水着に着替えた私たちがプールに戻ってくると、そこにはワイシャツ姿の先生と制服姿のハナコが待っていた。
...先生は水着を持っていないんだとすると仕方がないのだが、ハナコはなんで制服なの?水着持ってきてるよね?掃除始める前は水着だったよね?
他3人も同じことを思っているのか無言でハナコを見つめている。
「さあ、これでびしょびしょになっても構わないということですね♡」
「うん、問題ない。」
「ま、まあ一応...」
「では、みんなでお掃除を始めましょうか?」
「待て待て待てっ!!!」
そのままプール掃除を始めようと歩き出したハナコにコハルのツッコミが入る。
よかった...そのまま何事もなく始まるのかと思った。
「コハルちゃん?どうかしましたか?」
「あんた掃除のときは水着でどうして今度は制服なの!?本当に馬鹿なの!?濡れてもいい服ってあんたが言ったんじゃん!?」
コハルのツッコミを聞きながらふと先生のほうを見ると、先生は目頭を押さえながら天を見上げていた。
...先生もどうやらハナコのツッコミに疲れたらしい。
「これがぬれてもいい服ですよ?」
「もうあんたが何言ってるか分かんない!制服が濡れてもいいの!?」
「コハルちゃん...これは各々の美学の問題かもしれませんが...
水着と制服、どちらのほうが濡れた時に"いい感じ"になると思いますか?」
「は、はぁっ!?いい感じって何よ!?何の話!?」
...こいつは何を言っているんだ。
「ふふっ、まあ半分は冗談ですよ。ほら、実は中に着てるんです。お小遣いで買ったビキニの水着♡」
いま、半分って言ったよな?半分本気で制服でやる気だったじゃん。
そんなことを考えていると、ハナコの隣に立っていた先生から「"3枚..."」というつぶやきが聞こえてきた。
ハナコは着替えに更衣室に来なかったし、なんか近くに浦和って書いてる体操服が落ちてる気がするけど、先生の呟きがなんのことなのかは気にしないでおくとしよう。
気にしてしまうと、私も目頭を押さえることになりかねない。
「先ほどコハルちゃんに水着の着用禁止と言われてしまいましたし、確かに学校ではスクール水着のほうが鉄板ですが、今日はこれで許していただけませんか?スクール水着は今洗濯中でして、これがダメだとすると私、下に何も...」
「な、なんで私に判断を託すのさ...!べっ、別に勝手にすればいいじゃん...!?」
「うふふ、ではそういうことで♪あらためて、お掃除始めましょうか!」
色々あったが...ありまくったが。ハナコの号令によってようやくプール掃除が開始されることになった。
「見てください!虹ですよ!虹!」
「ひゃっ!?ちょっ、ハナコちゃん冷たいですよぉ!」
ハナコがホースを持ち、プール内に水をばら撒く。その過程でホースの先がヒフミに向き、ヒフミがそれを受けながらモップを動かしていた。
「ふふっ、トリニティの湖から引っ張ってきている水みたいですので、そのまま口を開けて飲んでも大丈夫ですよ?」
「ど、どうしてこんなことに...」
その後ろでコハルがモップを持ちながら、縮こまっていた。
「こちらのブロックは完遂した。続けて速やかにそちらへ向かう。」
そしてアズサがプール内を駆け回り、あたりの汚れを正確かつ速やかに落としていく。
そんな中、私はプールの縁に座り込んで縁の溝に溜まった汚れを落としながら、みんなの様子を眺めていた。
補習合宿開始当初のハナコからは考えられないほど楽しそうにホースで水をばら撒くハナコを眺めて安心していた。
これならハナコもみんなと打ち解けられそうだな。
ハナコに何があったのかは分からないが、ハナコが落第点を取るような生徒ではなく、勉強ができるというのは周りの評価とこれまでの実績から確定だろう。
これなら私がそこまで心配する必要も無いのかもしれない。
とはいえ、何があったのかは気になるから話はしておきたいのだが。
こうしてみんなでプールの掃除を終えたあと、プールに水を入れ始めたのだが...
