どうか私を、終わらせて   作:めめ師

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エッチなのはダメ!死刑!

その後、合宿初日の勉強会は夜遅くまで続いた。

 

「ナナ、質問。」

「うん、何?」

「この問題なんだけど。」

「あぁこれね。これはまず補助線を引いていかないと...こうやってここに直角を引いて...」

 

 

「あの、ナナ先輩...この問題なんですけど...」

「おっ、これはね...うん、途中まで出来てるね。あとはこの解を持ってきて...」

 

 

「ナナちゃん、教え上手なんですね。」

「"そうだね。2人ともちゃんと教えられててすごいよ。ナナ、大丈夫?1人で見られそう?"」

「えぇ、問題ありませんよ。2人とも、基礎からしっかり教えていけばちゃんと理解してくれますし、この分ならどんどん進みそうですね。」

 

私が先生の質問にそう返すと先生は安心したように笑みを浮かべていた。

 

「"そっか。ナナは面倒見がいいんだね。"」

「...そう、でしょうか?あまり自覚はありませんが...」

「そうですよ。ナナちゃんは気配り上手ですから!」

「なんでヒフミが得意げなの?...というかヒフミの場合は私を無理やり巻き込むパターンがほとんどじゃん。」

「そ、それは...あうぅ...」

 

話に混ざってきたヒフミがあっという間に意気消沈して自分の机に帰っていく様子を見て、思わず笑ってしまった。

 

「ナナ先輩、えっと...ここの問題なんですけど...」

 

コハルに呼ばれてその問題を見ると先程教えた問題の応用問題があった。

 

「これね。さっきの問題とほとんど同じだから、途中までやってみようか。私が一緒に見てあげるから。」

 

私がそういうとコハルは小さく頷いて、問題に向き合う。

うんうんと唸りながらも少しずつ解いていきと少しになったところでギブアップとでも言うかのように遠慮がちに顔を上げた。

 

「うん、よく頑張ったね。じゃあこの解とここの解を並べて見ようか。」

「これとこれを...あっ...!」

 

コハルは私の言うように余白に少し書き足すと納得したように小さく声を上げた。

 

「どう?わかった?」

「まだ完全には分かってないですけど...この形なら参考書で見たことあるような...」

「おっ、それじゃあ参考書から探してみようか。」

 

私が促すとコハルは足元のバッグを拾い上げ漁り出す。

自分で探して理解して解いた方が覚えるからね。私は人に勉強を教えた経験はないが、ただ答えを教えるだけじゃなく、自分で解かせる様に進めるのは重要だと言うことくらいは理解しているつもりだ。

 

そうやって眺めているとコハルのバッグからとんでもないものが出てきた。

 

上裸の男女が見つめ合う表紙に、その右上にはR18とアダルトオンリーの文字。

 

そう。所謂エ○本であった。

 

コハルはそれに気づかないままに未だ参考書を探してバッグを漁っている。

私が気まずくなって周りに目を向けるとこの教室にいる全員がばっちりとその場面を見ていた。

 

「あ、あのー...コハルさん?」

「ナナ先輩?どうしま...」

 

つい敬語で話しかけた私の口調に疑問を持ったコハルがバッグから視線を外して私を見ようとするのだが、その過程で机の上に置かれたものが目に映ったようで、そのままコハルが固まってしまった。

 

「これは...」

「エッチな本ですねぇ。」

 

アズサとハナコも机から立ち上がりコハルの側までやってきて表紙を眺めている。

 

「うわあぁぁぁ!?な、なんでっ!?」

 

慌てたコハルが本の上に覆い被さるが、もはや手遅れだろう。なにせ全員がバッチリと見てしまっているのだ。

 

「コハルちゃん、それエッチな本ですよね?まあある意味参考書かもしれませんが。隠しても無駄です。R18ってバッチリ書いてありましたよ?」

「ち、違う!見間違い!とにかく違うから!絶対に違う!!」

 

まあ全員が見ているので見間違いとはならないだろうが、さすがにコハルが可哀想なのであまり追求はせずに...

