魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
今までとはレベル違いのダイモーンの出現……!
それは文字通りの災厄です。
カコダイモーンを片付ける。
普通のサラリーマンらしい人を伺っていたのだけれど。よく見ると、その人は明らかに悪い人の気配があった。
詐欺師か何かだったのかもしれない。
悪運を植え付けるカコダイモーンには、いくつかのパターンがあることが、燐火にはわかってきていた。
一つは、困っている人をたぶらかすタイプ。
この間のホームレスのおじさんとか。
そういう人に悪運を植え付けて、自殺に追い込んだりとか。取り返しがつかない悪事をさせたりとか。
もう一つは、ああいう悪い人を更に後押しして、もっと悪いことをさせるタイプ。
今まで回収してきたカコダイモーンや、カコダイモーンになりかけのダイモーンは。いずれもが、どちらかだったし。
どちらかというと、後者の方が圧倒的に多かった
サラリーマンっぽい人が、スマホをとる。
見かけとは裏腹の、ドスが利いた声でしゃべっていた。
「事務所にガサが入った!? このタイミングでか! 良いからさっさと例のものは隠せ! 絶対に見……もう見つかった!? く、くそっ!」
スマホを切って、左右を見回すサラリーマンっぽい人。
いや、わかった。
あれは多分、反社だかの人だ。
そして、走ろうとしたところに、パトカーが来る。さっと左右を囲まれて、警官が出てきていた。
何々組の誰だな。
違法薬物の組織的売買の疑いで逮捕する。
そう、手帳を見せながら言っていた。
燐火は隠れて着替えながら、様子を見る。
カコダイモーンが消えたことで、あの反社の人に憑いていた悪運が消し飛んだ。その結果の末路だ。
警官に両手をとられて、わめいて暴れようとした反社の人だが。
即座に取り押さえられて、手錠をかけられていた。
迅速に捕まって、連れて行かれる。
ケルベロスが吐き捨てていた。
「屑が」
「使ったら体を壊して最悪死んでしまう薬だよね。 そんなの売ったら、人が死ぬってわからないのかな」
「わかっていてあの手の輩は売っている。 俺の時代だったら打ち首が妥当なところなのだがな」
「……」
また、二回文字を書かなければならなかった。
それだけ強いカコダイモーンだったと言うことだ。
それに、である。
今回のは、ずっとサラリーマンっぽい見かけの反社の人に、後ろからのそりのそりとついて歩いていた。
おそらくだけれども、ずっとあの反社の人に悪運を送っていたのだ。
それが突然切れた。
着替えが終わったので、その場をさっと離れる。
歩きながら、ケルベロスに聞く。まあ、小走りだが。今回は、家からちょっと距離があったので。
もたもた歩いていると。勉強とか鍛錬する時間がなくなるのである。
「悪運が消えると、何もかも一気にうまくいかなくなるの?」
「いや、あれは揺り戻しだ」
「揺り戻し」
「そうだ。 本来人間は幸運も不幸も得る。 だがカコダイモーンのような存在が悪運をああやって与え続けると、ゆがみが生じる。 強力なカコダイモーンは相性が良い屑を見繕ってああやって好き勝手をさせるか、或いはたくさんの人間に悪運をばらまく。 さっきのは前者だな。 そしてカコダイモーンは最終的に人間を破滅させ、更に強大になっていく」
そうか。
あの反社の人は破滅はしたが、カコダイモーンの望む形ではなかったのだろうなと燐火は理解した。
小走りで家に戻る途中で、自転車に乗っていた涼子とばったり。
行く先が同じらしいので、並んで走りながら話す。
「ずっと走ってるの?」
「家に戻ったら、遅れている勉強をしてしまうつもりです。 まだ社会がちょっと、道徳がまだまだありますので」
「そう。 もう少し遊んだら?」
「そうですね。 時間を見繕って遊びに行かせてもらいます」
少し前、涼子の家に遊びに行った。
普段興味がないゲームを一緒にやったのだが、なるほどこういうものかと思って色々ためになった。
それを見て涼子は呆れていた。
こういうのは、楽しむものだと。
楽しそうではないように見えていたのだろうか。
燐火としては充分に面白かったのだけれども。興味は少なくとも持った。
ただ、それを遊ぶためのゲーム機のお値段を聞くと、とても悪くて、両親に買ってなどいえないが。
