掃除の手始めとして、建物周辺の雑草抜きから始まった。
「本陣の周囲で、敵の隠れられそうなポイントを取り除くのは理にかなっているな。」
「アズサ、私達は別にこの合宿所を要塞化しようとしているわけじゃないんだよ?」
「だとしても、いつ私たちを狙って襲撃を仕掛けられるかわからない。備えるに越したことはないだろう。」
うーん...アズサってなんか、ずっと頭の中に戦闘の想定があるよね...キヴォトスの治安を考えると間違っているとも言い切れないんだけど、だとしても度が過ぎるというか...そういう環境で育ったのかな...羽があるけど、ゲヘナで育ったりとかしたんだろうか?
「ナナちゃん、どんな感じですか?」
「順調だよ。ほら、こんなに取れた。だとしても、まだいっぱいあるけどね。」
「あら、いっぱい出ましたね。でもまだ、どんどん抜いていきましょうね?うふふ...」
ハナコの質問に対して雑草を入れた袋を見せるとニコニコと返された。
...反応しないぞ。コハルなら顔を真っ赤にして食って掛かるだろうけど、多分これでハナコに食って掛かると逆にこっちが恥をかかされることになるんだ。きっとそうだ。
...私の脳内変換が悪いわけじゃないよな?
まあ、それは置いておいてハナコとはこの合宿で色々と話しておきたい。ハナコの最近の行動は、事情は知らないが明らかにおかしいし。...おかしいというか、おかしいと思われるような行動をしてるという方が正しいのか?
「コハル、どう?順調?」
「あっ...ナナ先輩。はい、順調です...」
コハルに進捗を聞くと目を逸らしながら答えられた。
今まではそんなことなかったのだが、コハルのこの反応も気になる。避けられているわけではない...と、思いたいのだが、心当たりがないがゆえに確実にそうだとも言い切れない。
...いっそ今聞くか。
「コハル、どうしたの?なんか...私のこと避けてる?」
私は相手との会話から本心を探るといったようなトリニティ生が得意としそうな分野は苦手だ。
だので、直接聞くことにした。
「うぇっ!?い、いや...そうじゃなくて...」
ごにょごにょと口ごもっていくコハルに少しピンときた。
「補習を受けることになったのを気にしているなら気にしなくていいよ。
私だって、一年の時にテストサボったことあるからね。」
「えっ...そうなんですか...?」
コハルは驚いた表情を私に向ける。
「テストをサボるどころか、一か月くらい学校を抜け出してブラックマーケットで生活してたんだよ。タイミングが合ってたら多分私もここに補習を受ける側でいたからさ。」
「その...イチカ先輩から...ナナ先輩は元々正義実現委員会だったって聞いて...なんで辞めちゃったんですか?」
コハルの質問に私は虚を突かれた。
イチカ...話したんだ。別に口止めをしてたわけでもないし、言ってほしくないわけでもなかったんだけど、意外だったな。
「...私には正義を背負いきれなかったからね。」
あまり語るようなことでもないし、詳しく言う必要はないだろう。
...とはいえ、これくらいは言っておこう。
「...コハルは、自分の正しさを信じてあげてね。あなたはきっと、良い子だから。」
コハルやそれ以外の正義実現委員会の一年生はみんな、正義を信じられる子たちだと思うから。
全員と話したわけではないし、話したことのある子でも明確に正義について話しているところを聞いたのはマシロくらいだったが、だとしてもみんな、治安の悪化した際に諦めることなく、治安維持のために奔走している姿を見ていた。
...きっとみんな、正しい人であれると思うから。
「ナナちゃ~ん!ちょっと手伝ってくださ~い!」
ヒフミに呼ばれて声のする方向に向かうとヒフミが建物の影に乱雑に置かれていたガラクタを先生と一緒に運んでいるところだった。
「うわーいっぱいあるなぁ...これはちょっとみんなでやらない?」
「"確かにその方がいいかもね。ナナ、他のみんなを呼んできてくれる?"」
「わかりました。...先生、あまり無理をしないでくださいね?」
汗だくで腰を下ろした先生に視線を向けて言うと先生は笑みを浮かべて何でもないように返してきた。
「"生徒だけに任せていられないからね。もちろん私も手伝うよ。"」
そういって腕をまくる先生にヒフミが水筒を渡している様子を横目に、私はほか三人を呼びに向かうのだった。
先生はヘイローがないんだし、こういうのくらいは生徒に任せておけばいいのに...
