魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない 作:dwwyakata@2024
ついに「邪神」が本格的に行動を開始します。
今までの情報を全て活用し、全力で勝ちに来る……
その目的もスケールも、既に今までの相手とは段違いの代物です。
序、動き出す本物
東京には霊的結界が張られていると言う話がある。四方を守る寺にそれぞれ陰陽五行による守りをしいたとされているものだ。
結論から言うとそんなものは機能していない。
もし機能していたら大戦後東京が焼け野原になることはなかっただろう。
ただ、魔祓いの拠点としては機能はしている。
してはいたのだが。
それらが、全て無力化されていることが、ここ数日で判明していた。
寺にあった仏像が破壊されているような事は別になく。
霊的な破壊が施された。
それも、監視にあたっていた魔祓いは、気づくことさえできなかった。それほど手際が鮮やかだったのだ。
燐火はその話を聞かされて、困ったなと思う。
そろそろ一学期が終わる。
あれから予母都志許売は不意に姿を見せなくなったが。その代わり、各地の魔祓い。それも有力者を、試すように黄泉軍が襲った。
流石にこの国の一線級の魔祓いの実力は凄まじく、死者は出なかったが。
それぞれの手札を試すかのように。
黄泉軍はそれぞれ戦力を集中的に指向して、手札を見てから撤退していった。
雷神はあれから姿を見せていない。
つまり、邪神は。
今までに加えて。更に現状の戦力分析と配置を進めている、と見て良い。これは、決して良い状況に事態は動いていない筈だ。
邪神は恐らく想定される通りの存在だろう。
そう言われてはいるのだが。
仮にそうだとすると、天津神の信仰をはねのけ、懐柔するしかなかったとんでもない武神となる。
他の国であったら対処は可能だったかもしれないが。
この国は奴のホームグラウンドになる。
他文化圏の魔祓いでは対処が厳しいし。
それに根の国の勢力が加担しているとなると。
以前、江戸時代の大飢饉の時に伊弉冉が顕現。この国の魔祓いの六割が殺されたという話は既に聞いた。
天津の武神すら倒せなかった邪神が相手だったとしたら。
更にそれにそいつが加担することになる。
燐火はギリシャ神話系の魔祓いだ。
邪神がダイモーンを接着剤にして混合魔を作り出している。対する特攻効果を作り出せる。
大きなアドバンテージを持てるし。
何より優位に立てる。
しかしながら、ギリシャ系の魔祓いは燐火しかいないのだ。
弱点にもなる。
そう考えると、今後の立ち回りを気をつけなければならないだろう。
ダイモーンが出る。
恐らくだが。
ケルベロスが言う迷子のばらまいたダイモーンは、そろそろ打ち止めだろうということだった。
今の奴は、明らかに悪意をもって邪神がばらまいた奴であり。
実際問題、隣町にまで出張することになった。
電車に乗って出向いた先で。
燐火はそれと対戦することになったが。明らかに反社の入っているビルに絡みついているそれは。
さながら大量の人間の指が組み合わされて作り出された何かの木だった。
ダイモーンを祓うと、膨大な悪運が噴き出して。浄化にもかなり時間が掛かったし。
翌日には、そこで「特殊詐欺」をしていた集団が一斉検挙されたという報道が入っていた。
何でも闇バイトとかいうのを悪用して、様々な事をやらせていた集団の元締めだったらしく。
フロント企業を複雑に活用した、邪悪極まりない代物であったらしい。
しかも詐欺罪は基本的に厳罰にならないらしく。
平気で数年で出てくるらしいのだが。
そのビルで口封じに殺されたらしい死体の一部が発見されたことで事態が急変。殺人罪での立件が行われ。
詐欺の世界では知られていたらしい輩が、恐らく無期を受けるだろうと話題になった。
まあ燐火は知らない。
ダイモーンを祓った結果。
そいつについていた悪運が消えただけだ。
流石に電車で移動するのだと、足が足りない。
やはり車が必要だなと思ったし。
東京に出向くのであれば。なおさら色々と他にも準備が必要になるだろうと考えてしまう。
家に戻ってから、期末試験の準備をする。
