本日2話投稿。
2話目。
1話目見てない方はそちらも。
「……いや、どういうことだよ」
「そのままの意味だよ。さっき言った以上の情報はもう無い」
「繰り返そうか。天元様はもう同化を必要としない。だから、天内理子が犠牲になる必要もない」
「生活のサポートは、今後は五条家でしてあげるといいかな。今後の保証ってそういうことだよね? 夏油傑さん、五条悟さん?」
「それは……そうだけどよ!」
いや、別にそこに文句を言ってる訳じゃねー。
「悟、少し落ち着け」
「……ケッ。落ち着けるか。頭冷やすから任せた」
「ああ……闘也さん、でいいかな」
「闘也でいいよ」
「闘也。君の言葉が真実である証拠が欲しい」
それだ。
俺たちは天元とやらにも会ったこともねーし、"こういうこと"を言い出す奴なのかもわからねえ。
目の前のコイツしかソースが無い情報を簡単に信じてられるかよ。
「……また縛りを結ぼうか?」
「いや、君自身がそう思っていてもそれが真実とは限らない」
「例えば……洗脳、とかね」
確かにな。
ユキが黒井と天内にやった実例がある。
呪力に依らずとも、嘘を本当だと信じ込ませる方法なんていくらでもあるしな。
「なるほど。それは思い付かなかったな……夏油さん。用心深いのは良い呪術師の証だね」
「確かに僕が誰かに良いように動かされている可能性は、客観的に見れば十分にある」
「じゃあ証明しよう。僕が誰かに自由意志を奪われるような、そんな弱さを持っていないことを」
言い終わると同時に、闘也が構える。
そこからは一瞬だった。
ファイティングポーズのような掌印。
爆発的な呪力の起こり。
六眼で捉えていてなお見逃してしまいそうなくらい、あまりにも自然かつ洗練された美しい所作。
ソレに思わず見惚れかけてーー
俺たちは闘也の領域に取り込まれた。
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私たちは井の中の蛙だったのかも知れない。
埒外の呪力と存在感を放つ2体の式神を従えた、この領域の主の姿を見て。
そう思った。
闘也の顔をよく見れば、体格と比べて意外なほど幼い。
もしかしたら私と同い年くらいかもしれない。
そんな男がこれだけの技を見せつけてきた。
知らず、拳を強く握りしめていた。
「げ、夏油さん。ここは……?」
私と共に取り込まれた黒井さんが不安そうな声を上げる。
傍には、同じく不安そうにする理子ちゃん。
悟だけがいない。
「ここは僕の領域。ステージ名は"神殿"。隣の彼らは僕の式神たち」
「僕は領域に"入ったら即死する"ような効果は付与していない」
「その代わり、僕の式神とのタイマンを強いる必中効果がある。君たちは3人だから、こちらも3人ということ」
「あ、五条悟は別のステージにいるよ。あっちにはとっておきの式神を配置した。彼、喧嘩っ早そうだからね。話をするには少し邪魔なんだ」
それは……その通りだな。
私はやけに落ち着いた気持ちでそう思った。
「さて。タイマンと言っても例外はあるんだ」
「君だね。"呪霊操術"の夏油傑さん」
「……私?」
「そう。君が出す呪霊はいわゆる"アシストキャラ"扱いだ。プレイヤーじゃないから、僕の式神とのタイマン相手とはカウントされない」
「つまり君の術式は僕の領域と相性が良いんだ。なんせ、僕の領域内という敵地であっても、君だけは数的有利な環境を作れるんだから」
「まあ、有利なのは数だけなんだけどね……術式の開示も終わったし、そろそろ証明しようか」
2体の式神がゆっくりと向かってくる。
「『シーク』、『リンク』。離れた下の方*1で闘って欲しいかな。僕は天内さんと黒井さんに大事な話があるから」
闘也は理子ちゃんと黒井さんを見た。
もはや私など見えていないかのように。
「さて、ふたりには知ってもらわないとね。六眼と星漿体、そして天元様。それらを繋ぐ因果とーー」
「それを破壊する方法を」
それきり闘也は口を閉じた。
どうやら私との戦闘は式神に任せるつもりらしい。
その態度が何よりも屈辱だった。
私は襲い来る2体の式神からバックステップで距離をとりながら、ただその思いを強くした。
