魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
対コヨーテは大詰めです。
北米のトリックスターも、燐火に対しては決定打をつかめませんでした。
環境が変わったからだろう。
巡さんが鋭い正拳をたたき込んでいた。まだ軽めだが、それでも以前とは雲泥である。何か燐火が言うこともない。
たまに来る八子さんにも、丁寧に指導を仰いで。
それを分析しては、細かく調整をしていた。
踏み込みも重心のかけ方も良くなっているし。
体幹もしっかりしてきている。
勉強についても、成績はぐんぐん上がっているようだ。
毒親が社会から放り出されて。
それでむしろ気が楽になった結果、成績が跳ね上がったらしい。
学問については、かなり小テストなどで成果を出しているらしく。
次の期末では、燐火に近い成績をたたき出すのではないかとまで噂されているようだった。
これは負けてはいられないな。
それに、である。
前は真面目清楚系なんて言われていた格好も少し変えてきている。
めがねも外していた。
化粧をしてくるようなことはないけれども。
それでも、多少格好が活動的になっているし。髪もかなりきったようだ。それで印象が粗野になったかというとそんなこともない。
活動的ではあるが。
ちゃんと気品がある。
皮肉な話だが。
元はエリートだった両親が、もっとちゃんと接していれば。馬鹿兄二人なんかよりも。巡は家を背負って立てる子になれていたのかもしれない。
まあ、節穴だったと言うことだ。
燐火としては、淡々とルーチンをこなす。
他人の努力に聞かれない限り干渉するつもりはない。
今はそれだけだ。
黙々と努力をしていると、組み手をする話になる。
燐火は部長とだが。
巡さんは小川先輩とだった。
軽く組み手をする。
部長はやはりのほほんとしている不思議な人だが、空手の技量だけだと燐火と同等以上だ。
他の武道を総動員すれば勝てる自信はあるが。
ここはあくまで空手の鍛錬とルーチンをこなす場所だと燐火は割り切っている。
部長に対して、空手以外の事をするつもりはない。
苛烈な応酬をする。
他の組み手がもう終わっているが、燐火と部長の組み手はまだまだ終わる気配も見えず、激しい攻防と間合いの読みあいが続いたが。
程なくして、部長の正拳が、綺麗に入っていた。
防ぎきれない。
燐火の負けである。
礼。
そろそろ部活の時間も終わりだ。
部長が汗を掻きながら、褒めてくれる。
「来年は小川がいるし、再来年は平坂がいる。 今まで無気力部活だったが、空手部はとてもいい部活になりそうだ」
「ありがとうございます」
「それと鈴山」
「はい」
姓は変わっていない。
鈴山一族で、同じ姓だからだ。
祖父母のところに移ってからも、巡さんの姓は変わらない。
ただ、巡さんは今後、結婚でもして姓を変えたいと思っているようだ。どうしても毒親と毒兄の影がちらつくから、かもしれなかった。
「空手はまだ続ける気はあるか」
「はい。 楽しくなってきました」
「それは良かった。 おまえが苦しみ続けて、やめようと思っていることは知っていた。 色々あったのを乗り越えて、それで考えを変えてくれて嬉しい。 再来年は平坂が部長だろうが、その時は副部長になってくれ。 きっと二人のコンビなら、この部活の熱量をもっと上げられる」
「分かりました。 必ず」
巡さんもぱっと頭を下げる。
ともかく時間だ。
皆切り上げる。
小川先輩が、巡さんも一緒に誘う。四人で帰るのは大人数である。相変わらず見た目が派手だので小川先輩を避けている奴もいるらしいが。
はっきりいって知ったことではないので。
それこそどうでも良かった。
日根見ちゃんはすっかり小川先輩になれた。
勿論「悪い影響」を受ける事もない。
言われているような悪辣な事をやっている人ではないし。噂には通じているが、女子の悪い癖である、グループの中ですら悪口をいうような存在でもない。
見た目の派手さと裏腹の、極めてまっとうな人だ。
