「ナナ、起きて。」
掛けられた声に目が覚めた。
そうだ、昨日廃墟で、そのまま眠っていたらしい。
頭が痛い。そういえば、自分で頭を撃ったんだったな...
いまだ眠い目を擦り体を起こすと、そこにはイチカがいた。
「良かった...なんでこんなところで寝てたの?」
「...!みんなは!?試験は...!!」
ようやくはっきりとしてきた頭で認識する。
もう既に日が昇りきっている。特別学力試験は、補習授業部のみんなは、アズサは。
「落ち着いて、ナナ。一から説明するから。」
それからイチカの説明を聞くと、昨晩から色々と...本当に色々なことがあったらしい。
まずは正義実現委員会による試験会場の完全封鎖。
これはティーパーティーの指令によるもの。再度補習授業部の学力試験を邪魔しようと用意されたものらしい。
次に補習授業部によるティーパーティーホスト、桐藤ナギサの襲撃及び誘拐。
どうしてそうなった。
次にアリウス分校...トリニティ総合学園結成時に爪弾きにされたらしい学園による学園襲撃。目的は桐藤ナギサのヘイローの破壊。
これは昨晩、アズサともう1人が話していた内容のことだろう。アズサはアリウス分校出身の生徒だそうだ。
次にティーパーティー、パテル派の首長である聖園ミカの裏切り。アリウス分校を率いて補習授業部を襲ったらしい。これも目的は桐藤ナギサ。アリウス分校を指揮してヘイロー破壊の計画を立てたのは彼女だそうだ。
そしてそれらは最終的に、補習授業部と先生、そしてシスターフッドによって制圧、捕縛されたとの事だった。
そして最後。補習授業部の特別学力試験。これは無事に実施され、その後全員が合格点を上回り、無事に合格したとの事だった。
私はそれらを聞いてあまりの情報量の多さに混乱しながらも、補習授業部全員の試験合格という分かりやすい事実だけを受け止め、安堵の息を吐いた。
「...とりあえず、補習授業部の人達に連絡を入れた方がいいよ。みんな心配してたから。」
私はそう言われ、スマホの電源を入れて驚いた。大量のメッセージと着信が溜まっていた。まるでブラックマーケットに居た時のようだ。
「...うん。そうだね。」
私はメッセージのうちの一つ、白洲アズサという名前を見つめ、呟いた。
「じゃあ、生徒会長のヘイローを破壊するっていうのは?」
『実際に計画していたことだ。そして私も、その作戦に参加する予定だった。』
「...ところを、裏切ってその前に保護したと...」
『あぁ。』
私はアズサと電話をして、様々な事実確認をしていた。
色々と聞きたいことが多すぎるのだ。メッセージではとても足りない。
どうやら周りには補習授業部のみんなもいるらしい。
「そっか。それなら...良かった。」
『すまない。私はナナも、騙していた。』
「別にいいよ、アズサはやれることをやったんでしょ?」
『そうだが...だとしてもだ。』
「それよりも、試験合格おめでとう、良かったね。みんなにも伝えておいてくれる?」
『...了解した。』
私は半ば無理やりに話題を変えて、そのまま電話を切った。
あのまま、アズサと話していられる自信がなかった。
アズサから教わった言葉、バニタスバニタータム。全てが虚しいという言葉。それは私にとって自分を否定する、自分をあきらめるのにピッタリな魔法の言葉として心に残っていた。
アズサはその言葉を唱えながらも、それを理由に諦めることはしないと、付け加える。
その事実はまるで、アズサと私が違うのだと、みんなと私の違いを突きつけられているようで、嫌になる。
そんな中でも私は。
全てが虚しい。全ては無意味だ。
これが世の中の心理でなくとも、私に適用されるものであって欲しいと思ってしまう。
久方ぶりに襲ってきた自己嫌悪にため息を吐きながらも、私は外で待ってくれているイチカと一緒に帰るために、歩き出した。
「...ナナ、また自分を撃ったっすね?」
「...バレたか。」
「バレたか、じゃないっすよ。...何があったんすか?最近は...」
「別に、私は変わってないよ。アズサ...友達のことも、生徒会長のことも、トリニティのことも。なんにもわからなくなって、諦めたくなっただけ。
...バニタスバニタータム。ただそれだけ。」
「ばに...?なんすか、それ?」
「全ては虚しい、無意味って意味なんだって。まるで私のための言葉みたい。」
私はそう言いながら自虐的に笑う。
