私がたまたま外に用事があってひとりでトリニティ学園外に出ていた時のこと。
私の目的地の目の前で不良集団同士の争いが起こっていた。
...まずい...迂回する時間もないし、かと言ってこの中に突っ込むのも...
私は戦場に立つと過去のトラウマが、戦車が私に向かって飛んでくる幻覚が襲ってくるのだ。
かと言って迂回するのも...時間が無いし...
数秒迷った末に私は戦場へと一歩踏み出した。
ここが戦場といえど、私が無視すれば良いだけだ!さっさと走って抜けよう!
と思って走ったのがいけなかったらしい。
私が向かう先でふらついていた不良のひとりが私を見て叫んだ。
「おいおい!もう増援来たのかよ!クソッ!お前も道ずれだ!」
そう言って不良は私に向かって銃を構えた。
誤解です!誤解なんです!私がただこの先に行きたいんです!
私はそのまま飛んでくる弾を一生懸命に避けながら近くの遮蔽物へと身を潜めた。そしてそのまま気づく。
...戦車が、飛んでこない。
今までであれば、敵に銃を向けられた時点で幻覚を見て、体が硬直していたはずだった。
もしかして、克服した?
私は隠れたまま愛銃のAn Endを引き抜き自分の頭に当てる。引き金はしっかりと握れていた。
それを確認した私は遮蔽物から向こうの様子を覗き込んだ。
「うわぁ!」
その瞬間、私目掛けて銃弾が飛んできた。
完全にマークされてる!これは戦わないと切り抜けられないな...
私は覚悟を決めて懐の手榴弾のピンを引き抜き、感覚で相手がいるであろう場所に投擲した。
「手榴弾飛んでくるぞ!」「引け引け!」
その声を頼りに相手の場所を予想し、飛び出す。
爆発とともに相手が遮蔽物に隠れる瞬間が見えたため、そこに向かって突っ込んでいく。相手が様子を見ようと顔をのぞかせた瞬間私は顔面に向けて発砲。銃弾は見事に狙った場所に当たり、不良を気絶させた。
よし!正義実現委員会で訓練してた成果だな!
私の突撃に気づいた不良は次々に顔をあげる。
それに対して私が飛んでくる弾を横に避けつつ、ピンを抜くふりをして手榴弾を投げつけた。
「うわまた来た!」「どけどけ邪魔!」
ザワつく不良たちをまっすぐ捉えながら私は突っ込んでいく。そしてそのまま遮蔽物の裏で縮こまる不良たちを全員撃ち抜いた。
何人かはそれでも気絶しなかったが、痛がっているので隙だらけだ。頭を撃ち抜くのは造作もなかった。
これは私が正義実現委員会にいたときに、得意としていた戦術だ。
拳銃しか持っていないがゆえに身軽なのを活かして、大量に手榴弾を持ち込む。そしてそれを投げつけ、ときにフェイントを混ぜながら相手の行動を制限する。そしてそのまま近づき、一気に制圧する。
イチカさん以外にはうまく通用し、この戦法で彼女以外には負けていなかった。
...嘘だ。拳銃外しまくって負けてたわ、私。
ちなみにイチカさんにはフェイントがばれて走りこもうとしたところを撃たれて負けた。
そのまま倒れた不良たちをその場に放置し、正義実現委員会に通報したあと私は目的地へ向け急ぐのだった。
...そういえばなんで幻覚を見なかったんだろう?
「うーん...何かきっかけがあったのでしょうか?
トラウマの克服は自分の中で折り合いがついたり、出来なかったそれが出来るようになったり、そういった形でされるものだと聞きますが...
話を聞く限り、そういったきっかけは無かったのでしょう?」
「実はもっと前に克服していたのかもしれませんね。
正義実現委員会を辞めてから、これまで1度も戦闘はやってきていませんでしたから。」
私は定期的に行われるカウンセリングの場であの時のことを話していた。
しかし、鷲見さんからしても原因は分からない様子...
酷い時は銃の音を聞いただけでも幻覚を見ていたというのに...ほんとなんでなんだろ?
