、あいつがどうやってあんたに取り入ったか、知りたいんだ!」

 

「取り入った……?」

 

「そうだよ! 今まで明確に俺等より下だったのに、今では堂々としてやがる! 運動神経だって頭だって良くなって、それで……」

 

「ハ……」

 

ぶっ殺したくなってきた。

 

燐火は小学時代、徹底的にスクールカーストとかいう害しかない代物を粉砕して回ったが。

 

こいつらは、まだそんなものの幻想を引きずっているのか。

 

上か下かしか価値観がない。

 

しかも自分より下だと思っていた存在が、人生を謳歌し始めた。

 

それが許せない。

 

中学に入ってから、スクールカーストが明確に禁止され。価値観が混乱して何もかも分からなくなっている。

 

燐火はこいつらから見たら猛獣か何かみたいなもので。

 

それで日根見ちゃんには怖くて手出しなんか出来ないわけか。

 

良く覚えていないが、こいつらひょっとして同じ学校の奴か。

 

燐火がキレたのを悟ったのか、女子二人が泣き始める。はっきり言って、今すぐ頭をたたき割ってやりたいが。

 

ケルベロスがやめろと呆れ気味に制止してくるので止める。

 

ともかく咳払い。

 

それだけで、四人そろって首をすくめていた。

 

「そもそも同学年の人間に上も下もあると思いますか? そんな風に上か下かでしか考えられないから、あなたたちは学校生活でずっと何もかもに怯えているんじゃないですか。 何か落ち度があれば即座に下に落ちる。 それも一度下になったら永久に上に上がれないとか思い込んで。 はっきりいって馬鹿じゃないですか」

 

「だ、だって、スクールカーストってそういうもんだろ」

 

「それが間違いだとうちの中学では対応していますよね。 そもそも人を上下で区別すること自体がおかしいって考えようともしないんですか。 貴方の、いやあなたたちの頭の中、脳みそは入っていますか?」

 

人間が法の下に平等であるという概念を作るまで。

 

どれだけの血が流れたか分からない。

 

残念ながらその概念は悪用され、今だってうまく機能しているとは言いがたい。

 

だが、スクールカーストなんてものは、とうに廃棄されてしかるべきである思想である。法治主義国家であればなおさらだ。

 

燐火だってその程度の事が分かる。

 

それをさもしい自尊心にかまけて、そろって日根見ちゃんに嫉妬して。挙げ句の果てに、どう取り入った、だと。

 

ケルベロスがもう一度、やめろと言った。

 

それで、燐火も大きく嘆息しながら手を止めた。

 

ちょっと本気でキレかけた。

 

これが今の普通だとしたら。

 

普通の方が明らかに間違っている。

 

「あなたたち程度の気配だったら、簡単に探知できます。 それともしも今回の事を逆恨みして、日根見さんに何かしたら、ぶつ程度ではすみませんよ。 燐火と交戦した不良達がどうなったか知っていますね。 そうなると思ってください」

 

「ひっ!」

 

「わ、わかったから、わかったからやめて!」

 

「いきなさい。 二度と燐火にも日根見さんにも近づかないように」

 

一人気絶しかけているのを引きずって、わっとアホどもが逃げていく。小便を漏らしているのもいた。

 

はっきり言ってどうでもいい。

 

まさかあんな下手くそな尾行、察知できないとでも思っていたのか。

 

大きく嘆息する。

 

そして、その場で。

 

地面に渾身の震脚をたたき込んでいた。

 

ドガンと、今までにないほど凄まじい音がした。

 

この辺りの道はギリギリアスファルトが敷かれているが。まあ日本の舗装道路はトラックにも普通に耐え抜く。

 

この程度で壊れるほどやわじゃない。

 

ただ、それでも。

 

激しい衝撃で、辺りが揺れたのも事実だった。

 

「くだらん連中だ。 ありのままに悪習を受け入れている。 ああいった連中が、生け贄を肯定し、いじめはされる方が悪いなどといって犯罪も肯定する。 俺から見ても反吐が出る」

 

「ケルベロスの時代でも、ああいうのはたくさんいたんだね」

 

「ああ。 貴賤に関係なくな」

 

「人間は一万年進歩していない。 それは本当みたいだね」

 

オリエントの文明が勃興して、一万年。

 

それ以降、人間が進歩していないのは事実だ。

 

ただ科学技術だけが無駄に進歩した。

 

そういう事である。

 

「あれらはどうしようか。 何かしら、もう一本釘を刺しておこうか」

 

「やめておけ。 トラウマレベルの恐怖をたたき込まれた。 もう燐火にも日根見にも近づいては来ないさ。 もしもクラスでくだらん嫌がらせをするようだったら、その時は徹底的にぶちのめしてやれ」

 

「分かった」

 

それはそれとして、ダイモーンだ。

 

今日はちょっと機嫌が悪い。

 

だから、手荒く祓った。







スクールカーストがある前提でものを考える人間は、こういう思考方法をします。

それがどれだけ醜いかは、客観すれば明らかですね……


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