 

「私の目は誤魔化せませんよ、確実にアレなことをする本でした。それも結構ハードな...」

 

と思っていたらハナコがめちゃくちゃ前のめりになってコハルに追求しだした。

やめて差し上げろ。

 

「あ、あの、ハナコ...その辺で...」

「トリニティでも、いえ、キヴォトスでもなかなか見ることができないレベルの内容とお見受けしました。きっと肌と肌が擦れ合い、敏感な部分を擦り合わせ、嬌声が飛び交い理性が飛び去るような...

どうしてそのような本を持っているのですか?確か校則でも禁止されていたと思いますが!?」

 

ハナコは興奮を抑えられないらしく、私の静止を無視してコハルに詰め寄っていく。一方のコハルもパニックになっているのかしどろもどろになって目を泳がせている。

 

「こっ、これは違うんだってばああぁぁぁ!!!」

 

やがて震え出したコハルは叫び声を上げると蹲ってしまった。

 

「そ、その、ハナコちゃん...」

「...やり過ぎてしまったかもしれませんね、本当にごめんなさい...お話が合うかと思ったのですが...」

「うぅ...うぅぅ...」

「えっと、コハルちゃん...

その、正義実現委員会としての活動中に差し押さえた品を、つい入れたままにしてしまった...とか、そういう感じなんですよね?」

 

ヒフミがそう言うとコハルが涙目のままに頷いた。

そういえばコハルは押収品管理係だったな。

 

「なるほど。そういえば、トリニティの古書館の地下にはなにやら、禁書が沢山積まれているという噂の聞きましたし...正義実現委員会がそういったものも含めて、色々と差し押さえているとしても何も不思議ではありませんね。

うーん...であれば、押収品って出来るだけ早く返してしまった方がいい気がするのですが、どうしましょう?」「た、確かに...ずっと忘れてたけど...」

「数が合わなくて騒ぎになる前に、返しに行った方が良いかもしれませんね...」

「それじゃあ、私が返しに行こうか?」

 

私がそういうとみんなの視線が私に集まった。

 

「ただ、私は正義実現委員会ではないし、押収品倉庫にも入ったことないからコハルには案内して欲しいんだけど...それでも一人で行くよりは全然良いでしょ?」

 

こうして私とコハル、ついでにもしもの時のために先生も一緒になって正義実現委員会の校舎に向かうこととなった。

 

 

「そ、その...こ、こればっかりは本当に間違いなんです!」

「...?」

 

移動中にコハルが私たちに向けて声を上げた。

私たちは急な事だったのでなんの事なのか分からず首を傾げるとコハルがしどろもどろになりながら説明を始めた。

 

「いつものはちゃんと隠...じゃなくて、あんまり持ち歩いたりしないし...」

 

私は思わず先生と目を合わせる。

...今、ちゃんと隠すって言おうとした?

先生は少し笑みを浮かべて頷くとコハルに向き直って言う。

 

「"次はバレないように、上手く隠さないとね。"」

「!?!?」

 

おい。それは違うだろ。

 

「な、何を言ってるの!?それ、バレなきゃ持っててもいいって言ってるのと同じじゃん!?せ、先生なんでしょ!?何考えてるの!?エッチなのはダメ!死刑!!」

 

死刑って...罪重いな...ていうか、

 

「その理論だとコハルも...」

「えっ、やっ、違っ!?

わ、私はその...こ、これについては本当に間違いなんです!だからノーカン!」

「"うん、じゃあそういうことにしよう。"」

 

先生がやけにいい顔を見せながら言った。

 

「...!?な、何それ!大人の余裕ってわけ!?」

「"色々あるけど、無理に縛られなくて良いと思うよ。"」

「え...」

「"コハルはコハルだから。"」

「...分かったような、分からないような...

で、でも、先生が私のことを考えてくれるってことは、少しだけわかった...」

 

...なるほどね。これが先生か。

ルールを遵守し、秩序を維持するだけじゃない。真に生徒に寄り添う、正しい大人。

この人だからこそ、以前アビドス高校に手を差し伸べたし、救えたのだろう。借金は未だ残っているとは聞くが、少なくともカイザー関連の問題は解決したらしいし。

 

コハルのことを、生徒のことを認め、それを肯定してくれる。

そうか、先生...あなただったら...私を...