「そうだ!戦えるようになったんだったら、正義実現委員会に...」
「戻りませんよ。
言ったでしょう。戦えるか否かではない、正義に私は相応しくないって。」
「...そうですか...」
鷲見さんが目に見えて落ち込み出した。
何で?私のことなのに...
「...とにかく、原因がわからないと言うことはもしかすると再び何かの拍子に現れるかもしれません。そういった時は遠慮なく言って下さいね!」
「分かりましたよ」
数週間後、今日はカウンセリングの日だった。
...のだが、私はカウンセリングに、もう意味は無いだろうと思っていたため、救護騎士団の元に向かうことなく、家路に着いていた。
...着いていたのだが。
「救護!!」
「ぎゃん!?」
どこからともなく飛んできた(降ってきた?)蒼森先輩にその勢いのまま盾を叩きつけられ、私は気絶したのだった。
目を覚ますと知らな...いや結構知ってる天井だった。
「あ、起きましたか。もう、ダメですよ。ちゃんとカウンセリングを受けないと!」
「いっつつ...す、鷲見さんですか...」
私の寝かされるベッドの横には鷲見さんが座っていた。そのままカウンセリングが始まった。
特に進展はなかった。いつも通りの、心境の確認程度。
翌週、私は再びカウンセリングをサボった。
今日はイチカさんもオフだったので一緒に帰っていた。
が。
「救護!!」
「うぎゃあ!!」
「えっ、なっなんすか!?」
「ナナさんは今日カウンセリングの日です。救護のため、カウンセリングをサボることは許しません!」
「あっ、そ、そうだったんすね。了解っす...ナナ、何やってんすか...」
目を覚ますと...いつもの天井だ。いや、いつものってほど通院なんてしてないんだけど、結構高頻度で来てるからだいぶ慣れてきた。
「おはようございます。またサボろうとしましたね?」
「...だって...意味ないと思うから...」
「すぐに効果が出る訳ではありません。小さなことの積み重ねが救護の第1歩なんですよ?」
小さすぎる雪は積もる前に溶けるんですよ。知ってました?
そしてこの日のカウンセリングも特に進展はなかった。
そして翌週。私は再びカウンセリングをサボっ...
「救護!!」「ここっ!!」
「おぉ!避けた!?」
「ふっ...もう何度も受けていますからね!さすがに慣れて...」
私は蒼森先輩の奇襲を完全に読み切って見事に避けた。
今までは為す術なく殴り倒されて気絶していたため、初めて避けた私は得意げにイチカさんにドヤ顔を見せた。
が、その瞬間蒼森先輩の盾が横殴りに振るわれた。
「救護!!」
「ぐえっ!」
「あ」
「では連れていきますね。」
「ははは...お疲れ様っす。」
目を覚ますと...もう分かるな?
「はい。おはようございます。それじゃあカウンセリングをはじめますよ。」
鷲見さんも結構慣れてきましたね。
その日のカウンセリングも特に進展なし。それからカウンセリングが終わり、私が病棟の外に出るとそこには蒼森先輩が待っていた。
「本日もお疲れ様でした。あまりサボっては行けませんよ?救護のためのカウンセリングなのですから。あんまりにサボりが過ぎると救護いたしますからね。」
救護ってそんな万能な言葉じゃねぇから!!
もはやゲシュタルト崩壊だ。救護ってなんなんだよ!?
「だって、意味ないじゃないですか。
もう、結構です。私は救護してもらわなくて良いんです。私にはもう必要ありません。」
「いいえ、ダメです。私はあなたを救護いたします。」
...やっぱこの人強情だな...
「私が救いを望んで居なくてもですか?
救護とは、人の望まぬ救いを押し付けるものなんですか?」
「望む望まないではありません。私はただ、必要な場に救護を届けるだけですので。」
「必要な場っていうのはあなたの主観でしょう!?救いを押し付けられた相手は!私は!
