『初めまして。禪院甚爾』
『……その名前は捨てた。今はただの甚爾だ』
『これは失礼。大事な用があってね。近日中に会えないかな?』
『……ガキが喜ぶ土産を持ってこい。話くらいは聞くかもしれねえ』
護衛任務が始まってから数時間。
校内巡回しててもなーんも起きねえ。
良いことだけどよ。
傑の呪霊も元気にその辺を監視中。
学校の外周を張ってる黒井とユキの方も異常無し。
『宗教上の理由で校内には入れないんでね。丁度いいし黒井さんと周囲の守りを固めておくよ』
『お嬢様の警護はお任せしますね、お二方!』
なーんか都合よくめんどくさいこと押し付けられた気がすんな……今更だけど。
んで。
そのまま昼メシの時間になって天内と合流した。
良い天気の下。
中庭でお弁当広げて、マジでピクニックだぜ。
ギャラリーがちょっと多いけどな。
「ねえ、あの人たち誰?」
「天内さんの従兄弟とか?」
「彼氏かもよ?」
「えー、どっちだと思う?」
「おにーさーん! サングラス取ってー!!」
「ちょっと! 声が大きいって」
サングラスを外して流し目をくれてやる。
「「「「キャー!!! イケメン!!!」」」
「悟……あまり調子に乗らないように」
「変な前髪してボンタン履いてイキってるお前が言うことかよ」
「……任務が終わったら久しぶりに本気の組手でもしようか?」
「おお、構ってやるぜ」
「ぐぬぬ……ゴジョー、ゲトー。お主らもっと忍べんのか? 目立ちすぎじゃ。先生にバレたらどうするんじゃ」
なんでコイツこんな声小せえんだ?
恥ずかしがってんのか?
「しょーがねーよ。むしろ護衛がいるってアピールした方が安全だろ。なんなら午後の授業も教室の後ろに立っていたいくらいだぜ」
「授業参観か!! 絶対やめるんじゃぞ!? あっ……やめてよね!!」
「へいへい」
「……二人はご飯、食べないの?」
「食べないのじゃ。任務が優先なのじゃ」
「昼飯抜きくらい慣れてるのじゃ」
「弄らないでよ! 学校では普通の話し方なの!」
なるへそ。
それで声ちっちゃくしてたってやつか。
ガキの情緒はめんどくせーな。
「ま、気にすんな。マジで慣れてっから」
「それより友達とご飯を一緒に食べなくても良いのかい? 私たちのことはカカシか何かだと思ってくれたらいい」
「え……いいの?」
「飯の交換はナシな。毒入ってるかもしれねえし」
「……うん! みんな! 一緒に食べよ!!」
「「「いいの!? はーい!!!」」」
ワイワイガヤガヤ。
朝の5倍姦しい。
「悟。しかめっ面しない」
「これがデフォルトだ。ゲトー・変な前髪・スグルさんよ」
「私に変なミドルネームを付けるな……悟。外周担当の黒井さんとユキさんからメールだ。『襲撃者2。雑魚。片付けた』だって」
「あ? やっぱり襲撃されてんじゃねえか。Qなのか盤星教なのか知らねーけど、流石に午後の授業はパスだろ」
「……しょうがないか。二人につけた私の呪霊の位置からして、二人とも校門付近にいる。理子ちゃんを連れてそちらに合流しよう」
傑が天内に声を掛けようとする。
ま、しゃーねーよな。
こうも露骨に襲撃されたんじゃ、流石に高専結界に籠るしかねぇよ。
最初からそうするべきだったっつーのは……今更か。
ガキのワガママに付き合うのも疲れるぜ。
「理子ちゃ……ッ悟!!」
なんだよ?
いや、傑のこの感じ……敵の増援か。
「外の二人につけた呪霊が祓われた。同時にだ」
「マジかよ。おら、行くぞ天内!!」
「あっ……ちょっ……!」
「みんなごめんね! 天内さんは急用で早退だ!!」
人垣を一気に突破して駆ける。
「ねえ! いきなりなんで!?」
「敵襲! あとは察しろ! 傑! 俺ぁ天内守るから先行しろ!」
「了解!」
こっちの守りが硬えからあっちをってか?
天内を抱えたまま、傑について全力で校門方向へ。
「すまない悟! 襲撃者の優先度を見誤った!」
「気にすんな。余裕たっぷりの癖にしくじったユキも悪い。それより他の呪霊は?」
「異常無しだ! 2、3体を先行させつつ、他は引き続き周囲を見張らせる!」
おっけー。
他は何も起きてないってことは、たまたまカチ合ったんじゃなくてガチで黒井とユキ狙いってことね。
一番可能性があるのは陽動。
でもそれは傑の呪霊でカバーできる。
あいつらが消されない限り後ろは気にしなくてOK。
次点で黒井と天内で人質交換か?
応じる訳ねーけど。
……傑だけこのまま行かせて、俺は天内抱えて高専に直行するか?
いや……それが狙いかもしれねえ。
これ以上の分断は避けてえな。
いや待て。
前提が違う。
俺たちは襲撃者なんて見てない。
メールで報告を受けただけ。
傑の呪霊は
その時その場所に間違いなくいたのは?
黒井と……ユキ。
『宗教上の理由で校内には入れないんでね。丁度いいし黒井さんと周囲の守りを固めておくよ』
宗教。
天内理子を狙う勢力は二つ。
呪詛師集団Q。
そして……
ユキ?
