「遅い!おはよう!」
私とヒフミ、ハナコ、コハルが朝の準備を終えて教室に行くと既にアズサが机に向かっており、私たちを見るなりそう言った。
「あ、アズサちゃん。早いですね?」
「日が昇る頃には、既にここで予習と復習をしていた。」
「朝から居ないと思ったら...張り切るのはいいけど、休息も大事だからね。」
「分かっている。だが今日も模擬試験がある。だよね、ヒフミ?」
「はい、そうですね。アズサちゃんはその様子ですと、もう模試への準備は万全という感じですね?」
「うん。第2時学力試験まで2日しか残ってないし、いつまでもみんなに心配をかける訳には行かない。そして、今回こそ...!」
そう言ってアズサは拳を握り、部屋の隅に置いてあるぬいぐるみの山を見た。
あぁ、やっぱりそれがあるから気合入ってるのね...まあ、やる気があるならいいことだ。
「では、せっかくの勢いですし、早速模擬試験を始めましょうか?」
その後、そのままみんな席について模擬試験を実施した。ついでに私も一緒に受けることになった。そしてその結果は...
ハナコー69点(合格)
アズサー73点(合格)
コハルー61点(合格)
ヒフミー75点(合格)
ナナー93点
「や、やりました...!?」
「ほ、本当!?嘘ついてない!?」
「...!」
「あらあら♡」
先生の発表した結果を受けて、私は思わずハナコの方を見た。
ハナコが合格点をとってる...?
私と目が合ったハナコは笑みを崩さず、わざとらしく「あらあらうふふ...♡」と言っていた。
でも、その表情はわざとらしい笑みではなく、ちゃんと楽しそうなものだった。
...何があったのかは分からないけど、ハナコはわざと落第点を取るのをやめてその原因になった問題に向き合えるようになったのだろうか?もしそうなんだったら...それはいいことだ。後でハナコと話しておこう。
「す、すごいです!アズサちゃん、60点どころか70点を超えてしまいました!本当にすごいです!頑張りましたね...!」
「...うん!」
「コハルちゃんも!ギリギリでしたが、これは紛うことなき合格です!すごいです!やりましたね!」
「ゆ、夢とかじゃないよね...?ほ、本当に...!」
「それに、ハナコちゃんも...」
「...運が良かったですね、うふふ。いい感じの数字です♡」
いい感じの数字?69ってなにか意味のある数字なんだろうか?
...というかもしかしてだけどハナコ、狙った点数を取ったのか...?先生に頼んで配点表示消してもらったのに...!さすがは天才と言ったところか...
「ナナちゃんも、流石ですね!93点だなんて、本当に...!」
「わ、私は別にいいよ。みんなに教えていく中で自分でも復習ができたってだけだし。」
「...ということで、約束通りモモフレンズグッズの授与式を始めますっ!」
教卓に立ったヒフミの宣言にアズサが目を輝かせる。
一方私とハナコは苦笑いを浮かべ、コハルはまるで親の仇を見るような鋭い視線を向けていた。
...コハル、どうしたの?
「さあ、どうぞ!みなさん好きな子を、欲しい子を自由に選んで良いんですよ!」
「なるほど、となると...むむ...!」
「えっと...私は謹んで遠慮しますね。」
「わ、私も...」
「私もいいかな...ほら、これ合格点とった褒美としてだけど、私は別に元々合格点取ってたし...」
というかこのモモフレンズ、なんか見てるとヒフミに振り回されたことを思い出してちょっとイラッとしちゃうし。
「あ、あうぅ...そう、ですか...」
「ど、どうしよう...私は、私は...!ダメだ、この中から選ぶなんてそんな難しいこと...!
あの黒くて角が生えたのも良いし、メガネのカバも...!」
「か、カバではなく、ペロロ様は鳥なのですが...」
「どうすれば...このどちらかを選ぶなんて、私には...!私には、無理だ...頼むヒフミ。ヒフミが私の代わりに選んで...。」
アズサは相変わらず、ぬいぐるみの山にテンションを上げているようだった。そしていちばん大きなドクロのお面(?)を被ったぬいぐるみと、メガネをかけたキモ鳥の二択で迷っているようだった。そのふたつならまあドクロの方だな...
「えっと、スカルマン様とペロロ博士ですよね。強いて選ぶとすると...
...ではこちらの、インテリなペロロ博士でどうでしょうか!」
「...よし!じゃあこの子だ!」
アズサはヒフミの選択に納得し、メガネキモ鳥のぬいぐるみを受け取るとそれを強く抱きしめる。
「実はこのペロロ博士は、物知りで勉強もできるという設定なんです。まさに今お勉強を頑張って、すごい成長している真っ最中のアズサちゃんにピッタリかなと!」
「なるほど、そうなのか。」
「ちょ、ちょっとだけ勉強をしすぎたせいで、少しおかしくなっているという裏設定もあるのですが...」
...表情からして元々おかしくなってそうだけど...