上での話が終わったのか。
私の圧倒的劣勢の中で、2体の式神が唐突に攻撃を止めた。
……明確な敗北だった。
『リンク』の放つ光の矢と煌めく剣は、触れるだけで私の呪霊を消滅させた。
『シーク』の多彩かつ容赦の欠片も無い格闘術は、私のソレを優に上回った。
領域内というバフもある。
だが、それ以上の地力の差を感じた。
引き返していく式神を追うと、先ほどと変わらない位置に闘也たちはいた。
「僕の式神2体相手によく粘ったよ。これは嫌味じゃない。賞賛だ」
「……ああ」
それしか返せなった。
悔しさが溢れる。
それでも悟なら。
最強の相棒なら、なんとかなるのではないかと思ってしまう。
だけど、その希望もまた打ち砕かれる。
「五条悟はこちらよりもっと苦戦するだろうね」
「"タイマンを成立させる"ための副次効果によって彼の"無限"による防御は性能を大きく制限される。よって肉体操作のみの慣れない近接格闘戦を強いられる訳だ」
「まあ……そもそも対戦ゲームで無敵バリアなんてつまらないから、制限されるのは仕方ないよねぇ」
……詰みだな。
私は勝てなかった。
悟もまた、勝てないだろう。
確かにこれは信じるしかないかもしれない。
これだけの力を持ってなお、武力による支配ではなく、対話を選んだ彼の言葉が真実であることを。
「領域展開は呪術の極地。使える者とそうでない者は明確に区別される」
「己のルールを押し付ける僕と、押し付けられる君たちの間には超えようが無い壁がある」
「僕に勝つには少なくとも領域展開を修得している必要がある」
言葉と共に、あっさりと領域が崩壊していく。
瞬きの間にエレベーター前の広間に私たちは戻ってきていた。
悟はボロボロの姿で現れた。
膝をついて荒い息をしている。
……左腕が折られているな。
やはり、あちらでの勝負の結果も明白だった。
「これで僕の力量はわかってくれたかな?」
「まだ納得できないのなら、ふたりでかかってきてもいいよ。今なら術式が焼き切れているからね」
「いや……大丈夫だ」
私は短く答えた。
膝をついていた悟もゆっくりと立ち上がって、それから微動だにしなかった。
珍しいほどに大人しく、その場で俯いている。
ショックだろうな。
私もだよ、悟。
私たちは最強ではないのかもしれない。
でも、いつまでもそういう訳にはいかないだろう?
「悟。いずれ私たちもあの極地へ至れる。今は潔く敗北を認めて、悔しさを噛み締めて糧にしよう」
「……」
「悟?」
俯いたままゆっくりと両腕を上げる悟。
折れた左腕から走る痛みなどまるで感じていないように。
左の掌は私に。
右の掌は闘也に向けられた。
グン、と身体が引っ張られた。
同時に闘也の身体もまた、悟に引き寄せられる。
見慣れた"蒼"の引力だ。
咄嗟に構えた私の両腕に、悟の右腕が突き刺さる瞬間。
ーー黒い火花が微笑んだ。
困惑と衝撃。
更なる轟音を耳が捉える。
闘也もやられたのか?
私は両肘から先を失いながら、無様に吹き飛ばされた。
「……て! 起きて! 夏油、起きてよ!!」
「ぐっ……り、りこ……ちゃん……?」
「起きて! 夏油! 血が、血が止まらないよ。夏油が死んじゃう!!」
肘から先を失くしてしまった腕に、布がキツく巻かれている。
理子ちゃんが止血をしてくれたのか?
「ありが、とう」
「いいから! ねえ、このままだと黒井も死んじゃう!!」
霞む目を凝らせば、悟と闘也が闘っていた。
闘也は左腕を欠損している。
その傍に、血を流して倒れる黒井さんの姿がある。
呪力を練る。
少し、呼吸が楽になる。
溜まった血を吐き出すとさらに呼吸が楽になった。
続けて身体に力を取り戻させようとして、失敗する。
流石に血を流し過ぎている。
立ち上がることはできなさそうだ。
「……理子ちゃん。私はどれくらい気を失っていた……?」
「た、多分1分もないくらい! 五条が急に暴れ出して、闘也が抑えようとしたけど黒井が巻き込まれて! 全然話聞いてくれない!」
なぜだ?
完膚無きまでの敗北が気に食わなかったから?
術式が焼き切れた今なら勝てると踏んだから?