おとうさんはかなり稼いでいるし、いくつかゲーム機は持っているけれど、それらは全部仕事用だ。
軽く遊びに行く日の打ち合わせをして、それで家に帰る。
家に帰った後、黙々とドリルに取りかかる。
そろそろ社会が追いつきそうだ。
道徳がどうしても難しい。悪い大人を散々見てきている燐火には、どうにも納得できないものもおおいのだ。
こういった道徳を金木一家は鼻で笑っていて。
それで街の王様を気取っていた。
多分悪い独裁者なんかも、それに関しては同じ筈。
それどころか、大人の中にはこういう道徳を完全に馬鹿にすることが格好良いと思い込んでいる人がわんさかいる。
それは肌で知っているから。
どうしても勉強の時は、手が止まってしまう、
効率がよくない。
ケルベロスに言われて、一度休憩を入れる。
しばしヨーグルト飲料を口にしていると、おかあさんが珍しく時間通りに戻ってきた。
あの反社の人が捕まっていた件で忙しくなるのではないのかと思ったのだけれど。管轄が違うらしい。
夕食を買ってきてくれたので、チンして一緒に食べる。
おとうさんは「耐久配信」とかで、難しいゲームを十二時間くらい続けてやる企画の最中だ。
Vtuberというのは色々大変らしく、異性の声が配信に入ると大変なことになる場合もあるとか。
それもあって、配信の時は気が立っている。
どれだけフレンドリーに話していても、気が張っているものなのだ。
「おとうさん大変そうですね」
「人気Vだからね」
「女性ファンにはうるさい人もいると聞きます」
「女性Vの方がその辺は大変よ。 私が好きなVなんて、男がいる疑惑が何回かでて、大荒れしていたんだから」
この少子化の時代だ。
好きな人が結婚したら、お祝いすればいいのに。
そう思う。
ともかく、食事を終えて、軽く話をする。
学校はうまくやれている。
何度かいじめっ子がこっちに目をつけようとしたけれど。全部実力で制圧したら、怖がって近寄ってこなくなった。
それ以降、特に問題は起きていない。
燐火が隙を見せないこと。
学校で先生がやる気があって、いじめの類いは許さないこともある。
かなり良い学校だ。
「再来年には中学だけれど、何か希望はある?」
「今と同じくらい穏やかなところが良いです」
「穏やか、ね。 先生からは、燐火ちゃんは時々何をするかわからなくて、ハラハラすると言われているのだけれど」
「そうでしたか」
おかあさんもそういうことを言われていたんだ。
大変だなと思う。
まあ、何回かいじめをやっている男子をぶちのめしたことがあって。そのたびに色々あったから、かもしれない。
スマホで、一緒におとうさんの配信を見る。
普段とは裏腹の若くて情けない声で、ひたすら強そうな敵ボスにぼっこぼこにされている。
確かおとうさん、このボス敵は結構練習していて、燐火の前で完封していたと思ったのだけれど。
「お父さんは下手くそを売りにしているの。 このボスについても研究して、どこで危ない攻撃をしてきて、どうしたら引っかかるかを事前に調べていたのよ。 それで、誰もが引っかかるところで、こうして引っかかって、苦戦して見せて「撮れ高」を作っているのね」
「それって気づかれているんじゃないですか」
「実はファンの中では、「ファッション下手」で暗黙の了解になっているらしいの。 下手なふりをしている上級者って変なキャラづけができていて、それを楽しんでいるみたいね」
「そうなんですか」
回りくどいというか。
よくわからない話である。
とにかく、おかあさんとは他にいくつか話をして、今日は終わりにする。
問題は、その次の日におきた。
学校が終わって帰る途中。
ケルベロスが珍しく急げと言う。
色々とまずいらしい。できれば家に寄りたいのだけれども、それすらも時間が惜しいようだった。
ダイモーンは少しずつ強力になっている。
これはケルベロスが呼び集めている個体が、少しずつ遠くからも来ているから、らしい。
ケルベロスが探しているダイモーンを撒いている人は、ケルベロスや一緒に戦っているらしい人よりも前に日本に迷子としてやってきた。
その結果、日本をふらふらする過程でかなりの広範囲にダイモーンをまき散らしたようなのだ。
そんなことができる人となると、すごいのだろうけれど。
迷子になっているのをどう見て良いのか。
ちょっと燐火にはわからない。
とりあえず、小走りで案内された方へ急ぐ。
