甚爾と闘也、最強のふたり   作:サイドベント

6 / 10
必要悪、病み期

 

 

 

なにかふわふわするような……?

 

 

「黒井さん、おはよう」

 

 

あれ、誰でしょうか。

 

すごく大きい男性ですね。

隣にももうひとり。

 

いや。

人……?

 

二足歩行。

だけど長い尻尾、鋭い目つき、三本指の手……?

 

目が怪しく光ってーー

 

 

「黒井さん。命令だ。"質問に対してあなたは嘘をつくことはできない。あなたの知っている限りのことを話す"……いいね?」

 

「……はい」

 

「いやあ、お恥ずかしながら実家にいた頃は、自分のことばかりで他のことは不勉強でね。今から基礎的なことも聞くけど、さっきの命令通りに答えてね」

 

「わかりました」

 

「よし。どうして天内理子が星漿体に選ばれたか知ってる?」

 

「基準については存じておりません。ただ、お嬢様は当代の複数の候補者から、最も素質がある者として選定されたと聞いております」

 

「じゃあ、もし天内理子になにかあって同化できなかった場合、違う候補者が同化対象に選ばれるの?」

 

「確証はありませんが、そうなるかと。同化は確実に行われなければなりません。ただ、私の知る限り星漿体と天元様の同化は失敗したことがありません」

 

「どうして失敗しないの? 嫌なこと言うけど、天内理子を殺して同化を阻止することはそこまで難しいとは感じないんだ。僕でも、僕でなくてもね」

 

「なぜと言われると答えに窮しますが……伝承があります」

 

「星漿体と天元様、そして六眼は特別な因果で結ばれていて、この三者が揃えば必ず同化は成し遂げられると」

 

「私もあの青い目をした五条悟様が現れた際に、やはりお嬢様の元へ六眼が現れるのだと強く実感しました」

 

「なるほどね。六眼の持ち主が守護者なのか。まあそれでも別に難しくはないけど……いや、もしかして六眼もスペアがいるとか? 倒しても無限湧き? それなら確かに面倒だな……」

 

「あー、これこそ実家の文献に載ってそうじゃないか。もっと読んでおけばよかった……」

 

「……」

 

「おっと、ごめんごめん。続けようか」

 

「例えばあまり素質がない人間と同化した場合、50年しかもたないけど一時凌ぎにはなる、なんてことはない?」

 

「思いつきもしませんでした。私の知る限りでは、同化は500年に一度。そして星漿体は同化一回につき一人です」

 

「試したことは無いか、あるいはダメだったか。ふーん……同化した人間が、その後に分裂するなりして戻ってくることはある?」

 

「ありません。文字通り天元様と同一の存在となり、永遠に生き続けることになります」

 

「肉体の乗っ取りじゃなくて融合に近いんだね。じゃあ何回も同化するうちに、色んな人の人格が混ざって"本来の天元"と別人になってしまうことはないの?」

 

「それも存じておりません。ただ、私の知る限り2回の同化が行われましたが、天元様はそれまでと変わらずこの国の呪術的基盤として存在してくださっております」

 

「少なくとも2回同化した程度じゃ、天元さんの自我は揺らいでないってことか……すごいなぁ。本当に人間なのかな。いい意味でだけどね」

 

「……」

 

「じゃあ最後に聞くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天内理子が天元さんと同化して、もう戻れなくなることについて、どう思う?」

 

「私はーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……い! く……! くろい……!」

 

「黒井!!」

 

「……え……? おじょう、さま……?」

 

「黒井!! 私だよ!! 無事でよかった……!」

 

 

天内に抱かれて黒井が困惑してる。

感動の再会ってやつだけど……はい、どいたどいた。

 

 

「ちょーっと動かないでー」

 

 

グラサン外して観察。

 

はい、脳みそに天内のと同じ呪力の残留を確認。

 

だいぶ多いな……ユキのやつ、俺たちが来る直前までなんかやってたな?