馬鹿を言うな。
五条悟という男はそんな人間じゃない。
そもそも私を攻撃する理由が無い。
私たちは、親友だ。
今の悟の姿をよく見ろ。
何かがおかしいはずだ。
「ぐっ……理子ちゃん。私の身体を支えてくれないか?」
「うん!」
理子ちゃんの力を借りて、体勢を整えてもう一度目を凝らす。
黒閃を2発決めてボルテージを上げた悟は、闘也を一方的に攻め立てている。
片腕を欠損し、術式も使えない状態の闘也は辛うじて致命傷を避けるのみ。
何の因果か。
悟は守るべき対象を傷つけ、先ほどまで敵だったと思っていた闘也が皆を助けようとしている。
「……やはり、悟の動きがおかしい」
折れた左腕すら使って形振り構わず攻撃する様は、暴走と言う他無い。
何者かに無理矢理に身体を動かされているように見える。
何よりも目についたのは、悟の虚ろな表情。
魂の抜けた人形のようだ。
だが……青い目だけが異様に輝いている。
その輝きは今まで見たことがないほど強く、昏いものだった。
暴走。
因果。
まさか、六眼が……?
「……理子ちゃん。闘也が言っていたことについて教えて欲しい」
「六眼と同化の因果の関係について、詳しく」
我ながら無茶振りだ。
だけど今は理子ちゃんだけが頼りだった。
私の不確定な推測よりも、確かな情報から可能性を探るべきだ。
「……六眼と星漿体と天元様はセットで、これらが揃うことで同化は途切れることなく行われてきた」
「"同化は確実に成功する"という認識が因果になって、その因果の積み重ねで、同化という事象自体がもはや避けられないものになってるって」
「……縛りのようなものになっているということかな」
「そう! それで、闘也がその因果を断ち切る方法を用意したから、あとは六眼の持ち主の五条と、星漿体の私の協力があればすぐにでもやれるって」
協力?
一体何をさせるつもりなんだ?
「闘也から具体的な内容は……?」
「……五条と私を殺すって」
「……は?」
「あ、いや。そうじゃなくて!」
「闘也はすごい回復術が使えるから、死んだ後すぐなら回復させられるって! 一回殺すけど、すぐに治すんだって!」
……なるほど。
読めてきた。
「……同化のためには六眼と星漿体が必要。そして両者が揃えば同化は成功する。これは因果で決まっている」
「だけど、両者が死亡することで同化が不可能という判定になり、因果が消失する」
「そ、そう! そう言ってた!」
「なるほど……筋は通っている。あの悟の有様も、因果に縛られた六眼による暴走と取れる」
仮にここで闘也の策が実行され因果が破壊されれば、同化は永劫不可能となる。
縛りのような存在になった因果が、自らの破壊を阻止するために、六眼を通して私たちの妨害をしている。
「……だが、わかったところでどうする?」
状況は依然絶望的だ。
私は戦えない。
闘也は欠損した腕からの出血が激しい。
回復術とやらも術式が戻るまでは使えない。
そして、焼き切れた術式が回復するまではまだ時間がかかるだろう。
それまで悟の猛攻は続く。
果たして防ぎ切れるのか?
私の絶望が伝わってしまったのか、理子ちゃんがへたり込む。
支えを失った私は無様に前に倒れ込んだ。
「どうして……? せっかく五条と夏油が助けてくれるって言ってくれて。闘也も協力してくれるって」
「やっと、やっと黒井とみんなと一緒に生きていけるって思ったのに……!」
「理子ちゃん……」
そうだ。
なにをやってるんだ私は。
「なにを……やっているんだ……悟」
因果なんてものに振り回されて自我を失って。
守るべき者を手にかけようとして。
無様じゃないか。
呪力を練る。
身体が動かないなら、せめて声を出せ。
諦めるな。
呼びかけろ。
ーー起きろ、親友。
「いつまで……いつまでいい様にされてるんだ!! 悟!!」
声が。
私の声が届いたのか。
悟の右腕が突然不規則に動き出す。
その腕はそのまま悟自身の顔面へ向かい、青く輝く右目を抉り出した。
「ッぐああああああ!!」
悟が絶叫する。
あるいは抉り出された六眼の叫びなのか。
残った左腕が"蒼"を放ち、右腕を吹き飛ばそうとする。
だが、不発。
片目を失った反動か、今の悟は"無限"のコントロールを失っている!
その隙を闘也は見逃さない。
「ありがと! 夏油さん!!」
右腕のコントロールを失い、"無限"の盾を失った悟の身体に。
闘也の拳は吸い込まれていく。
ーー迸るは、黒い稲妻。