魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

78 / 110



極東で始まるラグナロク。

それは北欧神話と同様に。

一方的な結果になります……






2、頂上決戦

強烈なダイモーンの気配ということで、燐火にも招集が掛かった。というか、この国の魔祓いのうち、一線級の人員はほぼ全員出るらしい。

 

燐火は自衛隊の車で急ぐ。

 

場所は静岡、富士山麓。

 

どうも西に移動中だった何かの神格を。

 

また別の神格が、其処で迎え撃ったらしかった。

 

富士の樹海で、既に戦闘が開始されている。

 

いわゆるスーパーセルに近い雷雲が発生しており、辺りには台風並みの風が吹き荒れているようだ。

 

近くの高速道路は閉鎖され、緊急事態宣言が出されている。

 

自衛隊が活動している中、燐火達は現地に到着していた。

 

確かにとんでもないダイモーンの気配だ。

 

しかも、また日本各地でダイモーン、それも雑魚ではないかなり強力なやつばらが闊歩している。

 

それもあって、ヘラクレスさんはそちらの対応に出ている。

 

ものすごい雨をジープで突っ切ると。

 

内部は驚くほど静かだった。

 

そこでは、既に壁が展開されている。

 

一神教系の魔祓い達が、総出で天使を出して、壁を作っている状態だ。燐火は公安の人に前に渡された身分証を見せて、内部に。

 

空には、光が飛び交っていた。

 

日女さんと菖蒲さん。それに林西さんと燐火は組む。あと、エヴァンジェリンさんが少し遅れてくる。

 

カトリイヌさんも来たがったが、壁を展開することが第一だと説得されて。しぶしぶ壁役に残った。

 

これは仕方がない。

 

明らかに複数の神格が交戦しているからだ。

 

富士の樹海はあまりいいイメージがない場所だが。

 

それでも、ここを穢すことは許されない。

 

黙々と奥へと急ぐ。

 

かなり早い段階で、倒れている神格を見つけた。

 

雄々しい男性の神格で、手には角を持っている。鹿の角だ。背丈は三メートル以上はあるだろう。

 

瀕死で、既に姿も消えかかっていた。

 

「に、日本の魔祓いか……」

 

「貴方は」

 

「私はフレイ……」

 

「……確かに特徴は一致しているな」

 

フレイ。

 

北欧神話でもっとも人気があった神の一柱。

 

最悪のビッチオブビッチとして名高いフレイヤの双子の兄である。

 

元々はヴァン神族だったのが、人質交換でアース神族に加わった経歴の持ち主なのだが。このヴァン神族という存在が、北欧神話でほぼ姿を見せない。そしてその正体は、ほぼ間違いなく霜の巨人……ヨトゥンヘイムの巨人達である。

 

フレイ自身が巨人族の女性を脅しも利用して無理矢理妻にした経歴があり、トールやロキも巨人族の妻を迎えていることもある。

 

巨人は知能がない残虐な敵などではなく。

 

実際にはアース神族と並ぶ、北欧におけるもう一つの神々の派閥だったのだ。

 

フレイは「絶対に勝利する剣」という最強の武器を持っていたのだが。

 

先述した巨人族の妻を迎えるときに手放してしまったため、ラグナロクでは鹿の角を武器に(なぜ鹿の角……)よりにもよって世界の神話でも最強の戦歴を誇る魔王スルトに戦いを挑み、文字通り鎧袖一触に倒されてしまう。

 

別に相手がスルトでなくても勝てなかっただろう。

 

勝利の剣を手放した状態のフレイなど、それだけ弱体化してしまっていたのだから。

 

「オーディンどのは、どんどん元から離れていく己を……恐れておられた。 自分が自分ではなくなると……」

 

「それで侵略か。 ノルマンの民らしい凶暴な信仰の果てだな」

 

「各地で神話は互いに侵略と涜神を繰り返してきた。 これ以上オーディンどのは、涜神されるのが嫌だったのだろう。 私も気持ちは分かる……」

 

「……」

 

せめて、苦しまないようにしてあげてほしい。

 

それだけいうと、フレイは消えていった。

 

遅れてついてきたエヴァンジェリンさんが、消えたフレイを見て、ルーンを切る。何かしらの浄化をしたのだろう。

 

勿論というか。

 

フレイはダイモーンを具現化に使っていなかった。

 

