「おお、なんかすごい盛り上がってる。」
エデン条約調印式当日、ついに始まった式典の様子を古聖堂の周辺から私は眺めていた。
今日の私の役割は周辺警備の責任者。
何度でも言うけど役不足では?
まあ、いまさら言っても手遅れなんだけど。
「あれが...ゲヘナ...」
「野蛮な、ゲヘナ...ハスミ先輩の言っていた...」
私に着いて周辺警備を担当する後輩たちも物珍しそうに古聖堂正面でトリニティのティーパーティー生徒と相対しているゲヘナ生を眺めていた。
「まあみんな、調印式が終わったら今後一緒に活動することになるかもしれないんだし、あんまり敵対視しないでね。」
「でもナナ先輩!野蛮なゲヘナと仕事なんて出来ませんよ!」
うーん、みんな親の仇を見るような目をしてる。ゲヘナのことみんな嫌いなんだねぇ...
私としては野蛮というか、そういうのはブラックマーケットで慣れてるし...というかアズサとヒフミっていうトリニティでも(おそらく)トップクラスの野蛮?な生徒と友達だからあんまり気にせずに済んでいるのかもしれない。
「まあ、とりあえず今日の私たちの仕事は周辺警備だから、何事もないように祈りながら頑張ろうか。」
「ナナ先輩、それフラグって言うんですよ。」
「...それを指摘するのも、同じじゃないかな?」
とにかく周辺警備を頑張るとしよう。まあ、事前の説明通りに動いて、みんなの情報を整理するだけだ。
何かあったとしてもツルギ先輩とゲヘナの風紀委員長が動く手筈になっているし、大丈夫だろう。
私たち補習授業部、いえ、元補習授業部は補習授業部の卒業パーティーとして打ち上げをしていました。
学校で会えるとはいえ、こうして4人で部活動をするのはこれで最後...寂しくなっちゃいますね。
「...騒がしいな。」
「今日はついに、あのエデン条約が締結される日ですからね!特別に学校も休日扱いですし、街も人でいっぱいです!クロノス放送の方もさっきいましたし、なんだかお祭りっぽいですね!」
「そうですね。せっかくのお祭り騒ぎなので、先生やナナちゃんも一緒だったら良かったのですが...どうやら条約の方でお忙しいようで...ナナちゃんも、正義実現委員会のお手伝いで古聖堂の警備に入っているみたいです。」
「......で、どうして私はここに呼ばれているわけ?」
「それはもちろん、私たちはまだ補習授業部の仲間だからですよ、コハルちゃん♡
実質的に補習授業部の卒業パーティーも兼ねてるんですから、もう少し付き合ってくれません?」
「べ、別に嫌とは言ってないじゃん!み、みんなで頑張って、乗り越えたわけだし...」
うふふ、コハルちゃんも素直じゃないですね。
それにしても、ナナちゃんも先生も居ないのは少し寂しいですね...いつかおふたりも含めて、パーティーでも計画してみましょうか♡
「...それに、これで全部終わりって訳じゃないし。私はずっと正義実現委員会にいるから、押収品の管理室にでも来てくれれば大抵...」
「うん。すぐにでも遊びに行くよ、コハル。」
「でしたら今度私も伺いますね。いつか押収されてしまった、「カーマ・スートラ」を返してもらわないとですし。」
「カーマ...なにそれ?」
「古典文学の作品ですよ。噴水のところで気持ちよく読んでいたのですが、どういう訳か急に押収されてしまって...」
「古典文学?ふーん...