真面目すぎるくらいである。
「そろそろ秋だねー」
「どんどん秋が短くなっていますけれど、それでもトンボはたくさん飛んでいますね。 最近色々な場所でトンボがたくさん見られるらしいですよ。 大型のトンボであるヤンマも増えている場所があるとか」
「おおー。 オニヤンマとかって奴だよね」
「ギンヤンマとか他にもいます」
トンボの説明をしている日根見ちゃん。
しばらくはおとなしくしていた巡さんだが。
聞いて良い、と日根見ちゃんにいい。
いくつか疑問だったらしい生物の話を聞く。
それに対して、即座に答えていく日根見ちゃん。よどみのない答えには、極めて高い説得力があった。
「そうだったんだね。 じゃあ犬のあの行動は……」
「犬の立ち小便は、自分の情報を撒いているの。 動物の排泄物には動物の情報が全部入っているから。 性別、年齢、大きさ、強さ、繁殖可能、病気、そういうの。 だから利用しているわけ」
動物と人間では常識なんてモノは一致しない。
そう日根見ちゃんが丁寧に説明して。
うんうんと頷く。
なんでも、ずっと色々な生態が気になっていたらしく、それですっきりしたようだった。
まあ、燐火もその辺りはケルベロスから聞いている。
話を聞きつつも、燐火は既に気づいていた。
ダイモーンだ。
それも、これは複合魔。
恐らくはコヨーテだろう。
まず巡さんが別れて、それから小川先輩、最後に日根見ちゃんとも別れる。
そして、さっと脇道にそれで着替える。
ささっと着替え終えると。
後は、突貫。
全速力で間を詰める。
ケルベロスが指示してくれる道を使う。
これは道を知っていても、どんなトラブルがあるか分からないからだ。
流石に燐火も、追跡などは気づけても、まだまだ五感の鋭さはケルベロスの足下にも及ばない。
それもあって、素直に指示に従う。
移動しながら、連絡をスマホで素早く受ける。
既にアトゥエイさんが交戦中のようだ。今、エヴァンジェリンさんも現地についたらしい。
ここ数日で、コヨーテの戦力はかなり削った。
恐らくだが、これでほぼ倒しきれる筈だ。
コヨーテはこの間、燐火の懐柔に失敗してから、明確にペースを崩している。また、SNSでの情報拡散が止まった。
公安がパターンを割り出し、それで一気にデマであるという情報を拡散仕返したらしいのだ。
公安に雇われている情報戦専門のインフルエンサーがいるらしく。
そういった人たちによる活躍らしかった。
ともかく。それはありがたく受け取り。現地に急ぐ。
現地に到着。
戦場は大分移動していて、市街地から、既に山の中に入り込んでいた。
矢が数本突き刺さったコヨーテ。
矢を構えているアトゥエイさん。ルーンを組んでいるエヴァンジェリンさん。
燐火が飛び込むと、毛を逆立てて威嚇していたコヨーテが、ひっと声を上げていた。
「く、くそっ! 力が入らねえ。 僕ちんの上を行ってくるなんて、ちょっと予想外だったよ!」
「この国は情報戦で散々今まで好き勝手されてきた過去がありますからね。 貴方程度の情報戦だったら、封じられるんですよ」
ちなみにこれは誇張だ。
燐火も公安と自衛隊と連携して動いているが、今回はデータセンタにいたコヨーテたちをまとめて倒したことが大きい。
そこで一度情報拡散がとまり。
その間に公安がどうにかパターンを分析。
インフルエンサーと連携して、コヨーテを潰しに掛かったらしい。
その結果、今まで倒しても倒しても湧いてきていたコヨーテは、一気に力を失ってしまった。
あれだけトリッキーな動きでこちらを翻弄していたのに。
今では明らかに余裕がない。
ちなみに、既に燐火からは話を通してある。
「今の」コヨーテは滅ぼす。
元々コヨーテはただのトリックスターであり、根っからの邪悪ではない。だから、完全に邪悪から切り離して、その別側面だけを生かす。
そうすることで、調伏が可能になる。
そうでない限りは、神社に祀るべきではないと。
実際に勧誘してきたことも正直に告げてある。