今年は合宿には出ないようにと林西さんに言われた。現時点でもう合宿に出なくて大丈夫だろうという理由だからだそうだ。
認めて貰ったのは嬉しい。
ただ、一線級の魔祓い達ともう少し顔合わせはしておきたかったなと、勉強を進めながら思う。
中二の一学期の期末試験なんて相手ではないが。
それでもケアレスミスをもっと減らして。出来れば全科目で満点を取りたい。まあ難しいだろうが。
黙々と勉強をしていると。
ケルベロスが言う。
ケルベロスはケルベロスで、スマホで燐火が流しておいた、色々な情報を見ているようだった。
「世界史には多数の軍略家がいてな」
「伝説になっている人もいるんだよね」
「ああ。 世界史の勉強の過程でやっただろう」
「うん」
軍略家に限った事ではないが。天才という奴は、すべからず精神のねじが外れている事が多い。
天才ほど人格者と無縁である存在はそういない。
勿論高い軍事的業績を上げながら、高潔さで名を残した人物もいるにはいるけれど、少数派だ。
「今動いているこの国の古代神格は、明らかに人間の軍略を学んでいる。 一つずつ確実に手を打っているその様子は、準備が終わって一つずつこなしているものだ」
「善悪の価値観の変遷。 一体何をもくろんでいるんだろうね」
「わからん。 ただ、ダイモーンを何かしらの形で利用するだろう事は確かだ」
「魔祓いの実力を黄泉軍で最終確認しているようにも思えるね。 一体何をもくろんでいるのか……それを読まないと勝ち目はないのかな」
ケルベロスは、その通りだと言う。
実際、相手はただ一柱。
祓えば、この騒ぎは終わる。
恐らくケルベロスが探している迷子も助けられる。
それで、ケルベロスはここを去ることになる。
今の燐火は、ケルベロスのおかげで人間になれたし、なんなら今生きているのでさえそうだ。
だから行ってほしくない気持ちもあるのだけれど。
それはそれとして、何年も掛けて探している迷子が、きっと寂しい思いをしているし。助けることは絶対だとも思う。
複雑な気持ちだ。
「以前、北欧神話の神々が倒されたとき、俺は奴を見たが。 あの実力に雷神……八柱いるのだったな。 それに予母都志許売とやらに、それに黄泉軍の兄弟。 それらが加わった時の実力は、狼王を更にしのぐだろうな」
「懸念があるとしたら伊弉冉尊のことだけれど」
「それについては俺が既に確認してきた。 地獄の十王の方でも動向は監視していて、根の国の女王が地上に這い出す気配はないそうだ」
そうか。
それだけは助かる。
いずれにしても総力戦になるし。
何よりも、既に奥義が解析されている可能性も高い。
今は出来ることをやるしかない。
勉強終わり。
杏美の面倒を見る。
おかあさんが料理を始めるのを横目に、顔がパンのヒーローのアニメを一緒に見る。杏美も少しずつ言葉を覚えてきているし、髪も伸び始めた。背も伸びて、重くなってきている。
だっこをせがまれることもあるが。
そろそろそれも駄目、という時期が来ているかもしれない。
歩けるのに歩かないくらい甘えた子供はどうしても出るらしい。
そういう状態になると。
将来親に悪い意味で頼る良くない子供に成長する可能性があるそうだ。
出来ることは自分で出来るようにする。
それは燐火も聞かされている。
だから操作については教えるが。
同時に欲望のコントロールも、少しずつ教えていかなければならなかった。
夕食が終わったあと、軽く外で鍛錬をする。
ルーチンの鍛錬はまだまだ増やしている。体ができあがってきているから、更に増やして大丈夫だとケルベロスが判断したのだ。
燐火も更に体を動かせて嬉しい。
成長痛や筋肉痛があるときもあるが。
それもまた、まだまだ体が伸びている証拠だ。
中学を卒業するまでに165まで身長を伸ばしたいが。それは体が行うことであって、燐火がどうこうできる事ではない。
また、鉄パイプに更に工夫を凝らす。
今の時点での持ち手を少しずらした。
元々かなり重い得物だが、持ち手を変えることで更にリーチを長くすることが出来る。
ただしそれによって重量のバランスが代わるので。
鍛錬で、こつは先につかまなければならなかった。
竹刀も重りを更につける。
竹刀でも、振ると空気を斬る感触がある。
