甚爾と闘也、最強のふたり   作:サイドベント

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悟と傑
謎の女ユキ


 

 

 

『もしもし、闘也くんかな』

 

『九十九さん。ちょうどよかった。頼みたいことがあって』

 

『ほお……私も同じことを言おうと思っていたよ。じゃあ、会って話をしようか。今どこにいるんだい?』

 

『僕は今ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

東京にいるよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2006年某日。

 

 

 

 

(さとる)、聞いているのか?」

 

「聞いてまーす」

 

 

嘘だけど。

 

夜蛾センは相変わらずこえー顔して教壇に立ってる。

教師じゃなくてプロレスラーに転向しろよ。

 

隣では(すぐる)が真面目な顔して座ってた。

 

 

「悟。先生がわざわざ僕たちを呼び出したんだ。その態度は失礼だよ」

 

「へいへい。悪うござんしたね」

 

「まったく……正直は美徳だけれど、悟のはあけすけすぎる。もう少し慎みを持つべきだ」

 

「謝ってんだろーが。説教なんてジジくせーのはやめろよ」

 

 

こいつは本当に頭硬くて嫌んなるね。

 

 

「二人とも黙れ……! 任務だ。天元様がお前たち二人をご指名だ」

 

 

へーへー。

天元か誰かしらねえけど。

 

とりあえず俺たちを指名したのはお目が高いってやつ?

 

そんで内容は……星漿体(せいしょうたい)の護衛ね。

 

 

「同化の期日は近い。星漿体の望みは全て叶えろ。二人とも……心してかかれよ」

 

「はい」

 

「りょーかい。ま、楽勝でしょ」

 

「悟……慢心するな」

 

 

夜蛾センはそう言って、一拍置いた。

 

なに?

まだなんかあんの?

 

 

「……追加情報だ」

 

「最近、日本に未登録の術師が不法入国している」

 

 

何それ。

呪詛師か?

 

にしては勿体つけた言い回しすんね。

 

傑が視線を上げた。

俺もちょっとだけ気になって耳を向ける。

 

 

「どうも禪院家が真っ先に動いているらしい。彼らが積極的に対応している動機は不明だが、各地の"窓"や呪術師へ情報提供の協力要請が出されていることは事実だ」

 

「禪院?」

 

 

傑が聞き返す。

 

天元サマとやらは知ってんのに、これは知らねーんだ?

 

 

「御三家だよ。ウチとすっげー仲が悪いとこ」

 

「へえ……」

 

「警戒対象の名は不明。主に国外で活動しているため術式も不明。『とにかく目立つ人物を見つけたら場所を教えろ』とのことだが……確かにこのタイミングでのこの動きは、私もキナ臭いと思う」

 

 

ふーん。

 

禪院家も暇なんだねぇ。

テキトーな指示でお茶濁すってか?

 

俺は欠伸を噛み殺す。

 

 

「つーかさ。呪詛師が不法入出国するのって当たり前じゃね?」

 

「だってアイツらお天道様に顔向けできねー生き方してんじゃん」

 

 

呪術師なんて万年人手不足だっつーのに。

わざわざ呪詛師なんかになって、好き好んで治安悪化させる。

 

そんなんだから奴らは大体指名手配されてる。

ま、そうそう捕まんねーけど。

 

万年人手不足だし。

だから呪詛師は基本野放し。

しかも海外なんて飛ばれた日にゃもう消息不明と同義。

 

だってのによ。

 

 

「なんでコイツだけ禪院のやつらは探し回ってんの? 夜蛾センもこんな曖昧でクソみてーな指示に従う必要なくね?」

 

 

夜蛾セン、歯切れ悪いぜ?

なーに隠してんだよ。

 

 

「お前たちの任務は非常に重大だ。この人物による任務への直接的な影響は今のところ無いが、警戒しておくに越したことはない」

 

「つまり?」

 

 

俺は椅子に深くもたれて言った。

 

 

「強いかもしれないし、弱いかもしれない。敵かもしれないし味方かもしれない。コイツについてなーんも分からねえってこと?」

 

 

夜蛾センは俺を睨む。

 

ハ、都合悪くなって機嫌悪くなっても無駄だぜ?

 

 

「……そういうことだ」

 

「へぇ。ロクな情報も与えられねーで対策だけはしろってか。夜蛾センも大変だねぇ」

 

「流石に要領を得ませんね……もう少し情報は無いんですか? 先生」

 

 

夜蛾センは少し考えたあと、話し出した。

 

 

「……信頼できる筋からの情報はある。悟。12年前の禪院家での騒動を覚えているな?」

 

「覚えてませーん」

 

 

お、青筋立ってらー。

血圧上げ過ぎると血管切れるよ?