コヨーテというトリックスターの性質上、それが次善の策だ。
まともに相手の話を聞こうにも、詐欺師も同然。まただまされるだけなのだから。
「参った! 参ったよ! 僕ちんもここまで弱体化すると何も出来ないよ! ただの哀れなわんこだよ! 動物虐待はやめてよ!」
「天才たる私を食おうとしたくせに、良くも言えたものだな」
「それは戦いだから仕方がないだろ! 対魔特攻の変な技も持ってるみたいだったし、仕方が……」
振り返りざまに、鉄パイプ一閃。
襲いかかってきた分霊のコヨーテを粉砕する。
即座にアトゥエイさんも聖なる言葉をたたき込んで、消し飛ばしていた。燐火も聖印をしっかり打ち込み終える。
くだらない奇襲だ。
こんな手を取るほどに、追い詰められていると言うことだ。
明らかに震え上がるコヨーテ。
もう、トリックスターの面影はない。
ガンと鉄パイプで木を叩くと、ついに命乞いまで始めた。
「も、もう手札ないよ! 降参する!」
「嘘ですね。 貴方は弱体化して読みやすくなった。 残念ですけれど、うちに忍び寄っていた分身は、今始末したみたいです」
「……っ」
「年貢の納め時、という奴ですよ」
といっても通じないかもしれない。
実際エヴァンジェリンさんは小首をかしげていたし。
アトゥエイさんは、年貢とはなんだという視線を向けてきていた。
ともかく、三方向から囲む。
どうやら、本格的に追い詰められたと悟ったのだろう。
コヨーテは、毛を逆立てながら、全ての分身を集め始める。そして、見る間に膨れ上がっていった。
「トリックスター舐めんな! ロキだってラグナロクではヘイムダルと相打ちになるんだ! 僕ちんだって、北米神話で色々やってきたんだよ!」
「そうだな。 だから貴様の倒し方についても熟知はしている。 燐火よ、下がっていろ。 俺が倒す。 此奴はまだ分身をわずかに残していて、此奴の黒幕に戦いの経過を伝えるだろう。 これ以上、此奴に好きにさせる事はない」
「……っ」
アトゥエイさんが前に出ると。
体を柔軟にしならせ、コヨーテが破れかぶれの決死の攻撃に出た。
複雑な印を組むと、アトゥエイさんが鋭い一喝と同時に、今までにないほどの強烈な聖なる言葉を放っていた。
それで、コヨーテが前後から潰される。
地面に撃墜されたコヨーテが、ペラペラになっていた。
更に聖なる言葉での追撃。
燐火もダイモーンを祓っておく。
コヨーテが、たまらずまだ温存していた分身を集め始める。
それで更に復活しようとするが。
だが、其処に以前エヴァンジェリンさんが使った、対魔特攻のひもを展開。
それで、多数の頭を持つ巨大な犬になろうとしていたコヨーテを、一気に縛り上げていた。
もがくコヨーテに、弓矢をつがえるアトゥエイさん。
燐火は、見ているだけにする。
こいつは燐火を挑発する方法を間違った。
その結果が、これだ。
悲鳴を上げて逃げようとするコヨーテに。
鋭い矢の一撃が、容赦なくたたき込まれていた。
菖蒲さんが来る。
コヨーテが白く代わりつつあった。
その体が燃え始めているのを見て、菖蒲さんは小首をかわいらしくかしげる。アトゥエイさんが、聖なる言葉を続けているが。
燐火は一応、既に説明は聞いていた。
「トリックスターとしてのコヨーテを、文化英雄としてのコヨーテに切り替えているようです」
「ふむ?」
「北米でもコヨーテはトリックスターであると同時に、いくつかの部族では文化英雄だそうで。 中でも一部では、プロメテウスのような役割を果たしているそうです」
アトゥエイさんの消耗が激しい。
ちなみに、菖蒲さんが来る前に、エヴァンジェリンさんには年貢の説明をした。昔の貧しい農民にとって、年貢を納めることはとにかく恐ろしかったのだというと。なるほどとエヴァンジェリンさんも納得していた。
北欧は元々農作物に関しては豊かな土地ではなかったのだ。
ノルマンの民による凶猛な政治が終わり、一神教による支配が始まると、それはなおさら加速した。
農民は税金を納めるのに苦労したし。
