「もう嫌っ!」
第二次特別学力試験翌日の合宿所、教室内にて。
「こんなことやってらんない!わかんない!つまんない!めんどくさい!!」
「コハルの言いたいことも分かるよ...私もなんかもう全部だるくなってきた。もう生徒会長ふん縛って脅せば良くない?退学させるなって。」
コハルが不貞腐れて机に突っ伏して叫んでいた。
ついでに私も隣で椅子を並べて寝転んでいる。もうなんか面倒くさくなったのだ。
「えっと、その...こうして集まっているのは、そもそも退学せずに済むようにするためですし...とりあえずその、今はみんなで知恵を寄せ合って、何かいい方法を探さないと...
そうしないと、1週間後には本当に仲良く全員退学、なんてことに...」
「だから言ってるじゃん。生徒会長縛りあげようって。」
「ナナの案も悪くない。一考の余地があるな。」
「ありませんよっ!?」
「知恵を寄せ合う...なるほど。悪くはないのですが、あまりグッと来る感じではありませんね。もう少しこう、何か...
ここは例えば、そうですね...弱くて敏感な部分を寄せ合う、という形でいかがでしょう?」
「い、いきなり何言ってんの!?下ネタはダメ!禁止!死刑!!び、敏感な部分って、何をどう寄せ合おうって言うわけ!?」
ハナコのいつものにコハルが反応してギャアギャアと声をあげている。
コハル元気だね...私はもう突っ込む気力すらないよ...
「ああ、ちょっと分かりにくかったですか?では、実際にやって見せましょうか。もう少しこう、足を開いていただいて...」
そう言ってハナコがゆっくりとコハルに近づいていく。
あーあ、言わんこっちゃない。
「えっ、えっ!?や、やめて!近づかないで!知らないし分かりたくもないしまだ早いからっ!!」
「えいっ♡」
「や、やめっ...!やめてぇ!たっ、助けて先生!
わっ、私が悪かったです先輩相手にタメ口ですみませんでした!もう許してやめてっ、それはまだ嫌ぁーーー!!!!」
「なるほど、そういう制圧術もあるのか。白兵戦で使えそうだ...勉強になった。ただ、無駄な動作が多い気がするな。私ならあと2テンポ前の段階で、関節を決めてる。」
「限定的すぎるし、普通に敵相手にそんな悠長なことやってる暇ないでしょ。ていうかそもそもあれコハルをからかってるだけだから。」
ズレた感想を述べるアズサに椅子に寝転がりながら指摘した。
その後、先生の説得にとって何とか私たちは勉強を開始するのだった。
やる気は出ないけど、このままみんなが退学だなんて言うのも許せないもんね。
『...退学!?なんすかそれ!?』
「やっぱそうだよね...しかも試験自体もゲヘナで真夜中に実施したり温泉開発部が邪魔してきたりで、到底合格させようだなんて気が感じられないんだよね。」
『うわぁ、ほんとひどいっすね...ナナは大丈夫なんすか?』
「私は特に。補習授業部のみんなの方が心配だよ。」
『うーん...ティーパーティーの人が陰湿だってのはよく聞くっすけど、そこまでだとは...私も今は、エデン条約で留守にすることの多いハスミ先輩の代わりにゲヘナ以外との外交関係を任されてるっすからね。手は開けられないっすね。』
「そこまでしなくていいよ。...というかイチカも出世したねー。次期委員長候補だって噂は間違って無さそうだね。」
夜、私はイチカと電話をしていた。補習授業部の...というより特別学力試験の愚痴だったり、イチカの近況であったりだ。
『買いかぶりっすよ。私はまだツルギ先輩には届かないっす。』
「あれはツルギ先輩がイレギュラーだと思うんだけど...」
『まあそれはそうっすね。...もし私が委員長になるなら、副委員長はナナが良いっすね。』
「あははっ、それこそ買いかぶりだよ。私はそもそも正義実現委員会を辞めてるし、副委員長なんて柄じゃないし。」
『...謙遜し過ぎっすよ。』
そんなつもりはないんだけどなぁ。
それからまた、互いの近況報告や、遊ぶ約束だったりを話した。
それから部屋に戻ってくるとみんながいた。
「ぐすっ...無理、絶対無理よ...ここまですっごい頑張ったのに、これ以上なんて...頑張ったもん...これ以上は、私にはもう無理...私、バカなのに...無理だって...うぅ...」
「コハル...」「コハルちゃん...」
コハルが泣いていた。話を聞くに、おそらく試験範囲拡大と合格点引き上げについて嘆いている様子だった。
「コハル、大丈夫。絶対大丈夫。あと1週間頑張ろう?
