甚爾と闘也、最強のふたり   作:サイドベント

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密談、決意

 

 

スネークが地上で高専防衛勢力を相手に必死の撹乱を仕掛けている頃。

 

僕はテーブルタイプの炬燵に入ってぬくぬくしていた。

 

 

「温度はどうかな?」

 

「とっても快適」

 

「それは何より」

 

 

想像とは違う形で天元さんの結界術を堪能している。

 

今、外の季節は初夏。

でもこの空間は炬燵が心地良く感じる温度に調整されている。

すごい技量だ。

 

 

「本当に思うがままなんだね。結界術は奥が深いや」

 

「君もいずれはできるようになるさ」

 

 

なれるかなあ。

 

それにしても……昔ながらの背の低い炬燵もいいけど、これはこれでいいね。

実家のとは違って僕の身体にフィットしてる。

 

あと、ぶどうジュースも美味しい。

 

天元さんすごく優しいな。

 

 

「さて。飲み物も用意したことだし……質問に答えていこうか」

 

 

おっと。

そうだったそうだった。

 

じゃあ早速。

 

 

「天内理子……星漿体との同化をしないで済むような方法は無い?」

 

「あるよ」

 

 

……え?

 

聞き間違いかな。

 

 

「……あるの?」

 

「ああ。実際に試してはいないがね。自信はあるよ」

 

 

唖然とする僕をよそに、天元さんはみかんを手に取った。

 

 

「君が知っている通り、長生きな私には無限に等しい時間がある」

 

「故に……星漿体という犠牲を必要としない方法は、私もまた模索してきた。そもそも不特定多数の術師が同化の手順について知っている現状を良しとすることはリスクだ」

 

「そしてなにより、非人道的だからね」

 

 

なんてマトモな意見なんだ。

じゃあ、当然の疑問も湧いてくる。

 

 

「何故それを実行しないの? もしかして天元さんがあまり表に出てこないのはーー」

 

「違う」

 

 

"そういう縛り"を結んでいるから?

 

 

その言葉は遮られてしまった。

 

天元さんは基本的に表に出てこない。

僕のことを密かに観察していたように、長い間世の中のことを絶えず見守ってきたにも関わらず、干渉しない。

 

同化を避ける方法があるのに、実行しない。

 

だから……"しない"じゃなくて"できない"んじゃないかと思った。

 

日本全土にわたって結界を張り、補助監督のような呪術師未満とも言える人たちでも、帳という高等技術を使えるようにする。

 

それが"自らが世に干渉しない"という縛りの元で成り立っているとしたら、バランスが取れているとも思う。

 

だけど違ったみたい。

 

反応の速さ的に、同じ質問を過去にされたのかな。

 

……誰にされたんだろう。

 

 

「私が多くのことを知っていながら、多くのことを見逃している理由。それはーー」

 

「無駄だからだ」

 

 

……まだ、理解できない。

天元さんの言葉の意味を。

 

 

「六眼と星漿体、そして私を結ぶ因果については知っているね」

 

「……うん。500年に一度の同化の周期に合わせて、星漿体と六眼が誕生する。彼らは必ず出現し、六眼が星漿体を守ることで同化は成し遂げられる……だったね」

 

「そうだね。実例をあげようか」

 

「前回の同化の際、同化期限を迎える前に六眼と星漿体が殺害された」

 

 

初耳だった。

黒井さんも知らなかったけど……そりゃそうか。

 

衝撃的過ぎるニュースだし、秘匿されたんだろうな。

 

 

「ところが同化期日の当日。六眼と星漿体は当然のように現れた。六眼は襲撃者を撃退し、同化はつつがなく行われたよ」

 

「その時、天元さんは?」

 

 

答えのわかり切った問いをする。

 

……そういうことなんだね。

 

 

「何もしなかったよ。六眼と星漿体を殺し、同化当日に現れた襲撃者と、"その背後にいる者"の正体にも私は心当たりがあった。その上でだ」

 

「なぜ? もし二人が当日に現れなかったら? 可能性が万が一だとしても、あり得るなら潰しておくべきじゃないかな」

 

 

これは詰問じゃなくて確認だ。

僕が現実を理解して飲み込むための作業だ。

 

天元さんはみかんの皮を剥き始めた。

みかんをいじりながら、なんでもないことのように言う。

 

 

「君は朝起きた時、自分の術式が消えていないか考えるかい?」

 

 

転生したての時ならいざ知らず。

今の僕は、自分の術式とは切っても切れない関係なのは事実だ。

 

無言で首を横に振る。

 

 

「そういうことだ。確かに可能性はゼロではない。だけど"あって当たり前"なものを、人は敢えて意識などしない」

 

「太陽を目にすれば目が眩む。息を止めれば苦しくなる。因果で雁字搦めとなった私の同化は、そういうものと同じだ。自然と起こるもの……いわば"現象"だね」

 

 

……聞き覚えあるなぁ。

そのフレーズ。

 

 

『あれはもう、個人じゃなくて"現象"に近い』

 

 

ちょっと聞いてみようかな。

 

 

「天元さん。話の途中でごめんね。ひとついいかな?」

 

「構わないよ。質問は適宜するといい」

 

「ありがとう。九十九由基って人と知り合いだったりする?」

 

「そうだね。そして君の知りたいことを答えよう」

 

「彼女は星漿体だ。正しくは元だがね」

 

 

やっぱり。

九十九さんと天元さんの間には因縁と呼ぶべき関係があった。

 

思えば九十九さんは現状に一言申していた。

 

