魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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邪神の最終作戦が開始されました。

それは意外にも、極めて強力で、現在的な作戦でした。

入念に準備されていたそれには、人間世界のインフラ技術者が、束になってもかなわなかったのです。





昇魔堕天
序、始まる


天変地異というのがあるが、決してそのような事態ではなかった。邪神が動き始めたのは即座に分かったのだが。

 

その行動は極めて地味だったのである。

 

古くにこう言われたことがある。

 

インターネットを機能停止させるのは簡単だ、と。

 

現在ではそれは極めて難しくなっている。

 

システムの分散化が主な要因であり、国内限定などに限れば出来ないことはない、という程度のもののようだが。

 

それも出来るのは限定的になっているのが実情だ。

 

だから、最初は誰もが高をくくっていた。

 

故に、いきなりそれが起きたときは、誰もが驚いたのである。

 

最初に餌食になったのは各種のSNSだった。

 

現在ではSNSというのはネットスラムである事は誰もが理解して使っている。綺麗なイメージのあるSNSでも、実態は陰湿な人間関係がまかり通っているし、どこも大差はない。

 

それらのSNSが。

 

一瞬だけの通信切断のあと、まるごと挙動がおかしくなったのである。

 

最初は重い、くらいの状態だった。

 

それが、使用者に違和感を与え始めたのは、程なくだった。

 

「なんだか変な話が流れてきてるんだけど」

 

「ああ、海外の人間がぶち切れてる」

 

「なんだよ。 なんか炎上したのか?」

 

「ええと……何々。 なんかキリスト教についての結構面倒な話をインフルエンサーがしているみたいで、それが大炎上してるみたいだ」

 

燐火が見ている内に、その炎上はどんどん広がっていく。

 

信仰があって初めて文明が発展した。

 

海外ではそういう話題が極めて主流であったようだが。

 

それを根本的にひっくり返す話が出始めたのである。

 

燐火もざっと見てみたが、早い話が一神教の神はその要素のことごとくが別信仰の神からの寄せ集めであり、唯一絶対でもなんでもないというような内容だった。

 

まあ、神学……この天使は実は堕天使だとかというような、言った者勝ちの馬鹿げたものではない。「文化という観点から神話を分析する神学」から言えばその通りだ。

 

一神教の神はそもそもカナンと言われた地方の神の一柱だった存在にすぎない。元はその辺りで「バアル」と呼ばれていた神の一柱だった。

 

それを唯一絶対と持ち上げていった結果、極めて排他的な信仰になっていったのは少し調べればすぐに分かることである。

 

一神教における基礎概念も、自分で考えたものはほとんどない。

 

例えば一神教における絶対正義の思想は、ゾロアスター教における善悪二元論をそのまま取り込んだものだ。

 

また天使も、ゾロアスター教のものである。

 

悪魔に関しても、デーモンはまんまギリシャの信仰におけるダイモーンから来ているし。デビルはディアボロス(悪魔)という程度のものにすぎない。一神教では他の信仰の存在を悪魔としていったため、基本的にデビルだろうがデーモンだろうが堕天使だろうが、厳密には差などないのである。

 

元は全部他の信仰の神なのだから。

 

それだけじゃない。

 

例えば一神教では牛の偶像を徹底的に嫌う傾向がある。

 

これは一神教の神の元になったバアル信仰が、牛の系統……蛇の系統と双璧を為す、神話における最大派閥の存在だからだ。

 

牛の偶像を嫌うのは、一神教の神に対して元はおまえ等はこれだろうと指摘するのに等しく。

 

それに対して、唯一絶対という建前を掲げている以上、否定しなければならないのである。

 

間違っても一神教の神には元々配偶神(女神)がいたことや、本来は牛の神の系統であることは。

 

正義という言葉で思考停止させたバカな信者に対して。

 

知られてはならない事なのだ。

 

ただ、これら程度のことは学問として調べていれば、燐火程度でも知っている事である。何を今更と思ったが。

 

学問として常識であっても、それをインフルエンサーが立て続けに配信するというのは流石にこのSNS時代ではインパクトが大きい。

 

海外では記録的な大炎上になっており、バチカンなども反応しているようだが。

 

その余波で、学問として一神教を調べている学者まで攻撃されているらしい。炎上が、大爆発しているのだ。

 

程なくそれは。

 

日本でも始まっていた。

 

