魔法少女アギア・ケルベロス~俺は地獄の番犬ではない   作:dwwyakata@2024

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燐火と亜眼威眼兄弟の決戦、佳境……!

どちらも正々堂々の姿勢を崩さない以上、その戦いはむしろ、却って、凄惨なものになります。





2、連戦

強い。

 

今まで一対一で戦った魔で、恐らく一番。

 

威眼の強さは想像以上だった。

 

以前交戦した狼王は強かった。

 

だが、弱体化に弱体化した状態で、最後に一対一での勝負になった結果だった。だから、あれはノーカウントだ。

 

今交戦している威眼は、恐らく混合魔になるのに、肉体を得る以上の目的は持っていない。

 

本当に筋金入りの武人なんだな。

 

そう思うと敬意は湧くが。

 

だが、だからといって。

 

今星神に蹂躙されている皆を、助けに行かなければならないという目標を放置は出来ない。

 

焦る。

 

何しろ威眼の後ろには、亜眼だって控えているのだから。

 

骨だけの状態でも、燐火の一撃を捌いて見せた相手だ。

 

肉を得た状態の今。

 

どれほど強くなっているのか分からない。

 

威眼は二刀を帯びていて、基本的に長刀を用いて戦っている。腰につけている脇差しは、恐らくは防御用のサブウェポンだ。

 

つまり極めて正統派の剣士である。

 

実力は燐火と互角近く。

 

今まで歩法を用いようと何度か引っかけに入っているが。

 

ことごとく間合いの外に逃れられている。

 

ついでに極めて寡黙で。表情も全くない。

 

とにかくやりづらい相手だった。

 

がっと、鉄パイプと長刀がぶつかり合う。

 

後の時代の日本刀ほど洗練されていないが、それでも根の国で打たれた武器なのだろう。そもそも根の国は大国主の時代には、素戔嗚尊が移り住んでいる。根の国の住人に、優れた鍛治師がいてもおかしくない。

 

もう八十合は渡り合ったか。

 

攻防が激しく入れ替わる中、燐火は勝負に出ることにするが。

 

ケルベロスが言う。

 

「燐火、焦るな。 相手は焦りを誘発している」

 

「……分かった。 確かにそうだね」

 

「相手の力量は充子に及ばない。 剣の技量はぎりぎり燐火に届かないだろう。 ただ、二刀が気になる。 むしろ相手を追い詰めろ。 最悪の場合でも、星神は二対一をけしかけては来ないはずだ」

 

「そうだね」

 

話は聞こえていた。

 

星神の行動は許せないが。

 

それが同志に対する義理から来る行動だというのは、燐火も聞こえていた。

 

やり方は間違っている。

 

やったことで、どれだけの犠牲が出たかも分からないほどだ。

 

だが。

 

星神なりの義理は通している。

 

それだけで、金のためだったら同類でも家族でも平気で売り。それでありながら仁義だのほざくような反社なんかよりも、百倍まともだ。

 

それも自己満足のための行動じゃない。

 

信仰のメインストリームになる事。

 

星神の場合は、本来のメインストリームである座を取り戻すこと。

 

それは悲願。

 

恐らくは二千年近い悲願の筈だ。

 

それを「たかがそんなことのために」とかいうのは。傲慢以外の何者でもないと言えるだろう。

 

燐火なんか、尊厳を徹底的に蹂躙された状態から、まだ立ち直れていないのである。

 

たかが十年程度の尊厳の蹂躙から、だ。

 

それが二千年。

 

どれほどの絶望が相手にあるか、分からない。

 

それくらいのことは燐火も判断できる。だから、相手を馬鹿にするつもりはない。

 

ただ、それはそれとして。

 

亜眼と威眼は、ここで倒さなければならない。

 

威眼に対して、確実に攻めていく。

 

インファイトに持ち込もうとした瞬間、当て身からの合気を入れて、距離を取る。

 

鎧の上からでも、合気は普通に通る。

 

元々たいした厚さの鎧じゃない。

 

どれだけ鎧が堅かろうと、衝撃を全て殺せるわけでもないのだ。

 

わずかに下がった威眼の腕を取ると、背負い投げを完全に入れる。

 

だが、受け身を綺麗に取った威眼は、剣だって手放さないし。むしろ足下を狙って剣の一撃を返しつつ、転がって飛び起きていた。

 

今のがダメージになっていないはずがない。

 

威眼は初めて、目に感情らしいものを見せていた。

 