ただただ苦しむだけなんですよ!!」
あまりにも話の通じない蒼森先輩に私はつい声を荒らげてしまった。
蒼森先輩は驚いた顔をして私の方を見ている。
「...もう結構です。私には救いは、必要ない。」
私はそのまま走って家へと帰った。蒼森先輩の声は特には聞こえなかった。
翌週のカウンセリングがある予定の日。私は家に帰ることなく、教室でただぼーっとしていた。
このまま帰ったとしても蒼森先輩に奇襲を受けて再び無理やりカウンセリングを受けさせられるだけだと思ったからだ。
「はぁ...蒼森先輩も私の事なんか、諦めてくれればいいのに...救う価値なんかないって、わかってくれればいいのに。」
救護とは、全ての人に平等に分け与えられて然るべきものだと思っていた。
全ての人がそれを享受し、やがて救われるものだと思っていた。
私のとっては常識とも言えるそれが、音を立てて崩れ落ちる。
"救いを押し付けられた相手は!私は!
ただただ苦しむだけなんですよ!!"
先日希死念慮を患う患者、篠崎 ナナさんから言われた言葉だ。
彼女へのカウンセリングは一向に進展を見せることなく、加えて彼女はカウンセリングに意欲的でなかった。徐々にカウンセリングに顔を出すことがなくなっていた。その度に私は彼女を気絶させ、無理やりにカウンセリングを受けさせていた。
それだけなら良かった。治療に意欲的でない患者などこれまでにもいた。
正義実現委員会の2年生、剣先 ツルギさんがその代表例だろう。彼女は勝手に治るからと、度々病室を抜け出して活動に戻っていた。
それと理由は違えど、同じようなものだと思っていた。思っていたのに。
救いを望んでいると思っていた。終わりという救いではなく、生きたいと願うようになるような救いを。
それがどうだ?彼女は苦しんでいた。
私が救護を押し付けたから。苦しめてしまった。
その事実は私の心に暗い影を落とす。
私は、迷っていた。
彼女に対して何をするべきなのか。
救護を、救いを、与えるべきなのか。
救護を、救いを、諦めるべきなのか。
私個人としては断固、救護するべきだった。それ以外の選択肢はなかった。
"あなたの主観でしょう!?"
私は、視野が狭かったのだろう。正直自覚はあった。
その自覚が、彼女の言葉が、救護を否定していた。
彼女は救いを望んでいない。
それはきっと希死念慮によるもの。救護の果てに、彼女の希死念慮が無くなった時、彼女は救いを求められるのだろう。そう信じていたい。きっと彼女は、心の底では...
だけど私に、救えるのだろうか。このままカウンセリングを受けさせた先に、救いを与えられるのだろうか。苦しめるだけなんじゃないのか。その事実が私を迷わせていた。
私は今日のカウンセリング予定の日、前回と同じように校舎の一箇所に陣取ってナナさんが出てくるのを待っていた。寮へと帰るにしろ、病棟に向かうにしろ、ここは絶対に通らなければいけない。だからここで待っていたのだが、いつまで待っていてもナナさんがやってくることはなかった。
もしかして、見逃した?いや、そんなはずはない。
私はナナさんを探すために彼女のクラスの教室へと歩みを進めるのだった。
ここに来るまでに、ナナさんは居なかった。あとは教室の中か、どこかに隠れているかくらいだろう。
私が教室の前に来てドアを開けようとした時、中からナナさんの声が聞こえてきた。
「はぁ...蒼森先輩も私の事なんか、諦めてくれればいいのに...救う価値なんかないって、わかってくれればいいのに。」
私はそれを聞いて胸が痛くなった。
彼女は明確に、救いを望んでいない。
私はその痛みを抑え込んで扉を開けた。
「ここに居ましたか。探しましたよ。」
「...蒼森先輩ですか。私はカウンセリングには行きませんよ。」
ナナさんはこちらを見ることもなく、机に肘を着いて窓の外を眺めていた。
「今日は無理やり連れていくために探していたのではありません。
ナナさん、少しお話をしませんか?」
ナナさんは私の方を見て目を丸くする。
「...お話程度なら、構いませんよ。」
私はナナさんの向かいにある椅子を借りてそこに座る。
ナナさんは私から目を逸らして外を眺めているばかりだった。
「...あなたは救いを求めていないのですよね?」
「この間そう言ったでしょう?必要ないって。」
「えぇ、あくまで確認です...私個人としては救護を諦めるなんて有り得ない選択肢です。
ですが...このままカウンセリングを続けていても、きっとあなたは救えない。...救えない以上、あなたの仰るように苦しめるだけになってしまう。それだけは絶対に避けなければいけません。」
「だから言っているでしょう?諦めればいいのにと。」
ナナさんは即答した。諦めろと。
救いを願う人間が、あなたを救えないという言葉にそれで良いと即答できるだろうか?普通は出来ないだろう。
そうか、この人は、本心から。
救護を、救いを求めてなんかいないのか。
え...なんか蒼森先輩が急に涙を流して崩れ落ちた...