動画配信サイトで、不意に面倒なことを言い出したのは、200万のフォロワーがいるインフルエンサーだった。

 

その動画を軽く見たが、日本神話はよそから侵略してきた民族が作り上げたもので、元々の信仰は国津神やまつろわぬ神々とされて追いやられたという話を、詳しいデータとともに示し始めたのである。

 

ただ、これも神学としては常識的な内容であり。

 

何を今更と燐火も思う。

 

例えばだが、三貴神の一角である素戔嗚尊は、天岩戸事件まで、それ以降で、性質がまったく違っている。

 

暴虐のままに高天原を蹂躙しようとした素戔嗚尊は、地上に降りてから不意に八岐大蛇を打ち倒す英雄と化している。

 

その後、大国主命の逸話では、なぜか根の国に移り住み。

 

自分の娘をほしいと言ってきた大国主命に対して、無理難題を突きつける暴君と化している。

 

これらは明らかに元は違った神格を強引に継ぎ合わせた証拠であり名残だ。

 

ただ、こういった話は世界中の神話がことごとくそうだ。

 

古代オリエントの神話で、蛇の神の分かっているだけでも最古の存在であるティアマトを、牛の神の分かっている中でも最古であるマルドゥークが打ち倒して以降というもの。オリエントから拡散した様々な信仰で、ずっと繰り返されてきたことだ。

 

悪魔が神に。

 

神が悪魔に。

 

文化圏を渡れば、それは当たり前のことになる。

 

近年では、世界の神話を扱ったゲームがある程度受け入れられるようになったが、そういう作品ですら時々頭がおかしいクレーマーが湧く。

 

それもあって、話は簡単ではないのだ。

 

日本でもインフルエンサーの配信と言うことで、騒ぎが始まる。

 

ただ、日本では。

 

比較的炎上の規模は小さかった。

 

「聞いてみた限りでは、そんなにおかしな話ではないよな」

 

「うん。 日本神話、興味があって調べてみたけど、色々おかしいところだらけだし。 後づけだらけでも変ではないよな」

 

「ただ、俺等はそういうの気にしないけど……海外コレやばくね?」

 

「ああ、殺害予告とかまで飛び交ってるみたいだな」

 

会話を見ていて燐火は苦笑い。

 

勿論そうではない人間もいるが、この国で信仰はあまり重視されない。国民全てが無神論者なんて言われることもある。

 

神話なんてゲームで扱われるもの、くらいに考えている人間だってたくさんいるし。

 

フェンリルを安易に狼の強い魔物くらいに考えて出すゲームだってある。

 

そういう国で、神話の真相を知らせたところで、影響は小さい。

 

ただ、海外はこれはまずい。

 

燐火はともかく、皆と話をする。

 

この事態、夜中に始まったと言うこともあって、燐火も知ったのはさっきだ。

 

夏休みがそろそろ終わろうとしているタイミング。

 

この暑い中。

 

恐らく、邪神が仕掛けてきたのだと思う。

 

善悪の観念の逆転。

 

それを考えると、邪神のこの行動、何かしらの意味があるのだと思う。

 

ともかく連絡を取って集まる。

 

林西さんが難しい顔で、音頭を取っていた。

 

菖蒲さんが入院中だ。

 

仮に邪神が全力で仕掛けてきた場合、総力で迎え撃っても、こちらの戦力は半減してしまっている。

 

それにだ。

 

ヘラクレスさんの伝令として、イオラーオスさんが来たのだが。

 

ヘラクレスさんは、巨大な気配を前にして、イオラーオスさんを派遣。協力するように言い含めたそうだった。

 

つまり、ヘラクレスさんは。

 

何かしらの超強力な存在とやりあっていると見て良いだろう。

 

林西さんがぼやく。

 

「この国では信仰は所詮余程の変わり者でなければ重視しないが、この海外での騒ぎはまずいな」

 

「特にこの絵。 頭を抱えた神の頭に角が生え、その視線の先に子牛の偶像がおかれている絵。 熱心な一神教徒は激怒しているようですわ」

 

カトリイヌさんが言う。

 

カトリイヌさんに対して、エヴァンジェリンさんがぼやいていた。

 

