私がほかの後輩を救おうと再び古聖堂に足を運んだ時、そこにアリウスの生徒は居なくなっていたが、代わりに別の者がいた。
あれは...ガスマスクの、シスター...?
浮かんでる...幽霊...?
そこにはガスマスクとシスター服に身を包み、足を地面から浮かせて移動する若干透けている集団がいた。
相手が何者かは分からないが、行動を見るに哨戒中の様子。果たして敵なのかどうか、それは分からないのだが、こんな地獄のような状況であれが敵でないと楽観的に考えるられるほど脳天気なつもりはない。
少しその幽霊を観察していると、どうやらその幽霊は一定のリズムで辺りを見渡し、移動も最低限に抑えているという事が分かった。
これなら充分バレずに動けそうだ。
私はゆっくりと隠れながら少しづつ古聖堂に向けて進んでいく。その道中のこと、
「いたぞっ!トリニティだ!」
「っ!?」
幽霊のみに注意していたため、それ以外への警戒が疎かになってしまっていた。
声を掛けてきた相手はゲヘナの風紀委員、古聖堂の瓦礫の山から顔を出していた。その風紀委員は私を認識するなり発砲してくる。
「っやめ...!」
相変わらず私は怪我の痛みでフラフラだ。唐突に撃たれた銃弾なんて避けられるはずもなかった。
何で私を撃ってくるんだ。
私は後輩を救いに来ただけだ。
トリニティもゲヘナも互いに被害者なんじゃないのか。
私がやっとの思いで物陰に身を隠して銃弾を避けると、そこにトリニティの生徒がやってきた。中には正義実現委員会の生徒もいる。
「ゲヘナッ!?やはりこれはお前達の!」
「ナナちゃん!?ゲヘナにやられたの!?私が変わるから休んでて!」
「ち、違っ...うっ...」
勘違いしているらしいみんなに、私は何とか説明しようとするも痛みで声が出せず、銃声でかき消されてしまった。
なんでみんな、お互いをそう目の敵にするんだ。
互いに怪我をしているのが見えないのか。
どちらもあの幽霊に攻撃されているじゃないか。
こんな状況で、なんでまだ...
私は痛む身体を何とか動かして、銃撃戦を無視して再び歩みを進めていく。
しかし、その道中で私は力尽きて意識を落としてしまうのだった。
ダンダンダン!
私は銃声で目を覚ました。
寒い。どうやら雨が降っているらしい。服もびしょ濡れだ。
先程の銃声の方向に目を向けると、そこにはアズサが、そしてアズサと敵対しているらしいおそらくアリウスの生徒3人がいた。
アズサがふと、倒れる。
私がそれを見てかけだそうとすると、そこにヒフミが走ってきてアズサを支えた。
少し遅れて補習授業部のみんなと先生もやってくる。
何やら話しているらしいが、少し離れているため、あまり聞こえない。
「でも!!アズサちゃんは1つ、大きな勘違いをしています!!」
ヒフミが叫ぶ。どうやらアズサに言っているらしい。
「今ここで、私の本当の姿をお見せします!!」
そう叫んだヒフミがバッグから紙袋を取り出してそれを被った。...今?
「私の正体、それは...覆面水着団のリーダー、ファウストです!!
見てください、この恐ろしさ!アズサちゃんと並んだって、全然見劣りしないほど不気味でしょう!こっちの方が恐ろしくて怖いと言う人だっているはずです!」
アズサが困惑しているし、敵対していたはずの3人のうち2人は呆れているような雰囲気が感じられる。うち1人は、驚いているが。
「ヒフミ、一体何を...」
「だからっ!!
だから私たちは、違う世界にいるなんてことはありません!
同じです!隣にだって居られます!だから世界が違うだなんて、一緒にいられないだなんて...そんな事言わないでください!拒絶されても、すぐ近くに行ってみせます!私は...!
...私は、アズサちゃんのそばにいます。こうやって、すぐ触れられるところに。」
ヒフミの言葉に、私は二人の間に何があったのかを察した。
おそらくアズサが、自分がアリウス出身だからと、ヒフミを拒絶してアリウスの生徒を止めようと動いた。それに対してヒフミがアズサを助けようと駆けつけた。と言った所だろうか。
「ヒフミ...でも、私のためにそんな嘘を言ってくれたところで...」
「誰が嘘だって!?」
そこに新しい声が聞こえてきた。なんか聞いたことあった。
そちらに目を向けると、なんとアビドス高校の人達があの時の覆面を被ってやって来ていた。
ニュースを見て駆けつけてくれたのだろうか?
「いやー、なんだか大事なところみたいだね?」
「あの覆面、まさか...!?」
ハナコが大袈裟なリアクションをしていた。
何?有名なの?