プールに水を貯めるのに想像していた以上の時間がかかり、水を貼り終えた時には既に日が暮れてしまっていた。
掃除を終えて制服に着替えた私たちは水の貼られたプールを眺めながら話していた。
「...結局、実際プールに入って遊ぶことはできませんでしたね...」
「そういえば、水を入れるのは結構時間がかかるものでしたね...ごめんなさい、失念していました...」
「いや、謝ることはない。充分楽しかった。」
「そうだよ。ハナコも楽しかったでしょ?泳げなかったとしても、ちゃんといい思い出だよ。」
「...綺麗。」
「そうですね。真夜中のプールなんて、なかなか見られない景色で...」
みんなが月の灯りを反射し、幻想的に光を放つプールを眺めながら感想を口にした。
そんな中、私は一人、少し後ろに下がってみんなの様子を眺めていた。
...今日は、本当に楽しかった。こんなに楽しめたのなんて、イチカ以外では初めての経験だろう。
既にこの4人は私の中で大切な存在になっているのだろう。
私はそれを確かめようと腰にあるホルスターに手を伸ばし...その手は空を切ることになった。
...そういえば体操服に移したんだった。後で戻しておかないとな。
まあそれでも、わざわざ確認しなくてもいいだろうとも思う。
確認するまでもなく4人は私にとって大切な...友達だ。
「"ナナ"」
うわびっくりした。そういえば先生もいたんだった。そんな後ろに黙って回り込まなくても...
「"大丈夫?なにか悩みとかない?"」
「どうしたんですか、急に?特に何もありませんが...?」
「"...そっか。それならいいんだよ。"」
そう言って微笑む先生に私は訝しんだが、先生はそれ以上何も言わなかったので、私は特に追求しなかった。
「ナナちゃーん、せんせーい!そろそろお部屋に戻りましょう!」
ヒフミに呼ばれて、私と先生は横に並んでこちらを眺める4人の元へと歩き出すのだった。
「それでは、お疲れ様でした。」
「お疲れ様。」
「はい、ではまた明日。」
「うん、お疲れ。」
「...お疲れ様。」
部屋に戻って体操服に着替えた私たちはいい時間ということもあり、特に何かをすることもなくそのまま就寝準備を終えるのだった。
「"あっちの部屋にいるから、何かあったらいつでも呼んでね。"」
「はい、ちゃんと覚えておきますね♡」
「だ、ダメ...そういうハレンチなのは、正義実現委員会として...!」
...コハルはブレないなぁ...
「みんなお疲れのようですし、すぐ寝ましょうか。では、おやすみなさい。」
ヒフミの言葉を皮切りに消灯しみんなベッドに潜り込むのだった。
私は自分で思っていた以上に疲れていたらしく、暖かい布団に包まれてすぐ、意識を落とした。
「おはよう!」
聞こえてきたアズサの元気な挨拶とすごい勢いで開けられたカーテンから指す光によって目を覚ました。
「おはようございます、アズサちゃん。朝から元気ですね♡」
「うん、1日の始まりだから。さあ、早く起きて歯磨き、シャワー、それから着替え。順番に遂行していこう。」
はっきりしない意識の中でアズサとハナコが話しているのが聞こえてきた。
...2人とも朝から元気だなぁ...
私はベッドから起き上がると目を閉じたままいつものルートを通って洗面台に...
「あいたっ!」
...たどり着くことはなく、壁に激突して頭を押さえながら蹲ることになってしまう。
そうだった。家じゃないから目を瞑ったままじゃ壁にぶつかるだけなんだった。
「あら、ナナちゃんも朝は弱いんですね。」
「そのまま歩くと危ない。洗面台まで着いていこうか?」
「いや、いいよ...さすがに目が覚めたから...」
私は痛む頭を押さえながら洗面所に向かうのだった。
私が顔を洗い、歯磨きを終えて部屋に戻るとやけに顔を赤くしたコハルがヒフミの後ろからアズサを警戒するように睨んでいた。
「...何があったの?」
「アズサちゃんとコハルちゃんが裸の付き合いをしたんですよ。良いですよね♡」
「裸の付き合いなんてしてない!エッチな言い方しないで!」
...なるほど?なんとなく何があったのかを察した私は苦笑いを浮かべて、まるでネコのようにアズサを睨むコハルを見ながらシャワー室へと向かっていった。
それから朝の準備を終えた私たちは全員で教室に集まっていた。
「お待たせしました。それではそろそろはじめましょうか?」
「は〜い♡」
「うん。」
「う、うぅ...」
「朝から騒がしいなぁ...」
「"ヒフミ、この辺の髪の毛ちょっと跳ねてるよ。"」
「あ、ありがとうございます。少し寝坊してしまいまして...
