甚爾と闘也、最強のふたり   作:サイドベント

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本日2話投稿。

1話目。






驚愕

 

 

 

ーー沖縄にて。

 

 

同化期限の前日。

その昼頃。

 

 

 

 

 

「は? 高専結界内に侵入者?」

 

「ああ、今連絡が来た。詳細は確認中だけど、事態はまだ収束していないらしい」

 

「犯人は? 被害は?」

 

「どっちも不明。目下調査中だってさ」

 

「使えねー」

 

 

つっても十中八九ユキの仕業だろ。

こっちで全然出てこないと思ったら、アイツ高専に侵入してやがったか。

 

厄介だな。

目的はなんだ?

敷地内に何か仕込んでやがるのか?

 

いや……流石に高専結界内にそれは無いか。

 

つーかなにあっさり侵入されてんだよ。

任務は天内を結界の中に送り届けろってハナシなのによ。

 

無能過ぎね?

 

……わざとか?

 

誰だか知らねーけど、同化を阻止しようとする勢力が高専内部にいる。

 

そんでユキ"が"そいつの外部協力者ってとこか。

誰が雇いやがった?

 

フリーの傭兵気取りとかやめてくんねーかな。

呪術師(こっち)は万年人手不足だっての。

 

つーかこの分じゃ結界内に入っても安心できねーな。

 

普通ならあり得ねえけど、内通者がいるなら変な仕掛けがある可能性は捨てきれねーし。

 

 

「なあ傑。高専に内通者、いるだろ。こうも後手後手だとよ」

 

「……確かに。夜蛾先生に警告を送っておこう。硝子にも」

 

「俺たちの到着時間、明日に変更するって連絡してくれ。嘘だけどな。飛行機のチケットもいくつか余分に取るぞ」

 

「……わかった。敵を騙すなら味方から、だね。空港の増援も明日まで待機してもらおう。その方が真実味が出る」

 

「おう」

 

 

別に夜蛾センを疑ってる訳じゃねー。

 

でも、夜蛾センから"その先"は信用できねえ。

情報を漏らしてるやつは確実に高専内部に潜んでやがる。

 

それも"上"の方だ。

少なくとも侵入を手引きできる程度の立場のやつ。

 

ハ、嫌だねぇ。

上層部の腐敗ってやつはよ。

 

 

「あームカつく。傑、せっかくだからビジネスクラスも取っておこうぜ」

 

「ふふ、そりゃあいいね。領収書は夜蛾先生にしておこう」

 

「ナイス」

 

 

ま、夜蛾センにあとで怒られるくらいなら全然ヘーキだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで少し時間が経って。

 

侵入騒動の収拾がついたって連絡を夕方に受けた俺たちは、予定通りその日の夜に、沖縄の空港に増援を残してさっさと離陸した。

 

飛行機の中に怪しいやつはいなかった。

 

空港から高専へ、残穢を残さないように気を付けて移動している最中。

 

沖縄に残った連中から、盤星教に雇われたっぽい雑魚の襲撃者たちがうろついてる連絡を受けた。

 

ハ、そのまま誰もいねー沖縄探してろ。

 

陽動はうまくいってる。

 

と同時に。

やっぱり情報が漏れていることを確信。

 

油断も隙もねえな、ホントに。

 

そのまま夜になって。

俺たちは無事に高専結界内へと到着した。

 

 

「悟。私の呪霊は登録した一部のもの以外は結界のアラートに引っ掛かるから、不用意には使えない。そっちで警戒を頼む」

 

「おーけー。任せとけ」

 

 

1日徹夜したくらいじゃモーマンタイ。

 

油断無く六眼を光らせつつ、無下限バリアも展開して周囲を警戒。

そのまま4人固まって指定のルートで高専内を歩く。

 

 

……何も仕掛けられてないな。

 

ユキ。

早く出て来いよ。

叩き潰してやるから。

 

 

しばらくして、エレベーターのある広間に辿り着いた。

 

 

「お嬢様……いよいよです」

 

「……うん」

 

「理子ちゃん、黒井さん。私と悟の間から離れないように」

 

「わかった」

 

「わかりました」

 

 

エレベーターはゆっくりと下降していく。

 

沈黙。

……辛気臭えな。

 

 

天内の横顔を見る。

 

 

4人以外誰もいない夜の海で花火で遊んで。

真昼間のキレーな海でナマコつついて。

水族館ででけー魚見て。

 

 

涙を流して、黒井に感謝と別れの言葉を言う顔を思い出した。

 

コイツ、やっぱり普通の女の子なんだな。

クソ生意気だけど。

 

……同化期限は明日の夜。

ちょっと早いが、このまま天内を引き渡せばそれで終わり。

 

 

ーーそれでいいのか?