天元さんという個人に依存した体制。

星漿体ひとりを犠牲にして成り立つ平和。

 

あの言葉は、あの感情は。

確かにそれらに向けられていた。

 

 

「……九十九さんが実は超長生きで、前回の同化の候補って訳じゃなければ……天内理子の方がより素質があったってことかな」

 

「ふふ。私以外の長生きの術師はそういないよ」

 

 

全くいない訳じゃないんだ。

 

 

「術式というものは奥が深いからね。ちなみに……九十九由基は今回の同化候補から外れて以降、私に一切近寄らない。私を嫌っているようだ」

 

 

まあ、人柱候補でもスペア扱いでも、どっちにしても普通なら嫌だもんね。

 

九十九さんのあの性格なら、激怒してもさもありなんって感じ。

 

 

「ありがとう。満足したよ」

 

「それはなにより。では続けようか」

 

 

天元さんは剥いたみかんを差し出してきた。

 

ありがたくいただく。

美味しい。

 

 

「私も君も。九十九由基も、五条悟も。あまねく人類の全てが呪力と切っても切り離せない存在だ」

 

「この話……似ていると思わないかい? 先ほどの私の同化の話と」

 

「うん」

 

 

この世界の人は、当たり前に呪力を持って生まれてくる。

そうなるに至った理由はわからない。

 

けれど、"そうなっている"から、人は呪力を持つ。

 

同化は"そう決まっている"から、確実に起こる。

 

 

どちらも同じだ。

 

 

つまり、天元さんは星漿体を犠牲にしない方法を開発したけど、それが無事に実行されることはないってことだ。

 

因果に阻まれるから。

おそらく、六眼を持つ守護者に防がれるという形で。

 

僕が天内理子を攫ってブラジルに逃げても無駄だ。

 

六眼が地球の裏側まで追ってきて奪還されるか。

はたまた日本国内の誰かが都合良く"最も素質のある星漿体"として覚醒して、代わりに犠牲になるんだろう。

 

どちらも"そう決まっている"から。

誰が何をしようとも、起こることは起こる。

 

これが因果。

避けられない運命。

 

長く生きている天元さんだからこそ、絡み付く因果の重さも相当に膨れ上がっているということ。

 

厳しい現実だ。

 

だけどーー

 

 

例外はある。

それは僕こそがよく知っている。

 

天元さんも、きっと。

 

 

「君は、天内理子さえ守れればいい。他の人間が犠牲になればいい……とは言わないだろう」

 

「故に天内理子の同化は避けられない。これは理解してもらえたと思う」

 

「ではなぜ君をここに招いたのか」

 

「それは……君には可能性があるからだ」

 

 

そう。

何をしようとも全てが無駄なら、僕がここに招かれる理由は無いはずた。

 

天元さんではできない。

僕でなければならない。

 

そんな理由があるんだ。

 

そして、もうそれは明らかだった。

天元さんの言葉の中にその答えはあった。

 

 

ーー"呪力"と"因果"

 

 

教えてもらっちゃったな。

つくづく優しいと思う。

 

そんな人がひとりで重大な責務を背負って。

広大な地下の空間の中で、長い時を過ごしてきたのを思うと。

 

少し……寂しかった。

 

 

「呪力を身に纏い、術式を使う限り。君がどれほど強くとも……廻る因果から逃れることはできない」

 

「……天元さん、ありがとう。もういいよ」

 

「そうか」

 

「やっぱり天元さんって優しいよね」

 

「ふふ。歳を取って丸くなっただけだよ」

 

 

ふふふ。

つい微笑んじゃうな。

 

やっぱりいい人だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば。同化をせずに済む具体的な方法について聞いてもいい?」

 

「構わないよ。要は私の"自我"と"理性"さえ保てばいいんだ」

 

 

天元さんはいつの間にか設置されていたホワイトボードに説明書きをしていく。

 

 

「500年経てば、私の肉体は人というカテゴリを脱する。進化とでも言おうか」

 

「それに伴って私の自我は蒸発してしまう。それを防ぐために、結界で私の自我を固定化するんだ」

 

 

なるほど。

肉体の変容は許容して、自我だけは守り抜くってことだね。

 

 

「これにより、私という肉体の容れ物がどれほど変容しようとも、中身である私の精神はそのまま保たれる。これまで通りこの国の結界を維持し続けられる」

 

「……ちなみに肉体の変容について思うところはないの?」

 

「ないね。君も1000年以上長生きすればわかる。人は考える葦とはよく言ったものだ。肉体など所詮容れ物に過ぎないんだ」

 

 

わかる日はこなさそうだなあ。

 

 

「じゃあ、そろそろおいとまするよ。スネークから文句言われそうだし」

 

「そうだね。私としても彼にこれ以上敷地内を荒らされるのは勘弁願いたいところだよ」

 

「あはは……じゃあ、任せてよね」

 

「期待している。そして餞別だ。星漿体は()()ここへ到着する」

 

 

大ヒントに返事をする前に、僕はあの大樹のある空間へと戻されていた。

 

 

「本当に……優しいんだね」

 

 

さて、とりあえず連絡するかな。

 

今夜の決戦に備えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「才気煥発」

 

「好奇心旺盛」

 

「そして、貪欲だ」

 

「闘也。君はまるで"あの子"のようだ」

 

「違うところは性根だろうか?」

 

 

 

 

「なあ、羂索」

 

 

 

 

「君はまた性懲りも無く、悪巧みをしているのだろうね」

 

 

 

 

 

 







闘也は咎められた時に「もうしない」とは言わない。
守れない約束はしない男だから。

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