魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
邪神は拠点にて、連絡を受けていた。
同盟を組んだ相手。
伊弉冉とである。
伊弉冉は、表向きの姿は多少顔色が悪いが、美しい女性ではある。
現在の美の基準は過去とは大分違っているが。
神々の容姿は、時代的な価値観の影響を受ける。
典型的な中東の人間であったイエスキリストが、いつの間にか白人男性にされていたように、である。
イエスキリストは実際には酒飲みでかなり太ってもいたのだが。
今では痩せたイメージが一般的だ。
これもまた、後から認識が変わった結果だ。
神話なんてものは。
どれもこれもこういうものなのである。
「それで貸し与えた黄泉の軍勢は予定通りに活躍できているのであろうな」
「問題ない」
「そうか。 いずれにしてもあまり腑抜けた失敗はしてくれるなよ。 わらわも今の根の国のあり方には色々思うところがある。貴様にはそれゆえに期待しておるのだからな」
「そうだろうな。 聖徳太子の頃には仏教が既に優位を占めていた。 残念ながらあの世の思想と完成度では圧倒的に仏教が優位だった。 神道と仏教は共存が出来たが、唯一それがなせなかったのがあの世の考えだ。 結局あの世は、仏教式が優先されることになった。 様々な信仰を皆が持つこの国で、唯一神道が後れを取ったのが其処だ」
黙り込む伊弉冉。
邪神はくつくつと笑った。
「案ずるな。 お方様の思うとおりにはするさ。 ただ、それだけではないがな」
「精々期待しているぞ」
「……」
通信を切る。
そして、振り返った。
既に朽ち果てた黄泉軍の者達。
朽ち果ててなお、彼らは戦士だ。
この間仕掛けて、それなりの数を失ったが。古代に既に根の国は覇権を失ったとは言え、この程度の数、失ってもなんでもない。
また他の神格と同じで。
倒されても結局は実体化できなくなるだけ。
魔祓いは、結局のところ。
実体化までして悪さを為す魔や邪神を、この世界から追い出す技術に過ぎない。
神々の戦いもそれは同じなのだが。
いずれにしても、どこぞの妖怪漫画の歌ではないが。
妖怪は死なないし。
その上位互換に等しい魔も神も死なないのである。厳密には。
故に予母都志許売も黄泉軍も死を恐れない。
「次の作戦に出る」
「一つよろしいか」
「なんだ。 さっさと飯を食わせろ」
挙手した亜眼。
それに対して、文句を言うのは予母都志許売達だ。
戦力で言うと予母都志許売の方が黄泉軍の雑兵よりも遙かに格上なのだが。亜眼と威眼の兄弟だけは例外である。
この二人は黄泉軍の将軍で。
古代に物部氏の軍指揮官として、蘇我氏の軍勢と戦って倒れた優秀な武人だった。
個人武勇が戦況をひっくり返しうる最後の時代だったその頃に。
蘇我氏の軍勢を相手に勇敢に戦い。
そして倒れた後は、仏教のあの世に行くことを拒否し。根の国にて、将軍となった者達である。
戦士として優れているだけではない。
プライドも高い。
それ故、邪神としては面白いと思っている。
忠実なだけの部下なんて、なんら面白みもない。
邪神自身が反逆者の見本みたいな存在である、ということもある。
故に、好感度も高かった。
「今は待て。 準備を一つずつ整えていく。 まず第一段階で、雑多な雑魚魔祓いどもを国外に追い払う」
「それはここしばらくの戦いでなせたな」
「うむ。 これから次の段階に入る」
「なんでもいい。 飯を食わせろ」
側には、食い散らかされた熊やイノシシの残骸が散らばっている。
予母都志許売の食欲は凄まじい。
流石に標的とした魔祓い以外の人間を襲うことは許していない。
今後、人間が生きていなければ、価値観の変遷もないからだ。
あの悪神化フリッグは軽率に人間を大量に処分していたが、あれは悪しき見本である。ああいうことは、やるべきではない。
魔に恐怖を抱かせるために、ある程度殺すべきだ。
そう主張する者達は。
魔祓いによって徹底的に封じられていった。
昔は邪神も似たように考えていた。
今は、そうは考えていない。
そのやり方では、雑な恐怖と同時に敵意を買う。敵意を買うと、最終的には衰退する。
それを他の文化圏の魔や。
あるいは過去から現在までの国際情勢を見て、邪神は知っていた。
結局のところ、人間に左右される存在が神であり魔だ。
一神教がこれほど発展したのも、人間という生物が馬鹿を都合良く支配するためのルールを求めたから。
その一神教で悪魔が際限なく邪悪な存在にされていったのも。
同じように、その偏狭なルールに説得力を持たせるため。
それをどうにもできない。
力では、だ。
あっさり倒したオーディン一派だって、連中が全盛期だったら、ああ簡単にはいかなかっただろう。
そういうものなのだ。
指を鳴らすと、入ってきたのは。
数体の異郷の者達だ。
剣に手を掛ける亜眼威眼兄弟。
うなりを上げる予母都志許売達。
だが、落ち着くようにと邪神がいうと、矛を収めていた。
「ここからが本番だ。 この国の一線級の魔祓いは、何度もこの私を打ち破ってきた強敵達だ。 だが、混合魔が非常に強力な戦力になる事は、今までの戦いで分かった」
実際問題、狼王ロボは、リソース全てを使い果たしたが。
その過程でこの国の魔祓いほぼ全てを拘束するくらいの事はしていた。
ヘラクレスだけは邪神が対応しなければならなかったが。
混合魔は。
文化圏が違う魔は祓えない魔祓いにとって、天敵になる。
「俺は混合とやらは拒否する。 弟もだ。 あの燐火という有望な娘と、一対一で戦いたい。 正々堂々とだ。 あれほど戦いがいがあるますらおとは、早々出会えるものではないからだ」
「その願いは叶えよう。 だが貴殿の配下はどうかな」
「……そうだな。 ただし希望者だけだ」
「よろしい」
予母都志許売達は、全然どうでもいいようだ。
その強烈な食への渇望……。
生ある存在の欲求の一つ、食欲の権化である存在であるから。それを満たせれば後はどうでもいいのだろう。
次は、この国の一線級の魔祓いを、何人か間引く。
そうすることで。
邪神が出た時に。対応できないようにしていくのだ。
手は一つずつ、確実に打っていく。
今まで「同志」が積み重ねたことを。
特に友であった狼王が持ち帰ってくれた情報を。
無駄にするつもりはなかった。
(続)
邪神は邪神で、譲れないものがあります。
ましてや狼王は邪神にとっても本当に友人だと思っていた相手でした。
全てを無駄にしないため、邪神もまた負けられないのです。
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