最近はなりを潜めていたけど、私は本来こういうものだ。
「そんな、否定的な言葉、鵜呑みにしちゃダメっすよ。虚しいだなんて、無意味だなんて否定するもんじゃないっす。意味を持たせるのは自分っすから。
...もちろん、ナナがそう思うなら私が意味を持たせるっすから。」
「...そっか。」
イチカはこの言葉を聞きながらも、諦めずに意味を求めた。求めない私に対しても意味を持たせようとしてくれた。
そういう人だと言うのは、分かっていた。私が諦めるなら、諦めないように私を肯定してくれる。
でも、その言葉は、肯定は。
やはり私を隔絶する。
アズサも、イチカも、おそらく先生も、他のみんなも。
私とは違う。否定の言葉を聞いて、肯定の理由を探す。
前を向く、向ける。
私とは違うのだ。
アズサたちはバニタスバニタータムがこの世の真理だと言っていたが、きっとそうではない。そうではないから、みんな前を向く。肯定する為に歩き出す。
それでいい。それがいい。
虚しいだなんて、無意味だなんて。みんなにはふさわしくない。似合わない。正しくない。
「ナナさん、どうか貴方にも謝らせてください。申し訳ありませんでした。」
私はティーパーティーの校舎、件の生徒会長に呼び出されたかと思えば、急に謝られて困惑していた。
「...どうして私に?」
「補習授業部にあなたが協力をしていたという話は聞いています。第二次特別学力試験の際に、貴方もゲヘナに赴いて補習授業部の皆さんと戦ったと聞きました。
それは、あなたも巻き込んでしまったのと同じで...」
「別に、私が好きでやったことです。謝られる理由もありません。
確かに、露骨な妨害は不快感を覚えましたが、もう既に他のみんなは許したのでしょう?それなら私が言うことなんて何もありません。」
「それは...いえ、すみません。ありがとうございます。」
生徒会長さんはそう言って頭を下げた。
まあ、それもあるんだけど、生徒会長さんのことが心配だったって言うのもある。化粧で誤魔化せないほど目の隈ものすごいし。
補習授業部を作ったのも、妨害していたのも、事情が色々とあったらしいし。やっぱこんな生徒数の多い学校で生徒会長なんかやってたら大変なんだろうなぁ。
...なんか本来三人体制のはずなのに、1人は入院、もう1人は裏切りで拘留されてるらしいし。
あれから数日後、休日でひとり家で過ごしていた時のこと。急になったイチカからの電話を取る。
『ナナー!助けてくださいっす!』
「...珍しい、どうしたの?」
『ちょっと誰かさんに備品の戦車を盗まれちゃって...うわっ!なんつードリフト!?』
「...とりあえずわかったから行くよ。どこに行けばいい?」
『位置情報共有するっす!』
イチカから送られてきた位置情報を頼りに校外へと向かうのだった。
...というか、戦車でドリフトって何???
「で、何で?」
「うぅ...すみません...」
「私が頼んだんだ。アリウスでは戦車のような高級なものはなくてな。1度乗ってみたいと思っていた。」
私はイチカからの依頼で正義実現委員会と一緒に暴走する戦車を制圧すると、その中から出てきたヒフミとアズサをその場に正座させていた。
こいつらなにしてんの?
「授業でも戦車とか牽引式迫撃砲とか乗ることあるんだから、いずれ嫌でも乗ることになるよ。
というかせめて申請くらいしろ!」
「うぅ...だ、だって!乗ってみたいだなんて理由で許可なんておりないじゃないですか!」
「戦車の授業は最近あったばかりだったのだろう?次にあるにしてもまだ先の話だ。」
「だとしてもせめて試せ!盗むやつがあるか!」
アズサとヒフミが仲良くなったのはいいけど、犯罪に手を染めるのは流石に頂けない。まあアズサもヒフミも元々やらかす側の生徒ではあったけど。
「ナナ先輩、怒ると怖いんですね...」
「実は私も初めて見たっす。普段怒らない人が怒ると、ってやつっすね。」
「イチカ先輩も...ほんとに珍しいんですね。」
「姉さん、久しぶりっす!」
「みんな、久しぶり。元気してる?」
「うん、元気。それに最近は縄張りも安定してきてる。」
「私らも結構強くなったからなー。今ならナナにも負けねぇかも!」
「そんなの後でいいじゃん!写真撮ろ!いえーい!」
「イエー!!」
ブラックマーケットに来るのも割と久しぶりな気がする。
ここ最近はずっと補習授業部のみんなと一緒にいたからな...