「"良かったね、アズサ。"」
「うん、気に入った。本当に可愛い、好き。えへへ...ありがとう、ヒフミ。これは一生大切にする。」
アズサはより1層強く、ぬいぐるみを抱きしめると顔をだらしなく緩ませる。
アズサのこんなに緩んだ表情は初めて見た。
キモ鳥の可愛さには同意できないけど、幸せなのなら良かったな、と思う。
「うーん...趣味の世界は広いですねぇ。」
「そうだね。まあ、本人たちが楽しめてるならいいんじゃないかな。」
ぬいぐるみの話で盛り上がる2人を見て困ったように笑うハナコに私は同意した。
その日は、そのままの勢いでみんな勉強に力を入れていた。
アズサは早速とばかりに貰ったぬいぐるみを抱きしめながら、時折ぬいぐるみを撫でながら机に向き合っていた。...ぬいぐるみよりもアズサの方が可愛いな...
その日の夜のこと。
私はハナコを誘って合宿所の外に散歩に出ていた。
「ナナちゃん、どうしたんですか?急に散歩に行こうだなんて...もしかして2人っきりで...そんな、外でなんて...♡」
「ハナコ。」
これ以上しゃべらせると何を言い出すか分からないから、早速本題に入ろうとハナコに話しかけると、真面目な内容だと察してくれたのか、ハナコも黙って私の言葉を待ってくれた。
「ハナコに何があったのか、どうしてバカなフリをしていたのか、私は知らない。多分だけど、ハナコは落第点を取って学校を辞めたかった...んだと思う。
...それでも今日、模擬試験とはいえ合格点を取ってくれて、良かった。私はハナコのことを、何も知らない。それでもハナコは、私を肯定してくれた人だから。
大丈夫だから、ハナコ。私は、私たちは、ハナコの、友達だから。」
ハナコは今日、模擬試験で合格点をとった。きっとハナコの中では、自分の悩みと向き合えたんだと思う。
私の言葉は、前を向けたハナコの悩みを掘り返すものかもしれない。
結局は自己満足なのかもしれない。いや、かもしれない、じゃない。
自己満足なのだ。言わなくてもいい言葉。伝えなくてもいい思い。
だとしても私は、言わずにはいられなかった。
補習授業部の手伝いをしている理由の一端が、ハナコの行動に起因するからかもしれない。彼女に伝えた通り、私を肯定してくれた人だからかもしれない。
理由は分からないけれど、私は自分のこの行動を無駄なことだと、意味の無いことだと否定する気にはなれなかった。
「...ありがとうございます、ナナちゃん。」
ハナコは憑き物が落ちたように微笑みながらお礼を言ってくれた。
伝わった、のだろうか?
なんにせよ、ハナコはきっと前を向けた。それは正しいことで、私の肯定できなかったもの。
ハナコは、救われたのだろうか...?
「...
「...?なんて言った?」
「いえ、何でもありません♡もうちょっと一緒に歩きませんか?」
「うん、いいけど...気になるなぁ。」
「秘密です♡」
その後、散歩を追えての帰り道。
私とハナコは見事にアズサの仕掛けたブービートラップに引っかかり、爆発を食らうのだった。
「...アズサ、明日の勉強は覚悟しておいてね。」
「す、すまない...」
それから数日後。
「...いよいよ明日です。」
「う、うん...」
「第二次特別学力試験。」
「ふふっ、なんだかあっという間でしたね。」
ヒフミの言う通り、明日はいよいよ第二次学力試験の日だ。
ヒフミとコハルは表情を強ばらせて、緊張した様子を見せている。対してアズサとハナコはリラックスしている様子だ。
そして多分、学力試験を受けない私も、おそらく緊張している。だって、合宿までして準備してきた試験だ。
自分のことではないとはいえ、やはり気を張ってしまう。
「そうだね...模試の結果も、あれからみんな安定して合格出来てる。みんなならきっと大丈夫だよ、応援してる。」
「はい、ありがとうございます、ナナちゃん。
...1週間という短い間でしたが、私たちはきちんと努力を積み上げました。これは必ずや無駄にはならないと信じています。ナナちゃんの言うように今の私たちであれば十分に、第二次学力試験に合格できるはずです!
