魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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第三勢力である北欧神話の神々の最大戦力であるトールが敗れて以降、北欧神話の神々は動きを止めました。

しかし狼の魔は、まるで何かを試すかのように暗躍を続けます。





1、狼の魔は何をもくろむ

トールが倒れてから、ぴたりと魔も神も動きが止まった。悪神の暗躍はなくなり、オーディンも麾下の神を出してくることがなくなったようだ。

 

ただ、ダイモーンだけは出てくる。

 

これは元々「迷子」がばらまいていた者もいるし。

 

何よりも、「迷子」が常に生み出し続けている事もあるのだろう。

 

それもあって、燐火が定期的に掃除しなければならない。

 

黙々と片付けていく。

 

そうこうしている内に、杏美が喋るようになりはじめた。

 

まあ、簡単な単語からだ。

 

ぱーぱ、まーま、ねーねくらいから。

 

それでいい。

 

基本的に活発で、なんでも燐火の行動を真似たがるが。

 

燐火が笑ってくれないのですねることもあるようだ。それを見ていると、ちょっと悲しくなる。

 

燐火としても、笑いたくないのではない。笑えないのだ。

 

鏡で表情筋を動かす鍛錬もしているのだが。

 

それもどうしても難しくて、困惑するばかりだった。

 

どこぞのデジタルアイドルが笑うなんて誰にでも出来ると悲しんでいるシーンを見たが。燐火からすれば、良く笑うなんて事を誰でも出来るなと、色々と困り果てているところだった。

 

苦笑いは出来るが。

 

それ以上は難しい。

 

鏡相手に悪戦苦闘していると、ケルベロスがここまでだと言う。

 

苦手意識を更に拗らせるだけだ。

 

それもあって、練習は適度にすれば良いという話だった。

 

これは武道や学問も同じか。

 

側で適切にアドバイスをくれるケルベロスの存在が、とにかくありがたい。

 

ともかく、休憩を入れる。

 

そして淡々と武道のルーチンをこなす。

 

元気な杏美だが、やんちゃで大変というだけではない。おかあさんとしては杏美の成長に伴って夜泣きも減り始めたので、かなり負担が小さくなってきたらしい。

 

ベビーカーももうしばらくしたらしまうことになるかもしれない。

 

二人目作ろうかな。

 

そういう話をこの間しているのをちょっと聞いてしまった。

 

杏美がもう少し手が掛からなくなってからが理想的なのだろうが。

 

人口の減少が社会問題になっている今。

 

富裕層に分類されるうちは、できる限り子供は作った方が良いのかもしれなかった。

 

まあそれについてはいい。

 

まだ歩くのは出来ず、結構はいはいで素早く動き回っている杏美である。

 

ますます目を離すのは危なくなってきたし。

 

床にものを落とす事、手が届く範囲に危ないものをおくことは、なおさら厳禁となっていた。

 

ケルベロスが細かく注意してくれるが。

 

それでも、この年の子は、ある程度元気になってきたように見えて。それでも一瞬で死ぬ。

 

それは分かっているから。

 

燐火も気を張らなければならない。

 

武道のルーチンを終えて、次は勉強だ。

 

寝ていた杏美が起き出して、ベビーベッドから這い出そうとしている。

 

高い高いをすると、それだけで随分と喜んでくれるので。

 

燐火としても、ある程度は嬉しくなるが。

 

残念ながら、笑顔は浮かばない。

 

鉄面皮とか鬼とか学校で言われているが。

 

それもまた、仕方がないのかもしれなかった。

 

ともかく。杏美はおかあさんに任せて。黙々と勉強をする。

 

お料理については、今日は当番ではない。

 

最近は買い物は任せてもらえるようになり。

 

近場の大きめのドラッグストアでまとめて買ってくるようになり始めた。

 

買い物用のバッグも利用するようになっているが。

 

それはそれとして、四人分の買い物は結構大変である。

 

それも含めて、人生経験だ。

 

ルーチンにしている勉強は終わり。

 

現時点でそこそこの大学なら突破できるくらいの基礎力はついてきている。既に高三の勉強は始めているし。英語なんかは苦手だから重点的に勉強しているからだ。

 

科学についても学んでいる。

 