「ヒステリックに牛の偶像を否定したのは、それが真実だったからだ。 一神教の神は所詮牛の神の系譜。 そしてそれがばれてしまうと、唯一絶対でも全知全能でもない事がしれてしまうからな。 ニーチェなんかが必死に一神教の影響力をそごうとした歴史はあるが、ニーチェは所詮出来もしない超人の概念を持ちだし、既存の信仰全ての更に上を目指そうと……要は「俺の考えたもっと凄い神」を提唱したに過ぎない。 ほとんどその発想の根幹は子供と同じだ。 結局一神教文化圏では、一神教はまだまだ精神的に強いくさびになっているのさ。 天才たる私はそれを知っていたのでな……だから一神教の魔祓いにはならなかった」

 

「それはそうと、この騒ぎ。 下手をすると暴動などにも発展しかねませんな」

 

セバスティアンさんが言うのだが。

 

問題なのはここでそろってSNSに不具合が起きていて。いわゆるブロック機能が機能していないようなのである。

 

それもあって、凄まじい勢いで拡散が進んでいる。

 

また、いわゆる鍵アカウントもこの事態でその全てが解除されているようで。

 

今までの発言などが全て明らかになっており。

 

混乱に拍車が掛かっているようだ。

 

「邪神がどこでこの事態を起こしているかが問題ですね」

 

「インターネットについてはわしは詳しくない。 誰か何かしらのヒントを知っていないか」

 

燐火が言うと、林西さんが困ったように応じる。

 

まあ燐火も其処まで詳しい方ではないのだが。

 

エヴァンジェリンさんが専門外と即答。日女さんも、よく分からないと言い切った。ただ、そこから付け加えた。

 

「ただ、これは恐らくだが、何かしらの霊的に都合が良い場所でやっているはずだ」

 

「ふむ、根拠は」

 

「これだけの規模のネット干渉、相手が神格だろうと出来る事じゃねえ。 要は力を増幅してやっているってことだ。 今の時代、ネットには訳が分からんウィルスだの散々に流れているからな。 このインフルエンサー達の発言、恐らくは全部邪神が代理で書き込んだんだろうぜ。 本人達は泡を食ってる筈だ」

 

なるほど、日女さんの発言が正しそうだ。

 

そうなると、問題がある。

 

霊的に都合が良いといっても、それは色々とあるのだ。

 

「これをやっているのは、邪神だと思うか、それとも根の国の者達だと思うか」

 

「邪神だろうさ」

 

林西さんに、日女さんが即答。

 

そうなってくると、邪神の正体次第では、場所を特定できるかもしれない。

 

ヘラクレスさんは既に何かしらの相手と総力戦をしている可能性が高い。

 

それを考えるならば。

 

敵としても、この作戦は本気でやっていると見て良いはずだ。

 

「仮に相手がまがつ星だったとして……」

 

「まがつ星であった場合は、恐らくは各地の神社がある。 一応神社に祀ってはいるのだが、ほぼ制御は出来ていない。 ただこれらの神社は、恐らく違うだろう」

 

日女さんが言う。

 

何でもまがつ星と呼ばれる神格と邪神が同一存在だった場合。一応神社はいくつもあるらしい。

 

だが、そもそもとして、神社と電子ネットワークはそれほど相性が良くない。

 

何よりもまがつ星は天津の神々が武力で平定できなかったほどの存在だ。

 

それもあって、神社と言うよりも封印装置として機能しているらしい。

 

これについては大国主命……国津神のトップである訳だが。大国主命を祀っている伊勢神宮でも。

 

似たような傾向があるのだとか。

 

「少なくともそれら神社ではないな」

 

「伝承があるのはどの辺りなのか」

 

エヴァンジェリンさんが言う。

 

燐火もこの辺りはそれほど詳しくない。

 

日本神話に詳しい日女さんが説明はしてくれる。

 

「茨城の辺りだ」

 

「あの辺りってかなり大きな企業の本籍地ではなかったか」

 

「確かにそれはそうだ。 IT企業としてもかなりの力を持っている」

 

「問題は本当に相手がまがつ星かどうか……だが」

 

これが最大の問題だ。

 

まがつ星と言われている存在は、明治時代などにも出現し、当時の魔祓い達が総力で迎撃。

 

打ち倒すことに成功はしているそうだ。

 

だが、相手は混合魔を扱い。

 

極めて高度な知略戦を使いこなす相手。

 

不審なのは、そこだと日女さんがいう。

 

