魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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4、トリックスターの戦い方

コヨーテは分身の一つでアジトに戻る。

 

分身全てが意思を共有し。

 

相互リンクしている。

 

それはつまり、今問題視している平坂燐火の手札を、どんどん見ていくことが可能だと言うことだ。

 

ここ数日で既に半数の分身を潰されたが、なんら問題はない。

 

分裂してどんどん補えば良い。

 

そして、人間どもの間に恐怖を撒いている。

 

得体が知れない野犬みたいなのが、住宅街を徘徊している。

 

コヨーテは一般人に見えるように、敢えて調整までして。その噂の拡散が止められないようにしているし。

 

分身のうち数体は、SNSにアクセスして、電子戦までやっていた。

 

発信元を拡散されても、即座に別のアカウントに逃げるだけ。

 

トリックスターは伊達ではないのだ。

 

戻ると、控えていた銀の狼と、それに邪神。

 

それらに、軽く燐火の手の内を話しておく。

 

銀の狼は、ふっと笑ったようだった。

 

「想像以上に成長が早いようだな。 フリッグを倒した時とは、まるで別物のようではないか」

 

「だがまだ子供だ。 倒せぬ存在ではない。 フルーレティは返り討ちに遭ったが、あれと我らは違う」

 

「へっへっへ、そうですね。 だけれども、侮っていると足下をすくわれるかもしれやせんぜ。 僕ちんも、そう思っていた子供の魔祓いに、あっさりやられたことが何回かありましてねえ。 あの年頃の子は、三日会わざればって奴っすわ」

 

「そうか。 面白いことわざを知っているではないか」

 

からからと笑う邪神。

 

コヨーテは座ったまま、にやつく。

 

今の時点では、魔の狼の思惑通りだ。

 

敢えて人間側に行きたいという魔獣や邪神については、手ほどきをしている。

 

これは全て、小細工をしていない。

 

小細工をしていないことが、敢えて人間に疑念を抱かせる。

 

どうして戦力を自分でそぐような真似をする。

 

だが、それこそが目的だとすれば。

 

今の聖邪の逆転。

 

それがこいつらの目的であることを、コヨーテは見抜いていた。

 

勿論、コヨーテも使いっ走りで終わるつもりはない。

 

せいぜい面白おかしく状況を楽しませて貰うだけだが。

 

「おっと、分身がまた一つ潰されましたねえ。 僕ちんやられちゃうかなあ」

 

「言っていろ。 おまえに余力がまだまだ有ることは分かっている」

 

「ばれました? まあ、この程度だったら苦にはならないっすわ。 やられた分、増やせば良いだけっスしね」

 

「便利な体だな」

 

邪神が呆れ気味に言うが。

 

分霊体を作る技術は、どこの神だって持っている。

 

コヨーテはそれがちょっと極端なだけ。

 

それだけだ。

 

ただ、あまりにも分身がやられすぎると、人間の間にばらまいている恐怖での増強が追いつかなくなる。

 

今の目的は遅滞戦術だが。

 

それも燐火を成長させてしまうと意味がない。

 

今目をつけている厄介な相手は。

 

あの燐火と、もう一人。

 

菖蒲という女だ。

 

特に菖蒲は、まだ若いのに、この国でも一線級に近い場所にいる。それだけ腕を上げているのだ。

 

手を抜ける相手ではないと言えるだろう。

 

報告が終わったので、この場を離れる。

 

コヨーテはあくまで利己の怪物だ。

 

最終的には、全滅する前にウェウェコヨトルやドゥンのように、降参を選ぶつもりである。

 

北米では所詮悪神で魔獣だ。

 

日本みたいに魔でも神社に祀ってそれで調伏してしまうという事はしない。

 

魔は魔で退治する存在である。

 

日本は違う。魔でも調伏出来るならして、味方にしてしまうのだ。そういう発想があるこの国では、見たものを族滅する強力な邪神であるやとのかみまでもが神社に祀られている。

 

ふと、アジトを振り返る。

 

そんな国でも、調伏を諦められたあの邪神。

 

一体どれほどの邪だったのか。

 

それがちょっとばかり気になる。

 

だが、それでもまあいいか。

 

利害は一致しているし。

 

引っかき回すだけ引っかき回したら、それで降伏していいという許可も貰っている。

 

今はする仕事をするだけだ。

 

 

 

これで十四体目。

 

ケルベロスが、いい加減に苛立っているようだった。

 

「どんどん手口が巧妙になっているな。 不愉快な雑魚だ」

 

「トリックスターは侮れないって話が身をもって分かったよ」

 

「そうだな……」

 

ケルベロスが不快そうに吐き捨てる。

 

気持ちは分かるので、燐火はそれ以上は言わなかった。

 

ここのところ昼休みに出ては魔祓いなんて事も生じている。帰路で小川先輩や日根見ちゃんと別れて、即座に魔祓いという例も出てきていた。

 

ルーチンの途中に出ることもあった。

 

ダイモーンの出現数は減ったが。

 

その代わり、コヨーテがやりたい放題に暴れている。

 

今日も寝る直前での出現だ。

 

帰ったら、風呂に入ってもう一度汗を流すか。

 

面倒なことこの上ない。

 

自衛隊が送ってくれる話をしてくれたが、地力で帰ることにする。

 

そのまま戻りながら、エヴァンジェリンさんと連絡して話す。

 

エヴァンジェリンさんによると、どうにか敵の戦力を削る速度の方が早いようだが、まだコヨーテには明確に余裕があると言う。

 

やはり人間を怖がらせておちょくって力を増し。

 

力を増した先から分裂して手数を増やしている。

 

それだけじゃない。

 

ネットでも、不可解な書き込みが激増している。

 

恐らく分霊体が、SNSなどを活用して、人間に「なんか得体が知れない獣がうろついている」という話を広めているようなのだ。

 

それを自衛隊の電子戦部隊が対応はしているようだが。

 

出所を突き止めると、即座に別のアクセスポイントに使っている端末に移動されてしまう。

 

その端末もスマホからデータセンタのサーバまで、様々であるらしい。中にはゾンビ化したルーターだった例まであるそうだ。

 

厄介な相手で、翻弄されっぱなしらしい。

 

そして一度噂が出始めると、SNSという場所ではどんどんそれが拡散されていく。

 

本当に現在の人間のやり口をコヨーテは知っているとみていい。

 

勝てない相手ではないが。

 

とにかく疲れる相手だった。

 

下着を洗い直すのも面倒なので、家に帰ったらさっとシャワーだけ浴びて、それで寝る。

 

ちょっとワイルドすぎるが、さっき着替えたばかりだ。

 

最近は買い物も任されるようになってきているし、自分でも魔祓いで稼いでいるから、おかねがどれだけ大事かは理解しているつもりだ。

 

洗濯を一回するのも馬鹿にならないのである。

 

嘆息すると、燐火は眠って力を蓄えることにする。

 

今、林西さんを筆頭に、相手を一網打尽にする策を考えてくれている。

 

燐火は今は、その策がうまくいくのを待つこと。

 

現場でダイモーンを祓うこと。

 

それしか出来なかった。

 

 

 

(続)






電子戦まで駆使して、燐火を翻弄するコヨーテ。

ますます不可解な動きをする狼の魔。

その正体は霞をつかむようで。

ただ疲労だけが蓄積していくことになります。




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