更に進む。

 

バラバラに食いちぎられたほとんど全裸の女体を発見。側には、砕かれた戦車(チャリオット)もあった。

 

これはもう、声を出すことも出来ないな。

 

これがフレイヤか。

 

設定的にはヴァルキリー達の長とされる事もある、北欧神話の女神。ビッチオブビッチ。

 

北欧神話のヴァルキリーは、英語読みでワルキューレとも呼ばれる。かっこいい存在と思われがちだが、実際には戦場で戦士の魂を回収する、いわゆる死神である。死神は殺しに来る神ではなくて、死んだものを迎えに来る神なのだ。

 

このヴァルキリーも設定がいい加減極まりなく、九人だったりもっと多かったり。運命の神々として知られるノルンの三女神。ウルズ、スクルズ、ヴェルザンディがヴァルキリーの一角だったりと。

 

ともかく設定が混乱している北欧神話らしい神格だと言える。

 

それらの長とされているフレイヤは、強烈すぎる性欲で悪名高いが。

 

この様子では、それでも誇り高く戦って敗れたのだろう。

 

少なくとも、フリッグのようなゲスとして戦ったようではない。

 

これも、エヴァンジェリンさんがルーンを切る。

 

「荒っぽい殺し方だ」

 

「天才たる私がみるに、多数でなぶり殺しにしているなこれは。 北欧系の魔だけだとは思えない。 かみ傷が、狼のものだけではない」

 

「急ぎましょう。 いずれにしても、この先は死地になります」

 

菖蒲さんにせかされる。

 

頷いて先に。

 

雷がドカンと落ちた。

 

スーパーセルの中だというのに、驚くほど静かだから、いきなりで少しだけ驚いた。空で、連続して雷が行き交っている。

 

走っていて、また誰か倒れているのに気づく。

 

これは。

 

角笛を持っていて、頭をかち割られていた。

 

「ヘイムダルだ……」

 

「わ、私の名を知っているのか」

 

「ラグナロクの始まりを告げる神だ。 ロキと相打ちになって倒れる」

 

「ふ……」

 

頭を割られていても、まだ少しだけ意識があるようだ。

 

すぐに楽にしてやると、エヴァンジェリンさんがルーンを切るが。ヘイムダルが警告してくる。

 

「そなたらこの国の魔祓いであるな。 敵はオーディン様以上の使い手が二柱。 そして、多数の眷属がいる。 我らも総力を挙げていたが、迎撃されてこの有様よ。 ウルなどの他の神々も既に殺された。 奴らは……オーディン様も殺すだろう」

 

「それについて俺たちが手を出すつもりはない。 オーディンはこの国の神々を殺し、乗っ取ろうとしていた侵略者だ」

 

「そうだな。 だがあの方は焦っておられたのだ。 北欧でも既に信仰は失われ、今やその存在はおまえ達が言うフリー素材に成り果てている。 どんどん自分がねじ曲げられていくその姿を、恐れない者はいるだろうか」

 

「……」

 

フリー素材扱いか。

 

確かにネットなどでもてあそばれて、実情と全く違う存在になってしまう者は燐火も知っている。

 

近年では実在の人間にすらそれをする場合がある。

 

それを思うと。

 

確かにそうされてしまう者の悲しみは、分からないでもない。

 

「君たちはまだ若い。 くれぐれも無駄に……命を散らす……」

 

それで事切れた。

 

ヘイムダルをルーンを切って祓ったエヴァンジェリンさんは、無言で数秒黙祷していた。

 

ここまでの一方的な戦い。

 

やはり二柱の片方は、北欧関係者だろう。

 

北欧の神々の弱点を知り尽くしているのだ。

 

とはいっても、物語として北欧の神々が知られている今。

 

その弱点など、誰でも知っていてしかるべきものなのかもしれないが。

 

ダイモーンだ。

 

それも、相当数が湧いている。

 

燐火の番だ。

 

聖印を切って、片っ端から祓う。悪運の浄化は菖蒲さんがやってくれる。道を切り開いていく。

 

奥では、激しい戦いが繰り広げられているようだが。

 

その余波だけで、雑多な神々……。北欧神話では下級の神をディースというのだが。それらが焼き尽くされているようだった。

 

本当にオーディンは総力を挙げてきたんだな。

 