...ってそんなわけないじゃん!あんたが読んでる時点で絶対エッチなやつでしょ!エッチなのはダメ!焼却!」
「うーん、押収はともかく、古書館で借りたものなので燃やされるのは困るのですが...」
それにしてもコハルちゃんはやっぱり可愛いですね♡
「あれ、アズサちゃん。もしかしてそのぬいぐるみ、ずっと持ち歩いてるんですか?」
「うん。大事なものだから、やっぱり持ち歩かないと。」
アズサちゃんの方を見ると、アズサちゃんは抱いていたぬいぐるみを持ち上げていました。ぬいぐるみの可愛さは分かりませんが、ぬいぐるみを抱くアズサちゃんは可愛いです♡
「そ、そこまででしたか...いえ、ありがたいのですが!モモフレンズの世界は広いですし、せっかくなら他にも色々集めてみませんか?今度ぜひともお店とかに...」
「うん、楽しみにしてる。」
「はい、ぜひ!今度ペロロ様の冒険アニメも公開されることですし!」
「アニメ?」
「はい!仲間たちと力を合わせて悪を打ち砕き、共に苦難を乗り越え、最後にはみんな笑顔で終わるというそのエンディングがすごい感動的だそうで...!」
「それ、だいぶネタバレじゃない?」
「え、あっ!?い、今のは忘れてください!?」
モモフレンズのことを語るヒフミちゃんも可愛いです♡テンションが上がって色々喋っちゃったんですね。
「ふふっ、ヒフミちゃんはそういったハッピーエンドが好きなんですか?」
「は、はい、そうですね。やっぱり普通過ぎますか?」
「...悪いとは言わないけど、ちょっとありきたりじゃない?最終的には皆で仲良く大団円とか。」
「...私も、ハッピーエンドはよく分からないな。頑張ったところで世界はそうそう変わらない、傷はなかったことにならない。それがこの世界の真実だから。」
「あうぅ...みんなダーク寄りなんですね...私はそういうのちょっと辛くて...やっぱりみんなで幸せになれるハッピーエンドが好きです。」
「まあ、好みは人それぞれですからね。ちなみに私はヒロインが目を蕩けさせて、涎を垂らしながら許しを乞うタイプのエンディングが好きです♡」
「ばっ、バカじゃないの!?そんなエンディングあるの!?」
まあ、私は見た事ないんですけどね。知識としてそういうのがあるのは知っていますので。
「とはいえ、ヒフミが好きなら悪いものだとは思わない。それもそれでいいのだと思う。」
「...!!あ、アズサちゃーーーんっ!!!」
「あらあら♡」
「ひゃぁ...っ!?」
「...っ!?」
あら?アズサちゃんが急に走りだてしまいました。どうしたんでしょうか?
「あ、アズサちゃん...?どこ行くんですか?」
「聞かなくてもいいでしょ、トイレよ!」
「えっと...ですが、トイレはあっちではなく...」
ドカアアァァァァアン!!!!
その瞬間辺りにかなり大きな爆発音と衝撃波が走る。
な、何が、起こって...!?
外に出ると、辺りは突如起きた爆発の影響により、建物は崩れ、ガラスの破片が散乱し、悲鳴が飛び交う文字通りの地獄と化していた。
ふと、情報を整理しようと視界に入れたスマホの画面には、辺りが火の海と化して元の姿が分からないほどに崩壊した古聖堂が映っている。
アズサちゃんは何処に!?コハルちゃんもヒフミちゃんも現場に向かおうとしている、それを止めないと!今は無闇に動くのは得策ではない!
アズサちゃんはどこに...
古聖堂は、そこに居た人は...!?
ナナちゃんは...先生は...無事なのでしょうか...!?
今、何が...?
痛い。何処がだなんて一切わからないほどに全身が。
周りには、火、瓦礫、煙、悲鳴。
地獄だという言葉はこれが相応しいんだろう。
私は...死んだ?
その時、辺りを見渡していると、瓦礫の下に埋もれる正義実現委員会の生徒の制服が見えた。
私は急いで駆け寄り、力いっぱいに瓦礫をどかす。
「大丈夫!?ねぇ、起きて!」
私の部隊、私の近くに待機していた後輩だった。
頭から、足から血を流して気絶している。このままだと危ないかもしれない。
止血...包帯...ない!緊急事態だ。もはや気にしている余裕なんかない。
私は制服を思いっきり破って患部に押し当てる。
巻いて固定するには、あまりにも心許ない。
片手で押し当てながら、もう片方で懐から通信機を取り出す。
「誰か!何でもいい!現状分かっていることを教えて!」
いま、最も不味いのは何も分からないままに動くこと。必要なのは現状の整理だった。
...しかし、通信機からは何も返ってこない。
この通信機が通じているのは古聖堂周囲の警備部隊と古聖堂内部のハスミ先輩たち。
...まさか、全滅?
