魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
ヘラクレスと凄まじい戦いを繰り広げていた邪神は、程なくして悟る。
そうか、敗れたか。
狼の王。
王の中の王にして、人間がもっとも憎んだ存在の代弁者だった者。
ロボ。
おまえはまさに、狼の王にふさわしい存在だったよ。
そう、すっかり邪悪に染まった邪神ですら、悲しみを覚えていた。
邪神はヘラクレスから離れ、ヘラクレスが放った無数の矢を全てはじき返す。戦闘はここまでだ。
ロボが命がけでつかんでくれた、平坂燐火の奥義の詳細。
それが分かった。
だとすれば、後はあいつを倒せば。
ダイモーンの大量展開で、いずれは勝てる。
あれほどの才覚の魔祓い、十年に一度出れば良い方だろう。今でさえあの実力だ。数年後にはこの国で一線級になり、十年後にはこの国最強どころか、世界でも最強レベルの魔祓いになる。
ヘラクレスを超える日もそう遠くないはずだ。
「ここまでだ。 俺の友が敗れた」
「そうか、おまえもその後を追うといい。 この国の金星の権化」
「ふっ、知っていたか。 まあ魔祓いどもも薄々気づいていたようだし、当然と言えば当然であるな」
からからと笑うと。
邪神は姿を消す。
ヘラクレスは舌打ちしたようだが、残念ながらこの国の魔祓いとずっとやり合ってきた実績は伊達ではないのだ。
そう簡単に捕まるほどとろい性格はしていない。
大量展開していたダイモーンは全て使い捨て。
これから人間どもはそれの対処に負われることになる。
ロボの使っていた魔の獣たちも、統制を失って各個撃破されるが、別に構わない。
今、問題なのは平坂燐火である。
拠点に戻ると、ロボの最後の残り香がいた。そして、平坂燐火が使った技について、説明をしてくる。
「あれは行動の先を完全に読んで、相手を自滅させる大技だ。 一見するとただの歩法に見えるが、違う。 相手の行動を完全に封じ、自傷ダメージを与えるように追い込んで、必殺の一撃を打ち込むことで仕留める。 そういう技だ。 歩法の完成度は極めて高く、達人であればあるほど引っかかるだろう。 分かっていても対応するのは極めて困難だ」
「……ありがとう。 貴様のおかげで、どうにか世界の価値観の変転を成し遂げられそうだ」
「ブランカが呼んでいる。 俺は行く。 しばらくは、再生することもないだろう」
「再生したときは、また会おう。 仮に私が敗れたとしても、私は何度でも繰り返す。 誇り高き狼王。 私はそなたの事を忘れぬぞ。 そなたは私の友だ」
ロボの残滓が消えた。
嘆息すると、邪神は黙祷し。それが終わったら、くつくつと笑った。
さて、仕上げだ。
ロボが倒れたのは想定外だが、邪神はこの国の質が低くない魔祓いと今までずっとやりあってきたのだ。
負けたことも何度も何度もあったが。そのたびに封印から逃れ、ずっと戦い続けてきた。
今回だって、追い込まれているが。
また同志を集めて、何度でも戦うだけだ。
そして今回も
負けるつもりはないし。
もし負けるとしても、次への布石は打つ。
馬鹿馬鹿しい国際化とかいう代物のせいで、色々布石は打てるのだ。邪神もスマホは持っている。
馬鹿な連中が犯罪に使うためのスマホを有している。
電子戦において、邪神の右になど出る者はいない。それらを幾らでも活用は出来るのである。
さて、最後の戦いの布石を打つか。
この国の一線級の魔祓い達を封じ込んだ上で、平坂燐火を殺す。
ケルベロスが憑いていると言っても、限度がある。
ケルベロスは確かに優れた冥界の番犬だが、必ず勝てる。
そう自身に言い聞かせる。
そうすることで邪神はこの国の魔祓いとやりあってきたし。負けたとしても多大な犠牲を強いてきた。
今回も。
最初から負けるつもりで、挑む気などない。
家に帰った燐火は、疲れ果てていた。
それでもルーチンはこなす。
宿題も終わらせる。
これで、中学一年は終わりか。
杏美は、もう寝ていた。珍しくおとうさんが待っていたので、今戻りましたと告げる。大変な戦いをしてきたのを理解したのかもしれない。おかえりなさい、とだけ言ってくれた。
それだけで、どれだけ救われるか分からない。
夕ご飯を終えてから、勉強を済ませる。
後は、体を動かして、ルーチンをこなす。
奥義は、恐らく解析された。
だが、師範が組んだ奥義を、まだ燐火は使いこなせていない。真の達人がくみ上げた奥義である。
その真価は。
今の燐火では、引き出しきれる程度のものではないのだ。
風呂に入ると、流石に即座に墜ちそうだ。
体力が限界である。
「ごめんなさい。 寝ま……寝る、ね」
「歯磨きとかはしたね」
「大丈夫」
「そうか、無理はしないようにね」
まだ時々敬語が出るな。
それでも、大分マシにはなってきたか。
自室に入ると、横になる。背が伸びた分、かなりベッドが狭くなってきたような気がする。
おかあさんもかなり長身の方なのだが、来年、再来年には並ぶかもしれないと言われている。
ちゃんと幼い頃から食べることが出来ていたら。
もっと背は伸びていたかもしれない。
ケルベロスが、寝物語をしてくれる。
「ロボというあの狼、敬意を払うに値する相手だった。 だがあの恨みと怒りも、本物だった」
「今の人間にはあり得ないくらい、愛があって、深かったんだろうね」
「愛の概念なんていい加減なものだ。 狼は一夫一妻を生涯貫く。 乱交型のチンパンジーとハーレム型のゴリラの中間の人間とは習性からして違う。 そういう観点で、ロボの絶望は悲しくなるほど分かる」
人間が妻を失ったのとは。
まるで意味が違う。
そうケルベロスは、話してくれた。
確かにそうだろう。
人間でも理想的な夫婦関係を構築できている夫婦はいるだろうが、それも恐らく年々減っている筈だ。
家父長制が女性の自立がとか言いながら、実際は男性を奴隷化しようとしている連中が「人権」を掲げている以上、そうなるのは当然だろう。
反吐が出る話である。
ロボのあり方は、燐火としても思うところが多かった。
「燐火もいずれ繁殖するときが来るかもしれない。 その時は、ロボのことを思い出してやってほしい」
「分かった。 恐らくは、当面はないと思うけど。 それとそれ、セクハラになるから気をつけてね」
「そういえばそうであったな。 色々と難しい話だ」
苦笑いすると、燐火は寝ることにする。
総力戦の夜は終わった。
そしてこれから始まるのは。
最後に残った、最強の邪神との戦い。
ヘラクレスさんが取り逃したという話は既に入ってきている。ヘラクレスさんともかなり良い勝負をしたという相手。
想定されている邪神はほぼ特定されているが。
それでも、簡単に勝てる相手ではない。
特に現時点の燐火では勝てない。
それがわかりきっているから、どうにかしなければならなかった。
(続)
狼王ロボは倒れ。
敵の首魁、邪神との決戦が近づきます。
邪神は真の友と狼王ロボを考えていました。これは動物とある程度共に生きていた時代の存在だからですね。狼王ロボも掛け値なしの友情を感じていたからこそ、捨て石になることもいとわなかったのです。
互いに譲れないものがあるなか。
決戦が迫っています。
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