コハルはこれまで頑張ってきて、頑張ってこれて、あんなにも成績が上がったんだよ。コハルが出来る子なのはみんなわかってる。あとは...コハルが自分の実力を証明するだけ。でしょ?」
「うひゃっ、ナ、ナナ先輩......う、うん。私も...頑張る...」
私がコハルを抱き寄せながらそう慰めるとコハルが顔を赤くしながらも、頷いてくれた。
安心してよ。ハナコと違ってエッチなことなんかしないから。
「ナナ、慰めるのが上手いな。」
「...罪作りな人ですねぇ。」
最終特別学力試験まで残り6日。
「ナナ、これは?」
「これは前の問題と連動してて...」
「ナナ先輩...ここ、分からなくて...」
「いいよ。これは文法の作り方がちょっと変則的でね?」
模擬試験結果
ハナコー100点(合格)
ヒフミー85点(不合格)
アズサー78点(不合格)
コハルー70点(不合格)
「うぅ...まだ全然...」
「前回よりも上がっている。あと少しだ。」
「私も...まだ合格点に届かないです...」
「皆さんちゃんと点数上がっていますから、このまま頑張りましょう?」
「そうそう。まだ時間はあるから、やれることをどんどんやっていこう!」
残り4日。
「ナナ先輩...ここは...」
「あー...なんだっけ、ごめん忘れちゃった。ハナコ分かる?」
「分かりますよ♡ここはこうで...」
「あーそんなのあったなぁ。」
「ナナ、ここは?」
「これは...えっとね、ちょっと待ってね?一緒に解こうか。」
模擬試験結果
ハナコー100点(合格)
ヒフミー90点(合格)
アズサー84点(不合格)
コハルー82点(不合格)
「惜しかったか...」
「...!上がってる!」
「やった...!90点、合格です!」
「やりましたね、ヒフミちゃん!アズサちゃんもコハルちゃんも、あと一息です!」
「うん、みんな頑張ってるもんね。もう少しだよ!」
残り2日。
「ナナ、これ...」
「任せて!私も勉強してきたから!」
「ナナ先輩...」
「はいはい、これはね...」
模擬試験結果
ハナコー100点(合格)
ヒフミー96点(合格)
アズサー93点(合格)
コハルー90点(合格)
「「「「「...!!!」」」」」
「やった...!」「ついにか。」「やりました!」「うふふ♡」「...みんなおめでとう、あとは本番でやりきるだけだね。」
「...ついに明日、ですね。」
「はい...。」
「...」
「ま、まさかまた急に、色々と変わったりしないよね?」
「はい、場所も時間も変わっていません。
...むしろ気になる点といえば...昨日から本館が不自然なくらいに静かなことです。人気がピタッとなくなってしまったようで...念の為に今晩も、私の方で掲示板をずっと見ておきますね。」
「いや、ハナコは休んで。掲示板は私が見ておく。みんなは気にせず、ゆっくり休んで。」
「...それではお願いしましょうか♡」
この数日間本当に忙しかった。私の方も途中から範囲拡大のせいで難しくなってきて、私も徹夜で勉強してたし。
「まだ、90点ギリギリですが...明日の試験問題が簡単だったら、きっと...」
「...っ!そ、そんな都合のいいこと起きるわけない!!私はまだまだ深夜まで勉強するから!