そもそも欧州での貴族は残忍極まりなく、その強権性は日本の比ではなかった。
有名な連続殺人鬼エリザベートバートリーも、貴族だという理由だけで、大量殺人をしたにも関わらず死刑にはならず。
永久的に幽閉されただけ。
これだけでも、欧州の貴族が農民を人間だと見なしていなかったことがよく分かる。
日本の大名などには、秀吉を例に出すまでもなく、普通に農民や商人から成り上がったものが何名もいるし。
それどころか、一体何をしていた者なのかすら分からないものもいる。
戦国時代は少なくともそうだったし。
歴史の混乱期は更にその傾向が強かったのだ。
だからエヴァンジェリンさんは納得してくれた。
ましてや迫害される側のドルイドの文化を学んだエヴァンジェリンさんだったら、なおさら理解はしやすかったのだろう。
やがて、全身が燃え上がったコヨーテが、悲鳴を上げてもがき苦しむが。
エヴァンジェリンさんのルーンは容赦なくその全身を縛り上げる。
そして、程なくして。
其処には、炎を纏った白い獣が出現していた。
ただ他人をおちょくるだけのトリックスターではない。
文化英雄としてのコヨーテだった。
アトゥエイさんが膝をつく。
神々しい姿になったコヨーテは、それに対して、威厳のある声で応じてくる。
「私を忌々しい姿から解放してくれて礼を言う。 平坂燐火。 君にも大変な非礼をしたな」
「いえ。 今の貴方は正真正銘の文化英雄のようですね。 それならば、燐火が叩き潰す存在ではありません」
「すまないことだが、私の背後にいた存在については正体を言うことは出来ない。 だが、その存在は安易に想像できるものではない。 それだけは言っておこう」
「……」
やはりか。
そうなると、フェンリルではないのか。
スコルの暗躍からして、フェンリルの可能性が高いと思っていたのだが。もしも違うとなると。
一体何が暗躍しているのか。
ともかく、後は降伏を受け入れるというので、地鎮祭班に引き継ぐ。
文化英雄としての神であれば、祀ることは悪くないだろう。
どこに祀るかはちょっと判断に迷うところではあるが。
どこかの神社で合祀が現実的かもしれない。
日女さんが来て、それでいくつか話をしていた。
学問神として祀られている菅原道真と合祀するか、あるいは薬学などの神であるスクナヒコナと合祀するか、どちらかがいいということだった。
文化英雄となったコヨーテに異存はないらしい。
少しだけアトゥエイさんが懸念を示したが。
いずれにしても地鎮祭まで同行するということで、後は任せてしまっていいだろう。魔祓いどうしで連携して、魔を祓ったり、悪神を封印するのは良くある。専門のネゴシエーターも現在は存在している。
だから、燐火はそれには関与しない。
問題は。
今回も、スコルに、戦闘形態コヨーテにも使った光のひもをエヴァンジェリンさんが使った事。
これで、更に手の内が相手にばれたかもしれない。
完全に調伏されるまでは。
コヨーテは黒幕に情報を送っていた可能性が高い。
そう考えると、更にあの拘束ルーン。
何かしらの改良が必要かもしれなかった。
暗い洞窟の中。
邪神は舌打ちしていた。
コヨーテから得られた情報。最後に奴が送ってきた情報は、トリックスターとして存分なものであり。
本人が想定していた通りの活躍であった。
それは大いに満足するべきだが。
問題は、最大の懸念点である燐火の成長である。現時点で既に凄まじい潜在能力を手にしており、これは手足が伸びきる頃には確定でこの国のトップ層の魔祓いに並ぶ。
しかも、である。
少し上の世代にも何人か強いのがいる。
流石に現在第一線で活躍している魔祓いには及ばないが。
それも及ぶまで、そう時間がない。
今はケルベロスが与えている幸運が、かなり燐火を強化はしている。
だが、それだけでは説明がつかないのだ。
奴の執念はどこから来ている。
このままだと、明治時代での蜂起以来の失敗を経験しかねない。それは、極めて厄介な話だった。
考え込んでいる邪神に、銀の魔狼は笑う。
