魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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4、闇と邪悪とは違う

邪神は燐火を仕留めきれなかったことを悟ったが、まあそれはいい。

 

あの地域で双璧を為す一線級の魔祓いである菖蒲に深手を負わせた。手足を持って行きたかったが、流石にそれは贅沢か。

 

やったのは選抜した精鋭の予母都志許売だ。

 

倒されはしたが、良い仕事をした。

 

あれで菖蒲はしばらく身動きできない。

 

今年中に勝負をつけると邪神は決めているが。

 

これで恐らくは、勝てると見て良かった。

 

さて、動くときだ。

 

根の国から借り受けた軍勢は、既に半減している。各地での一線級の魔祓い達との戦いで、消耗したのだ。

 

それでも亜眼威眼兄弟と八雷神は温存している。

 

このうち八雷神はヘラクレスを抑えるために用いる。

 

ヘラクレスの実力は既に理解しているつもりだ。

 

狼王ですら、正面からはやりあいたくないと言っていた。

 

不死身という特性に加え、何よりも物語と堕しても世界中で知られている英雄の中の英雄。

 

何より物語になったことで、古い時代のギリシャ神話における凶暴さは失われ。

 

却って良い意味での英雄になったことで、モチベーションも上がった極めて手強い相手である。

 

八雷神をぶつける価値はある。

 

そして、最後の一手を、準備する必要があった。

 

洞窟の奥にて、拘束している者。

 

ギリシャ神話の冥界のNO2。

 

それがケルベロスが探しに来た存在だ。

 

ハデスに誘拐婚され。

 

嘆いたデメテルとの深刻な諍いの要因となった存在。

 

ただ、本人は無邪気なだけの美しい女。

 

たまに寂しくなって冥界を出て遊んでいるが。それは容認されていた、そのはずだった。

 

だが、迷い込んだ場所が。

 

たまたま邪神の拠点だった。

 

本人は何を前にしているか、最初は理解していないようだった。

 

しかしそれも。

 

捕らえられてからは、いかなる相手に捕らえられたのかを悟り、毎日泣いていたが。

 

「ペルセポネ。 いよいよ計画が大詰めになった。 貴女の特性……ダイモーンを無差別にばらまき生み出す性質を利用して、私はこの世界をひっくり返す」

 

邪神がそう言うと。

 

ただ怯えた目でペルセポネは邪神を見る。

 

ふっと邪神は笑っていた。

 

「価値観が逆転すれば、ギリシャの神々も復権できるだろう。 私との間には軋轢が出来るかもしれないが、それは今更だ。 私はその時天に昇り、明けの明星の象徴として新しい世界の長に君臨する」

 

「……」

 

口を塞がれているから、ペルセポネは何も言えない。

 

本当に気が弱いんだなこのお嬢様は。

 

そう思うと、邪神は悲しくなった。

 

これを利用しなければならないこと。

 

縛り上げて、こんな場所に幽閉していなければならないこと。

 

古くは、実力での体制転覆をなんども狙った。

 

それが出来るだけの力が、邪神にはあったからだ。

 

だが魔祓い達に何度も敗れていく内に、力はどんどん弱まっていった。それに反比例して、天津の神々は力を増していった。

 

国津の神々は、もはや天津に逆らう気力はなく。

 

不満を抱えている根の国の者達だけが、この国で唯一邪神に賛同してくれた。

 

価値観なんて、簡単にひっくり返る。

 

金さえあれば何でも出来るという価値観が広まったこの荒廃した時代は、恐らく最後の好機だ。

 

この時代には人間だけは無駄に多い。

 

ある一点にひずみを入れれば。

 

恐らくは、それが一気に世界中に拡散していく。

 

それをこの国で為す。

 

ペルセポネは神だ。

 

だから、何も与えずとも死なない。見張るようにだけ予母都志許売に言うと、外に出る。

 

整列している黄泉軍。

 

既に半減しているが、意気は旺盛。

 

それはそうだ。

 

陰気な根の国は、ずっと戦闘訓練くらいしかすることがなかったのだ。この地上で暴れられるのであれば。

 

これ以上もないほどの事だろう。

 

武人でありたい。

 

そう願うものも多い。

 

純粋戦士として、腕を極めたい。

 

そう願う者も多い。

 

根の国の民となった今は。もはやそこからは離れられない。だから、根の国に光を差し込ませたい。

 

この地上のように。

 

陰気な場所とされる根の国を、そうではないとしたい。

 

それがここにいる者達の願い。

 

そして邪神とともに戦ってきた者達も。

 

フリッグのようなカスもいたが、フルーレティも狼王も。

 

今、悪とされている観念を。

 

ひっくり返すために命を賭けていた。

 

「魔祓いの戦力は充分に削った。 これより、最終作戦に移行する」

 

「おおっ!」

 

「ダイモーンを祓う娘を如何にするか、ですが」

 

「平坂燐火だ。 忘れるな」

 

亜眼が部下に言う。

 

そうすると、部下も背を伸ばしていた。

 

亜眼も威眼も対戦を楽しみにしているようだ。まあ、それもそうだろう。あれほどの達人、何時の時代でもやっていける。

 

今の平坂燐火は、それくらいまで力を上げている。

 

「これから人間どもの心に大きなひずみを作り出す。 正確には既に出来ているひずみを、爆発的に巨大化させる」

 

その作戦も、具体的に方法が定まっている。

 

その先にあるのは。

 

全ての価値観の逆転だ。

 

別に悪徳が善になるわけではない。

 

今の支配者階級の神々が、魔になり。

 

魔である者達が神々になる。

 

様々な信仰が変遷、文化圏を移動する度に起きてきたことだ。悪魔が神に、神が悪魔になることなど、珍しくもない。

 

それを強制的に引き起こす。

 

「それでは皆、新しい時代に向けて動くぞ。 陰気な根の国には飽き果てただろう。 邪悪とされるのもうんざりだろう」

 

「おおっ!」

 

「いつまでも闇に閉ざされた場所にいてたまるか!」

 

「俺たちはただ生きただけの存在だ! それがどうしてこんな目に遭わなければならない!」

 

口々に言う黄泉軍。

 

気持ちは分かる。

 

なぜならば、邪神も元をたどれば。

 

いや、それはいい。

 

今は、作戦を成功させる。それだけを、邪神は考えなければならなかった。

 

 

 

(続)







菖蒲さんが病院送りにされたことで、燐火の周囲の戦力は決定的に削られました。

更に各地で一線級の魔祓い達も大きな被害を受けているこの状況。

今までにない危険な状態です。

更に、ここから。

邪神による具体的な作戦が開始されます。





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