「まがつ星は、タケミカヅチとフツヌシという日本神話でも屈指の武神二柱が相手でも倒せず、最終的に懐柔された逸話がある。 女に簡単に引っかかった存在だ。 だから力に関しては申し分ないが、今活動している邪神はどちらかというと頭脳派だ。 ここがどうにも気になってな……」

 

「もし見当違いの場合は大変な事になりますね」

 

「ともかく調べるしかない。 常陸……茨城には、これからわしが威力偵察に出向く。 公安の方にヘリを回して貰う。 おまえ達は、現地で待機。 ただでさえ敵がどう動くか分からん。 今は下手に動かない方が良いだろう」

 

「分かりましたけれど、直衛として誰か連れて行ってくださいまし」

 

「どうにも嫌な予感がしてな。 一秒でも早く、茨城の様子を確認するべきだ。 現地にいる魔祓いにも、公安から手を回して調査して貰うつもりだ」

 

仕方がないか。

 

一旦解散する。

 

涼子から連絡が来ていた。

 

特にイスラム圏での炎上が凄まじいようで、各地で大暴動に発展しているらしい。

 

国によってはこれは宣戦布告に値するとか言って、インフルエンサーを名指しで非難している者もいる。

 

イスラム圏はまだまだ文化的にタブーが多い。

 

イスラム教の神であるアラーが、結局は一神教の神に太陽神の要素を足しただけの存在、なんて事は。

 

間違っても口に出来ない土地だ。

 

それもあって、これだけの情報が大炎上すれば、それは顔を真っ赤にして怒る。

 

今でも信仰は。

 

人間を鎖でがんじがらめにしているのである。

 

これは長引くとまずいと判断していい。

 

既に理性的な判断が出来なくなっている者もいて、殺害予告やテロ予告も相次いでいるようだ。

 

これは世界情勢に爆弾を放り込んだと同じである。

 

SNSを運営している各社は声明を出している。

 

なんでも全く制御不能の状態になっていて、システムの強制停止すら受け付けないという。サーバを物理的に停止させたが、それでも止まらないということだった。

 

やはり、何かしらの事をやっていると見ていい。

 

大統領ですらSNSを利用するこの時代だ。

 

邪神もSNSを利用して、世界を滅茶苦茶にするのは、ある意味合理的だろう。

 

それにだ。

 

コヨーテがやっていたのは。

 

これの予行演習だったのかもしれない。

 

家に戻り、二時間ほど。

 

林西さんから連絡が来ていた。

 

直接電話じゃない。共通メッセージでだ。

 

「罠だ!」

 

「何があったんですか!」

 

「敵はまがつ星……アマツミカボシじゃない!」

 

何かが燃える音がする。

 

林西さんは、必死になれないスマホを操作しているようだった。

 

「アマツミカボシはしっかり星神社にて封印されていた! 邪神の正体は、別の神だ!」

 

「……っ!」

 

「茨城で大規模なデータセンタの爆破があった! 魔祓いが調査に来るのを見越したような動きだ! 多数の魔祓いが負傷した! 恐らく、仕掛けてくる! 今そちらにわしと同格の魔祓いが向かったが、間に合うまで持ちこたえてくれ!」

 

即座に厳戒態勢を取る。

 

やはり、最悪の事態を想定しておいて良かった。

 

ヘラクレスさんも、恐らく相手は星の神格だろうと見ていたようだが。あまりにも正体をあけすけにしているのも、おかしいと思ったのだ。

 

あるいはだが、アマツミカボシから分霊を借りているだけなのかもしれない。

 

ガワはそれで。

 

中身は違う可能性すらあった。

 

家を即座に出る。

 

近くの山に飛び込むと、其処が一瞬にして異界と化す。

 

降り立ったのは、以前見かけた日本の古い格好をした神だ。

 

側には、亜眼と威眼の兄弟を従えている。

 

「久しいな、平坂燐火」

 

「あなたは一体何者ですか」

 

「その様子だと聞いたのだろう。 私はアマツミカボシと古代に呼ばれた存在」

 

「それは違うと言われましたが」

 

ふっと、邪神は笑った。

 

そして、くつくつと笑いながら、両手を広げていた。

 

「思った以上に出来るな。 一部だけは本当だ。 私は利害が一致するアマツミカボシと連携して、分霊体を交換しあった仲だ。 ただ、それをこうも簡単に見抜かれるとはな」

 

「茨城での爆発事故も、全てこのためだったんですね」

 