お前、もしかして……最初から黒井を人質にする目的で?
そのためにあんな風に仲良しこよししてたってのか?
思えば最初から怪しさ満点だったもんな。
お望み通り、取り押さえてふんじばって洗いざらい吐かせてやるよ!
「悟! 集中しろ! 事情は着いてから詰めればいい!」
「わーってるよ! 傑ももっと脚動かせ!!」
「ど、どうしよう……黒井が! 黒井が……攫われた……!」
校門前に到着してすぐ。
天内理子の携帯電話が震えて、後はもうご覧の有り様だ。
天内理子の携帯電話へと送り付けられたメールには、縛り付けられた黒井の写真が添付されていた。
ご丁寧に監禁場所の住所まで添えてだ。
沖縄ね。
随分遠いこって。
こっちへおいでってか?
攫ってから10分も経ってない。
犯人だって向かっている最中だろうに、何のつもりだ?
今すぐそこまで飛べば先回りできるんじゃねーのか?
なーんて……ちょっと熱くなった頭を冷めさせる。
挑発に乗るな。
冷静になれよ。
護衛対象の天内はまだこっちの手の中にある。
状況はどっこも不利になっちゃいない。
それはそれとして……舐めやがって。
俺たちは頭を冷やしがてら、適当な路地裏に身を隠した。
「嫌な予想的中。天内と人質交換する気満々じゃねえか」
「理子ちゃん、こうなったら黒井さんは私たちに任せて。君は今すぐ高専結界内に入るべきだ。すぐに追加の人員を呼ぶ」
「傑。目的忘れんな」
「……私たちの目的は護衛。天元様の下へ理子ちゃんを送り届けること」
わかってんじゃねえか。
傑、俺よりよっぽど熱くなってやがったな?
「そゆこと。まずは俺たちで天内を高専結界内まで連れて行こう。交換に応じないってなりゃ、あちらさんもなりふり構わず天内を奪りにくるだろうしな」
俺は校門前の光景を思い出す。
そこには何も残っていなかった。
「見たろ傑。残穢すら見つけられなかった」
「そうだね。術師としてのレベルが高いほど、後始末の技量も必然的に高くなる」
「ああ。んで……このレベルの手合い相手に、道中で俺たちがいないのはマズイ」
「確かに私たちは理子ちゃんから離れるわけにはいかない……だけど黒井さんは……「黒井は!!」」
傑の声を遮って天内が叫ぶ。
「黒井は……私の家族なの。結界に入ったらもう、会えない。まだ……まだお別れも言ってないのに!!」
ボロボロと涙を流す天内。
「はー……天内。お前さ……「悟」」
なんだよ傑。
「私たちの任務は、理子ちゃんを天元様の下へ送り届けること。そして……理子ちゃんの望みは全て叶えること、だ」
「あー……そんなんあったな」
めんどくせー。
マジでめんどくせえ。
頭をガシガシと掻く。
んだよ、あのまま熱くなってた方がやりやすかったじゃねえか。
傑のヤツ、痛いとこ突きやがって。
「天内」
「……うん」
「黒井を助ける」
「……ッ!!」
「んで、俺たちについてくるってんなら……途中でビビって帰りたくなっても、シカトして最後まで付き合わせるから」
「うん!」
へーへー。
元気がよろしいことで。
「よし、話は決まったね。それじゃあ早速空港へ移動しよう」
「そーだな。なあ、天内。歩きながらでいいから、ユキについて知ってること教えろよ。なんか役に立つだろ」
天内は少し考えた後、ポツリとこぼした。
「ユキさんは……昨日黒井が連れて来たばっかりだから、あまり知らない」
「あ? それであんなに仲良ししてたのかよ。おかしくねえか?」
「だって、
違和感。
こんな反応するやつだったか?
俺は傑を見る。
傑も俺を見て、意味深に頷いた。
「天内。ちょっと動くな」
グラサンを外して六眼で直に天内を見る。
多分、脳みそのあたりだな。
ぐ……集中し過ぎてちょっと頭いてー。
でもやめねえ。
じっくりと眺めていくと……見つけた。
僅かに混ざる、天内とは違う呪力。
うし。
覚えた。
「悟。どうだ? ちなみに私はどうだ?」
「んー……洗脳。いや、催眠術か? 前見たことあるやつに似てる。断定はできねーけどな。お前は……うん、大丈夫だ」
「ならよかった。作用の内容はわかりそうかい?」
「思考を固定化する感じだ。すげー単純だし。残留呪力も少ないしこの分だと2時間もすれば解けるんじゃねーの?」
「そうか。なら経過観察のために尚更同行するべきだね。理子ちゃん」
「な、なに……?」
「確認だけど、黒井さんに最近変わったことはなかったかい?」
「いや……ない、と思う。ユキさんを連れてきたくらい」
「ありがとう。じゃあ、もっと身を隠せるところに移動してから、すぐに航空券の用意をしよう」
傑は言わねーけど、まだ黒井の術式ってセンもあるからな。
持ってないっつー話だけど、この状況じゃ全てを疑った方がいい。
ま、十中八九ユキの術式だけど。
黒井の脳みそ覗いて同じ呪力が残ってりゃそれで終わる話だしな。
それにしても……やっぱり式神はブラフかよ。
手慣れてんな。
残穢のことといい、術式といい。
正面から来ない手合いってのは厄介だ。
気ぃ引き締めねえとな。
俺はどんよりとした曇り空を見上げて、そう思った。