魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
データセンタ(センターではなく「タ」なのは、IT業界ではそう呼ぶことが多いからです。 サーバーなどもサーバと呼ぶことが多いです)にコヨーテ退治に出向く燐火達。
其処はゲームとかで描写されているようなゲーミングな最新機器が並ぶ場所ではありません。
常時冷房をぶん回して、サーバの廃熱を必死に相殺して。サーバも古いのから新しいのまでいろいろあって。中にはどうして動いているのか分からないような骨董品まである。
フロッピーディスクを用いるシステムがまだ現役のデータセンタも実在します。
現実なんてそんなものです。
序、美しくもなく近代的でもない
燐火は北米ネイティブの魔祓いとカトリイヌさんと一緒にデータセンタとやらに入る。公安が先に話を通してくれたが、入り口で散々事務手続きはしなければならなかった。面倒だが、仕方がない。
ごつい北米ネイティブの男性アトゥエイさんを見て受付はびびり散らしていたが。
露骨にシスターなカトリイヌさんに対しては、明らかに鼻の下を伸ばしていて燐火はあきれ果てた。
確かにカトリイヌさんはポンなところが多いが、美貌に関しては申し分ないのである。多分モデルとかやれるだろうと思う。
だが、見かけなんぞ何の意味もない。
それを理解している燐火は、この見かけで相手の全てを決める風習について、改める必要があるだろうなと考えていた。
もっとも、それをやれるのは手近な範囲だけだ。
燐火も中学一年の半ばをもう過ぎた。
馬鹿みたいな全能感を持つような年ではない。
周りにはそういうのが幾らでもいるが。
一緒になるつもりはなかった。
とりあえず、案内されて奥に入る。
データセンタというと最新機器が所狭しと並んでいて、電飾でピッカピカのイメージがあるかもしれないが。
中に入ってみると、一体何時の電子機器なのだろうという代物があちこちに置かれているし。
どう考えても骨董品だろうというばかでっかいテープがおかれていたりする。
このデータセンタは一応それなりに新しいのだが。
こういうところにあるサーバなどの機械類は、とにかくお高い。サラリーマンの何年分の年収になる事も多い。
それもあって、簡単には交換できないのだ。
それにこういうところでは保守管理のシステムも非常に大事であり。
そのノウハウを蓄積するまで、様々なトラブルが起きるのもほぼ確定。それらも加味して、新しいシステムを入れなければならない。
更に最新型のシステムを入れればいいというものでもない。
最新型のシステムは未知のエラーをたくさん抱えている事が多いようだ。
少し調べてきたのだが。重要なシステムをお金を掛けて最新型にした瞬間、全部まとめてダウン。
最新型特有のエラーが原因で。
その結果、数日間こういうところで仕事をするSEと言われる人たちが、徹夜同然の作業を強いられたとか。
そういう事件も普通に起きる。
そのため、導入するのは最新型ではなくて、その次くらいの「陳腐化した」ものにするのが一番安全なのだという。
これが電子技術の世界の中枢部であるデータセンタの現実である。
燐火も見ていて、ぐるぐるでっかいフィルムみたいなのが回っているのを見て、まだ有るんだとちょっと困惑した。
さて、ここに来た理由だが。
追い詰めたからだ。
散々逃げ回っていたコヨーテの電子戦部隊の一体が、ここのサーバに逃げ込んだ。追い詰めるまで、公安の電子部隊がかなり苦労したらしい。その後も追撃が続けられ、更にコヨーテをここに追い込んだ。
ともかく後は潰すだけだ。
奥の方に、もう何時の時代のパソコンか分からないものがおかれている。
使っている会社もおざなりにしているらしく。
こいつをゾンビ化して、コヨーテが住み着いているらしかった。
確かに気配がある。
何しろ使っている会社も「処理が重い」くらいにしか考えておらず。