師範が前に見本を見せてくれたが。その時の師範の素振りでは、空気ではなく空を斬っている感じだった。
まだ燐火は空気を斬っている段階だ。
あの境地には達していない。
全ての先にある斬撃は、恐らくだが隙間を通すようにして、間を抜けているのだ。
師範は人を斬ったことがあるようだったが。
その時も相手を「ぶった切る」というような切り方ではなく。
単純に相手が左右に別たれるような切り方だったのだろうなと。感じてしまう。
剣豪の技。
今は、それに少しでも近づかなければならない。
「其処までだ」
「分かった」
「素直で助かる。 手応えがないと感じて、無理をした結果、却って遠回りをしてしまう場合がある。 燐火はそれがないからな。 教えるのが楽でいい」
「出来れば自分でそれを判断できるようになりたいけれど、まだ遠いね」
後は風呂を済ませる。風呂もあくまでリフレッシュの手段として燐火は考えていた。
おとうさんが防音室から出てきて、杏美と遊んでいた。燐火はそのまま休むと言って自室に消える。
テスト前に一夜漬けなんて無駄なことはしない。
しっかり勉強を普段からしているので、テスト前にやることはただの最終調整である。
期末試験が来た。
とりあえず難しい事はない。ただこのくらいから、テストについて行けない子はどうしても出てくる。
たまに、勇気を振り絞ってテスト前にここが分からないと聞いてくる子がいるが。
そういう場合、そもそもここが分からない以前の問題だったりする。
数学なんかはその傾向が顕著であり。
既に始まっている英語なんかでもそういった傾向がある。
燐火はドリルで一からやった記憶を生かしながら、どうして分からないか聞いて。根本原因を突き止めると、そこから覚えるように説明する。
テストで今だけ点数をとっても。
次のテストでもっと苦労するだけだ。
そう言いながら。
そうすると、大抵途方にくれた顔をされる。そんな顔をされても、燐火は事実を指摘しているだけであり。
別にいじめてなどいない。
破壊神とかあだ名がつけられているのは知っているが。
最近鈴山さんに聞かされたところによると、メンタルも破壊するとか言われているらしい。
そんなことを言われても困る。
母集団が貧弱なところで変な成功体験を積んだ人間が、外に出ても一切通用しないケースはある。
一年の時にぶちのめした亀野が典型例だろう。
燐火はケルベロスに出会えた。
世界規模の知識を持っていて、巧みな指導が出来る名教師だ。
だから分かるのだが、燐火だって別に完璧超人だのではない。学問だったらもっと上が幾らでもいる。
武道に関しても年下の充子に剣では勝てない。三回に一度は一本を取れるが、それは勝てるとは言わない。
世の中上には上が幾らでもいるのだ。
だから驕るつもりはない。
テスト前で、また勉強が分からなくなっている生徒に泣きつかれたので、困惑しながらも説明する。いちいち教えていても仕方がないので、ここからここをこういう風に勉強するようにと言うと。やはりこの世の終わりみたいな顔をされた。
今までショート動画なんか見てだらだらしていた時間の半分でも、勉強に費やしていれば。そんな風になることはなかったのに。
だが、それを流石に面と向かっていうつもりはなかった。
ともかく教えることは教えたので帰る。
まあ、燐火を怖がって、誰も近づいてさえこなかった状況よりはマシか。最近は話しかけてくる生徒も増えてきていた。
男子生徒は相変わらず怖がっていて。
近寄ると腕を折られるとか、殺されて埋められた奴がいるとか噂しているらしいが。
燐火も流石に其処まではしない。
帰り道、またダイモーンの気配だ。嘆息すると、さっさと着替える。
白仮面の服も多少デザインを変えた。
ボディラインが出にくいようにしたのは、最近胸が大きくなってきたからだ。白仮面は女らしいという噂は既に流れ始めている。そういう噂が流れると、燐火としても困るし。最悪、都市伝説として魔が出現してしまう可能性すらあると、日女さんに言われた。だから、正体不明っぷりを強調しなければならないのである。
着替え終わると、さっさとマントを翻して走る。
そして、走っている最中に、スマホから連絡が来ていた。