 

 

「傑。黒井はシロ。けど何が仕込まれてるかわかんねーから、丸一日は目を離せねえな」

 

「そうか。作用は理子ちゃんにかけられたものと同じでいいのかい?」

 

「ああ。同じだ。思考の固定化。『飛行機に乗ったら暴れる』みてーな暗示だったら厄介だな」

 

「確かに……尚更私たちが見張っていないとだね」

 

「おう」

 

 

ま、ここまでコソコソやってくるくらいだ。

 

ユキは俺たち相手に正面切って仕掛けてくる自信は無えってこと。

 

俺の目は誤魔化せねえから、黒井の残留呪力以外には他に仕掛けも無い。

沖縄滞在は必然ってやつ。

 

 

あとはーー路地裏で見た天内の涙。

 

 

しょうがねえよなぁ。

ガキのワガママを聞くのはめんどくせーけど、それが任務だし。

 

 

「天内! 明日の夜までこっちに全員で待機な」

 

「え、いいの……?」

 

「空港は増援に見張らせてるし、元より本州より術師の数は少ないから、下手に移動するより安全だろ。なあ、傑?」

 

「そうだね。周囲の警戒は私たちに任せて、理子ちゃんは黒井さんとのんびり過ごすといい」

 

「……ありがとう!」

 

「ありがとうございます!」

 

「おう」

 

 

明日の夜の便で帰れば、同化期限の満月の夜までまだ丸一日ある。

 

そんで高専結界に入っちまえばもう誰も手は出せねえ。

たった1日の徹夜なら、術式の行使になんの支障も無えしな。

 

要するに明日は丸一日暇。

 

つーわけでーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「めんそーれ!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

「よお、久しぶりだな闘也」

 

「うん。久しぶり。甚爾兄ちゃん」

 

 

めんどくせー女の相手をした後。

久しぶりに会った歳の離れた弟が、なんか小さくなってやがった。

 

いや、背は伸びている。

だけどよ。

なんか背中が煤けてやがんだよな。

 

挨拶の声も小せえし。

俺の弟こんなんだったか?

 

 

「……でさ」

 

「ああ」

 

「僕、どう生きたらいいんだろうなって」

 

「……?」

 

「死んでなければどんなに重症でも助けられるし、明日死んじゃうような病気だって治せる。僕にはそういう力がある」

 

「良いことじゃねーか。俺の妻もそれで助かった」

 

「嬉しいよ。この力を持って生まれて良かったって本気で思った。自分の術式が人の役に立つことが素直に嬉しかった」

 

 

んで。

今はそうじゃないってか。

 

顔が死んでるぜ。

 

俺と一緒にセフィロス相手にした時の、あのワクワクが止まらねえって顔したやつと同じ人間とは思えねえな。

 

 

「セフィロスを調伏した後、世界を放浪してみたんだけどさ。呪霊、海外には全然いないんだよね」

 

「らしいな。理屈は知らねえが、この国ほど呪霊が沸く場所は無いらしい」

 

「何が違うのか気になって。日本を覆ってる天元さんの結界が悪いのかな? とか思ってさ。色々調べたんだよ」

 

 

へえ。

考えたこともなかったな。

 

 

「結局わかんなかったけどね。だから次は五条悟に会ってみた。本人に興味もあるけど、天元さんのことも知りたくてさ。ちょっと良くない方法で情報を集めたんだ。あ、別に興味本位ってだけじゃないよ? 必要悪っていうか……僕が泥を被れば多くの人が救われるならそれでいいかなって思ってさ。人の感情を優先して大人数が死ぬとか馬鹿みたいじゃない? それで、六眼と星漿体も深い関係にあるっぽいことがわかってーー」

 

 

懐かしいなこの感じ。

こっちから切り上げてやんねえと止まんねえんだよなコイツ。

 

 

「五条ってーと……あの六眼と無下限術式のガキか。最強だかなんだかってやつ。そんなのもいたな」

 

「そう、その人。それで色々とわかってきたら……逆にどうしていいかわかんなくなっちゃってさ」

 

「……難しく考え過ぎだろ」

 

「そうかもしれない。でもさ、僕なら何とかできるんじゃないかなって思うと、どうしてもね……ただ、下手に手を出すと被害が拡大するっぽいのがわかっちゃってさ。笑えるよね。大義を語ってみたけど、僕っていざ人の情を見ちゃうと尻込みしちゃうんだなって。でも知った上で放置するのもなぁってなって……わかんなくなっちゃったんだ」

 

「あー……なるほどね。わかったよ」

 

 

一瞬。

風を切る音。

 

 

「――ッ」

 

 

首元。

手刀が数ミリ入った。

 

闘也の手が俺の腕を捉えている。

ま、ギリ間に合ったってとこかな。

 

だが。

これで終わりじゃねえってのもわかるよな?