西に向かっていたと言うことは、恐らく狙いは伊勢神宮だったのだろう。

 

トールが倒されていなければ、まだ勝機はあったのかもしれない。

 

だが、オーディンが時々耄碌したと罵られていたのを燐火は聞いている。

 

戦力の逐次投入の結果、トールだけじゃない。マグニやヴィーザルといった大駒を。更には乗騎であるスレイプニルまでオーディンは失った。

 

それもあって、もうオーディンに勝ち目はあるまい。

 

「! 伏せろ!」

 

ずっと黙っていた林西さんが叫ぶ。

 

それで、皆伏せた。

 

凄まじい雷撃が直撃したが、不動明王が壁になって防いでくれた。ただ、その体には。鋭い槍が突き刺さっていたが。

 

ぐうと不動明王が呻く。

 

これは恐らくだが、グングニルだ。

 

投擲すればあらゆる相手に必ず命中し、必ず殺す槍。

 

だが、不動明王は倒れていない。

 

恐らくだが、そもそもとして北欧神話で「投擲され敵を討ち取った」逸話がグングニルにないからかもしれない。

 

オーディンがただでさえ弱体化している今。

 

グングニルには既に必殺性が失われてしまっているのかもしれない。

 

ただ、それでも不動明王のダメージは深刻なようだ。

 

「林西さん!」

 

「わしは問題ない。 ここからは、神おろしで支援に回る。 菖蒲、指揮を執れ。 もう一線級の実力がおまえにはある」

 

「分かりました。 皆、急ぎましょう」

 

動揺している筈だ。

 

それでも、その様子を一切見せていない。

 

それだけでたいしたものである。

 

燐火も鉄パイプを握り直すと、辺りから集まってくるダイモーンを、片っ端から打ち倒していく。

 

混合魔はいない。

 

だとすると、こいつらは本当に時間稼ぎのためにばらまかれたのか。

 

あるいは戦闘の余波で飛び散ったのか。

 

そのいずれかなのだろう。

 

程なくして、戦場の最深部に到着。

 

日女さんが即応。

 

飛んできた人体を、蹴りはじいていた。

 

地面にたたきつけられたそれは、真っ黒に焼け焦げていて。既に消え始めていた。

 

エヴァンジェリンさんがルーンを切る。

 

奥にいる老人。

 

すっかり髪の毛もなくなり、真っ白なひげは乱れ。そして威厳すらも失って、膝をついて大きく息をついているそれが。

 

間違いない。

 

オーディンだ。

 

あそこまで、惨めになれるのか。

 

仮にも相手は最高神だぞ。

 

乗騎を失い、恐らくさっきのグングニルは何かしらの形ではじき返されたのが、誤爆したのだろう。

 

それがこちらに飛んできて、一番強い林西さんの不動明王を直撃した。

 

まだルーンで戦う意思はあるようだが。

 

既に周囲を守っていた神々は、全滅したようだった。

 

そして、オーディンと向かい合っているのは。

 

銀色の狼。

 

あれが、スコルの親玉か。

 

いや、まて。

 

なんだか妙だ。

 

そしてもう一柱。

 

古い日本風の髪型をしている、威厳のある男性。腰に帯びているのは、日本刀よりもずっとずっと古い剣だ。

 

あちらが恐らくは、もう一柱の黒幕。

 

気配が危険だ。

 

フリッグやフルーレティが子供以下にしか見えない。それくらいの、凄まじすぎる悪運を感じる。

 

取り込んでいるダイモーンの量も、次元違いのようだった。

 

「ほう。 ここまで来たか。 勇敢なことだ」

 

「貴方は? 私は平坂燐火といいます」

 

「……故合って今は名乗るわけにはいかん。 無礼を許したまえよ。 いずれ、相対した時に名乗らせて貰おう」

 

「俺も同じだ。 すまないな。 いずれ相対した時に、改めて名乗ろう」

 

意外に対応が丁寧だな。

 

菖蒲さんが前に出ると、咳払いする。

 

「それで、このお祭り騒ぎはなんの目的があってしているのかしら? 返答次第ではまとめて祓いますが」

 

「ふむ、流石にこの国の魔祓いは粒がそろっているな。 まあいい。 今、目的は達成された」

 

「!」

 

エヴァンジェリンさんが、地面に手をつき、ルーンを発動させる。

 

それで出来た壁が。

 