途中の道ばたでおそらく誰かが捨てていったさびた鉄パイプを見つけたので、それを拾って走る。鉄パイプの先にL字のなんだかがついている、殴ったら実戦でとても効果がありそうな奴だ。さび付いているので、結構前から放置されていたものだと思うし、拾っても泥棒にはならないだろう。
それをケルベロスが呆れる。
「平然と鉄パイプを拾うな」
「棒がほしいし」
「棒なら何でもいいのは確かではあるのだが、もう少し拾うものを考えてほしいのだが」
「そういえばケルベロス、鉄パイプは覚えたんだね」
そうだなと、ケルベロスが呆れ気味に言う。
ちなみに燐火が拾ったのは正確には配水管というものであって、鉄パイプではあるが内部には水の腐食を防ぐための工夫がされているのだとか。
細かい話をどうしてしったのかと思ったら。
燐火がおとうさんに借りて国語の勉強のために読んでいる本に書いてあったらしい。難しくてもまずは漢字の勉強を、と思ったのだけれども。
ケルベロスは短時間でこの国の言葉を学習したそうだ。
ただそれは、燐火の脳を間借りしてのことであるらしく。
そう聞くと、ちょっと複雑な気分になる。
とにかく鉄パイプを持ったまま、態勢を低くして走る。
途中で野良猫が、燐火を見てギャッと悲鳴を上げて逃げていった。死んだ目の燐火が鉄パイプを片手に猛然と走ってきたから、怖かったのかもしれない。
それくらいでよく野良をやれるなあと思うが。
ブロック塀を乗り越える。
そして、さっと身を隠した。近いとケルベロスは言う。
其処には、異界があった。
勿論言葉通りの意味じゃない。
そこの気配は、明らかに周囲とは違っていた。
口を押さえる。
これは、まずい。
ダイモーン絡みなのは確定だけれども、ちょっとばかり破壊力が今までとは違うように思う。
これは、燐火が対応していい相手なのだろうか。
そうとすら思ってしまう。
ケルベロスが言う。
「カコダイモーンとしてはかなり悪辣だ。 この間の反社の屑に粘着していた奴よりも更に格が高い」
「大丈夫そんなのに近づいて」
「カコダイモーンといえど所詮はダイモーンに過ぎん。 神格である俺の相手ではない。 ただ……」
下手をすると、死人が出る。
そうケルベロスは言った。
「とにかく、何を狙っているかだな。 あれだ」
「……」
それは、なんというのだろう。
まがまがしいものだった。
不定形なのだが、多数の触手を伸ばしていて、虚空でうごめいている。それでいながら、うめき声みたいなのを上げ続けていた。
ケルベロスは言う。
カコダイモーンは、大量の人間の負の思念を取り込むと、その影響を受ける。
人を殺すような存在にまで成長する奴の中には、人の形をとるものまで現れる。
それらは人間に見えないだけで人間と同じように振る舞い。
人間ほどではないが、悪意で世界をもてあそぶ、というのだ。
そうか。
いずれにしても、もはやあれはこの世の生き物の形ではない。
ケルベロスに聞いて、地獄の門番であるヘカトンケイレスという存在について調べた。
顔が五十、腕が百ある巨人。
それがどれほど恐ろしいものなのかは、そばで見てみないとわからないだろう。
だけれども、もしもあのカコダイモーンが人の形をとるとき。
燐火が知っているどんな屑とも、引けをとらないものになるような気がした。
辺りがびりびりと震えている気がする。
燐火はあまり怖いとは感じない。
そういう感覚が麻痺しているからだ。
今もそれは戻っていない。
それはあまり良いことではないとおかあさんには言われた。
恐怖というのは、危険を避けるために必要な感情であるらしい。
だから必ず取り戻すようにしろ、と。
恐怖を知らない人間は勇者ではない。
ただ危険に突っ込んでいって犬死にするだけの存在であるらしかった。
「狙いは……なるほどな」
燐火も見つけた。
狙っているのは、たむろしている集団だ。あれは多分、反社の人間だろう。威圧的な黒塗りの車。
はっきりいってろくでもない。
おそらくだけれども、わかった。
あのカコダイモーン。
経験則で、ああいうのにたくさん悪運を植え付けて、それで大きくなってきた成功例から行動しているんだ。
ここは反社の事務所の近く。
たむろしていてもおかしくない。
若い人間が多いが。
ああいうのは、半グレというらしい。
おかあさんの話によると、今は反社への締め付けが厳しくなってきていると言うこともある。