科学知識は大事だ。

 

というのも、今は学校で学んでいるような科学知識を即座に忘れているような連中を狙った。たちが悪いえせ科学とか言う詐欺師とカルトが混ざったような連中が、色々と悪さをしているからだ。

 

それもあって、燐火は勉強の大事さを理解している。

 

だから、どの分野も手を抜くつもりはない。

 

勉強が終わったので、軽くゲームをしてから。

 

それから、杏美の世話を代わる。

 

背負ってあちこち歩いて回るが、杏美は外の様子にいつも目を輝かせて、きゃっきゃと騒いでいる。

 

具体的にそれが何かをしるのはもっと後でもいい。

 

ただ。

 

動植物は皆生きていて。

 

世界でそれぞれの役割を果たしている。

 

それを知ってほしい。

 

人間の主観で気持ち悪いとか決めつけて、抹殺しようとするようなゴミカスにだけはならないでほしい。

 

燐火はそれもあって、動物に対する接し方については、特に気をつける。

 

勿論排除しなければならない危険な害獣もいるが。

 

それはそれ、である。

 

しばらく外を歩き回って。

 

近所の人間に挨拶したりもするが。

 

それはそれとして、杏美はまだ基本的には何も出来ない。

 

帰ったらおむつを替えて。ミルクを飲ませる。

 

そろそろ離乳食か。

 

ただ、今は。

 

まだ食べては寝て、食べては寝て。それでとにかく育つ時間だ。それでいい。

 

今まで燐火がぶっ潰してきた悪党どもも、幼児の頃はこんなだったのだろうか。だとすると、環境が悪かった。

 

勿論素質だってあっただろうが。

 

やはり環境が一番悪影響を与える。

 

だとすると、燐火がやるべきは。

 

杏美がああいうカスどもと同レベルにならないように。

 

悪い環境をつくらない。

 

それが、第一の課題だった。

 

「馬鹿な親になると、いきなり子供に高度な教育を施そうとするが、それは逆効果だ。 基本的には地に足がついたところから、確実に積み上げるのだ」

 

「ケルベロスはそういうの慣れているんだよね」

 

「冥界には乳幼児も結構来たからな。 全く何も分かっていない乳幼児が冥界に来るのは、俺も見ていて心が痛んだ。 だから、ある程度は面倒を見るようにはしていた」

 

「……」

 

そうか。

 

やっぱりケルベロスは、根は優しいのだ。

 

その辺りは、人間の良き隣人であり、生物で唯一人間の友になってくれた存在だけはある。

 

それに、今ならば分かる。

 

地獄の番犬呼ばわりされることに、より怒りを覚えるのも。

 

ケルベロスはしっかり仕事をしていた冥界の番犬であって、地獄と比較されるのは流石に苛立ちも大きかったのだろう。

 

ケルベロスが通した中には悪人もいたのだろうが。

 

何の罪もないのに命を落とした乳幼児もたくさんいたのだから。

 

一通りルーチンが終わったので、食事、風呂と済ませて。食器の片付けは燐火がやる。

 

まだ杏美の分はほとんどないが、それでも四人分となると、毎日しっかり食器は片付けないとすぐに手がつけられなくなる。

 

背が伸びてきたこともあり、これはもう出来る。

 

料理も今練習しているので、そのうち燐火も当番が回ってくるはずだ。そうしたら、最低限のものから、順番にやっていくつもりである。

 

食器を片付けたあと、明日の弁当のメニューを適当に考えて。

 

それで後は寝る。

 

眠るのは、最近は楽だ。

 

昔のトラウマがフラッシュバックすることもなくなった。

 

それらの原因を作った輩が。

 

ことごとく地獄に落ちた。

 

それも原因であるかもしれなかった。

 

 

 

二学期が本格的に始まっている事もある。

 

部活に出るが、小川先輩がかなり熱量を上げながら、鍛錬をしていた。

 

見かけが派手でなければ、その熱量はいっぱしの空手家である。実力も、大会の時よりも更に一回り増しているようだった。

 

正拳をたたき込む時の音が、更に重くなっている。

 

三年の男子が、おおと声を上げていた。

 

それに触発されて、他の生徒も鍛錬をしている。

 

