マジ女の生活が始まってから三週間が経った。なんとか、一年のチーム名とメンバー全員の名前を覚え。ヤンキー高校の生活にも慣れてきたと思った矢先、思わぬ事態に巻き込まれた。
マジ女に他校のヤンキー高校が押し入って来たのだ。
案の定、至るとこで激しい殴り合いが巻き起こる地獄絵図へ瞬く間に移り変わった。
いつものように登校していた健二は突然、巻き起こった喧嘩に巻き込まれないよう走っていたら、生存本能が働いたのか。オメガの時よりは劣るものの、超人的な脚力と身のこなしで走り抜け、一年の教室に滑り込んだ。
服についた埃を払い、教室で隠れそうな場所はないかと見たら。隅になる部分に机が密集しているのを見つけ。そこに隠れることで、なんとか難を逃れることに成功した。
それでも、壁一つ隔てた向こうではチームお好みのウテナが軽快なステップで相手を翻弄し、華麗にストレートパンチを決め。別の扉ではチームもんじゃのウーチンがアッパーを打ち込んで、軽快に消えて行く。
健二「この喧嘩、いつ終わるのかな」
見つからないよう身を縮こませていると、目の前にオジュケンが滑り込んできた。
健二「うあわぁぁ!!オジュケンさん!!大丈夫ですか?!」
オジュケン「うん!大丈夫、けど私喧嘩弱いから吹き飛ばされちゃった!」
慣れているのか、満面な笑みを浮かべて言う姿に健二は唖然としながらも、腕を持ち教室の隅に引っ張って行く。
オジュケン「健二君は大丈夫?殴られたりとかしてない」
健二「僕は大丈夫です。アマゾンだからなのか、飛んだり、跳ねたり、走ったりでなんとかここまで辿り着くことが出来ました」
オジュケン「緑色になった時みたいの出来るって、凄いじゃん!!」
喧騒の中でも、オジュケンは相変わらず満面な笑みを浮かべ、健二の両腕を掴み激しく振る。
一体、何が凄いのか分からず健二は分からぬまま苦笑いを浮かべ、揺れに体を任せる。
その時、男女の怒号が教室に轟いた。直ぐに女の方はイカノメだと分かり、健二とオジュケンは机から、ちょこんと頭を出す。
情けないがバットを握った男のヤンキー相手に、イカノメが対峙するのが見える。
「おらぁ!!」
男がバットを振り上げ、イカノメ目掛け振り下ろした。
バットをギリギリのところで躱し、イカノメは脇腹に鋭いボディーブローを打ち込むと、つかさず左腕を振りかぶり顔面に拳を叩き込んだ。
クリーンヒットに男は持っていたバットを床に落とし、そのまま力尽きた。
初めて会った時はスズメバチアマゾンに立ち向かい、無気力に吹き飛ばされる姿を見たが。喧嘩となったら一瞬で決着がつくイカノメの力に、健二は感嘆する。
心情に浸るまもなく、教室にヤンキー達とマジ女の生徒が流れ込んで来た。まだまだヤンキー高校の生活は慣れそうにないなと、健二はオジュケンと一緒に外へ飛び出す最中、思わされた。
波乱な一日を乗り越えた次の日。健二はヤンキーの全面抗争とは違う形で、絶体絶命の状況に陥っていた。
人気のない場所で、アスファルトの道の上を首に巻きついた触角に引っ張られ、引きちぎろうと両手に力を込める。
触角は頑丈で、もがくほど苦しくなり抵抗する力が失われていく。
あまりの息苦しさに、徐々に視界がぼやけ初め。ずっと引きづられているせいで摩擦熱だけが、一際感じるようになってきた。
それでも生存本能が働き、震える手でなんとか腰にアマゾンズドライバーを装着し、アクセラーグリップを捻る。
《オメガ》
健二「ぁぁぁぁぁあ!!アマゾン!!!」
腹の奥底から絞り出す咆哮に呼応するように、全身を緑色の炎に包み込んでいく。
首に巻きついていた触角が焼け落ち、体を回転させ体勢を整える。
降りるタイミングを見計らっていたように、触角を巻きつけ引っ張っていた存在が空から現れた。首から生えるマフラー状のオレンジ色の羽、ゴーグルのような目、こめかみから触角を生やした蝶アマンゾン。
健二は睨み据えながら低く腰を落とし、相手が動き出すよりも早く、蝶へ肉薄する。
健二「ぁぁぁぁあ!!!」
顔面目掛け膝蹴りを叩き込むと、間髪入れずに直上から脳天肘打ちを炸裂させる。
強烈な二撃に倒れ込むとマウントポジションを取り、拳を振るおうとした瞬間、視界に色鮮やかな鱗粉が舞った。直後、全身に鋭い痛みが駆け巡り、咄嗟に飛び退る。