「柔道はまれに根の国に来る者から聞いていた。 これほど鮮やかに投げてくる相手は初めて見たが」

 

「燐火より凄い柔道家なんて幾らでもいますよ」

 

「ああ、そうではあろうな。 だが他の武道と剣術も併せて習得している……しかも貴様の年で……はそうはいまい」

 

それについても懐疑的だが。

 

一応褒め言葉は受け取っておく。

 

威眼は多少体を痛めたようだが、亜眼に問題ないかと聞かれて、そのまま頷く。だが、これが勝機だ。

 

恐らく威眼も、それを理解している。

 

だからだろうか。

 

すっと、剣を大上段に構えていた。

 

なるほど、一撃必殺の構えか。

 

燐火もそれに応じる。

 

今まで威眼と打ち合ってきて、威眼の実力が燐火にわずかに及ばないにしても、それに近い事は分かっている。

 

大上段からの必殺の一撃は。

 

有名な示現流の二の太刀入らずをわざわざ例に出すまでもなく、生半可な相手では対応できない。

 

燐火だってそれはそうだ。

 

だから燐火は、意表を突く。

 

切り札の一枚や二枚。

 

ここは切るべきだ。

 

深呼吸すると、中段に構える。

 

それを見て、威眼は何だと顔に書いた。

 

中段はバランスがいい構えだが。しかしそれはそれとしていくつも限界がある。

 

特に大上段からの必殺の一撃に対しては、どうしても展開が遅れる。

 

剣道だったら話は違ってくるが。

 

これは実戦だ。

 

威眼は一瞬だけ迷う。

 

その迷いを、燐火は突いていた。

 

即座に間を詰める。

 

いわゆる縮地である。

 

縮地と言っても超高速移動とかではなく、速度の緩急を利用して相手に誤認させるだけの地味な技術だ。

 

古流に属する技ではあるのだが、今では似たような足捌きは当たり前のように用いられていて。

 

師範からも教わった。

 

動揺を拡大させる。

 

それでも、振り下ろしてくる一撃。それはそうだろう。

 

だが、それはあまりにもまっすぐな太刀筋だった。

 

だからこそ、燐火がすっと受け流すと、あまりにも綺麗に流れていた。

 

あっと顔に書く威眼。

 

そのままの流れのまま、胴を一撃。

 

移動中、歩法まで駆使して、正中線から相手の太刀筋を外しまでした。

 

威眼は、動揺もあって、それに対処しきれなかった。

 

下がった威眼のダイモーンを祓う。

 

今の一撃は、致命打だ。

 

尻餅をつくと、威眼はくっくっくと笑う。

 

その姿が揺らぎ、消えていく。

 

「見事。 縮地からの、貴様が得意とする歩法による幻惑。 更には迷い無き連撃。 俺の負けだ」

 

「いえ、あなたこそ。 今まで戦った剣士の中では、上から三番目でした」

 

「そうか。 まだ上がいるんだな。 兄者、後は任せる」

 

「ああ、任された」

 

威眼が消える。

 

何か得体が知れない魔が残ったが、右往左往しているそれを、イオラーオスさんが放ったらしい矢が貫いていた。

 

ひくひくと痙攣しているそれは無視。

 

星神の方はかなりまずい。

 

カトリイヌさんは倒れて動けていない。

 

セバスティアンさんと日女さんの猛攻を、まるで寄せ付けていないし。エヴァンジェリンさんのルーンも決定打になっていない。

 

イオラーオスさんも仕掛けていないと言うことは。

 

恐らく、加わったところで無駄と判断しているのだろう。

 

それに、林西さんが言っていた援軍だって、届くとは思えない。

 

相当な数の予母都志許売と黄泉軍が待ち伏せしているはずだ。林西さん自身も、無事かすら分からない。

 

状況は、極めて悪い。

 

「さて、次は俺だ。 行くぞ」

 

「分かりました。 ただ、補給をさせてください」

 

「うん? ああ、いいぞ」

 

スポーツドリンクを飲み干す。

 

ケルベロスに言われた通りのことだ。

 

亜眼は正々堂々にこだわる。

 

これは燐火も同じ。

 

完全な連戦を挑んでこない。それだったら、これくらいの補給はさせるだろう。ケルベロスの言葉通りだった。

 

丁寧にバックにスポーツドリンクをしまうと。

 

亜眼は、威眼とは違って長柄を構える。

 

こっちは正統派の武将というイメージだ。

 

馬に乗ったこういう武人が最後に活躍できた時代の人間。

 