 

 

エレベーターが降り切った。

古めかしい音と一緒にドアが開く。

 

 

「……?」

 

 

動き出さない俺と傑を見て、天内と黒井が困惑する。

 

 

「よくねーよな。な? 傑」

 

「ああ。そうだね、悟」

 

「な、なに?」

 

「いかがされましたか?」

 

 

お前らビビんなって。

取って食いやしねーよ。

 

 

「悟と私で話をしたんだ。理子ちゃん。君は本当に満足かい?」

 

 

傑の言葉に、黒井が息を呑む。

 

 

「理子ちゃんが持つ使命の重大さは理解している。だけど、理子ちゃんは星漿体である前にひとりの人間なんだ」

 

「俺らはお前の決断を尊重する。このままエレベーターから降りるもよし。引き返してバックれるもよし。オススメは後者な」

 

「私たちは理子ちゃんの味方だ。君がしたいように選ぶんだ」

 

 

天内と俺たちの間で揺れる黒井の視線。

その先で、天内はポツリと言葉を漏らした。

 

 

「……私、今までこんなに楽しいことなかった。小さい頃に、お父さんとお母さんはいつの間にかいなくなってて。黒井しかいなくて」

 

「危ないこととかしないようにしてたから、海に入ったのも初めてだった。花火も、夜更かしも……楽しかった」

 

「……嫌だよ」

 

「このままお別れなんて嫌だよ。まだ、みんなと一緒にいたい。この2日間、とても楽しかった……!」

 

「みんなと一緒に生きたい。色んな場所に行って、色んなことをしてみたい!!」

 

「お嬢様……!」

 

 

ボロボロと涙を流す天内と、一筋の涙を流す黒井。

 

あー、お涙頂戴展開は好きじゃねえ。

 

でもよ。

そうするって二人で決めたもんな。

 

なあ、傑。

 

 

「決まりだね。帰ろう。理子ちゃん、黒井さん」

 

「ゲーセン行こうぜ。どうせ行ったことねーんだろ?」

 

「……で、ですが! お二人の任務は……!?」

 

「知らねーよ」

 

「大丈夫ですよ、黒井さん。私たちは最強なんだ」

 

 

そう。

俺たちは最強だ。

 

 

「理子ちゃんの決断への文句は誰にも言わせない。あなたたちの未来は私たちが保証します」

 

「ッ……ありがとう、ございます……!」

 

 

めでたしめでたしってか。

 

 

「うっし。そうと決まったらさっさと引き返すぞ。こんな辛気くせーとこに長居したらカビが生えちまうぜ」

 

「悟。それは言い過ぎーー「それは言い過ぎじゃないかな」ーーッ!」

 

 

誰だ、なんて無駄な言葉は吐き出さない。

 

俺は"蒼"を発動させ、声のした方向の床と壁を無理やり剥がしつつ吹き飛ばした。

傑は龍の呪霊を前に出して、エレベーター内の天内と黒井を庇うように配置した。

 

瓦礫と"蒼"の呪力の渦に巻き込まれれば、人間の身体なんて散り散りになる。

 

 

「判断が早くて良いね。でも、今は話を聞いて欲しいかな」

 

「悟、見えたか?」

 

「ああ。バッチリな」

 

 

"蒼"が直撃する寸前、ヤツの姿が消えた。

手を離した鉄球が落ちるみてーにスルッとな。

 

それで"蒼"を躱しやがった。

 

だけどよ……煙まみれだから見えねーと思って油断したな?

その後の"下から"出てくるとこも見えてたぜ。

 

術式のタネは割れた。

 

 

「傑。コイツ、自分の影に潜れるぞ。出入りのタイミングは自由だ」

 

「うわ、もうバレた。やっぱり六眼ってズルいよね」

 

 

軽薄な声。

そして煙に透けるシルエットからして男だ。

 

呪力を噴水みてーに立ち上らせてやがる。

俺の何倍あんだよアレ。

 

だけどよ……そんなに溢れさせて、強者アピールってか?