こんなの、私1人じゃ対処できない!
私は制服を脱いでそれを割いて患部に無理やり巻き付け、後輩を背負う。雑にやったためすぐ解けてしまいそうだが、今そんなことを気にしている余裕なんてない。
私が後輩を担いだまま何とか瓦礫の山を登ると、元々古聖堂があったはず場所を見る。
完全に崩れている。中にいた人は。生徒会の人達は。正義実現委員会の人達は。
ツルギ先輩は。ハスミ先輩は。先生は。
その時、その方向から銃声が聞こえた。
「逃がすな!」
「あっちに行ったぞ!」
ドパパパパッ
戦っている!?誰が、ゲヘナ...いや、ゲヘナ生も巻き込まれている。第3勢力...?
こんなこと、今は考えるべきじゃないと思いつつも、思考を排除できない。余計なことを考えてしまう。
深呼吸だなんてできない。私も全身が痛いのだ。
「...ここにもいたか。」
「...!?」
声のした方向を見るとガスマスクをつけた人が瓦礫の上から私を見下ろして銃を構えている。
「無駄な抵抗はやめろ。vanitas vanitatum...何をしようと全ては無駄だ。」
私はそれを聞いて理解した。
彼女は、アズサが元々いた学校、アリウスの生徒だと。
足が上手く動かない。後輩を背負っているし、足を怪我もしている。このまま発砲されたらろくな抵抗なんてできないだろう。
まさにこの状況のことか...バニタスバニタータム。全ては虚しいと。
「あは...ダメか...」
口からは乾いた笑いしか出ない。この状況を打開する策だなんて、回らない頭では思いつかない。
このまま無抵抗でいれば、私は死ねるだろうか。
望んだことだ。願っていたことだ。私には、ここで無駄に生き残ろうともがく必要は無い。
ふと、背中の感触に意識を傾ける。後輩が、いる。
息は、ある。負傷をしている。すぐにでも治療をしなければ危ないだろうことは、素人の私にもわかる。
彼女は、このまま死ぬことを望んでいるだろうか?
そんなはずはない。彼女は、正義を語っていた。先輩の役に立とうと、息巻いていた。
こんな私の諦めで、私の自分勝手な願いで。
彼女を殺していいはずなんて、あるはずが無い。
無意味だなんてものは、虚しさなんてものは。
私だけのものであれば良いのだから。
「うあああ!!」
「なっ、何を!」
私は後輩を雑にその場に下ろすと、懐から手榴弾を取り出してピンを抜き投げつける。
ごめんね、今はゆっくり下ろしてあげる余裕は無いんだ。
それを見たアリウスの生徒が発砲。私の腕を、身体を、複数の銃弾が襲った。
痛む体にムチを打ってスモークグレネードを地面に叩きつける。
アリウスの生徒は手榴弾を回避しようと瓦礫から退避していた。
広がった煙の中、私は再び後輩を担ぎあげる。
そのまま今の自分にできる全速力でトリニティ総合学園、救護騎士団の病棟へ向けて歩き出すのだった。
その後、何とか誰にも見つからず病棟にたどり着いた。忙しなく動く救護騎士団の1人に後輩を預けて私は再び古聖堂へと歩きだそうとした。
「あ、あなたも治療を受けてください!」
「まだです...まだ、被害に遭ってる後輩がいるはず...!」
私は未だおぼつかない足で歩みを進める。
まだ、倒れてなんて居られない。
まだ、倒れている人がいる。
全てが無意味だなんて、全てが虚しいだなんて、私の自分勝手な諦めで。
あの子たちが。正義実現委員会のみんなが。
その願いを、思いを...命を。散らしていいはずなんて、無いのだから。
はいどうぞ。( ´・ω・`)つ地獄
現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?
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いる。
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いらない。
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どっちでもいい。