まあ先生の性格はアビドスのときになんとなくわかってはいたけどさ。
あの借金だらけで、生徒数の少ない学園の救援に向かうくらいだから、きっと優しい人なんだろう。
みんなで裏手にまとめて置かれていたガラクタの山を片付けたあと、次は廊下や教室、トイレなどをみんなで分担して掃除することになった。
私はコハルと一緒に広いロビーの掃除から始めることになった。
「けほっ、けほっ...!何ここ、すごい埃...!」
「結構埃溜まってるね...家具が多いからかな。とりあえず埃落して水拭きしようか。コハル、マスク取ってくるから新聞紙でもまとめといて。」
「わかりました!」
私が部屋を出ていく時にふと後ろを振り向くと、コハルがしゃがみこんで一生懸命に新聞紙を丸める姿が見えた。
やっぱりコハルはまじめな子なんだよね。ちょっと自分の考えに固執する部分があるけど、ちゃんと教えてあげればしっかりと正しいことを理解して動いてくれる子だとハスミ先輩も言っていた。
先輩のことをしっかりと尊敬しているところも見られるし、ハナコやヒフミたちのような年上ともしっかり分け隔てなく話せている辺りコハルは人付き合いがうまいタイプなのだろう。
年下ではあるが、コハルは私にとって尊敬に値する相手と言えるだろう。
まあ、私にとって尊敬に値する相手とは、周りの人は大抵当てはまるのだが。
私を一番に気にかけてくれる親友のイチカはもちろん、戦闘に関してトリニティにおいて右に出るもののいないツルギ先輩。
戦場における指揮やスナイパーライフルの驚異的な命中率、加えてその羨まけしからんプロポーションのハスミ先輩。
自身の中に揺らがぬ信念を、目指すべき理想の正義を掲げるマシロ。
今は何故か変わってしまっているが、才媛と呼ばれ学園中から熱狂的な勧誘を受ける程の天才であるハナコ。
ブラックマーケットで学籍のない生活ながらも明るく振る舞い日々を力強く生きるミミ達。
ヒフミ...は、まあ好きなものに対する執着心や諦めない心...か...???
正直それのせいで色々巻き込まれている気がするが...まあ今は気にしないでおこう。
交流が狭い私でもよく話す相手くらいなのでそんなに数はいないのだが、それでもよく話す相手はみんな尊敬出来る人達ばかりだった。
みんな私なんかにはもったいないくらい良い人で、正しい人で、私なんかを肯定してくれる。
やっぱり未だに思うが、みんなはどうして私に構ってくれているのだろうか?何も返せないどころか、否定を振りまくばかりだと言うのに。
私はみんなに恩を返すどころか、否定しないようにするだけでいっぱいいっぱいだ。
「...ナナ先輩?どうかしましたか?」
おっと、考え事をしながら歩いていたら気がつけばロビーに辿り着いていた。
「あぁ、ごめんね。ちょっと考え事してた。」
私は手に持ったマスクをコハルに渡すとロビーに大量に置かれている家具に溜まった埃を飛ばすためにハンディモップを取り出すのだった。
それから数時間後、ようやく掃除を終えてみんなで集まっていた。
「"こんなところかな?"」
「いいんじゃない?ずいぶんきれいになった気がする。うん、気持ちいい。」
「...うん、悪くない」
「そうだね...空気も澄んでるし。」
「はい、皆さんお疲れさまでした!」
みんなで話していると、ハナコが声を上げた。
「あ、まだ一か所だけ残ってますよ?」
「あれ?そうでしたっけ?」
「はい、屋外プールが♡」
そういってっ微笑んだハナコに、みんなが疑問符を浮かべた。
それからハナコの案内で屋外プールにみんなで移動する。
件のプールは普通の学校のプールと比べてもかなり広く、周りを見ると老朽化した様子は見られるものの大規模な設備がそろっていた。
...なんで学校のプールにビーチチェアとパラソルがあるの???
私と同じことを考えたのか、いかにもお嬢様学校らしい光景に困惑したらしい先生も苦笑いを浮かべていた。
「これは...」
「だいぶ大きいな、どこから取り掛かればいいのか...いや、そもそも補習授業に水泳の科目はなかったはずだけど?」
「試験に関係ないなら別にこのままでもいいじゃん。掃除する必要ある?」
ほか三人も疑問を持ち、ハナコに視線を向けていた。
「いえいえ、よく考えてみてください、コハルちゃん。
キラキラと輝く水で満たされたプール、楽しい合宿、はしゃぎまわる生徒たち...楽しくなってきませんか?」
ハナコは私たちのほうを振り向いて今までで一番いい笑顔を浮かべていた。
「...!?え!?何!?わかんない、何か私にわからない高度な話してる!?」
コハルはハナコの言葉に困惑していた。
...つまりハナコは、楽しそうだからプールで遊びたいと???
今までのような嘘くさい笑顔ではなかったことから、きっと本心なのだろう。
そうだとわかれば私のやることはひとつだ。
「そっか、それならやろうか。プール掃除。」
「確かに、こうして放置されてしまったプールを見ていると...なんだか寂しい気持ちになりますしね。」
「このサイズだったし、昔はきっと使われていた時期もあったんだろう。元々は、にぎやかな声が響き渡っていた場所なのかもしれない。
...それでも、こんな風に変わってしまう。
"vanitas vaitatum"。それがこの世界の真実。」
アズサがプールを眺めながらそうつぶやいた。
ばに...何?