え?なんか変なこと言った?
「ごめんなさい...私が未熟なばっかりに、あなたを救えなくて...」
蒼森先輩が泣きながら小さく呟いていたその言葉を聞いた私は気付いた。
あぁ、そうか...私はまた人の信念を、否定したのか...
元々そうだった。蒼森先輩の信念が救護であることは分かっていた。
私はそれを、私の都合で否定してきた。
でも、それは...
私に限った話で、あなたの思いを否定するつもりなんか全くなくて。
正義が...救護が...私を救えなかったんじゃない。
私が求めなかったのだ。だから正義は、救護は、決して間違ったものではないと。そう、伝えたかったのに。
肝心の言葉は私の喉を通らない。
あの時もそうだった。
私では否定しかできないからと言い訳を並べて、早乙女委員長に何も言わずに出て行った。
もしかしたら委員長も、蒼森先輩と同じなのかもしれない。
私が否定したから。正義に疑問を抱いてしまっているかもしれない。
私が肯定できなかったから。
私の...せいで。
また私は自己嫌悪の渦に苛まれる。
何故だろうか?私はずっと、私に期待していないはずだった。
自分はこんなものだと。わかっていたはずなのに。
期待を、もしかしたら、してしまっているのかもしれない。できてしまっているのかもしれない。
私を、肯定してくれる人たちがいるから。
私はまた人のせいに...という思考をよそに、他責は止まらない。
肯定してくれる人たちがいるから。私は私を期待してしまう。
ならば私は。それを。
捨ててしまおうと。
ふと、スマホの通知が鳴った。
開いてみるとイチカさんからモモトークが来ていた。
『今日一緒に晩ご飯食べないっすか?』
肯定されている。そう自覚してしまった。
私は捨てると、決めてしまった。
そうなってはもう止まらず、今も涙を流し続ける蒼森先輩を置いて、私は教室を出ていく。
イチカさんへの返信は一言、
『ごめんなさい』
とだけ送った。
私が帰る途中、スマホがずっと鳴っていた。通知を見るたびにイチカさんからモモトークが来ており、心配の言葉をかけられていた。
ついには電話が鳴りだすも、私が出ることはなかった。
家に着くと、そこではイチカさんが扉を叩いていた。
「ナナ!開けて!お願い!」
私は避けようかとも考えたが、
「あの、なにかありましたか?」
なにかありましたか?はないだろう。心配させたのは私だ。きっかけを作ったのは私だ。それに気づいていながらも、私は知らないふりをした。
「ナナ!!よかった...!」
イチカさんが涙を流しながら私に抱き着いてくる。
その反応を見て悟った。
「私が死んじゃったかと思ったんですか?...大丈夫ですよ。まだ死にません。」
「まだじゃダメ!約束して!お願い!」
叫ぶイチカさんに私は答えない。
「...もう夜も遅いですから、近所迷惑にもなりますし、戻りましょう?」
私の返答にイチカさんは驚愕の顔を見せると、そのまま黙ってふらふらと自室に戻っていくのだった。
私に、心配する権利なんてない。
そう自分に言い聞かせて、私は家に入り、準備を進めるのだった。
翌日、学校をサボった私はだれにも会うことのないように慎重に寮を出ると、そのまま学園外へ。トリニティ自治区外へ。ついにはブラックマーケットへと足を運んだのだった。
私はナナを救いたいんです!本当なんです!信じてください!
なぜか進めるたびに地獄が加速していくだけなんです!
早く先生を出したいんだけど、書きたいことがもうちょっとあるんで待っててね。
現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?
-
いる。
-
いらない。
-
どっちでもいい。