「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道のごとく魔境を行く...」
「ん、それが私たちのモットー。」
「普段はアイドルとして活動してますが、夜になると悪人を倒す副業をしてるグループなんです♣︎」
「別にそれ私たちのモットーじゃないから!?あと変な設定つけないで!」
『覆面水着団のリーダーであるファウストさんのご命令で、集合しました!』
「本当はもう1人いるんだけど、今は都合が合わないみたいでねー。」
...これ、私も行くべき?いや、ポケットにあの時の袋はあるんだけど、なんか行きづらいっていうか...行きたくないっていうか...
「なーにうちのリーダーを泣かせようとしてるのかなー?ねぇ、そこの君たち?どこの誰なのか知らないけど、知らないよ?うちのファウストさんは怒ると怖いんだから。」
「何せファウストちゃんは最終的に、カイザーコーポレーションの幹部を倒しちゃったようなものなんですよ♣︎」
「ブラックマーケットの銀行だって襲える。朝飯前みたいに。」
「それにこの間なんて、カイザーPMCを砲撃で吹っ飛ばしたんだからね!」
「そうだよ、恐ろしいんだよ〜?生きて動く災いと言っても過言じゃないし、暗黒街を支配するボスみたいなものなんだから。」
「うん、それがファウスト。」
「「「「『ファウスト!!ファウスト!!ファウスト!!!』」」」」
ファウストコールを受けたヒフミは恥ずかしそうに震えながら紙袋を取った。
「あ〜さすがに恥ずかしかったのかなー?」
「せ、せっかく乗ってあげたのに!」
「私は何も恥ずかしくないけど。」
「シロコ先輩も堂々としてないで早く取って!」
『ま、まあとにかく、改めて...対策委員会、今度はヒフミさんのことを助けに来ました!』
アビドスのみんなはそう宣言して全員一斉に武器を構えた。
更にだ。そこに正義実現委員会、そして風紀委員会の生徒がやってきた。
少し前までいがみ合っていたはずなのだが...おそらく先生がまとめたんだろう。流石だと思う。
「アズサちゃん、私は今すごく怒っています。すっごくです。ですがそれ以上に...無事でよかったです。」
ヒフミがアズサにゆっくりと話し出す。場の誰もが、その言葉に耳を傾ける。
「すっごく怒っていましたが、よく考えてみればそれはアズサちゃんのせいではありません。ですから、私はもう怒っていません。
...ですが、あの方々についてはまだ怒っています。」
そう言ってヒフミはアリウスの生徒の方を向く。
「殺意ですとか、憎しみですとか...それが、この世界の真実ですとか...それを強要して、全ては虚しいのだと言い続けてましたが...
...それでも、私は!」
ヒフミは瓦礫の山に登った。
「アズサちゃんが人殺しになるのは嫌です...!
そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです...!
それが真実だって、この世界の本質だって言われても、私は好きじゃないんです!
私には、好きなものがあります!
平凡で、大した個性もない私ですが...自分が好きなものについては、絶対に譲れません!
友情で苦難を乗り越え。努力がきちんと報われて。辛いことは慰め合って...辛いことがあっても...誰もが最後は、笑顔になれるような!
そんなハッピーエンドが私は好きなんです!!
誰がなんと言おうとも、何度だって言い続けて見せます!
私たちの描くお話は、私たちが決めるんです!
終わりになんてさせません!まだまだ続けていくんです!
私たちの物語!
私たちの、青春の物語を!!!」
ヒフミが空に手を掲げ、そう叫ぶ。
その時、降っていた雨が止んだ。
雨雲が、瞬く間に消え去った。
その光景を見て、私は絶句した。
まるで、物語の主人公のようなセリフ。
まるで、クライマックスかのような場面。
そこに起きた、奇跡のような出来事。
私はそれに
これがヒフミの、"主人公"の望むハッピーエンド。正しい青春の物語の向かう先。
ふと視線を向けた先、先生と、ホシノさんと、ハスミ先輩と、目が合った。
みんな、私がいることに驚いている様子だが、優しい目をして頷いてくれている。
きっと、私がここから出てきてもいいんだと言ってくれているんだと思う。
私自身は補習授業部ではないけれど、一緒に合宿を過ごして勉強をした数週間。
合宿所を大掃除した記憶。
夜に合宿所抜け出してみんなで夜の街を散策した記憶。
テストを受けるためにゲヘナに行って一緒に戦った記憶。
ヒフミに巻き込まれてブラックマーケットで不良と戦って、そこを助けてくれたアビドス高校のみんな。
ブラックマーケットを歩き回った疲れを癒すためにたい焼きを食べた記憶。
集金記録を手に入れるためにみんなで覆面を被って銀行強盗をした記憶。
数ヶ月だとしても、正義実現委員会に所属して、毎日奔走していた。
私の教育担当になって不器用ながらも色々と教えてくれたツルギ先輩。
裏切ってばかりだった私を信頼してくれたハスミ先輩。
こんな私を、親友だと言って、受け入れて、肯定してくれたイチカ。
ここから飛び出して、みんなの元に行く理由はいくつも浮かんでくる。
身体は駆け出したいと、足に力を入れる。
それでも。
"そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです...!"
