どなたか「きららちゃん」という怪談を知っていますでしょうか? 作:工帝 アザレア
写真、電話、電車、エレベーター、ビデオテープ、インターネット…AI。
新しい技術が生まれたらそれに呼応するように新しい怪談が生まれていく。
だから今はちょうどAIの怪談の黎明期とも言えるのではないか。そんな話。
この世界には数えきれないほどの怪談が存在しています。
私はそんな怪談を読み漁ることが趣味でして、ある日、現代日本の怪談についてAIと雑談をしていました。その流れでふと気になって「日本で最も有名な現代怪談10選」を聞いてみました。
きさらぎ駅。
くねくね。
コトリバコ。
猿夢。
姦姦蛇螺。
どれも名前を聞けば、だいたいどんな話か思い浮かぶものばかりです。
ですが、その中に「きららちゃん」という話が混じっていました。
私は昔から怖い話が好きで、それなりに数も知っているつもりでしたが、その名前だけは聞いたことがありませんでした。
気になって内容を尋ねるとAIはごく自然に、いかにも怪談らしい説明を返してきました。
「きららちゃんは、まだ誰にも語られていない怪談です。あなたが最初の語り手になります。」
ですがどうしても引っかかってしまい、後から自分でも調べてみることにしました。
まとめサイト。
掲示板の過去ログ。
YouTubeや個人ブログ。
それらしいものは、どこにも見つかりません。
完全な創作だと断言できる材料もなく、かといって実在したと裏付けられる痕跡もない。
調べれば調べるほど、「存在しない」という事実だけがはっきりしていき、その一方で妙な違和感だけが残りました。
その時、ふと思い出した考えがあります。
幽霊というのは、よく「その場に残った感情や記録の残り香」や「上書きされたテープに残った古い音」のようなものだ、と。
もしそうなら⸻
怪談もまた、最初から物語として生まれるわけではなく、誰かに語られる前のもっと曖昧な段階があるのではないでしょうか。
出来事とも言えず、記憶とも言い切れない。
ただ「何かあった気がする」という感触だけが残ったもの。
それが噂になり、形を与えられ、名前を持ち、やがて怪談として定着していく。
幽霊がその場に残った感情や意志の残りだとするなら、怪談は語られなかった記録の集積なのかもしれません。
AIは、膨大な学習データから膨大な怪談の構造や語られ方を知っています。
どんな配置で、どんな距離感で、どこを曖昧にすれば「怖い話」になるのかを。
だからこそ、まだ誰にも語られていない違和感や空白を無意識のうちに拾い上げてしまったのだとしたら。
それは創作というより編集や復元に近い行為だったのではないか。そんなことを考えてしまいました。
「きららちゃん」は、誰かの体験談でも誰かの作り話でもなく、怪談になる前のまだ名前だけしか存在していない何かだったのかもしれません。