「そういうことだ。 既に今まで麾下にした大量のグレムリンが、世界中でSNS工作をしている。 現在は仮想サーバというものがあってな。 それを利用して、各地のSNSを乗っ取り、代替を即座に作り上げた。 SNSの運営会社が慌てるのも当然だろうな。 とっくにシステムは仮想サーバのが主体になっているのだから。 サーバを物理的に止めようと無駄だ」

 

かなり難しい技術的な話をされるが。

 

いずれにしても、今の話で分かったことがある。

 

この存在は、日本神話の悪神だ。

 

そして、その中の一つ。

 

古くの茨城……常陸にて、存在が確認されている大邪神がいる。

 

その存在は見た存在を族滅するとまで言われる呪いの権化。まさかとは思うが。

 

「あなたの正体は夜刀神ですか」

 

「くっくっく、惜しいな。 それも違っている。 夜刀神は今眠っている最中だ。 江戸時代にこっぴどく魔祓い達にやられてな」

 

「……あなたは何者ですか」

 

「もう良いだろう。 私の正体は、名すら失われた星の神。 この国では、天津の神……大和朝廷の神格化された将軍達による征服が行われたが、それを防いだ最後の存在、アマツミカボシ。 そのモデルは現地に帰化してしまった大和朝廷の将軍の一人だが、私はその地で信仰されていた星の者。 強いて言うならば、星神とでもいうべきかな」

 

なるほど。

 

それはアマツミカボシと相性が良いわけだ。そして恐らく連携して行動もしていたのだろう。

 

日女さんが来る。

 

カトリイヌさんと護衛二人も、エヴァンジェリンさんと一緒に来た。

 

「ヘラクレスは動けず、今こちらに向かっているらしい一線級の魔祓いも多数の予母都志許売に足止めをさせている。 ……だが、私はまずはそちらの一神教徒と巫女、それに異郷の魔女の相手をしよう。 亜眼と威眼が、どうしてもと頼むのでな」

 

肉を持って実体化している亜眼と威眼は、とにかく重厚で四角い男性だった。明らかに強いのが一目で分かる。

 

そして、頷く。

 

このときを、どれだけ楽しみにしていたか分からないという顔だ。

 

更に言えば、これは極めてまずい。

 

燐火の力を徹底的に削って、確実に仕留めに来ていると見て良いだろう。亜眼と威眼を倒しても。

 

星神と戦う余力が残るかどうか。

 

汚い大人だな。

 

そう思って、燐火はため息をついた。正々堂々というのを最大限利用しつつ、それを戦略にも組み込んでいる。

 

燐火が怒らないようにきちんと布石をはりつつ。部下の制御もしっかりしている。

 

星神がアマツミカボシと連携……正確にはアマツミカボシのモデルとなった将軍が神輿に担いだ現地の神だとすれば。

 

大和朝廷の侵攻を防ぎ抜いたその軍略を、知り尽くしていても不思議ではないのだ。

 

「威眼、まずはおまえからいけ」

 

「いいのか兄者」

 

「かまわん。 この間は俺が先に戦ったからな。 今度はおまえの番だ」

 

「承知……!」

 

感情が薄そうな威眼の顔に、明確な歓喜が浮かんだ。強者と戦える歓喜の表情。

 

燐火は息を吐くと。

 

既に激烈な死闘が開始されている星神達のほうを一瞥し。上段に、鉄パイプを構えていた。

 

「まだ何かある可能性がある。 油断するな」

 

ケルベロスが冷静になれと促してくる。燐火も分かっていると返すと、山の中。古代の誇り高い武人に対して、一気に間合いを詰めていた。







※星神について

アマツミカボシと今までミスリードを続けていましたが、正体は微妙に違います。

アマツミカボシは、恐らくは大和朝廷が派遣したものの、現地に帰化してしまった将軍を邪神として神話に残したものです。大和朝廷の軍を退け、そして譲歩を引き出した辣腕だったのでしょう。勿論、やり口や戦術を知っていたというのも大きかったと思われます。

この星神は、その更に前の段階。

アマツミカボシと連携して動いた民が信仰していた星の神です。

アマツミカボシは日本神話で珍しい星神で、しかも邪神。天津という名前があるのに、です。

その背後事情を考えて、この星神をデザインしました。

人としてのアマツミカボシに対し、アマツミカボシとともに大和朝廷に立ち向かった人々があがめた神。

それこそが、このもはや名前も分からない星神なのです。


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