勿論騎兵は後の時代でも世界各地で猛威を振るったが。それはあくまで騎馬隊という戦闘単位での話。

 

ゲームみたいに一人の騎兵が、多数の雑兵を蹴散らすような事が出来た時代は。

 

鞍が完成して以降、なくなった。

 

日本は技術が大陸から伝播するのがある程度遅れた、という事実はあったのだが。それでも威眼は、個人武勇がものをいった最後の時代の武人だろう。

 

だからこそ、徒歩であっても。

 

その武器は、馬上で最大威力を発揮する長柄と言う訳だ。

 

「では改めて行くぞ!」

 

「分かりました。 こちらも行きます」

 

「威眼との戦い、見事だった! 俺としても、久々の強敵に胸が高鳴るわ! 武者震いが止まらんぞ!」

 

本当に嬉しそうに、長柄を振り回して掛かってくる亜眼。

 

本当に心の底から戦いが好きなんだな。

 

そう思うと、不思議な気分だ。

 

それが殺しあいだと思うと、あまり良いことではない。

 

だが戦い自体は、人間という種族が、ずっと昔からずっと好きだったものだったのである。

 

亜眼だけの罪業じゃない。

 

踏み込むと、がっと長柄とぶつかり合う。

 

リーチという観点で極めて不利。

 

しかも亜眼の背丈は、栄養状態が悪かっただろう古代においては破格だっただろう170㎝代で、燐火よりもだいぶ高い。

 

その分リーチも優れているのだ。

 

激しく刃をぶつけ合う。

 

これは、強いな。

 

本当に嬉しそうに笑みを浮かべている亜眼は、あらゆる技をたたき込んでくる。その全てを受け流しながら、確実に間合いを計る。

 

ケルベロスが言う。

 

焦るな。

 

焦れば、長柄相手の戦いは絶対に勝てない。

 

長柄は三倍の段位があってやっと勝負になるというが、それはあくまで低段位の話に過ぎない。

 

高度な領域に達した達人同士の戦いになってくると。

 

それは別の話になる。

 

ただ、今の段階では、まだ亜眼の技を見る段階だ。

 

星神との戦闘はかなり厳しい様子だが、それでも皆を信じるしかない。

 

とにかく、今は。

 

亜眼の技を見切ることだけに集中しろ。

 

ケルベロスはそう、丁寧に諭すようにアドバイスしてくれた。

 

「そうだな! 長柄との武器の差がある! その鉄の棒も相当な神器であると見るが、それでも長さの差はいかんともしがたい! ならば俺の技を見切るのがまずは最初であろうな!」

 

「堅実に行きます」

 

「ふっふっふ、そうそう。 だが、そもそも俺の技を前に、これだけの合数渡り合える者はそうはいない! その時点で、燐火よ! 貴様は俺の前に立つにふさわしい武人だ!」

 

「ありがとうございます」

 

威眼と違って随分と喋るな。

 

威眼も戦闘ではかなり興奮状態にあったようだが、口をほとんど開かなかった。兄弟だけあって、肉を持った状態ではかなり似ているのに、やはり性格は正反対だ。

 

凄まじい突き技が連続してくるが、その全てをはじき返す。

 

多段技の類は、実のところそれほど実用的じゃない。

 

大上段からの一撃のような、みてから対処できないような技の方が実戦では脅威だったりするのだ。

 

誰もがそういった技に即応できる訳ではない。

 

結局のところ、初見殺しだろうがなんだろうが、相手に勝てば良いのが実戦だ。だが、亜眼は。

 

これは今まで身につけてきた技。

 

その全てを燐火で試そうとしているな。

 

実験台にされて不愉快かというと、別にそうは思わない。

 

亜眼はそれしか出来ない根の国にいたのだ。

 

その悲しみは嫌になるほど分かる。

 

だから受けて立つ。

 

受けて立って、そして勝つ。

 

気合いとともに横薙ぎの一撃が来るが、それを弾き上げるように防ぎ、更にそこから派生する首を刈り取る一撃も、地面にたたき落とすようにして防ぐ。

 

激しい攻防の中、ミリ単位で刃が肌をかすめるが。

 

それは見切りの結果。

 

別に怖いとは思わない。

 

ただ、体力がゴリゴリ削られていく。

 

既に六十合は渡り合ったが。

 

亜眼は体力を落とす気配もない。

 

燐火は威眼との連戦だ。このまま行くと、いずれこの重すぎる早すぎる連撃に削り殺される。

 

それだけじゃない。

 

亜眼は多段技だけしか使えない筈がない。

 