そもそも処理が重いのは(この古さだと当たり前だが……)いつもの事であったので、気づきさえしなかったらしい。
アトゥエイさんが、備えろと言う。
この重厚な人は、とにかく笑うところがまったく想像できない。
妻子持ちで、次の族長になんて話もあるらしいが。
そういうこともあるのだろう。
とにかく厳しい性格であるのがわかる。
外ではエヴァンジェリンさんが結界を展開しており、既に逃げ場はない。
ここに追い込んだコヨーテの電子戦部隊は六体。
まとめて駆除してやる。
戦闘でサーバはできるだけ破壊しないように。
そう言われているが、ともかく被害は出さない方が良いだろう。
サーバの修理などで、どれほどSEが酷い目にあうか。
こういうところで働いている人は保守管理というらしいが。そういう人たちがどんな酷い目にあうか。
それも調べて知っている。
だから、一瞬で決める。
聖なる言葉をアトゥエイさんが放つと同時に、わっとコヨーテたちがサーバから飛び出してくる。
即座に祓いに掛かるが、逃げ回ろうとする。
其処に、カトリイヌさんがドミニオンを展開。
周囲に更に壁を作った。
一つずつ、ダイモーンを祓う。
アトゥエイさんの聖なる言葉に消し去られるコヨーテ。
悲鳴を上げることもない。
うわーやられたーとか棒読みで余裕を演出しているのが苛立つ。
だがそういう戦術だ。
こいつらは群で一、一で群。
だから一体やられたところでどうにもならない。
実際問題、戦闘神格をアトゥエイさんが処理したときに、その解析はしてくれている。
北米でもコヨーテは時々魔として悪さをするらしいのだが。
今回日本に来ているのはその本丸にて。
色々なネイティブの民の間で伝わるコヨーテの集合体。
それもあって、簡単な相手ではないと言うことだ。
最後の一体が、カトリイヌさんに飛びかかるが、一瞬早く鉄パイプで殴り倒す。
サーバにちょっとだけかすったが、大丈夫だろうか。
地面に潜り込もうとするコヨーテの尻尾を、アトゥエイさんがつかむと、引っ張り上げる。
明らかに馬鹿にしている顔のコヨーテに、至近距離から聖なる言葉をたたき込み、木っ端微塵に消し飛ばしていた。
これで気配は消えた。
だが、電子戦部隊を一旦片付けても、コヨーテはどんどん分裂する。
今ネットでは既にコヨーテの噂が拡散していて、得体が知れない犬みたいな化け物がいるって噂になっている。
その恐怖がコヨーテに力を与える。
実態なんてどうでもいい。
ネットでばらまかれる噂は、都市伝説と同じで。
尾ひれがついてあらぬ方向にすっ飛んでいく。
今必死に火消し工作を公安の電子戦部隊がやっているようだが。まだまだ追いついていない。
特に近年では熊による害が増えていることもある。
猛獣の恐怖は、どうしても拡散しやすいのだ。
データセンタを出る。
カトリイヌさんが、残念そうに言った。
「実は欧州でもデータセンタに入り込んだ悪魔を退治したことがあったのですが、ここと同じような状態でしたわ。 ゲームに出てくるような未来的なデータセンタなんて、あり得ないのですわね」
「見かけよりも中身が大事だ。 俺もゲームをやるからそういうかっこいいデータセンタのイメージは知っているが、現実的に考えれば強烈なサーバからの廃熱を加味せず大量に密集させているような「見栄えが良い」データセンタは熱暴走の餌だ。 それに古いシステムがあるのも当然だから、これでいい。 これが当たり前の姿だ」
アトゥエイさんも意外とこういうのは詳しいんだな。
燐火はそれほどゲームはやりこんでいる方ではないから、分からない事も多い。
ともかく、一旦解散する。
六体コヨーテを始末できたから、それでよしとする。
だがどんどん増え続けている相手だ。
一体後何体倒せば良いのか。
連絡が入る。
菖蒲さんからだった。
燐火に対してではない。
コヨーテ対策をしている人員への全体メールである。
「敵をまとめて処理する方法を考案しました。 三日後に実施します」
「……本当にうまくいくのか?」
「信じるしかないよ」