それもあって、反社と不良の中間くらいの人間が稼いで幅を利かせている実態があるらしい。
あれらにまとめて悪運を授けたら。
どんなことをしでかすか。
一刻の猶予もない。
すぐに文字を書く。
一発では駄目だろうな。
もう二十体以上はカコダイモーンをやっつけた。だから、よどみなく文字は書くことができる。
ケルベロスによると、神をたたえ、魔を祓う文字であるらしい。
文字そのものに神様の力が宿る反面。
だからこそ、ダイモーンにしか通用しないのだとか。
一撃で、不定形のダイモーンは悲鳴を上げた。その悲鳴が凄まじくて、燐火は左手で片耳を塞いだ。
右手は使うしかない。
立て続けに、二度目の文字。
全身がはぜるダイモーン。
大量の真っ黒い何かがほとばしって、辺りに散らばっていく。
ケルベロスが言う。
「まずいな。 魔界化する」
「魔界?」
「後で説明する。 急いで連続して文字を書け」
「わかった」
三度目。
カコダイモーンが、こちらを見る。
おっきな一つ目があって、明らかに目が合った。だけれども、ぐっと見返す。
相手の目は完全に人間と同じ構造。
まぶたがあって、瞳があって。
でもその瞳が何重にも重なっていて、それが人間と似ていながら似ていない。不気味と見る人が見たら言うかもしれない。
だけれども、その程度で引くことはしない。
それよりも、悲鳴が凄まじい。
それに、辺りの空気が更に重々しくなってくる。カコダイモーンがうねっている真下では、黒塗りの車にまとわりついた反社の人間達が、たばこを吹かしながら何やら談笑している。
サングラスをして格好をつけているのかもしれないが。
カコダイモーンにまとわりつかれている様子が見えている側からしてみれば。象が足を踏み下ろそうとしている下で、何も知らずに馬鹿騒ぎをしているネズミの群れにしか見えなかった。
「急げ!」
「わかってる」
四度目。
文字は間違いなく書けている。
また触手がはぜて、真っ黒な体液がぶちまけられる。それ以上に、これは何だろう。おぞましい……においだろうか。
いや、違う。
でも、ものすごい違和感だ。
悲鳴がすごすぎて、耳がきんきんする。
それもガラスでもひっかいたかのような、聞くだけでいやになってしまう音だ。こんなの聞き続けていたら、耳がおかしくなる。
だけれども、立て続けに文字を書く。
日本の祝詞も同じらしいけれど。
同じ文字を繰り返して書くことで、こういう効果を重ねがけして、強化することができるらしい。
目玉がはぜ割れた。
それと同時に、ものすごい量の黒い液体、だろうか。
それが吹き出して、辺りに飛び散る。
黒塗りの車にも、反社の人間にも、ドバドバかかる。見えていないだろうから、全く反応していない。
カコダイモーンが祓われたが、まだケルベロスは言う。
「続けて文字を!」
「わかった」
これは尋常じゃない。
だから、燐火も続ける。
体力を消耗している雰囲気はない。
だけれど、マントといつもの棒の方が心強いなとは思った。でも、この鉄パイプは鉄パイプで、なんだかかっこいい。
ただこれを持ち歩いていたら、ちょっとおかあさんを心配させるか。
八度目の文字を書き終えた瞬間。
ぎゅっと音がして。
黒い全てが、かき消えた気がした。
呼吸を整える。
ちょっとまずいかもしれない。今になってやっとわかった。ものすごく危ない場所にいたのだ。
すぐに離れるように。
ケルベロスにせかされたので、さっさとその場を離れる。
あの反社は良いのだろうかと思ったけれど。
あれは悪いことをしまくっている連中だ。
悪運が離れたのだったら、多分ろくなことにはならないだろうな、と思う。
しばらく走って、その場を離れる。
手にはぎゅっと鉄パイプを握ったまま。
握力はあんまりないけれど、腕力はついてきたので。別に持ち運ぶのには特に問題はない。
反社の人たちはどうでもいいけれど。
さっきのは、大丈夫だろうか。
そう思った瞬間。
ドン、と激しい音とともに、爆発が起きていた。
「災厄が起きたな」
「……」
消防車が来る。
煙がもうもうと上がっている。
多分、方向からしてあの黒塗りの車が大爆発したのだと思う。だとすると、周りでたむろしていた反社の人らは、吹っ飛んだだろう。生きているかどうかは知らない。今まで痛めつけてきた周りの人たちが味わった苦痛を、まとめて受けた。
そういうところか。