100点!100点取れれば、誰の文句なんて言えないでしょ!?」
「こ、コハルちゃん...気持ちは分かりますが、今日はもうゆっくり休んだ方が...」
「そうだよコハル。コハルがどれだけ頑張ったのか、私は、みんなも知ってる。大丈夫、コハルは合格出来るよ。それよりも、今日はもう休んで、明日に備えよう?」
「うぅ......分かりました...」
私がそう言うとコハルは頷いてくれた。
コハルならきっと大丈夫。
あれだけ頑張って、成績を上げてきたんだから、コハルが結果を残せない訳がない。
私はコハルの頭を撫でながら心の中で唱える。
私も、不安なのだ。あそこまで全力で、勉強を頑張ってきて、ようやく合格ラインギリギリ。加えてハナコの言っていた明日の試験会場での不安要素。
ティーパーティーはあそこまでしてみんなを合格させまいとしていたのだ。これから更に何もないだなんて思えない。
また試験会場が急遽変更されるかもしれない。合格ラインが今度は100点まであげられるかもしれない。
それでも、私にできることはもう、みんなを信じてあげることだけ。
みんななら絶対に合格できると、自分に言い聞かせることだけだから。
夜中、私が掲示板を確認するために部屋の外にいた時のこと。
ガチャ
...ドアの音?
私が聞こえてきた音に反応してそちらを向くと、アズサが歩いていくのが見えた。
どうしてかを問うためにアズサの後を着いていこうとした時、同じくアズサの跡をつけるハナコがいた。
「...ナナちゃん...ですか。」
「こんばんは、ハナコもアズサを気にして?」
「はい。アズサちゃん、いつも夜遅くに出ているようで...」
それからハナコと一緒にアズサの跡をつけていると、校外の廃墟でアズサが知らない人と会っている様子が見えた。
「アズサ、日程が変わった。明日の午前中だ、約束の場所で命令を待て。」
「ま、待ってサオリ、明日は...」
「何か問題が?」
「ま、まだ準備が出来てない。計画よりも日程を早めるのは、リスクが大きすぎる。」
「いや、明日決行だ。これは確定事項、しっかり準備をしておけ。」
準備...計画...一体なんの話を...?
そう思ってハナコに視線を向けるが、ハナコは首を横に振った。ハナコも分かっていないらしい。
「明日になれば、全てが変わる。私たちアリウスにも、このトリニティにも、不可逆の大きな変化が起きることになる。
...トリニティのティーパーティーのホスト、桐藤ナギサのヘイローを破壊する...そのためにお前はここにいるんだ。」
「「...!!!」」
驚きすぎると声すら出ないというのは事実らしい。今はむしろ、それに感謝をした方がいいだろう。
ヘイローを破壊する。
それはつまり、ここキヴォトスにおいて絶対の、一番の禁忌、殺人を行うという意味であった。サオリと呼ばれた人は...アズサも。それを目的としている。そういう内容の話だった。
「...お前の実力は信頼している。上手くやれ、百合園セイアの時のように。」
「...わかった。準備しておく。」
「アズサ。...忘れてないだろうな、vanitas vanitatum。」
「...全ては虚しいもの。どんな努力も、成功も、失敗も...全ては最終的に無意味なだけ。
...1度だって、忘れたことはない。」
サオリと呼ばれた人とアズサが廃墟を去ってから、私たちはしばらく声を出せなかった。
「...今のって」
「えぇ...本当のことでしょう。計画も、目的も。」
「アズサ...」
「...すみません、私は少し行かなければ行けないところがありますので、お先に失礼します。ナナちゃんも早めに戻って休んでくださいね。」
それから私は、しばらくその場を動かなかった。
アズサ...ヒフミの言っていた、トリニティの裏切り者はあなたなの?あなたの目的は殺人なの?
それから私はふと、スマホの画面を開く。
画面に映るのは、トリニティの掲示板。
第3回特別学力試験の会場、時間、試験範囲に合格ライン。いずれも変更なし。
幸いだと、思うべきなのだろうか?
明日試験を受けて、それでみんな合格して、それで終われるのだろうか?
バニタスバニタータム。あの二人が言っていたこと。
全ては虚しいもの。全ては無意味だと。
アズサの真意は、どこにあって。
生徒会長は、何を目指していて。
トリニティは、何処に向かっていて。
私たちの努力は、思いは、喜びは。
何のためで。何をすればいいのか。何が正しいのか。
私には、分からなくなっていた。
「バニタス...バニタータム...
全ては...虚しい...」
呟いた言葉は、やけに真っ直ぐに、私の心に突き刺さった。
それから少しして...1人取り残された廃墟に、銃声が1つ、鳴り響いた。
ぐああああ!!!久しぶりにナナが曇っちゃったあああ!!!
エデン条約暗いよ...これでまだ序の口とかまじ???
現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?
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いる。
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いらない。
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どっちでもいい。