それも、とびきり性格が悪い笑みだった。
「考え込んでいるな」
「ああ。 私も何度となく敗れてきた身だ」
「それは俺も同じだ。 負けた回数はおまえより多いだろうな」
「お互い苦労してきたものだ。 それも今回で終わりにしたかったのだがな……」
乾いた笑いをあげ合う。
そして、黙り込んでいた。
周囲がびりびりと怒りに気圧される。
当たり前だ。
邪神も、魔獣も、凄まじい怒りを込めていた。
この平和ボケした時代だったら。
古くからの信仰を馬鹿にしておきながら、えせ科学だのの新しいカルトが平然と勃興している文化の空白期である今だったら。
ポリコレだのいう自由を歌う代物が、文化弾圧をしている今だったら。
それこそ、逆転の好機はあったのに。
これで魔祓いがもっと弱体化していれば。
それなのに、この国の一線級の魔祓いどもですらかなり手強い。
その上、まさかケルベロスとヘラクレスが切り札として準備してきたダイモーンの特攻能力を持つ燐火が、これほど成長しているとは。
ヘラクレスもまずい。
あいつが出てくると、今の邪神と魔狼では、二柱がかりで対処しなければならないだろうし。
それでも勝てるかは微妙だろう。
堕落した北欧の神々は眼中にない。
スコルが対処してしまうだろう。
トールを失った北欧の神々には、もはやこの国の神々に対抗する力は残されていない。
物語と現役信仰。
その力は歴然たる差があるのだ。
オーディンは耄碌してしまっているから、どんな破れかぶれの攻撃に出てくるか分からないが。
良くしたもので、もう日本神話の神々も仏教の天部や明王も動き出しているらしい。
この国はどちらにとってもとても居心地が良いらしく。
それで好き勝手には絶対にさせない。
そう考えているようだった。
「どうする。 一度引いて機会を諦めるか。 このままだとあと三年もあれば、燐火は手に負えなくなるぞ」
「逆に今しか好機はないということでもある……」
「しかしどうする。 燐火は幸運をケルベロスから授けられ、あれだけ好戦的な性格にもかかわらず周りの人間に恵まれている。 特に他文化圏の魔祓いと連携が綺麗にとれているのが厄介極まりない。 フリッグとの戦いでも、燐火だけだったら押し切れたはずだ」
「それは分かっているがな……」
気配がある。
それは、小さな気配だった。
「ご注進」
「なんだ」
「オーディンが動き出しました。 血迷って、どうやらこの国でも屈指の神社に麾下の戦力とともに直にしかける模様です」
「つぶし合ってくれれば面白いのだが、そうもいかないだろうな。 自棄になったあの老神と、物語に墜ちきった神々など、一ひねりにされるだけだ。 どうする」
どうもこうも、決まっている。
先に仕掛けて、肥やしにしてやるだけだ。
そう決めると、邪神は魔獣とともに動き出す。
オーディンは物語となっているから、今まで倒してきた北欧神格と同じく、殺しても数百年もあれば復活する。
だが具現化した状態で殺せば、それだけのダメージを受けると言うことも意味している。
しかも勉強不足なのだろう。
よりにもよって伊勢神宮に仕掛けるつもりのようだ。
あそこは人間どもの魔祓いがもっとも重点的に固めている場所だ。
理由としては、最高神がいるからではない。
国津の長が封じられているからだ。
国津の長を味方につけるつもり、ということはないだろう。
この国の信仰母体を破壊して、それで自身の力を誇示するつもりなのだろうが。そううまくいくはずがない。
だから、仕掛けて返り討ちにされるまえに。
さっさと倒して食らってしまうことにする。
即座に動く。
奥に捕らえてある迷子はそのままでいい。
どうせ、グレイプニルからは逃れられないのだから。
手札をあらかた失ったオーディンが動き始めます。
冷厳な勝利の神も、物語に成り果てた結果、ただの老神に墜ち果ててしまいました。
既に判断力も墜ち、神としての力も弱くなっています。
もはや第三勢力どうしの勝負の結果は見えていました。ラグナロクは凄惨な代物になろうとしています。