無言で歩く。
帰り道で、クラスの男子に出会った。
燐火が顔を上げると、ひっと声を漏らしていた。
「ひ、平坂? なんだよそれ……」
「拾いました」
「お前こええよ!」
男子数人が腰が引けている。情けないな。女子一人が鉄パイプ持ってるだけで、何をおびえているのか。
無言で通り過ぎる。
男子達は青ざめて歯がガチガチ言っているのがわかった。
こいつら、多分さっきの爆発に興味を持って、見に行こうとしているのだろう。それが思い切り燐火にあって水を差された、というところか。
面白がって爆発を見に行くような奴らだ。
それくらいの目にも遭っても良いだろう。
「やはりその鉄パイプは問題ではないか」
「うーん、粗大ゴミに出そうか」
「……そうだな。 引き取ってもらうには色々と手続きが必要だと思うが」
「それよりさっきの話を聞かせて。 魔界とか災厄とか」
家までもう少しだ。
遠くでたくさん、サイレンの音が重なっていた。
家でドリルを解きながら、ケルベロスの話を聞く。
悪運をあまりにも吸い上げすぎたカコダイモーンは、巣を作るのだという。それが、魔界と言われるものだ。
「悪魔の住む世界、みたいに考えられがちだが、実際の魔界は文字通り魔の世界だ。 それはああいう、魔が住むだけの場所を意味する」
「カコダイモーンは魔になってしまったんだね」
「そうだな。 回収しなければ、あの巣を中心に多くの人を苦しめただろう。 基本的に魔界は魔の巣であって、そういう別の世界があるわけではないのだ」
ドリルを解きながら、他の話をしてもらう。
圧縮された悪運をああやって放出する行動を、災厄と呼ぶそうだ。
実際にも大洪水とか大地震とかを災厄というらしいのだけれども。
災厄は、魔界ができる現象。
この国でも、似たようなことがおきることがあるらしいけれど。
発生させるのが何かによって、対策を別々にしなければならないらしい。
面倒な話だなと思うけれど。
そもそも信仰が違う。
信仰が違えば、出現する霊も神も異なる。
そういうことだそうだ。
それらは波長が違うから、対応できる人間もまた変わるのだとか。
「言葉の違いのようなものでな。 あらゆる神話の魔に対応できる魔祓いなんぞ、少なくともこの世界にはいないのだ。 他の世界はどうだか知らぬがな」
「そうなんだね」
「相変わらず燐火は落ち着いているな」
「いや、色々壊れているだけだよ」
淡々と事実を告げる。
実際問題、燐火は自分が壊れていることは自覚しているので、それについてどうこうというつもりもない。
ドリル終わり。
座って勉強をすることは苦にはならない。
休憩時間で、軽くニュースを見る。
あの爆発事件。
ニュースになっていた。
なんでもあの黒塗りの車の何かのバッテリーが爆発したらしい。
元から問題があることが知られているもので。
あの反社が資金提供を受けている国からコネで入手したものだったらしいのだけれども。
その国でも問題になっているバッテリーが突然大爆発。
そばにいた反社の人間八人は負傷。
それ以外には何も奇跡的に被害は出なかったそうだ。
問題はその後である。
消防車が来ても簡単に火災は収まらず、周辺の人たちが非難する中、特別な消防車が出てきてやっと鎮火に成功したのだけれども。
車の中から何かまずいものが見つかったらしい。
反社の人間の事務所に即時警察が入ったらしくて。大騒ぎになっているようだ。
悪運が祓われた結果なのだろう。
燐火には関係がない。
ああいう周りの人を踏みにじってお金を稼いでいるような人は、全員逮捕されればいいし。
そのまま地獄に行けば良いとも思うから、どうでもよかった。
ともかく。今後はどんどんダイモーンが厄介になるとみていい。
だとすると、何かしらの対策が必要だろう。
「ケルベロス、燐火は何か修行みたいなのが必要?」
「そうだな。 俺が憑いているから基本的な祓いの能力は身についている。 今更特別な修行をしなくても、十分だといいたいが」
「歯切れが悪いね」
「そうだな。 実際問題、このままではまずいのは確かだ。 これほどカコダイモーンが成長しているとは思わなかった。 もう一人活動している奴が危険なのは片っ端から潰しているが、それでも追いつかないだろう。 これから、もっと強力なカコダイモーンに対応できるようにしていかなければなるまい」
どうすればいい、と聞くと。