「姉さんの方はどうッスか?トリニティって最近騒がしそうッスけど。」
「エデン条約って言ってね、ゲヘナ学園と仲良くしよーってので色々とあったんだよ。」
「トリニティとゲヘナが!?無理だろ!」
普段ニュースとか見ないみんなのイメージですらこれだ。やっぱりトリニティとゲヘナが仲良くしようってのは無理があるんだろうな。
エデン条約が近づくにつれてどんどん治安も悪化していってるし、暴動なんかも起きているらしい。
それもあって、私も正義実現委員会の手伝いに呼ばれることも増えた。
...まあ先日のは全然関係ない元補習授業部の問題児が原因だったわけだけど。
「まあ、私は別に興味ないんだけどね。ゲヘナは治安が悪いらしいけど、別にトリニティも郊外の方とか治安がいい訳ではないからね。」
「私、ゲヘナ行ったことあるけど...多分桁違いだと思う。まあ、ブラックマーケットも大概だからナナさんは多分大丈夫。」
「確かにここも大概か...」
「エデン条約の調印式当日なのですが、ナナにも一部警備に入って頂きたいのです。」
「警備に...やっぱり人手不足なんですか?」
私はハスミ先輩に呼ばれて正義実現委員会の校舎に来ていた。
「そうですね。ゲヘナの風紀委員会も警備に着くことにはなっていますが、エデン条約だけに注力する訳にも行かず...どうしても人手が足りないのです。
ナナであれば信頼できますし、来ていただけると大変助かります。」
「別に構いませんが...イチカもそうですけど、私を評価しすぎですよ。役に立てるかどうかは、分かりませんよ?」
「私たちの評価が高いのではなく、ナナの自己評価が低すぎるのです。もうちょっと自分を客観視してみて下さい。」
客観視は出来てるつもりなんだけどな...実際に私が役に立った記憶はあんまりないんだけど...大体がイチカとかハスミ先輩が決めてることが多いし。
「...とりあえず、エデン条約の調印式ではよろしくお願いします。当日の配置と、動きについては後日、会議をする時に呼びますのでその時に。」
「分かりました。」
「あぁ、それと...ナナにとっては残念かもしれませんが、当日イチカには、調印式周り以外の警備の責任者を任せますので、調印式時には不在になります。」
「...?残念、かは分かりませんが、とりあえず了解です。イチカも随分出世しましたね。次期委員長候補っていう噂は本当みたいですね。」
「次の委員長についてはまだ何も話は上がっていませんよ。ただ、私もツルギも、イチカは頼りに思っていますからね。もちろん、ナナのこともですよ。」
「私は正義実現委員会じゃありませんよ。頼りにされても...」
ハスミ先輩からの信頼が重い...私別に戦闘強い訳でもないんですけど!というか戦うより逃げる方が向いてるし、そういう戦い方だし。
第三次特別学力試験、つまり補習授業部の解散からそれなりに経ってから、色々なことがあった。
正義実現委員会の手伝いであったり、ブラックマーケットに遊びに行ったり、それなりに忙しくしていた。
まあ私はあくまで手伝い。
正義実現委員会として動いている人達、その中でも最前線で動いているハスミ先輩や、その間の対ゲヘナ以外の仕事のほとんどを任されているイチカの方が忙しいんだろうけど。
エデン条約の調印式当日の私の役割は調印式の会場である古聖堂周辺の警備、しかもその部隊の責任者に任命されてしまった。
...あれ?あくまで手伝いって話では?なんで責任者に任命されてるの?
「ナナ先輩、明日はよろしくお願いします!」
「私達も全力で警備しますので、頑張りましょう!」
「ああうん、よろしくね。」
後輩からの信頼も重い。私、正義実現委員会所属じゃないよ?なんでそんなに信頼できるの?言ってしまえば私ただの部外者だよ?ただの警備とはいえ、部外者に責任者任せるとか不安じゃない???
「イチカの方は大丈夫?だいぶ忙しくしてるんじゃない?」
『そうっすねー。忙しくはあるんすけど、やっぱエデン条約に関わってるみんなほどじゃないっすね。
ナナも、警備の責任者になったんすよね?聞いたっすよ。』
「古聖堂の周辺のね。1番重要な中の警備はハスミ先輩とツルギ先輩だよ。
...部外者の私に警備の管理任せるって普通におかしくない?」
『あはは!ナナ、結構正義実現委員会にも来てるっすからね。正義実現委員会所属っていっても過言ではないっすよ!名誉正義実現委員会っす!』
「名誉って...他にも責任者できそうな人とか居るでしょ...」
『それだけナナが信頼されてるってことなんすよ。』
「重いなぁ...」
私のつぶやきにイチカは笑い声をあげるばかりだった。
他人事だと思って...!
それにしても、ついに明日か...
色々なことがあったし、何とか無事に終わってくれるといいんだけど...
エデン条約に反対する生徒たちの暴動とか起きないと良いんだけど...そうも行かないんだろうなぁ...
ナナ、それフラグって言うんやで。たかが警備と侮るなかれ、何があるかは分からないのです()
例えばミサイルが降ってきたりとか、幽霊が生えてきたりとか...そういうこともあるかもネ☆
現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?
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いる。
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いらない。
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どっちでもいい。