ケルベロスが疑念を呈する。
まあ、それもそうである。
ケルベロスもトリックスターの厄介さについては触れていた。
ギリシャ神話のトリックスターといえばヘルメスだが、そのとにかく何をしでかすか分からない恐ろしさについても具体例をいくつか話してくれた。
ヘルメスはロキほど悪辣ではないようだが。
それでも、昔の神話らしい残虐な存在であるのだ。
家に戻る。
杏美の手が少しずつ掛からなくなってきているが、歩けるようになった分目を離してはいけない時間も増えている。
パンが顔になっているヒーローは相変わらず大好きだが、いずれさっと飽きる。
これについては、仕方がないことだ。
ただそれはまだ先だろう。
保育園から幼稚園くらいになると、今度は中学くらいの女の子が変身して戦うアニメを好むようになるらしいが。
それまでは、パンが顔のヒーローが、母親の負担を減らしてくれる偉大な子守なのだ。
このため、このヒーローはコンテンツビジネスで世界的に最上位層に食い込んでいるらしい。
ほぼ日本でしか知られていないのに、である。
ともかく、テレビの前できゃっきゃと騒いでいる。
ちなみにテレビ番組ではなく、今は配信のアニメチャンネルで見るのが普通だ。おかあさんが契約して、たまに一緒に杏美とみている。
杏美はまだ使い方がわからないので、みたいとせがんでくる事があって。
燐火もささっとそれに合わせる。
ちなみのこのヒーロー、普通の番組と映画ではまるで性質が異なり。
映画版は大人の観賞にも耐えるものがいくつもある。
それについては見ていて理解できたので、燐火も今は軽く見ていない。伊達にレジェンドオブレジェンドではないのだ。
おかあさんが食事の準備をしていたので、勉強をしながら杏美の様子を見る。
集中力を上げると、音がほぼ聞こえなくなる。
音楽を聴きながら勉強をする人間もいるらしいが、燐火は学んだ精神修養を生かして、一気に勉強するタイプだ。
雑音は全てシャットアウトする。
黙々と進めていく。
高校受験レベルの数学に入ったが、とにかく公式が大変だ。それに問題も色々やらなければならない。
やり方を知っていると解ける問題が多すぎるのだ。
素の状態で解ける人間がどれだけいるのか、極めて疑問である。
ただ、知っていればなるほどとなる。
知っている状態を試されている訳で、素の頭のできを試されている訳ではない。
つまり専門塾に行っている人間が圧倒的有利だ。
ある意味そういう点では、前に涼子が言っていた、科挙試験と同じだ。
勉強を進めてから、杏美の様子を見る。
疲れたようでおねむなので、ベッドをしいて其処で寝かせる。
すぐに寝付き始めた。
まあまだ幼いのだし、それでいい。
今はとにかく寝て起きて、それで育てばいい。
そのまま宿題も片付ける。コレに関しては、今やってる高校三年の範囲に比べたら楽も楽だ。
テキパキと片付けて終わり。
おかあさんが料理の下ごしらえを終わらせたので、杏美の面倒を代わってくれる。
外に出て、後はルーチンの鍛錬をこなす。
これも大分手際が良くなってきている。
体を完璧に使いこなす。
それが大事だ。
これ以上の武道をやるつもりはない。
少なくとも、杏美が手の掛かる間は厳しいだろう。ただルーチンを増やし、嫌でも積む実戦を通して、力を伸ばすしかない。
視線を感じた。
視線というのは殺気と同じで錯覚だが、五感を通して何かを察知したのは事実だ。
すっといる方に視線を向けると。
それは、コヨーテだった。
にやりと笑ったコヨーテは降りてくる。鉄パイプを即座に手にする燐火に、コヨーテは笑いかけてきた。
「気づくのはええなあ」
「すぐにアトゥエイさんが来ます。 逃がしもしませんよ」
「僕ちんもそれは承知の上だよ。 うへへへ。 この個体は捨ててもいい。 ただ守りの堅さを確かめておきたくてね」
「……」
間合いを計る。
既に相手の実力は分かっている。この個体は、燐火で充分相手に出来る。分裂しすぎてスカスカだが。
それは、そもそも最初から捨てるつもりで分裂してきたからだろう。