 

「"ナナ?"」「ナナ先輩?」

「あ、あぁ、ごめんなさい。ちょっと考え事してました。行きましょうか。」

 

先生とコハルに呼ばれてハッとしてすぐに表情を取り繕う。

 

コハルはそのまま校舎に向けて歩いていくが、先生は少しの間、立ち止まって私を見ていた。

...あの分だと、きっと取り繕えていないのだろう。

心配させてしまっているのだろう。

だけど、私は何も言わずに、努めて目を合わせずに歩いていく。

 

だってあなたも、みんなのように正しい人だから。

私のわがままで巻き込みたくなんてないから。

触れられたくないキズ、という訳でもないけれど、先生がそう誤解してくれる分には特に気にしない。そうである内は巻き込まなくて、否定しなくて済むのだから。

 

 

「...うん、これでよし。とりあえずひと安心...」

 

押収品保管庫に件の本を返したとき、コハルが一息つくと、保管庫の扉が開いた。

 

「...あれ?どうしてここに?」

「ハスミ先輩!?」

 

ハスミ先輩が入ってきて目を丸くして私たちを見る。

あちゃー、かち合っちゃったかぁ。

 

「それに、先生にナナまで...?確か合宿で別館にいると聞いたのですが、どうかしましたか?成績が良くなるまで、ここへは出入り禁止になっているはずですが...」

「そ、その、違うんです。えっと...」

「"コハルがここに授業で使う書類を置いてきちゃったみたいでね。それを取りに来たんだ。"」

 

先生が間に割って入ってハスミ先輩にそう説明する。

あー、まあ確かにコハルが秘密裏に押収品を所持してたから返しに来た、とは言えないもんなぁ。

 

「なるほど、授業に使う書籍の件で。そういう事でしたら、仕方がありませんね。」

「は、はい。」

「ですが、ある意味ちょうど良かったです。コハルにあらためて伝えておきたいこともありましたし...

先生、ナナ、申し訳ないのですが、少し席を外していただけますでしょうか?...正義実現委員会としてお話したいこと、と言いますか。」

「"うん、分かった。"」「分かりました。」

 

私と先生は隣の部屋で待機することになった。

 

 

...気まずい。どうしようかな、特に話題がないぞ...

先生も黙ったままだし...そうだ!アビドスのことなら...!

 

「先生、」「"ナナ。"」

 

...先生と言葉が被ってしまった。

 

「"ナナから先に良いよ。"」

「あ、いえ、私の方は場繋ぎの話題と言いますか、割とどうでもいいことですので...」

「"そっか、じゃあ聞くけど、ナナはなにか悩んでいるんじゃない?"」

 

...やっぱりそう来るか。

 

「...そう見えますか?特にこれといったものがあるわけではありませんが。」

「"そう、じゃあ...ナナが自分のことが嫌いだっていうのは本当?"」

「...ハナコですか?」

「"...うん。勝手に聞いてごめんね。"」

 

先生は申し訳なさそうな顔をして言った。

 

「特に問題がある訳ではありませんが...本当のことですね。」

「"...そっか。ねぇ、どうして自分のことが嫌いなの?"」

 

どうして、か...これに関しては特に明確な出来事がある訳でもない。何かきっかけがある訳でも。...ただ、

 

「...否定を振りまき、肯定が出来ない自分を好きになる要素なんてありませんよ。」

 

私がそう言うと先生は苦しそうな表情を浮かべて私を見る。

...なんで先生がそんな表情をするんですか。

 

「"ナナ、自分を否定しないで、君にはまだ無限の可能性があるんだから。自分からその未来を閉ざすような事なんて、絶対にしちゃダメだよ。"」

 

未来を閉ざす、か。つまり先生は私が消えたがっているということも知っているんだろう。

 

「...今は死ぬつもりはありませんよ。私を肯定してくれるみんなを、私は否定出来ない。したくない。

...私には、それだけなんですから。」

「"ナナ...でも、っ!?"」

 