明らかに、熱気の中心になっているのは、小川先輩だった。

 

「小川の奴、すげえな」

 

「男でも出来たんじゃねえの」

 

「おい、今そういうの確かセクハラになるらしいぞ」

 

「いけね……」

 

くだらん話をしている男子部員はフル無視。

 

鈴山さんも、二回戦まで行けたこともある。

 

かなり気合いが入っているようで、燐火に時々調整を頼んでくる。燐火も、それについては全く異論はない。

 

とりあえず見るけれど、確実に進歩はしている。

 

だけれども、身体能力に問題がありすぎる。

 

どちらかというと清楚系の見た目、であるらしい鈴山さんは。

 

運動神経が、正直それほど優れていないのだ。

 

だから、とにかく体力作りと、筋力の増強を課題にする。

 

それを丁寧に説明して。

 

それらをこなせば、動けるようになると説明。

 

また、いつでもうちに来て鍛錬してほしいと言うと。頷いていた。

 

鈴山さんも熱量は確実に上がっているが。

 

どうにもこの子、考えていることがよく分からない。

 

まあ、他人の思考回路なんて理解できないものだと考えるべきなので。むしろ探偵小説の主役になったつもりになっているアホの真似はするべきではないが。

 

燐火も勿論、空手の分のルーチンはこなしておく。

 

正拳がかなりいい音をたたき出す。

 

ただ、基本的にこれは全身を使い、全体重を一点にたたき込む技だ。

 

激しい破壊を伴う。

 

的が痛んできたな。

 

そう思ったので、ルーチンをこなしたあと、廃材を取りに行く。

 

的を補強するためである。

 

廃材は幾らでもあるので、それは持って行っていい。

 

ただ管理している先生がいるので、帳簿に利用目的は書いておく必要もある。

 

空手部の鍛錬用の的と書くと。

 

管理している先生は、いつも呆れる。

 

「空手部は急に真面目にやり始めたみたいだね。 今まで、廃材をこんなに使った事はないよ」

 

「ありがとうございます。 短時間でやらなければならないので、それもあってあまり無駄に時間を使えないんです」

 

「そうだね。 とりあえず、あまり危ない事はしないようにね」

 

釘を刺されるが。

 

燐火の事はよくもわるくも知られているのだろう。

 

学校で目立って活動している不良はもういなくなった。特に燐火に襲いかかってきた三年の四人組は、中一の女子に束になっても手も足も出なかったと評判が流れ。学校でも舐められるようになったばかりか。

 

学校外の不良から、散々いじめられているそうだ。

 

それだったら馬鹿みたいに不良なんて続けていなければいいのに。

 

何かの病気ではないのかと思ってしまう。

 

今では完全に居場所も失って、教室で静かにしているらしく。

 

制服を改造したり髪を染めたり馬鹿馬鹿しい事をしていたのも全てやめるように先生に面罵され。

 

笑われているようだ。

 

それはそれとして、燐火が恐れられているのも事実だ。

 

アホ三年生がいなくなった隙を突いて学校をシメようとか考えた奴は一人もいないのだけれども。

 

まあそれは、燐火に潰されることが確定だからである。

 

それもあって、燐火に先生達はあまり強く当たれないらしい。

 

実際問題、これ以上ない抑止力になっているし。

 

馬鹿みたいなスクールカーストがどんどん解消されている事もある。

 

教師の負担まで減っているからだ。

 

ある意味恐怖による支配に近い構図かもしれないが。

 

それが有効に活用されるのであれば、それで良いのだろうと燐火は思う。

 

また、ダイモーンがらみで周辺の半グレとか反社とかがあらかた悪運を失って、どれもこれも逮捕されたこともある。

 

この辺りの治安は非常に良くなったらしく。

 

それで不良が周囲の人たちに迷惑を掛けることも減ったし。

 

警察も対処がしやすくなっているらしい。

 

ただそれで恨みを買うのも自覚している。

 

過ごしづらくなったのも事実である連中もいるだろうからだ。

 

燐火は自衛が出来るが。

 

例えば鈴山さん。

 

彼女は大丈夫だろうか、とちょっと不安になる事もある。

 

ともかく、黙々とDIYをして、それで的を作る。

 