 

 

「……12年前。当時の禪院家当主が失脚した。次期当主の座を巡った騒動を抑えきれず、多数の人員の負傷。併せて複数の呪具を喪失。これらの不始末の責任を取った形だ」

 

「すげえやらかしてんじゃん。まあそりゃあそうなるだろうよ……あ?」

 

 

呪具の喪失? 

破壊じゃなくて?

 

あー……もしかしてそういうこと?

 

火事場泥棒がいるのか。

そもそも騒動自体が仕組まれたものだったとか。

 

あやしー。

だから禪院のやつら血眼になってんのか。

 

 

「気付いたか。この騒動の下手人は他にいる。そしてそれが今回の不明な人物である……という噂が流れている」

 

「ということは警戒対象は禪院家に所縁のある者。しかも御三家の一角を相手取れるほどの力の持ち主ということですね」

 

 

傑のわかりやすーい補足に、夜蛾センは満足そうに頷く。

 

そのまま夜蛾センのありがたい話が続くが、耳を通り抜けていく。

 

記憶の片隅に引っかかるものがある。

なんか聞いたことあったような……俺と同い年くらいの神童が禪院にいたとかなんとか。

 

俺に嫉妬した禪院のやつらの負け惜しみかなんかだと思ってたけど、もしかして実在したのか?

 

 

「だとしても……自分ちで暴れて呪具盗んで家出とか、頭おかしいんじゃねえの?」

 

 

禪院に、御三家に生まれながら家を捨てた術師か。

 

まあ呪術師やめて呪詛師になるやつなんて珍しくもないけど。

 

……はずなんだけど。

 

 

「悟」

 

「なに? 夜蛾セン。聞いてるよ」

 

 

これは本当。

 

別に何も感じてない。

ただの噂話だし。

 

任務には関係ない。

関係ないはず。

 

 

「よし。では……五条悟、夏油傑。二名はこれより任務にかかれ」

 

「解散!!」

 

 

俺は立ち上がって、肩を回す。

 

 

「星漿体の護衛。ついでに不確定要素の警戒。がんばりまーす」

 

 

傑が苦笑した。

 

 

「悟。相変わらず雑だな。星漿体の要望にはちゃんと応えるんだよ?」

 

「あー……めんどいけど大丈夫っしょ。俺とお前がいるし」

 

 

だって俺たち最強だし。

 

 

それで全部終わる話――

 

 

そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なに?

この状況。

 

 

「見ろ! 黒井! 妾の膝の上でモフモフが寝ておる! モッフモフじゃぞ!!」

 

「お嬢様、わかりますよ。私も先ほど堪能いたしました。もふもふ、です」

 

『……ピカ? ピッピカチュウ!!』

 

「あ、起きちゃった」

 

「大丈夫だよ。その式神……『ピカチュウ』はおとなしいからね。そのまま可愛がってあげてくれて構わないよ』

 

「なんと利口な!! よーしよしよし……妾の撫でくりまわしを喰らうがよい!!」

 

「ああ! お嬢様……なんて羨ましい!!」

 

『チャア〜』

 

 

ワイワイガヤガヤ。

姦しいったらありゃしねえ。

 

これ、護衛任務だよな?

 

 

「傑。俺たちピクニックに来たんだっけ?」

 

「悟。私たちは護衛任務に来たんだ。間違いないよ」

 

 

だよな。

なに?

このキラキラ空間。

 

 

「よーしよしよし……やや! 侵入者じゃ! ユキ、やれい!!」

 

「お嬢様、ダメですよ。よく見てください。きっと高専の護衛の方達です。白髪の美形と塩顔の美形ですよ」

 

「おお、確かに。しかし変な前髪の護衛がいるとは聞いておらんぞ! 怪しくないかの?」

 

 

フハッ。

変な前髪ね。

 

 

「悟。やっぱりここに護衛対象はいなかったみたいだね。全員片付けようか」

 

「傑。お前ディスられてやんのー」

 

 

あーウケる。

 

ま、笑えねえけど。

 

部屋にいるのは護衛対象とその世話人。

写真通りだな。

 

んで、もう一人。

コイツ誰だ?

 

金髪グラサン長身の女……に見せかけたナニカだな。

つーか俺たちよりもでけーし、違和感マシマシ。

 

複数の呪力が混ざり合ってんのか?

体の表面がそれで覆われてて見にくいったらありゃしねえ。

 

察するに、外見を書き換える類の呪具使ってんな。

しかも撹乱機能付きとか結構貴重なやつなんじゃねーの?