虚しさを望む私は。
"そんなハッピーエンドが私は好きなんです!!"
ハッピーエンドを望まない私は。
"終わりになんてさせません!まだまだ続けていくんです!私たちの物語、私たちの、青春の物語を!!!"
あなたの隣には、並べなくて。
私は、鳴り出した銃声を他所に、その場を後にした。
あれから、アリウスの生徒、ユスティナ聖徒会、アリウススクワッドを撃退した私たちは、どうにか日常を取り戻した。
古聖堂の瓦礫は今だ積み重なっているし、怪我をした生徒たちも、万全だとは言いきれない子達も多い。
それでも、調印式襲撃時のような地獄のような光景は何処へやら、少しづつ平和と呼べる日々が戻ってきている。
ミネは救護騎士団への復帰を果たし、セイアもティーパーティーへと復帰しミカと仲直りをしたらしい。
また新しく補習授業部が作られるとナギサから知らせを受けて赴いた時に、メンバーが一切変わっていなかったのには、驚きのあまり倒れてしまったが。
まだ、問題はある。アリウス分校のこともそう。トリニティから迫害を受け、表舞台から姿を消した学校の生徒たちは、未だ見つかっていない。まだ何処かに潜伏しているのだろう。驚異が去った、とは言いきれない。
それに加えて。
「"まだ、見つかっていないの?"」
「えぇ、トリニティ自治区はもうほとんど捜索し終えたのですが。」
「"そっか...何処にいるんだろうね、ナナは。"」
あの日、アリウススクワッドから、奪われたETOを取り返した日。
あの場には、ナナもいた。前に出てきていた訳ではなかったが、瓦礫の山の間から、私たちの方を伺っていた。
私もあの場で、目が合った。何やら出てきづらそうな雰囲気を醸し出していたので出てきてもいいよ。という意味を込めて頷いた。話を聞くに、ホシノとハスミも同じようにしたらしい。
しかし、ナナは出てくることはなく、苦しそうな表情を浮かべ、そのまま姿を消した。
あれ以降、ナナはトリニティに戻ってきていないのだ。
トリニティ中の何処を探しても見つからない。セントラルネットワークにアクセスして捜索するも、その場所にはスマホがポツリと捨てられているだけだった。
あれ以降、目撃証言も含めて、ナナは影も形も見えなくなっていた。
「...先生、実は、ナナがこうして姿を消すのは、これが初めてじゃないのです。」
「"そうなの?"」
「はい。1年生の頃に2度。1度目は学園内に居たのですぐに見つかったのですが、その時ナナは自殺を図っていたそうです。」
「"!?"」
「2度目は...約1ヶ月の間、ブラックマーケットに身を潜めていました。もしかしたら今回も...」
「"ブラックマーケットに居るかもしれないと...?"」
「はい。私はそう考えています。現在ティーパーティーに申請中でして...受理されしだいすぐにでも捜索に向かう予定です。治安維持活動もありますので全員でとは行きませんが...捜索部隊はイチカに指揮を執ってもらいます。」
その時私は、ハナコに言われたことを思い出していた。
(自殺を試みるくらい自分のことが嫌い...)
確かに、ナナは一度私の前で自分の頭に拳銃を構えていた。
それでも、ブラックマーケットであった時はそんな雰囲気はなかったし、補習授業部のみんなといるときには楽しそうにしていたから、一時的に自己嫌悪に陥るような、そういう個性を持った子なんだと思っていた。
失踪の理由がそれかどうかなんて、分からないけれど。
それでもナナは、本当に自殺を試みた経験があるようだった。
もしそうなんだとしたら、もしかしたらナナは...
そう考え、私は焦りを募らせた。
そんなこと、あってはダメだ。
未来ある生徒が、自らそれを閉ざしてしまうことなんて。
ナナ失踪です。
またかとか言わないで!!ナナだって色々あるんです!!
この際だからぶっちゃけるんですけど、私どうしたらナナを救えるのか分かってないんですよね。
心に先生とイチカを宿して頑張って書きます。
頑張れ、イチカと先生。
過去の話を読み返してみたら、そういえば先生はナナの自殺願望をすでに知ってたので辻褄合わせで一部変更しました。
現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?
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いる。
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いらない。
-
どっちでもいい。