ケルベロスはちょっと考えてから、言う。
まずはイメージだという。
あの文字は精神的な力から発生するもので、魔祓いに対する強い意志が問題になってくると言う。
しばし黙った後。
ケルベロスは言った。
「日女というあの日本系の巫女が、大艸を使っていただろう」
「紙がついた棒だね」
「そうだ。 あれは特別な力がこもっているというよりも、特別な力がこもっているとされているものだ。 古くギリシャでも、あのように神聖視されるものはあって、魔祓いに効果を示していた。 ただその信仰は失われて久しく、燐火が使っても効果は薄いだろう」
ダイモーンという存在はあっても。
それはあくまで、いにしえから存在するものの残滓。
今になって増殖しているのが問題なのであって。
本来は、ギリシャの地ですら今は暴れることが珍しいのだそうだ。
「どうすればいいの?」
「これなら魔を祓えるというイメージを持った棒を使う。 本来だったら棒をイメージしろと言ったのはそういう意味でな」
「そうだったんだね」
「何か思い当たらないか」
おとうさんからもらったあの棒。
あれは、あくまで借り物だ。
アニメのキャラがあれでフィニッシュムーブを決めるけれど、燐火はアニメはアニメだと思っている。
嫌いではないが、それが本当に効くとは思えにくい。
だとすると、一旦はあれは駄目か。
鉄パイプはどうだろう。
とても強そうで、ダイモーンをぶん殴れたら良いのだけれども。
あの凄まじい声を周囲が聞こえていないように、ダイモーンは基本的に触ることができないだろう。
それは燐火だって同じの筈だ。
鉄パイプで殴っても、倒せるイメージがあまりない。
それにだ。
今回は何度も魔祓いの文字を書いて、やっと倒せた。
一回文字を書くだけだとあまり感じなかったのだけれど。今になって、少し疲れているのがわかる。
ケルベロスが補足してくれる。
「無駄が多いからだな」
「やっぱりそうなんだね」
「ああ。 必殺の気合いとまでは言わないが、そういった感じで文字を書けば、ダイモーンへのダメージも増すはずだ」
「……」
ちょっと考えてみると言って。
それからドリルに戻った。しばらく集中して問題を解く。
多分今月中には周りに完全に追いつけると思う。
普段の授業はまったく苦にならなくなっているので、一旦追いついてしまえば後は楽ではあるが。
それでも、まずは追いつくことからだ。
鉄パイプはいい線を行っていると燐火は思う。
だけれども、まだ一つ二つ足りない。
ドリルが終わったから、道着に替えて、外で鍛錬をする。
おかあさんから基礎鍛錬については教わっているから、そのメニューを庭で順番にこなしていく。
もう少し都会になると庭なんて存在しない家の方が多いらしいのだけれど。
この辺りは庭があるのが普通だ。
黙々と庭で鍛錬をしていると、日が暮れる。
一気に暗くなってきたので、残心してから、家に戻った。
鍛錬を淡々としていて、それで身につくことも増える。もう、身体能力の点で、他の子供に後れをとっているとは思えない。
だが、これからは。
格上の相手からも身を守れるように、鍛えておいた方が良いだろう。
後はお風呂に入る。
おとうさんがぐったりした様子で防音室から出てきた。配信が終わったらしい。冷蔵庫から出してきた出来合を温めて、二人で食べる。
おかあさんからは連絡があって、夜遅くになるらしい。
夕食は先に食べておいてほしい、ということだった。
「おかあさん、大丈夫でしょうか」
「元々はおかあさんは柔道で全国に出て、オリンピック候補だったくらいの人なんだよ」
「そうなんですね」
「それでもあれだけ消耗しているからね。 警察の方でも、あまりおかあさんを手放したくないらしくて、子供を作らないようにと釘まで刺されるそうだ」
それはひどい話だと思う。
それで燐火が養子になったのかもしれない。燐火としては大歓迎だが、二人は色々複雑かもしれないと、燐火は思った。
※鉄パイプについて
神器です。以降はこれが燐火にとっての魔法のステッキとなります。
強そうと思えば強くなる。精神が影響する魔祓いの道具なので、それでいいのです。
燐火としては、これまで使っていたステッキが借り物であり、どうしても強そうだとは思えなかったこともあるので、以降はこちらを使っていくことになります。
なお格好良く(燐火の感覚で)デコります。