破裂したオーディンの血肉を防ぎきっていた。

 

これは。

 

ダイモーンに超高濃度で汚染されている。

 

恐らくだが、既にここに来たとき、オーディンはダイモーンをあまりにも膨大な量流し込まれていたのだ。

 

それで、拒絶反応を起こして破裂した。

 

即座に燐火が祓う。

 

悪運は、菖蒲さんが一喝して浄化していく。

 

それを見て、見事見事と、魔獣は笑う。

 

多少馬鹿にした笑い方だったが、それでも銀白の狼は、素直な賞賛も込めているようだった。

 

日女さんが一歩前に出る。

 

オーディンは死んだ。

 

後はこいつらだ。

 

燐火も鉄パイプを構える。他の皆も戦闘態勢に入る中、周囲に膨大な気配が出現していた。

 

狼だ。

 

それも、途方もない数である。

 

それで理解する。

 

フレイヤは、恐らくこれに一斉に襲われて、全身をずたずたに食いちぎられたのだ。配下にしていたヴァルキリーも、みな食い散らかされたのだろう。

 

だが、どれもスコルのような名のある狼だとは思えない。

 

雑多な狼の魔である。

 

それらが、一斉に銀白の狼に集結していく。

 

合体というのだろうか。

 

だが、それで巨大化することもない。

 

エヴァンジェリンさんが、問いかけていた。

 

「貴様、フェンリルではないな」

 

「ふっ。 どうしてそう思う」

 

「フェンリルであれば、オーディンに小細工などせず、神話通り食い殺してしまえば良かったはずだ」

 

「食い殺したさ。 さっきまでそこでへばっていたのは、食い残しの残骸にすぎん」

 

違うと、エヴァンジェリンさんはいう。

 

本来のフェンリルは、オーディンを文字通りひとのみにしてしまうのだ。

 

その後ヴィーザルに口を引き裂かれて殺される。

 

その経緯をエヴァンジェリンさんが説明すると、銀白の魔狼はくつくつと笑っていた。

 

「そうだな。 ドルイドの力を感じるが、すっかり迫害され信仰も絶えたドルイドの中に、まだ若い力が芽吹いているとは驚きだ。 ただ、残念ながらそれ止まりだ。 自身を天才とか思い込んでいまいか?」

 

「私は天才だ!」

 

「違うね。 おまえはそこにいる者達と同程度の才能しか持たない。 母集団が脆弱だから、比較してただ最強なだけだ。 自分をそう鼓舞して、力を引き出しているのだろう?」

 

「……っ」

 

これは、地雷を踏まれたか。

 

だが、エヴァンジェリンさんをかばうようにして、日女さんが前に出る。

 

「ごちゃごちゃうるせえんだよ犬っころが。 なんなら相手になってやる」

 

「勇ましいお嬢さんだ。 ここでやり合ってもいいのだが……」

 

「戦略的目標は達成した。 勝てる確率は極めて高いが、他にもまだまだ一線級の魔祓いがいるこの場所で、消耗するのは賢くない。 引かせて貰う」

 

次の瞬間、二柱は消え果てた。

 

後を追う余裕すらなかった。

 

林西さんが、ぐっしょりと冷や汗を掻いている。

 

この人が、それほど冷や汗を掻くほどの相手、ということだ。

 

菖蒲さんも余裕があったようには見えない。

 

どうやら、一柱ずつですら、勝てるか全く分からないほどの相手であったようだ。燐火も凄まじい力を感じてはいたが。

 

ただそれでも、この国の魔祓いが総出で来ている今の状況だと。

 

あの二柱も、危なかったのかもしれない。

 

座り込む林西さん。

 

大きなため息をついていた。

 

「修行がまだ足りんな」

 

「とりあえずダイモーンを片付けます」

 

「燐火ちゃん、余力はありそう?」

 

「余裕です。 どんどん回してください」

 

スーパーセルが晴れ始めている。

 

すぐに菖蒲さんが軍用無線で連絡。既に敵は撤退。これからやるのは掃討戦だと。ダイモーンを片っ端から片付けるので、押さえ込んで持ってきてほしいと。

 

燐火も日女さんと連携して、ダイモーンを片付けて回る。

 

浄化は日女さんに頼む。

 

とにかくとんでもない数のダイモーンがいる。

 