で、ではなく!皆さんこちらをご注目ください!」
気を取り直したように叫ぶヒフミに、みんなの視線が集まった。
「今日は補習授業部の合宿、その大切な初日です!
私たちは大変な状態で、ともすれば慌ててしまいがちな状況ではありますが...難しく考える必要はありません!1週間後の第二次特別学力試験で合格する!それだけです!」
「そうだな。」「ですね。」「...。」
「...そうだね。」
その1次試験で落ちたのがあなたたちなんだけど...という言葉は頑張って飲み込んだ。
「そこで...今から模擬試験を行います!」
「...模擬試験?」
「なるほど...?」
「きゅ、急に試験!?なんで!?」
「闇雲に勉強しても、あまり効率がいいとは言えません。着実に目標達成するには、何ができて何ができないのか、今どのくらいの立ち位置なのか...まずそれを把握する必要があります!というわけで、昨晩こちらを準備してきました!」
そう言って教室の前に立ったヒフミはプリントの山を教卓に叩きつける。
「昨年トリニティで行われた試験問題と、その模範解答です!まだ中途半端と言いますか、集められたのは一部だけなのですが...
先生も昨日遅くまで手伝ってくださって...第二次特別学力試験を想定した、ちょっとした模擬試験のような形に出来ました!
試験時間は60分、100点満点中の60点以上で合格、つまり本番と一緒です。
さぁ、まずはこれを解いてみましょう!」
「準備できた?じゃあ...試験、開始!」
試験用紙をみんなに配り終わった先生の合図によって試験が開始する。
ちなみに私も一緒に受けている。
勉強の手伝いに来た私が試験不合格、あるいは合格ギリギリというのはさすがに立つ瀬がないので緊張していたのだが、試験問題を見て安心した。
良かった。難しくないどころか基礎も基礎の問題ばかりだ。後半の方には難しそうな応用問題も見えるが、この分なら問題なく合格できるだろうと思ってスラスラと問題を解いていくのだった。
試験時間が終了し、先生の採点も終わったあと。
先生による試験結果の発表がされた。
「"まずはナナからだね。ナナは84点!文句なしの合格だよ、流石だね。"」
「ありがとうございます。」
思ったよりも低かった...応用問題と暗記問題を落としちゃったかな...
「"次にヒフミ、68点!合格だよ、よく頑張ったね。"」
「あ、ありがとうございます...」
ヒフミはちゃんと合格したらしい。まあヒフミはキモ鳥が絡まなきゃちゃんとした子だしね...とはいえやっぱりキモ鳥に構って勉強を疎かにしていたらしく割とギリギリではあるからちゃんと勉強しなきゃだね。
「"次はアズサ、33点。あと少しだったね、もうちょっと基礎を頑張ろう。"」
「...そうか。」
本当にあと少しか...?合格まで倍以上あるぞ。先生甘くないか?
「"次はコハル、15点。...ここから頑張って伸ばしていこう。"」
「...え?」
...コハル?1年の問題だよね?間違えて2年の問題やった訳じゃないよね?
というかそこまで低いってなるとさすがに自覚あるでしょ。何よ、え?って。
「"...最後にハナコ。...4点。......頑張ろっか。"」
「あらまぁ。」
...まぁ、ハナコはなんとなく分かってはいたけどさ...もうちょっと点は取ろうよ...
「...これが、今の私たちの現実です。このままだと、私たちの先に明るい未来はありません...
ここからあと1週間、みんなで60点を超えるためには、残りの時間を効率的に使って行かなければならないのです!
そこで!まずコハルちゃんとアズサちゃんはどちらも1年生用の試験ですので...ナナちゃんにおふたりの勉強内容を見てもらいます!私とハナコちゃんはそのお手伝いをすることにしましょう!ハナコちゃん、最近何があったのかは知らないのですが、1年生の時の試験では高得点だったんですよね?」
「あら?えっと、まあそうですね。」
ヒフミの言葉にハナコが困惑したように答えた。
「実はその、1年生の時のハナコちゃんの答案を見つけてしまいまして...それでハナコちゃんの方については後ほど、今の状態になってしまった原因をしっかりと把握した上で、私と先生と一緒に解決策を探しましょう!」
まくし立てるヒフミにハナコが困惑した顔を向けていた。
...私も詳しくは知らないけど、ハナコが点を取らないのはわざとだ。それは確実だろう。だからここで私がやるべきなのは...