 

逆効果だぜ。

俺たちはそんなもんでビビんねーよ。

 

むしろ呪力操作が雑なのが却ってバレてるぜ。

 

煙が晴れる。

黒幕の姿がお出ましだ。

 

 

「どうも。最初に言っておくけど、敵意は無いよ。僕とキミたちの利害は一致してる」

 

「怪しい奴は誰だってそう言うんだよ。コソコソ隠れてやがって」

 

 

……知らねー顔だ。

 

身長2メートル超え。

体重もかなり重そうだ……相当鍛えてやがるな。

 

俺たちはエレベーターを降りて前に出る。

 

敵には俺が相対。

 

俺の後ろに龍。

さらに後ろに傑。

最後に天内と黒井。

 

後ろの守りは任せたぜ、傑。

 

 

「雑な呪力操作だな。もっと見せてみろよ……オマエの自慢の術式をよ!」

 

「雑な挑発だね。僕も自分の術式は自慢だけど、あんまりひけらかすのはよくないと思ってるよ」

 

 

ハッ。

流石に乗らねーか。

 

これで俺だけに狙いを絞ってくれるような馬鹿だったら助かったんだけどな。

 

ただ、俺の意図を汲んで傑がジリジリと立ち位置を変えていく。

 

ナイスだ傑。

 

高専のやつらだろうがコイツの援軍だろうが、誰かが不意打ちでエレベーターの隙間から降ってくるかも知れねーしな。

 

 

「理子ちゃん、黒井さん。そのまま私の後ろの位置をキープして。とりあえずエレベーターからは離れよう。いつ高専の人たちが来るかわからないからね」

 

「来ないよ」

 

「……なに?」

 

 

傑が相手の言葉の意味を図りかねる。

 

 

「誰も来ないよ。高専の援軍も、もちろん僕の味方も。僕がここにいることは、地上にいる人は誰も知らないからね」

 

「あ? 何言ってんだテメー。お前がさっき術式使った時点で結界のアラートに引っかかってんだよ。ビビったらさっさと尻尾巻いて帰れ」

 

「それ、嘘。だって僕の呪力は登録済みだからね……他ならぬ、天元さんの手によって」

 

「……なに?」

 

「お、気になるよね。話聞く気になった? ほら」

 

 

ヤツは両手を挙げて無手をアピール。

何かを潜ませるような呪力の動きも、起こりも無い。

 

コイツは今、無防備だ。

本当に攻撃する気がねーのか?

 

それとも時間稼ぎか?

 

でも同化の期日は明日の夜までだ。

ここで10分やそこら稼いだところで無意味だろ。

 

何かを仕掛けて、それが発動するのを待っている……?

 

 

「うーん……ああ、そうか。この場に彼女たちがいるからそんなに焦ってるんだね。いいよ。じゃあ縛りを結ぼう!」

 

 

ピシリ、と空気が変わる。

ヤツのヘラヘラとした表情が引き締められた。

 

……おいおい。

さっきまで無駄に溢れてた呪力がすっかり抑えられちまった。

 

俺よりは下手。

だけど……コイツより呪力コントロールが上手いやつはひとりも見たことがない。

 

手を抜いてやがったのか。

その状態で"蒼"を簡単に捌きやがったのか?

 

無意識に拳を固く握り込んでいたことに、気付く。

 

 

「僕、闘也の名において五条悟、夏油傑の両名に誓う。"明日の同化期限が過ぎるまで絶対に天内理子、黒井美里の両名を攻撃しない"」

 

 

空気がシン、とした。

 

……マジで縛り結びやがった。

 

なんなんだコイツ。

わけわかんねーよ。

 

無視してさっさと脱出するのが吉か?

もう残穢も気にしなくていいし、傑の龍でパッと飛べばすぐ出られるだろ。

 

 

「傑。コイツのペースなのが気に食わねえ。放っといてさっさと帰ろうぜ」

 

「待て悟。現状、あちらに攻撃の意思が無いのは確かだ。その上で安全確保のために、まずはアラートが本当に鳴っていないのか夜蛾先生に確認を取ろう」

 

 

……確かにな。

それなら30秒で済む。

 

本当にコイツが呪力を登録済みってんなら、話を聞く価値くらいはある。

 

 

「あー……ここ地下だから携帯圏外なんだよね」

 

「なんなんだよ! うまくいかねーな!! そもそもテメーが怪し過ぎるのが悪い!」

 

 

キレちまったわ。

本当になんなんだよコイツ。

 

いや、待て。

 

やたらデカくて目立つ体。

圧倒的な呪力量。

性能のよさげな術式の持ち主。

 

……コイツが噂の"禪院を出奔した謎の人物"なんじゃねーのか?

 

あり得るな。

じゃあ、反体制側っつーことで"俺たちの味方"だっつってんのか?

 

 

「ふー……傑。埒があかねーし、とりあえず話聞くか?」

 

「そうだね。そうするしかないようだ」

 

「じゃあ結論から言うね」

 

 

闘也とやらは、またあの畏まった雰囲気を醸し出す。

 

 

「天元様は自我の喪失を防ぐ方法を確立されたため、星漿体との同化は不要となった。天内理子、君は自由だ」

 

「「「「は?」」」」

 

 

今度こそ俺たちは目が点になった。

 

 

 

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