「古代の言葉ですね。"
ハナコの補足によって私たちもアズサのつぶやきの内容を理解した。
そこにどういう意味が込められているのかは私にはわからない。
いつの日か、ハナコが言っていた楽園の証明のようなものだろうと思いつつ、私はそれをかみ砕いていた。
全ては虚しい。
物事はいずれさび付いていくという意味だろうか。それとも、無意味だとあきらめる言葉だろうか。
なんにせよ、まるで私みたいだなと、思う。
周りを否定する私は、正しさを肯定できない私は。今生きている意味はあるのだろうか?
このまま無意味に他人を巻き込んで生き永らえた先には、正しさは待っているのだろうか?
正しくはなくても、せめてみんなを、イチカを否定しないものであってほしいとは、思うが。
「アズサちゃん、ヒフミちゃん、コハルちゃん、ナナちゃん!」
ハナコに呼ばれて暗い思考がふと止まった。
「...今から遊びましょう!!」
「えぇっ!?」
「今から掃除して、プールに水を入れて、みんなで飛び込んだりしましょう!
明日からは頑張ってお勉強をし続けないといけませんし、となると今日が最後のチャンスかもしれないじゃないですか。今のうちにここで楽しく遊んでおかないと!途中からはまた別のことで、色々と付かれてしまうかもしれませんし。
さあさあ、早く濡れてもいい格好に着替えてきてください!プール掃除を始めましょう!」
ハナコのテンションが見たこともないくらいに上がっている。
もしかして前に水着徘徊をしてたのって本当に水着が好きだから、だったりするんだろうか...?
「...うん。たとえ全てが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない。問題ない、ちゃんと水着を持ってきている。待ってて。」
アズサがそう言ってものすごい速度で走り去っていった。
その時のアズサの言葉が、やけに耳に残って私の思考を塗りつぶす。
(全てが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない。)
まっさきに暗い思考に沈んだ私と違って、アズサはあの言葉を聞いて前向きなことを考えられたらしい。
いずれ寂れていくものだとしても、無意味なものだとしても、最善は尽くすと。
周りを否定していても、正しく在れなかったとしても。
生きていていいのだと。
私はいつの日か、同じように思うことができるのだろうか?
きっとその時は、私が自分を肯定できたときだろうなと、漠然と思う。
「"ナナ?"」
先生に名前を呼ばれてハッとした。目の前にはニコニコとしたハナコと困惑した様子の先生がいて、私の顔を覗き込んでいた。
「...何でもありませんよ。...幸い、私も水着を持ってきていますし、着替えてきますよ。」
そう言って私は合宿所の中へと向かうのだった。
ナナを見送った後、私はどうしようかと悩んでいた。
まさかこんなことになるとは思わず、濡れてもいい服なんて持ってきていない。そう悩んでいると隣に立つハナコと目が合った。
「...先生、ナナちゃんの様子、気が付きましたか?」
そう問われてさっきのナナの様子を思い出す。
たしかに、やけに思いつめたような、悩んでいるような表情を見せていた。
彼女たちは思春期だし、みんな悩みを抱えているのだろう。私がその悩みの力になってあげられるように頑張らないとな。
そう思っていると、ハナコはぼそりと呟いた。
「ナナちゃん、自殺を試みるくらい自分のことが嫌いみたいなんです。...先生も、ナナちゃんのことを肯定してあげてくださいね?」
とんでもないことを言われた。
多感な時期の子が考えることの一つではあると認識しているが、いかんせん自分が経験したことではないから、私にはわからないが、未来ある子供がそれを自ら閉ざしてしまうなんてことは、あってはいけないことだ。
前に会った時にはそんな様子はわからなかったが...
補習授業の必要な子たちを見ることになったこの合宿だが、どうやらそれだけでは済まなそうな予感を、私は感じていた。
「"分かったよ。...ところでハナコは着替えてこないのかい?"」
そう返すと、ハナコはゆっくりと手を持ち上げて自分の体操服のジッパーに手をかけた。
えっ...と困惑に固まっているとハナコが一気にジッパーを引き下げて体操服を空中に放り投げる。
ハナコが何を考えているのかはわからないが、これはまずいと咄嗟に目を逸らす。
「うふふ...先生、大丈夫ですよ?」
聞こえてきた声に恐る恐るハナコのほうを見ると制服姿のハナコが立っていた。
「"...下に着てたんだね。"」
思わずそう漏れたが、よく考えてみると体操服の下に制服着こんでるのはおかしいし、そもそもなんで濡れてもいい服のチョイスとして制服なんだ。
「"水着は持ってきていたよね?着替えてきなよ"」
「いえ、これでいいんですよ♡」
「".........そっか"」
やけにいい表情で答えるハナコに私は目頭を押さえながらそう返すので精いっぱいだった。
ごめんなさい更新遅れました!
ブルアカ本編見ながら書き進めていくので筆がなかなか進まないのと、やりたいことが他にもあってですね...
最低でも週一くらいでの投稿は継続していくつもりですので気長に待っていただけると幸いです。
えっできるのかって!?できるに決まってるじゃないですか!!なんですか!?賭けますか!?
くぅーん...(犬の真似)
現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?
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いる。
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いらない。
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どっちでもいい。