剣術だってあれだけの冴えがあったのだ。

 

一撃必殺技に出てきた場合、疲労がたまっていたら、かなり厳しいことになるだろう。

 

しかも相手への間合いをとにかく詰めづらい。

 

長柄相手だと、これほど不利か。

 

それは剣豪が、槍相手にまともに戦うなと言い残すわけである。

 

「見事! ここまで俺と渡り合う武人、黄泉でもほとんどおらん! 更に行くぞ!」

 

「……」

 

褒めてくれるのはありがたいが。

 

ケルベロスがぼやく。

 

「本当に鬱屈がたまっていたのだな。 この様子だと、亜眼威眼とやり合える黄泉軍は、いなかったのだろう。 根の国の神々は伊弉冉と素戔嗚尊以外は実態もないような者達ばかり。 それらが亜眼と戦うとも思えない。 だとすれば、孤独な武をどこにぶつけていいかも分からなかったのだろうな」

 

「可哀想、と考えるのは失礼なんだろうね」

 

「ああ。 そう考えるよりも先に、まずは相手に勝つことだ。 相手は戦いが当たり前で、相手を殺すことも当たり前だった時代の人間だ。 だから、一切手は抜くな」

 

「分かってる」

 

風車のように長柄を回しつつ、その合間から立て続けに突きを打ち込んでくる亜眼。無駄もあるが、フェイントを多数混ぜつつの連撃。

 

普通だったらとても近寄れない。

 

亜眼が歩法を警戒しているとは思えない。

 

そもそもこの距離だ。

 

間合いに差があり、簡単に歩法を通せる相手ではない。

 

それに、歩法の詳細も狼王ロボから亜眼に渡っている筈。

 

だったら、それを使わせないように立ち回ってくるのは道理だ。

 

ただ、燐火もこれを逆に好機とみる。

 

縮地を駆使して、間合いを詰めに掛かる。下がりながら、更に連続して突きをたたき込んでくる亜眼。

 

楽しい。

 

顔中にそう書いている。

 

嬉しい。

 

全身からその気持ちが溢れてくる。

 

戦いを好む人間の業と。

 

物部の兵として、結局歴史の闇に消えていった己の武芸をいかせる純粋な喜び。

 

それも同時に分かる。

 

だからこそやるせないし。

 

それを燐火以外の人間にぶつけさせるわけにもいかないのだ。

 

踏み込む。

 

間合いを詰められたことを悟った亜眼は、長柄を即座に持ち変える。

 

ひゅうと音を立てて、まるで剣のように使ってくる。

 

激しく打ち合う。

 

長柄は形状的には薙刀に近く、その刃は刀のように鋭い。鉄パイプと、至近で火花が散り合う。

 

「もっと長柄の技を試したかったが、それでもかまわん! さあ次はなんだ! 打撃技か、投げ技か! それとも蹴りか!」

 

どれも違う。

 

首から上をえぐり取るような一撃をかわしつつ、更に踏み込んで火花を散らす。

 

嬉しそうだな、本当に。

 

だったら、負けても恐らくは悔いはないだろう。

 

歩法を使う。

 

それ以外に、勝ちの目はない。

 

これは、分かっていても対応など出来ない。

 

だが、相手も。

 

同じ歩法に出る。

 

その瞬間、刃の応酬が止まっていた。

 

双方ともに、どう出るか。

 

それを高速で読みあっているのだ。

 

それがこの歩法。

 

そして、疲弊した燐火はどうしても不利だ。頭だって疲弊すれば鈍ってくる。威眼との実質上の連戦である。

 

どうしても、限界が近づいている。

 

呼吸を整えながら、丁寧に歩法を続ける。

 

亜眼もほぼ同じ歩法を使ってくるが、同じであっても練度はこっちが上だ。

 

不意に亜眼が倒れる。

 

激しく体をたたきつけたが、それでも元からとんでもなくタフだ。

 

即座に跳ね起きて、また歩法に入る。

 

流石の亜眼も喋る余裕がなくなったと見る。冷静に燐火との歩法をぶつけあう。その間、一秒辺り十合近い攻撃予測をぶつけ合う。

 

亜眼は流石だ。

 

燐火がこう出ることも分かっていたのだ。

 

分かっていて、それに乗ってきた。それで勝つ自信もあるのだろうが。本当に正々堂々だ。

 

立派な武人。

 

燐火から見ても、掛け値なしにそうだ。

 

だからこそ、ただの歴史の敗者扱いになり。根の国で、ずっと陰鬱に過ごすのは悔しかったのだろう。

 