ダイモーンはこれは定期的に補給しているとみていい。
やはりフリッグ一派と緊密に連携しているのだ。
「子育てにも参加しながら、武の腕をまるで落としていない。 勉学も既に数年分は周りより進めている。 すごいねえ。 良い師匠がいるとしてもだ」
「そうですか、ありがとうございます。 それで?」
「こっちにこねえか?」
「お断りします」
即答。
こいつらのやってきた事を許すつもりはない。
特にフリッグの凶行は絶対に許せない。
悪神に堕落し果てていたとはいえ、あの所業は文字通り万死に値する。
それを背後から操っていた連中に、誰が加担するか。
「まあ聞けよ。 僕ちんが見るところ、君はスペックが高すぎて浮きに浮きまくってる。 ケルベロスの幸運に助けられている自覚はあるんだろ? 周りがゴミにしか見えていないだろ?」
「ケルベロスに助けられていますが、周りをゴミだなんて思ったことはありませんよ。 カスはいますけれど、それは全部ぶっ潰すので」
「おう、思った以上に戦闘的だねえ。 だが、ケルベロスがいなくなれば、君のやり方では周りは助けてくれなくなる。 元警官の母も、かばいきれなくなるんじゃないのかなー? それに本当の子供が出来た今、邪魔者扱いされるんじゃないのかなー?」
今、此奴は。
燐火の逆鱗に触れた。
即座に頭をたたき割る。
にやついてまだ喋ろうとしていたコヨーテは、想定外の早さと圧力に、抵抗も出来なかった。
ぎゃっと悲鳴を上げて、それで。
地面に転がり、脳漿をぶちまけた。其処を踏みつける。
ダイモーンも祓った後、徹底的にコヨーテに鉄パイプを振り下ろす。
コヨーテが悲鳴を上げる。
明確な恐怖が声に宿っていた。
今までと違う。
明らかに、本気で怯えている。
「一つ教えてあげますね。 燐火にとって今の両親は誇りです。 実の両親はただのゴミですし、どれだけ侮辱されてもどうでもいい。 ですが今の両親を侮辱する奴は、相手が総理大臣だろうと大統領だろうとどこに隠れていようといかなる手段を用いてでも探し出して殺します」
「ひっ! わ、わるか、わぐげぼっ!」
「貴方との和解はこれでなくなりましたね。 今後見かけ次第、徹底的に潰しますので」
しまったと、顔に書いているコヨーテ。
ほどなく車で来たアトゥエイさんが、即座に聖なる言葉で祓う。
凄まじい叩き潰され方を見て、流石に困惑していたが。
燐火の目を見て、大柄な男性であるアトゥエイさんすら一歩引いていた。
咳払いして、それでレポートは書く旨を言う。
アトゥエイさんも頷くと、さっさと帰って行った。
さて、ルーチンを終わらせて、次はレポートを仕上げて。
後は風呂に入って寝る。
恐らくだが、コヨーテ本体にも今の会話は伝わっている筈だ。
さっきの燐火への誘い。
恐らく本音だ。
燐火をどちらかと言えばダークサイドの者とみていた可能性がある。
そして説き伏せる自信があったのだろう。何しろたかが中一である。本来だったら、簡単に手のひらで転がせる。
そのはずだった。
だが燐火は。
コヨーテの想像を超える暴の持ち主だった。
それだけだ。
「燐火。 分かっていると思うが」
「どのみちあいつはそのままだと絶対に神社に祀ったとしても害を為すよ。 何かしらの手を入れないと駄目だろうね」
「そうだな。 それはある」
「あのコヨーテとは和解は不可能。 それだけ」
嘆息すると、風呂を上がる。
後は明日の準備、忘れている事などがないかをチェック。
前は随分ケルベロスがこの辺りを指示してくれたが、今ではもう全部自分で出来るようになっている。
問題はない。
淡々と全て終わらせて、寝ることにする。
レポートも書いて提出した。
まだ燐火も成長期だ。
今はしっかり食べて寝て。
それで体を成長させなければならなかった。
燐火の逆鱗を踏み抜くコヨーテ。
燐火は見た目ほど気は短くありませんが、本気でキレると相手の頭を躊躇なくたたき割るタイプです。
それをやってしまった感じですね。