 

 

「おらよ」

 

 

そのまま力を入れれば、少しずつ首に食い込んでいく。

 

それを見る闘也の目はーー

 

爛々と輝き始めていた。

 

なんだ。

完全に腑抜けた訳じゃねえんだな。

 

んじゃ、やめだ。

 

 

「あれ、やめちゃうんだ」

 

「ああ。なんか勘違いしてたみたいだったからな。頭が回るのは構わねえけどよ」

 

 

「考えて動いてたら死ぬぜ」

 

「それとな。別にお前、普通に殺せるぞ」

 

 

闘也は目を瞬く。

 

 

「……そうだね」

 

「天元っつーのはあれだろ? 不死の術式を持ってるってやつ。そいつに感化されたのかは知らねえけどよ」

 

「目の前のこと見逃して、遠くのこと見て楽しいか?」

 

「……楽しくはないかな」

 

「だろうな」

 

 

俺は手を下ろした。

 

 

「お前、自分を神様かなんかかと思ってんのか?」

 

「……」

 

「世界を救える力がある? だから救わなきゃいけない?」

 

「馬鹿言え」

 

 

鼻で笑う。

 

 

「俺だってな……その気になりゃ、そこらの一般人の一人二人、欠伸しながら毎日助けるくらいはできる」

 

「でもやらねえ。罪悪感もねえ」

 

「俺の中で優先順位が低いからだ。俺はやりたくないことはやらねえ」

 

「お前は"できること"を基準に考えてるけどよ。やりてえことで決めればいいんじゃねえのか」

 

「それは……うん、そうだね」

 

「なあ闘也」

 

「うん」

 

「五条悟を見て、どう思ったよ」

 

「……なんか普通に青春してて、想像と違った」

 

 

お?

なんだ、僻みか?

 

そういやこいつ、同い年の友達とか全然いなさそうだしな。

 

妙に元気ねえのもそれのせいだろ。

友達いなくて病んでただけじゃねえか?

 

俺は思わずニヤッと笑って言った。

 

 

「じゃあよ……六眼と無下限術式の抱き合わせを見てどう思った?」

 

「……」

 

 

しばらく沈黙。

 

 

「……ただ領域展開してボコるだけじゃつまらないよなって。あの無限のバリアって普通に可視光は通るっぽくてさ。じゃあ光属性の攻撃なら通るのかな、とか」

 

「……は?」

 

「雷で周囲の酸素濃度を変化させたら倒せるかもとか……ちょっとワクワクした」

 

「ハッ……それだよ」

 

 

結局俺たちはシンプルなんだ。

持って生まれた力を振るいたい。

強いやつをぶっ飛ばしたい。

 

そういう野蛮な生き方の方が合ってんだ。

 

ま、俺はもうそういうのいいんだが……コイツはまだ若えしな。

 

まだまだ暴れたい盛りなんだろうよ。

 

 

「ぶん殴ってこいよ。五条悟も、天元も。そんでスッキリしたら、難しいことはその後で考えりゃいい」

 

 

闘也が少しだけ笑った。

 

 

「……相変わらずだね、甚爾兄ちゃん。やっぱり強いや」

 

「ハッ……鈍感なだけだよ。オマエが繊細すぎるだけだ」

 

「そうだね。なーんか病んでたっぽい。よし! ちょっと発散してくるよ!」

 

「ああ。青春の邪魔、してこい」

 

「アハハ!! 行ってくる!!」

 

 

まったく。

世話の焼ける弟だ。

 

 

 

 










※天内理子は原作より早めに高専に到着する。


・原作:同化期日二日前に任務開始→その日のうちに黒井沖縄拉致&奪還→翌日〜翌々日朝(同化当日)まで沖縄滞在→同化当日の日中に高専到着

・本二次創作(予定含む):同化期日二日前に任務開始→その日のうちに黒井沖縄拉致&奪還→翌日夜(同化前日)まで沖縄滞在→同化前日夜に高専到着予定
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。