それらを片付けるまでは、ここから帰ることは出来そうにもなかった。

 

 

 

一通りダイモーンを片付けた後、帰りながら連絡をする。

 

グロッキーになっていたエヴァンジェリンさんが、話してくる。

 

「燐火、後でふぁみれすにいこう。 お姉さんがおごってやるぞ」

 

「それはありがとうございます。 しかし年齢確認とかされませんか」

 

「ちょっとまえに自動車免許を取った。 外国人だと簡単にとれるとか言う話があるが、天才たる私はきちんと日本語で受けて日本の免許を取ってきたぞ」

 

「それは凄いですね」

 

自動車免許の話は菖蒲さんに聞いたが、ペーパー試験は引っかけ問題というのも生やさしい性格が悪い問題だらけで、とても全うに答えていては突破は出来ない代物なのだという。

 

それを日本語で受けて取ったのなら、たいしたものだ。

 

とりあえず最寄り駅付近まで自衛隊の車で送って貰った後。

 

近場のファミレスに行く。

 

店員にエヴァンジェリンさんが運転免許を見せる。

 

実に自慢げだったが。

 

やはりどう見ても小学生くらいに見えるのか。店員が困惑していた。むしろ燐火が高校生くらいではないかというような視線を向けられたが。

 

まだこちらは中一である。

 

ともかく席に通されて、パフェを満面の笑みで食べ始めるエヴァンジェリンさん。

 

今回はレポートを林西さんが直に書くらしいので、それは任せてしまう。

 

北欧神話の神々の壊滅。

 

これで厄介な第三勢力はいなくなった。

 

だが、それでも。

 

あの二柱の圧倒的な力。

 

これからの戦況が楽になるとはとても思えなかった。

 

それに、頭をとにかく酷使したのだ。パフェくらいは、まあいいだろう。燐火も紅茶をいただく。

 

一応、家にはもうすぐ帰ることをメールで入れてある。

 

時々遠出することを、少なくともおとうさんもおかあさんも不可解だとは思ってはいないようだった。

 

パフェを食べ終えると。

 

エヴァンジェリンさんはハンカチで丁寧に口周りを拭きながら。一息ついたようだった。

 

それで、話してくれる。

 

「あいつ、フェンリルではないな」

 

「やはりそうなんですね」

 

「ああ。 日本神話系の神の方は、恐らくは正体が分かった。 だが、もう少し情報が必要だろう」

 

「……」

 

燐火も実は、あちらの方は心当たりがついている。あらゆる状況証拠が、正体を指し示しているのだ。

 

それはそれとして、問題は狼の方だ。

 

スコルが展開した極めて狡猾な戦略と戦術は、北欧神話系の神々を次々に屠り去り、オーディンをあの自暴自棄の総攻撃に引っ張り出した上。

 

あっさり討ち取ることに成功した。

 

もしトールが直営についていたら、全く結果は違うものとなった可能性すらあるが。

 

その可能性をなくした上での、鮮やかな勝利だったと言えるだろう。

 

問題は、あれが。

 

これから人間に向けられると言うことだ。

 

競合していた相手を潰した。

 

背後の憂いをなくすため。

 

ただ、それだけが目的だったとみていい。

 

少なくとも、あの古代日本の邪神と銀白の狼は、人間の味方ではない。

 

「ただ分からない事も多い。 奴の麾下……ウェウェコヨトル、ドゥン、コヨーテ。 いずれもが、こちらへの降伏を前提とした動きをしていた」

 

「それもちょっと不可解ですね」

 

「天才たる私は……」

 

それで、さっき狼に言われた言葉を思い出したのかもしれない。

 

しばらく口をつぐんでから、エヴァンジェリンさんは咳払いした。

 

「天才たる私は察知した。 降伏を前提としていた連中は、あの銀白狼と、同じ気配があったのだ」

 

「それは、本当ですか」

 

「間違いない。 あれは恐らくだが……」

 

エヴァンジェリンさんは、しばし黙った後、結論を述べる。

 

それは、恐るべき結論だった。

 

「あれ自体が複合魔だ」







オーディン一派を一蹴した「邪神」と「魔獣」

そのうち「魔獣」について、恐るべき結論が出ます。

それは単一の魔ではない……!

つまり、何かしらの強大な魔獣ですらない、何者かであり。

対応は簡単ではないということです。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。