ですが!慢心することなく、最後まで頑張らないと行けません!あと1日、最善を尽くしましょう!!」
ヒフミの言葉にみんなが気合いを入れ直した。
その後、私たちはラストスパートと言わんばかりにみんな集中して机に向き合っている。
最初の頃は基礎のページばかり開いていたコハルもアズサも、今では応用問題のページを開き、少しづつながら自分の力で問題を解いている。
ヒフミは応用問題のページを、対して詰まることなく次々と問題を解いていく。
ハナコは...相変わらず教科書を開いてはいるものの、ニコニコと他三人が勉強している様子を眺めていた。
...まあハナコなら大丈夫だろう。
あれ以降の模擬試験でもずっと69点を取り続けていた。
...コイツほんとに点数狙ってたのか...
次やる機会があったら先生には全部偶数点の問題にしてもらうとしよう。
「本日もお疲れ様でした!明日はついに、第二次学力試験です!この一週間の合宿で、私たちはしっかり合格できるだけの実力を身につけられたはずです!」
「うん。」「はい♪」「そうねっ!」
「"うん、みんな本当に頑張ったね。"」
本当にそうだ。この一週間でみんな本当に見違えた。
特にコハルとアズサ。私が直接教えていたから贔屓も入っているかもしれないが、2人の成長具合は本当に誇れるものだと思う。私も後でイチカに自慢しよう。
「あとはしっかり試験に合格し...堂々と補習授業部を卒業するだけです。今までの勉強が無駄ではなかったことを、きっちりと証明しに行きましょう!そして最後は、みんなで笑ってお別れできるように...!」
「...そうか。合格したら、もうお別れか...」
「ちょ、ちょっとアズサ!?どうしてそんな急にしんみりするわけ!?」
「なるほど。合宿も含めて、なんだかんだすごく楽しかったですもんね?」
「...ああ。いや、それでもやっぱり、出会いがあれば別れもある。全ては、虚しいものだ。」
それ、久しぶりに聞いたな。バニ...何とか。思えばアズサも悲観的な言い回しをいつの間にかしなくなっていた。
「...そこまで思う必要はないと思いますよ。アズサちゃんも含めてみんな、試験が終わったらどこかに行ってしまう訳じゃないでしょう?補習授業部が解散しても、皆同じ学園にいるんですから。会おうと思えばいつでもすぐ会えますよ。」
「ほ、ほら!私はいつも正義実現委員会の教室にいるから!ひ、暇な時があったら来れば...?」
「...うん。」
「えっと...気持ちとしては同じなのですが、とりあえず試験に合格することが先決と言いますか、なんだか急に青春ドラマのエンディングになっているような...」
「言い得て妙だね。ほらみんな、今日は早めに休んで、明日の試験に備えないと。寝不足で合格を逃すだなんてベタなことはやらないでよ?」
「もちろんだ。全力で休ませてもらうとしよう。」
全力で休むって...
「...そういえば、明日の試験会場って前と同じところ?」
「あ、そういえば告知をまだ見ていませんでした。えっと、トリニティの掲示板っと...
.........え。えぇっ!?」
その時、ヒフミが急に驚きの声をあげた。
「ヒフミ?どうかした?」
「え、嘘っ!?嘘ですよね!?」
「ヒフミちゃん...?」
ヒフミの反応が気になった私とハナコはヒフミが驚愕の表情で眺めるスマホ画面を覗き込んだ。
「えーと、補習授業部の第二次特別学力試験に関する変更事項のお知らせ...?」
「試験範囲を既存の範囲から約三倍に拡大...?また、合格ラインを60点から90点に引き上げとする...?」
「はぁっ...なにそれ!?」
「わ、私でもまだ、90点なんて超えたことないのに...」
「なにこれ...こんな、まるで...」
絶対に合格なんてさせないみたいな...
「...なるほど。私たちの模擬試験の結果を、ナギサさんが何かしらの手段で把握したみたいですね。
露骨なやり方ですねぇ...どうしても私たちを退学にしたい、と...」
「...退学?」
「えっ、た、退学!?ちょっとどういうこと!?」
「...ハナコ、教えて。」
「そのお話もそろそろお伝えしようと思っていましたが...その前に、他にも変更された部分がありますね。」
私はその言葉を聞くと、再びヒフミのスマホ画面へと目を移した。
「試験会場及び開始時間の変更...試験会場は、ゲヘナ自治区第15エリア77番街、廃墟の1階...は???」
「...ゲヘナ?......ゲヘナで試験を受けるんですか!?!?」
どうやら、特別学力試験は私が思っていた以上に"特別"なものだったらしい。
これ以外にも2つ作品を書こうと手を出したらそっちに熱が入っちゃった。
こっちも疎かにしないように頑張ります...
現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?
-
いる。
-
いらない。
-
どっちでもいい。