「いや、アズサとコハルの方は私一人で見るよ。ハナコの方はヒフミと先生のふたりで見てあげて。どうして点を取れなくなっちゃったのか、それを探るのに集中しなよ。」
私がそう声をかけるとヒフミとハナコ、両名から視線が集まってきた。
ハナコの方は驚いたような顔を見せている。
ハナコがああやって振る舞う理由は分からないけど、私よりも明るく交流が広いヒフミと、生徒を第一に考えてくれる先生に任せた方が確実だろう。
「そうですか?それではアズサちゃんとコハルちゃんはお願いしますね。」
「うん。そのために私もここに来たからね。
...それじゃあ2人とも、頑張ろうか。」
「うん、よろしく。」
「よろしくお願い...します...!」
私がアズサとコハルの方をむくと2人とも私の方をしっかりと見て返事をしてくれた。
うん、2人ともやる気十分みたいだ。これならすぐ点数も伸びてくれるだろう。
「まだ途中ですが、他にも試験を作成中ですので、今日から定期的に模試を行って、進捗具合も確認出来ればと思っています。
...そして、それだけではありません!なんとご褒美も用意しちゃいました!」
そう言ってヒフミが教室の外から大きな袋を持ってきた。
そこからは色々なぬいぐるみがいつくか出てきた。
...あのキモ鳥もいるな...
「こちらです!いい成績を出せた方には、このモモフレンズのグッズをプレゼントしちゃいます!」
「...モモフレンズ?」
「...何それ。」
ぬいぐるみを見たハナコとコハルが疑問の声をあげた。
「あ、あれ...?最近流行りの、あのモモフレンズですが...もしかしてご存知ないですか...?」
「初めて見ましたね...いえ、どこかでちらっと見た気も...?」
「えぇっ!?」
「なにこれ、変なの...豚?それともカバ...?」
「ち、違います!ペロロ様は鳥です!見てください、この立派な羽!そして凛々しいくちばし!」
「...目が怖い。それに、名前もなんか卑猥だし...」
コハルが今まででいちばん怖い顔を見せながらキモ鳥を睨んでいた。
名前云々はわからんけど、まあ顔はキモいよね。
「えぇっ!?た、確かにそうおっしゃる方も一部にはいますけど...よ、よく見てください。じっくり見てるとなんだか可愛く...」
私はそう捲し立てるヒフミの肩を叩いた。
「ヒフミ...諦めよう。やっぱりこの(キモ)鳥は万人受けはしないんだよ。」
「そ...そんなぁ...」
そう落ち込んだヒフミの視線は、やがてさっきから黙ったままのアズサへと向けられた。
「あ、アズサちゃん...?」
「...か」
「...か?」
「可愛い...!!!」
「「「「!?!?」」」」
アズサはなんと、これまでで見たことないほど顔を綻ばせてぬいぐるみをじーっと見ている。
「か、可愛すぎる...!なんだこれは、この丸くてフワフワした生物は...!!
この目、表情が読めない...何を考えているのか全く分からない...!」
「あ、アズサちゃん...?」「アズサ...?」
「さすがはアズサちゃん!ペロロ様の可愛さに気づいてくれたんですね!そうです!そういう所が可愛いんです!」
「うそぉ...」
テンションを上げて早口にぬいぐるみひとつひとつをヒフミに尋ねるアズサに私とハナコとコハルが驚きを隠せずに盛り上がるヒフミとアズサを見ていた。
「...やむを得ない、全力を出すとしよう。いいモチベーション管理だ、ヒフミ。約束しよう。必ずや任務を果たして、あの不思議でふわふわした動物を手に入れてみせる!」
そう言って鼻息を荒くするアズサに私たちは困惑を隠せずにいるのだった。
ナナが朝に顔面ぶつけたのは私の実体験です。
私はよくアイマスクつけて寝るんだけど、朝とかみんな感覚で家の中うろつかない?あるはずの場所に壁がなくて手がスカったと思ったら顔面から壁にドンだよ。
超痛かったです。
現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?
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いる。
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いらない。
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どっちでもいい。