今、受けた攻撃はスズメバチアマゾンの神経毒とは違う。悟った時には蝶は一気に距離を詰め、痛烈なボディーブローが突き刺さる。
そこから蝶は息をつく暇もなく、軽快な動きで的確に拳撃を繰り出し、健二を圧倒していく。
あまりの猛攻に健二がよろめくと、胸目掛け回し蹴りを一撃。
強靭な肉体で衝撃を散らせることで地面を踏み締め、受け止めていた。
健二「ウァァァァァア!!!」
完全に剥き出しになった本能に身を任せ。羽を掴むと力任せに蝶を持ち上げれば、膂力の全てを込めアスファルトの地面に叩きつけた。そのまま健二はアクセラーグリップを捻る。
《バイオレントパニッシュ!》
腕を振り上げ、振り下ろすと顔面に真っ黒な血が飛び散り、生暖かい感触が伝わってくる。が、徐々に蝶が液状化していくのに伴い、感触は消えていった。
仁「健二君、僕の予想を軽々超えてくるのは嬉しくて堪らないよ」
おぼつかない足取りで去っていく後ろ姿を、見届け。照り焼きバーガーにかぶりつく。
覚醒した頃は戦いにも不慣れで、アマゾンに圧倒されていた。
これが蝶アマゾンを含む六体のアマゾンを倒したことで、戦闘の土台が出来上がってきている。
出来上がった土台を更に上げるのに、どうすれば良いか。腰を落とし、地面に溜まった真っ黒な液体を、注射器型ユニットに入れながら考えていると、視界に地面から生える一輪の花が目に止まった。
最近、更に健二を強くする為に採取、培養した双源生細胞を体内に入れる計画を考えている。
有力候補の一人である、少女の姿が思い浮かぶ。
彼女は母を殺した罪で捕まった兄の弁護士費用を稼ぐ為、有り金全てを払うことで喧嘩を買っている。
喧嘩で見せる姿は可憐で、力強く、得意な回し蹴りをした時に見える百合の刺繍は、今見る花に重なるものがあった。
仁「百合の花がどう咲くのか、楽しみだな」
注射器型ユニットをポケットに入れ。明確なヴィジョンを実現する為、健二とは逆の方向を歩き出した。
雨が絶え間なく窓ガラスを激しく打ちつける音が、普段よりも明るい教室に響いている。
心なしか湿度が上がっているのを肌で感じながら、健二は外を見ていると校庭を挟んだ細い道を歩く、赤い傘が目に留まった
ただの赤い傘。けれど、妙に惹かれる存在を目で追っているとハンナマが隣に立った。
ハンナマ「なあ、健二。ずっと聞きたかったんだけどよ。何で、このマジ女に転校して来た、理由とか知ってるか?」
今更ながら当たり前の疑問を問われ、信一は口をへの字に吐息を漏らす。
初めて、マジ女に転校することになったと聞いたのは親からだった。
正直、その時から別の意味で嫌な予感しかせず。校門に立った時は、死刑台に立った気分だったのは記憶に新しい。
それから健二はオメガとなって、アマゾンと戦うことになったのだが。
スキナシ「もしかして、このマジ女を利用する為とかじゃねえのか?」
健二「どいうことですか?」
スキナシ「だってよ。この学校にそのアマゾンだっけが、三回も襲ってきてるのに。救急車は来たけど、警察とか消防は来ないだろ」
的を得た言葉に、健二の背筋がゾッとした。
前に仁は「これから、たっぷり実験体を倒して貰うんだから」と話していた。なら、これから起こること全てが外へ情報が流れない。例え、死人が出ても別の場所で事故に遭ったか、事件に巻き込まれたというだけで片付けられるだろう。
その時、廊下から幾重にも重なった怒号が聞こえてきて。教室にどよめきが走る。
CG「なんだ、なんだ?!」
ハンナマ「見に行くぞ!!」
全員が廊下に出るとチームお好みのメンバー、マジ女のヤンキー達が、一人の少女を中心に倒れていた。
その少女はマジ女とは違う制服を着ており。また、他校からの攻め込みかと、緊張感が支配する。
スキナシ「この数、あいつ一人でやったってことかよ」
底知れない強さを持つ存在を目にして、騒然としていると少女が振り向き。鋭い眼光で健二を見据え、口を開いた。
「あなたが杉山健二ですか?」
聞かれても健二は答えることが出来なかった。前に立つ少女は、これまで戦ってきたアマゾンと似てる気配を感じ取ったからだ。
沈黙をはいと捉えたのか、少女は左腕に腕輪を装着する。
それは赤と銀色を基調とした色合いで、カラスの顔を模したようなものになっている。
嘴を模したスイッチを押し込むとカラスの鳴き声が響けば、少女の双眸が黄色く輝き始めた。