先生が話そうとするのを遮って、私はAn Endを抜いて自分の頭に突きつける。

そして、その手は、震えていた。

 

「...昔は、この手も震えてなんかいなかったんです。私は死ぬのも怖くなかった。...いや、違いますね。死ぬのは怖かったです。でもそれは、死ぬことや痛みに対する恐怖だけだった。

...今は、違うんです。私を信じてくれるみんなを否定したくないから。みんなの思いに応えたい...応えたいと思えるようになりたいから。この手は震えている。

 

...未来を閉ざすようなことはしない...と、思います。

ですが、それでも。

私は私を肯定なんて、出来ませんよ。」

 

私がそう言うと先生は固まってしまう。

自分の頭を撃ち抜くという行為は、私たちには痛い、気絶程度で済むものだが、先生にとっては真に死を意味するものだ。きっと頭の整理がしきれていないのだろう。

私が自分の頭を撃ち抜いた時、私の身体があなたのようにヘイローが無いものであれば、こんな後悔も不安も抱えず、苦しまず、この世界から抜け出せていたのだろうか。つい、そのことを羨ましいと、思ってしまう。

 

 

みんなを否定したくないとは、思う。

 

でも、それと同時に、私は私を肯定しない。私を信じない。結局私は、消えてしまいたい。

それは変わらない。きっと私には変えられない。

 

だってこれこそが、私が心から望んだ、私だけの願いなのだから。

 

だから、みんなを否定したくないと思う反面、心のどこかでは、常にみんなに私を諦めて欲しいと思っているのだ。

みんなが私を肯定しなければ、私はようやく私を消せる、殺せるのだから。

 

「先生、ナナ、お待たせしましっ...!?」

「お、おまたせ...ナナ先輩!?」

 

やべ、拳銃を頭に突きつけてるのを見られちゃった。

2人とも走って私に駆け寄ってくる。

 

「ナナ先輩、何してるの!?」

 

コハルが涙目になって私から拳銃を奪い取る。

撃つ気はないから返してねー。

 

「ナナ、あなたはまだ...」

 

ハスミ先輩が、私の頭に手を添えて心配そうな表情を向ける。

そうですよ。私はまだ消えたい。それはずっと変わらない。

 

「...すみません。なんでもありませんよ。...コハルの用事が終わったんですよね?帰りましょうか。まだ勉強が残っているでしょう?」

 

私はそう言ってコハルから拳銃を渡してもらうと部屋を出ていこうとする。

 

「"ナナ。"」

「...どうかしましたか。」

「"君が自分を肯定出来なくても、私がナナを肯定してあげるからね。"」

「...そうですか。...それは...ありがとうございます。」

 

自分を肯定してくれる人がまた一人増えたという事実に、私は感謝(落胆)しながら部屋を出ていくのだった。

 

 

 

...帰路一緒じゃねぇか!!超気まずい。

コハルも先生も黙ったままで、私は冷や汗をかきながら2人の後ろを歩いていた。

 

「せ、先生!そういえばアビドス高校の人達は大丈夫ですか!?」

 

思わず声が上ずってしまった。コハルが首を傾げながらこちらを見る。

ごめん!コハルにわかる話題を出せなかったけど、もうこの空気に限界だったんだ!

...この空気作った原因私なんだけどね。

 

「"アビドスの子達なら元気にやってるよ。まだ借金は残ったままだから忙しそうにしてたけどね。

...そういえばあの時、ヒフミとナナも手伝ってくれたんでしょ?ありがとうね。"」

「そうですか...成り行きとは言え、あのまま何もしないわけにはいきませんでしたからね。」

 

ずっと首を傾げたままのコハルには悪いけど、どうにか地獄みたいな空気は変えられたようでほっとひと息つくのだった。




多分正実の先輩がいたらコハルはエリート面しないと思うんだ。
...さすがにしないよね?
急にエリートだから!とか言い出したらナナは「...落第したのに?」って言っちゃうよ。ちょっとノンデリなんだからナナは。

現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?

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  • いらない。
  • どっちでもいい。
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