日女さんだった。
「燐火、今現地に向かっている最中か」
「はい。 十分ほどでつきます」
「そうか、恐らくだが混合魔だ。 黄泉軍だとは思うが気配がおかしい。 俺が行くまで、持ちこたえてくれるか」
「なんとかやって見ます」
ダイモーン入りの予母都志許売は見たが。
黄泉軍の混合魔か。
これは厄介だ。
ケルベロスもぼやく。
「かなり武芸を磨いていたな今までの奴らも。 北欧神話のバルハラのエインヘリアルのように、武芸だけを磨いているのかもしれん」
「だとすると厄介だね。 他にすることもなさそうだし」
「そうだな。 それにあの亜眼と威眼という兄弟から教わっているとなると、侮れないだろうな。 双方とも、今の燐火とほぼ拮抗した剣の腕の持ち主だ。 体術も組み合わせてようやくやりあえるか、という相手。 くれぐれも油断はするなよ」
「分かってる」
魔祓いで油断をするつもりはない。
そのまま走り、山の中を突っ切る。
暑くなってきているが、この程度でバテるほど柔な鍛え方はしていない。山の中を一気に突っ切る。
そして、見た。
待ち構えていた黄泉軍は、肉がついていた。
今までみたのはほとんどが骸骨に鎧だったのに。
「待っていたぞ平坂燐火。 俺は亜眼様に教えを受けた戦士の一人、軽権。 勝負を所望する」
「……分かりました」
正々堂々の勝負か。別にそれならば、構わない。
というか、恐らくだが。
今までの傾向から、正々堂々の勝負なら受けると邪神が学習している可能性が高い。それが、面倒だ。
問題はその肉だ。
間合いを計りながら動くと、軽権とやらは説明してくれる。
「生前の動きを再現するために、東南アジアのなんだかいう妖怪と混合魔になったのだ。 だがその能力を使うつもりはない! 一人の武人として戦わせて貰う!」
「良いでしょう。 行きます」
踏み込む。
剣を抜いた軽権が、迎え撃ってくる。
鉄パイプと激しく剣がぶつかり合って、火花を散らした。はじく。下がりながら、即座に切り替えてくる。
立て続けの攻防で、火花が散る。
冷静に立ち回る燐火。
古代の武人だからといって、まったく現在の剣道家と動きが違うと言うことはないな。そう判断。
冷静に攻撃を捌きながら、地形を生かして徐々に追い込んでいく。
山の中だ。
相手も当然戦い慣れているだろうが。
この辺りは燐火の庭も同じである。
何回ダイモーンを倒したり、他の魔と戦ったりしたか覚えてすらいないほどである。
夜、一人で放置されても、生きて戻る自信がある。
それくらい熟知している場所なのだ。
それが、決定的な差になる。
「むっ!」
軽権が木に体をたたきつけて、それで動きが鈍る。
その瞬間、燐火が小手を入れる。
それで剣を取り落とした軽権の胴に一撃。
鎧の上からも痛打が入り、軽権は倒れたが。それでも起き上がると、サブウェポンであるらしい短刀を抜く。
だが、動きは確実に鈍っている。
最後まで勝負を投げない姿勢は、燐火もあっぱれと思った。
だが、面を入れる。
完璧な一撃。
それで満足したらしく、軽権は消えていく。東南アジアの魔らしいのが残ったが、それは困惑して右往左往しているばかりだ。
「お、おい! 勝手に満足して消えるんじゃねえ! 俺はどうすれ……」
こいつはどうでもいいか。
横殴りの一撃をたたき込み、吹っ飛んだところに立て続けに打撃を入れる。身動きできなくなるまでたたきのめして、日女さんが来るのを待つ。日女さんがついたときには、既に完全に無力化が住んでいた。
東南アジアの原始仏教系の魔であるらしく、菖蒲さんがどうにかできそうらしい。それなら、到来を待つだけだ。
問題は、軽権が、相当に手強い相手だったという事だ。
あんなのが、これからわんさか出てくる。それを思うと、あまり楽に勝てるとは思えなかった。
それに亜眼と威眼という兄弟も。
もしも生前の力を完全再現してきたら。
勝てるかは分からない。そう燐火は、慄然とさせられていた。
ダイモーンに対策が出来る燐火への徹底的な対抗策。
それは単純に、一対一の真っ向勝負を断らない燐火に一対一の真っ向勝負を挑ませ続けるというものです。
本人は嘘つき卑怯が大嫌いな事もあって、こうなると真面目に身動きがとれなくなります……