これももう手慣れたものだ。

 

家にある的は、今では自分でほとんど調整している。それもあって、学校で使う奴だって同じように調整できる。

 

運んでいると、燐火を見て露骨に逃げる生徒がいる。

 

この間、日根見ちゃんを逆恨みしていた四人組が半殺しにされた。

 

そういう噂が流れているらしく。

 

別に手は出していないのだけれども。

 

それで更に悪名が上がったようだった。

 

どうでもいい。

 

空手部まで的を運んで、それで設置。

 

また痛んでいる的も、運んできた物資で補修する。

 

良い感じである。

 

もうルーチンはこなしているので、使ってみてくれと他の部員に頼む。燐火はその間、ストレッチなどで体を温めておいた。

 

部活の終了時間だ。

 

明日、八子さんが来る事もあり。

 

調整にいそしんでいた部員も多いが。帰宅時間は絶対なので、すぐに帰る。小川先輩は、今日は一緒に帰るそうだ。

 

日根見ちゃんと合流して、それで一緒に帰るのだが。

 

途中でちょっと気になることを聞かされた。

 

「鈴山っちね。 なんか色々まずいっぽい」

 

「具体的に何がまずいんですか」

 

「うーん、まだ話にしか聞いていないんだけど。 あの子の家、滅茶苦茶勉強が出来るらしいんだわ。 親もそうだし、他の親族も。 あの子は見かけはしっかりしてるけど、勉強は燐火っちに遠く及ばないでしょ」

 

「いや、それは必ずしもそうだとは……」

 

燐火の場合は。

 

涼子といういい友達に恵まれたし。

 

計画的に勉強をする事の重要性を、ケルベロスに習ったという事もある。

 

それにだ。

 

学問も武道もそうだが。

 

やはり教える人間が重要なのだ。

 

これについては、どうしようもない真理である。

 

本物の天才……例えばアインシュタインとか、コンピューターの基礎を作ったノイマンとか。そういったレベルの天才だったら、あるいは教える人間なんて必要としないかもしれないが。

 

そんな人間は全体の万分の一、いや十万分の一もいないだろう。

 

一を知って十を知るなんて事が出来るのは、時代を代表するような天才だけ。

 

それはケルベロスに、何度か聞かされたっけ。

 

「あの子見かけが真面目清楚系ってこともあって、それでからかわれるらしいんだよね。 ガリ勉のくせに勉強も出来ないのかって。 それで空手部で鍛えてるらしいんだけれど、この間の大会、親も見に来なかったらしくてさ。 あたしは普通に親見に来てくれたんだけどね」

 

「……」

 

二回戦敗退と言ったら。

 

そんな家庭では、どのような罵詈雑言を浴びせられたか。

 

簡単に想像できる。

 

それもあって、燐火は思わず口をつぐんでしまった。

 

「良い子なんだけどね。 追い詰められてるから、何か問題にならなければいいんだけれど」

 

「分かりました。 今度家に鍛錬に来たとき、それとなく聞いてみます」

 

「そう? まあ本当だったらあたしが先輩として色々教えてあげたいんだけど、それもなあ……」

 

小川先輩はとにかく評判が最悪だ。

 

幸い小川先輩は家庭環境が良好なようだ。少なくとも、今まで見てきた崩壊家庭に比べると全然マシ。

 

鈴山さんはそうではなさそうである。

 

何か、手助けになればいいのだけれども。

 

そう思った。

 

 

 

鈴山巡は、家に帰ると、早速罵倒された。

 

格好がなっていない。

 

そう言われて、即座に勉強をしろと、家にいる母から怒鳴られていた。

 

父はこの国でもトップクラスの大学の出。

 

母も同じく。

 

ただし、どちらも出世は出来なかった。

 

父は務めた銀行が、国でもかばいきれないくらいのスキャンダルを起こして破産。その結果、エリートコースから完全に外れた。

 

母は公務員をしていたのだが、母のいた部署がまるごとスキャンダルを起こした。

 

税金を横からかすめ取って、悪さをする輩は幾らでもいる。

 

悪辣な「支援団体」だとか「福祉団体」とかは判定がどうしても甘くなりやすいらしく。今では善良な団体に混じって、極悪非道な搾取を繰り返す集団が当たり前のように混じっている。