それもこれで終わるのなら。

 

練度が上なら、勝てる。

 

そのまま、確実に進めていく。

 

再び亜眼が激しく地面に体をたたきつける。

 

だが、即座に跳ね起きる。

 

燐火も限界近い。多分鼻血くらい出ているはずだが、それもはっきりいって認識できていない。

 

高速で飛び交う攻撃予測。

 

それの全ての先を行き、相手に一切の攻撃を繰り出させない。

 

それをたとえ知られているとしても。

 

歩法の間合いに入り。

 

そして相手の練度を上回れば。

 

確実に勝てる。

 

それがこの奥義の恐ろしさだ。

 

師範は知っていたのだろう。どれだけの達人でも、ほんのわずかなミスで敗れるのが真剣勝負だと。

 

スポーツなどでも、世界大会などで優勝確実と言われていた人物が。わずかなミスから大崩れして、メダルすら取れないという事例は幾らでも存在している。

 

師範が作り出したこの奥義は。

 

そういった不安要素を徹底的に取り払うための奥義。

 

だが、燐火は今使っていて。

 

この限界も、見え始めていた。

 

「真似とは言え、ここまで食いつける! 次に戦うときは、負けはしないぞ!」

 

「……負けを認めるんですか」

 

「残念ながらそのようだ。 もっと技を試したかったが、次に会う事は無理だろう。 もしも次に根の国から出るときがあったら、この技を更に磨いてくるからな。 おまえの子孫か、あるいは技を受け継いだもの! それらと出会うことを楽しみにしているぞ!」

 

「こちらも楽しみにしています」

 

三度目の、強烈な全身の地面への打ち付け。

 

それで、亜眼は戦闘不能になっていた。

 

亜眼が満足そうに消えていく。

 

それで燐火も魔祓いして。

 

目がかすんで、膝を突いていた。

 

この奥義、消耗が激しすぎる。

 

師範ですら、恐らく使うときは最後の切り札と考えているはずだ。燐火は、星神との戦闘前に使ってしまった。

 

極めてまずい。もう余力はない。

 

呼吸を整えながら、星神を見て。

 

そして悟る。

 

負けだ。

 

日女さんとセバスティアンさんが、倒れている。

 

カトリイヌさんをかばって、若い方の護衛もやられたようだった。

 

エヴァンジェリンさんが、今木にたたきつけられて、意識を放り捨てた。星神は、ほとんど無傷である。

 

「亜眼と威眼は見事にやってくれた。 私の勝ちだ」

 

「……っ」

 

「逃げたらこの者達を殺す」

 

「万事休すか。 時間を稼いでくれた皆には、申し訳が立たんな」

 

ケルベロスが悔しそうに言う。

 

だが、その時。

 

側に降り立ったのは、イオラーオスさんだった。

 

「まだ私がいる」

 

「ヘラクレスの甥か。 狙撃に徹するだけではもう対応できないと判断して降りてきたか」

 

「その通りだ。 それに……」

 

燐火はもう立っているだけでやっとだ。

 

戦うどころじゃない。

 

イオラーオスさんが取り出したものを見て、星神がぎょっとする。

 

それは、ヒドラ毒の弓矢じゃない。多分、もっと面倒なものだ。

 

「おまえも無傷じゃない。 ならば、せめてここから撤退に追い込んでやろう」

 

「く、くくくっ! 面白い! そんなものまで再現できていたとはな!」

 

「叔父上はあのいけ好かないゼウスの息子だ! その係累である私には、これを一回だけなら放てると言うことだ!」

 

かあっと、星神が叫ぶ。

 

同時に、イオラーオスさんが、それを投げる。恐らく、実体化している自分の力の全てを使っての引き換えの投擲。

 

それは、ゼウスの代名詞。

 

雷霆こと、ケラウノス。勿論本物には遠く及ばないだろうが、ギリシャ神話の原初神であるカオスすら焼き滅ぼしたとも言われる、最強の武器の断片。

 

星神が焼かれる。

 

だが、星神に致命打は与えられない。

 

それに、星神は、最後の力を振り絞って、燐火に何かを投げつけてきた。それを、燐火はよけられなかった。

 

意識が消える。

 

ケルベロスが、おのれと叫ぶ。

 

それだけが、聞こえていた。







壮絶な痛み分け……

しかし星神は、燐火の対ダイモーン能力を奪うという戦略的課題を達成しました。

それは、燐火にとって致命的な打撃となったのです。



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