 

式神遣い……かもわかんねえな。

あの式神、自分で呪力持ってるタイプだ。

ブラフを警戒っと。

 

あとはあの呪力量の多さも自前か。

呪力コントロールも精密だ。

 

結構強いかもしれねえな。

俺たちには及ばねーけど。

 

ボソッと隣の傑に伝える。

 

 

「傑、アイツ見た目と中身が違うぞ。気ぃつけろ」

 

「了解だ」

 

 

内緒話を終えた俺たちはのしのしと室内に入る。

 

 

「ゴホン。えー、理子ちゃん。そちらの方はどなたかな? 私たち以外に護衛がいるとは聞いていないけど」

 

「護衛、追加じゃ!」

 

 

天内理子が胸を張って宣言した。

 

何言ってんのコイツ。

 

 

「このユキとかいう淑女、なかなか頼りになる! さっきの呪詛師集団Qとかいう、名前が無駄に言い難くて怪しい連中も一瞬で片付けおったしな!」

 

「私も感服いたしました」

 

「まあ、朝飯前だね」

 

 

ユキとやらはニコッと笑った。

うさんくせーよ。

 

 

「文句は無いようじゃな! ユキも妾の護衛に加わるのじゃ!」

 

 

……あーあ。

一応聞いとくか。

 

俺は軽く手を挙げた。

 

 

「こいつの身元とか、所属とか、そういうの調べ――」

 

「いいではないか!」

 

 

被せてきた。

うるせえな。

 

 

「強い! 優しい! 美人! えーっと……そう! ピカチュウに好かれておる! 完璧じゃ!」

 

『ピカチュウ!』

 

 

そのピカチュウってのはなんなんだよ。

ネズミか?

ネズミにしてはでけえな。

 

なんなんだこの生き物。

式神は現実の生き物を象るのが基本だろ。

 

傑が俺の方をちらっと見て、ため息をつく。

 

 

「……星漿体の意思は最優先、だね」

 

「あー、めんど」

 

 

頭痛してきた。

 

ユキとやらが笑顔で近付いてくる。

うさんくせーからやめろその顔。

 

 

「というわけで護衛のユキだ。よろしく。高専の最強コンビ」

 

「うわ、知ってんだ」

 

「有名だからね。ま、あとで色々話そう。私の正体も含めて、ね」

 

 

んだこの余裕。

……気に食わねえ。

 

 

「――あっ!!」

 

「学校じゃ!!」

 

「……は?」

 

「妾、今日普通に授業がある日だった!!」

 

 

黒井さんが青ざめる。

 

 

「お、お嬢様……! もうこんな時間です!!」

 

「やばい! 遅刻じゃ!!」

 

『ピカピカ!!』

 

 

ドタバタが始まった。

 

まーた置いてけぼり。

俺たちもう要らないんじゃねーの?

 

 

「じゃあ行くぞ黒井! ユキ! えーっと……」

 

「五条悟」

 

「夏油傑だよ。よろしくね理子ちゃん」

 

「行くぞ黒井! ユキ! ゴジョー! ゲトー!」

 

「了解。私は車を回してくるよ」

 

「へいへい」

 

「了解しました」

 

「ユキさん。ダメですよ。私が回します」

 

 

そのままなし崩し的に移動決定と。

 

ま、車移動は都合が良いな。

車内で強制インタビューの始まりだ。

 

人数が増えたせいでちょっと狭いのは嫌だけどよ。

 

 

「そんで何もんなんだよオマエ」

 

『ピカピカ! ピカチュウ!』

 

 

いやお前じゃねーよ。

 

 

「ユキだ。諸事情あってフルネームは名乗れないけど、味方だよ」

 

「そのルパンみたいな変装キット。禪院から盗ってきたのか?」

 

「そうだよ。これがなかなか便利なんだ」

 

「おい、天内。こいつお尋ね者だぞ。窃盗犯だ」

 

「ええ!? そうなのかユキ!?」

 

「冗談だよ。アイスブレイクってやつさ」

 

「なーんじゃ。冗談ならよい!」

 

 

いや何を堂々としてんだこいつ。

 

 

「急いては事を仕損じる、だよ。五条くん」

 

 

声のボリュームを落としてユキは言う。

 

 

「最強なんだろう? いざとなれば君たち二人で私を取り抑えればいい。それだけの力はあるはずだ」

 

 

かーっ。

余裕アピールに余念がねえな。

 

俺たちなんて屁でもねえってか?

 

そんなこんなでのらりくらりと躱されて、とうとう目的地に着いちまった。

 

車を降りて校門に徒歩で向かう途中、俺は空を見上げた。

 

雲ひとつない、クソ平和な青空。

 

 

「……やる気出ねえ」

 

「悟?」

 

「なんでもない」

 

 

ただの護衛任務。

そのはずだったのによ。

 

なんかすっげー面倒な予感だけはやけにハッキリしてた。

 

 

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