 

しかもこいつらと癒着して、自分も税金を啜り取るカス公務員もいる。

 

巡の母親は、そういうカスの部下だった。

 

結局その団体はまるごと家宅捜査が入って、山ほど余罪が出て破滅した。

 

それに予算を下ろした母の上司も追求されて、こっちも余罪が山ほど出て投獄。

 

母も部署解体と同時に閑職に回された。

 

以降。

 

二人は、高学歴であるというプライドと。

 

境遇のギャップで、鬼でも宿ったかのようになった。

 

兄たちはまだマシだったかもしれない。

 

二人が満足するだけの成績を出せていたから。

 

だから、二人がベタベタに甘くしていた。

 

兄たちは、それで堕落した。

 

勉強はしているが、同時に悪さも覚えた。

 

出世コースから墜ちる前だったら、父母はこうではなかったのかもしれないが。

 

今では兄たちは父母の悪影響を受け。

 

悪い遊びを繰り返している。

 

それを巡は知っているが、完全に目が節穴になった両親は、それに気づけないでいるのだった。

 

高学歴の人間でもそんなものだ。

 

更に悪いことに、巡は要領があまり良くなかった。

 

ことあるごとに何でこんな子を産んだんだろうと母に怒鳴られたし。

 

それを兄たちは、クスクスと笑いながら見ているのだった。

 

父はもっと直接的で。

 

手こそ出さなかったが、面罵は当たり前。

 

それどころか、テストの成績が悪かった日は当然食事を抜かれたし。

 

勉強を監視して。

 

一つでもミスがあったら、容赦なく罵声を浴びせられた。

 

出来損ない。

 

それが巡が、親に言われ続けた言葉だった。

 

優しい目を向けてくれたことなんて一度もない。

 

小四の頃には両親に愛想が尽きていた。

 

最悪なことに、両親の親族も学閥だのでそれぞれが良いところでいい役職についているらしい。

 

世間的に見ればエリート一族ということだ。

 

それもあって、親族での会合がある度に、両親は徹底的に馬鹿にされるらしく。

 

一族の恥とまで言われているらしい。

 

そういう会合から帰ってくると、二人は顔を真っ赤にして怒っており。

 

巡を徹底的に痛めつけた。

 

寝る間も惜しんで勉強しろ。

 

おまえみたいなゴミは、そうしてやっと人並みなんだ。

 

そう怒鳴りつけて、テストの前日でも徹夜をさせて。テスト中に気絶することもあった。

 

中学受験はそういうこともあってか「授業態度が悪い」とかいう理由で絶望的になり。

 

それを聞いた両親は、寒空の外に巡を放り出し。

 

しかもガムテで口を塞いだ挙げ句。

 

両手両足を縛って、人目につかないところに転がし。

 

寒空の下に放置した。

 

夜闇の中で、ひたすら恐怖に巡は震えるしかなかった。

 

中学に入ってからは、完全に両親は巡の具体的な成績に興味を失った。もう何があっても正面から罵声を浴びせて、ひたすら全てを否定した。

 

格好だけはしっかりさせたが。

 

食事も兄たちの分は両親が自分達で作っていたが(もっとも、両親は認めなかったが、どちらも料理は上手ではなかった)。

 

巡にはレトルトを自分で作るようにと言って放り出し。

 

まともにそれ以外は世話をしなくなった。

 

弁当に関しても、余り物を詰め込んで持って行くようにと言われた。

 

兄たちは飽食の傾向があったが。

 

それでも食べ残しを弁当に詰めていかなければならず。とにかく惨めだった。

 

兄たちはその頃には体質関係なく、怠惰と堕落で風船のように太っていた。

 

完全に節穴になっている両親は、それをなんとも思っていないようだった。

 

今日も家に帰る。

 

ここは地獄だ。

 

燐火は羨ましいな。

 

巡はそう思う。

 

鈴山家は、エリート家庭の皮を被った。破綻した家だった。






鈴山さんちも終わっています。

この子の家の場合、今まで燐火が介入した家に比べるとまだマシではありますが。

まあ崩壊家庭というのはこんなもんです。


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