あれから私は、トリニティ総合学園に戻ることなく、ブラックマーケットへと足を運んでいた。
以前のように他のみんなから心配の連絡が入っている...んだと思う。
私はブラックマーケットへと足を運ぶのと同時にスマホを捨てたため確認する術は無い。
加えて、ブラックマーケットのみんなとすらも会うことがないようにこれまで足を運んでいた場所とは真逆の区域を拠点にしていた。
きっとみんな、私を探してくれているだろう。
連絡がつかないことを、心配してくれているだろう。
そうだとしても。
"私たちの、青春の物語を!!!"
みんなの元には、いられない。
私とみんなが違うことなんて、これまでも分かっていたはずなのに。その違いをみんなは受け入れてくれると、分かっていたつもりなのに。
それでもやはり、私は。
みんなの物語には、いられなくて。
あなたが笑顔になるハッピーエンドには、相応しくない。
まるで主人公の様に理想を叫ぶヒフミは、私には眩しくて。
どんなに虚しくても諦めないアズサは、私とは真逆で。
最後まで努力を続けたコハルは、正しく正義で。
補習授業部に居場所を見つけたハナコは、私とは違って。
正義を掲げて自分を貫くツルギ先輩は、かっこよくて。
みんなをまとめ上げて他人のために戦うハスミ先輩は、輝いていて。
自分の中に揺らがぬ正義を持つマシロは、羨ましくて。
私なんかと友達になってくれて、私なんかを肯定してくれて、私を助けてくれたイチカは。
眩しくて、かっこよくて、正しくて。
私なんかには、勿体なくて。
やっぱり私は...みんなの隣には居られなくて。
「...っ!!」
あれからずっとこうだ。
みんなとの差を、その大きさを確かめては、涙を流していた。
どれくらい泣いたのか、もはや日数も数えていないから全く見当もつかない。
涙は、未だに枯れることはない。
本心を言えば、今すぐにでも戻りたい。みんなと居たい。隣に並んで、笑い合いたい。
でも私は。
ハッピーエンドを望めない私は。
物語の先ではなく、終わりを願う私は。
みんなの願いの、邪魔でしかない。
それでも、願わくば。叶うなら。
「
「ナナ...何処にいるんすか...」
ナナが居なくなってからもう1か月が経とうとしていた。
ブラックマーケットのあの人たちに連絡を取ってみても会っていないそうだ。向こうでも探してくれるっていう話だったけど、それでも見つかるかどうかは分からない。
先生が探してくれたナナのスマホはトリニティの郊外に捨ててあった。多分だけどナナは今、スマホすら持っていない。寮長の許可を経て入ったナナの部屋は特に片付けたり整理した様子は無かったし、バッグどころか財布すらも置いたままだった。
多分、文字通り身一つで姿を消したのだろう。
その事実に私は嫌な予感を覚える。
もしかしたら...ナナはもう...
そんなわけが無いと、きっと無事だと、首を振って自分に言い聞かせる。
それでも尚、不安は拭いされないのだけれど。
『イチカ先輩...こちらの区画は捜索終えました。...ナナ先輩は、見あたらなかったです...』
「了解っす。ご苦労さま。今日はもう合流して学校に帰るっすよ。」
『...了解しました。』
明らかに沈んだ声で入ってきた捜索隊の後輩からの報告に、私は務めて明るい声で返す。
もはやこれも、から元気だ。
正義実現委員会は捜索の手を、トリニティ自治区全土に広げている。もうすぐ自治区内の全てを捜索し終える。
ゲヘナ自治区にいる可能性も考え、風紀委員会に要請を出してはいるものの、やはりあちらでも見つかっていない。先生にお願いしてキヴォトス中に行方不明届が出されている。
それでも見つからないのなら、多分ブラックマーケットにいる。
きっと。居るはずなんだ。何処かに。
「ナナちゃん、まだ見つかってないの?」
『はい...正義実現委員会の人達がトリニティ中を探しているんですけど...』
ヒフミちゃんが言うには、おそらくナナちゃんは既にトリニティに居ないのでは...ということだった。
私もいつものパトロールがてら、ルートを変えたりして探してはいるものの、影も見えない。
単純にアビドスに居ない。と言うだけならそれでいいのだが、どうにも不安は拭えなかった。
だって私は、砂漠で命を落とした人を、既に知っているから。
事情を聞くに、ナナちゃんは過去にも失踪をしたり、自殺を図ったりしたことがあったらしい。
そういうのもあって、やっぱりどうしても怖くなってしまうのだ。
「分かったよ。こっちでも探してみる。ただ、広い上に人手も無いから少しずつにはなっちゃうんだけど...」
『とんでもありません!協力してくれると言うだけで、本当に助かります!』
私は机に置かれた紙とひとつの袋を眺める。
【行方不明届】
トリニティ総合学園 2年生 篠崎 ナナ
先生の手によってキヴォトスに広がったそれは、それでも未だに情報が入ってきていないらしい。
あの時、エデン条約の調印式の会場跡に、ナナちゃんはいた。私たちが覆面水着団の姿で出てきた以上、ナナちゃんにも来て欲しいと思って、視線でナナちゃんを誘った。
ナナちゃんもこっちに来なよ、と。
それでも彼女は出てくることなく、むしろ苦しそうな表情を浮かべて、何処かに去っていった。
あの後私は、ナナちゃんのことが気になって彼女が消えた方向に足を運んだ。
するとそこには、6番と番号の書かれたコンビニの袋が落ちていた。
風に飛ばされてどこかに飛んでいくことなく、瓦礫に引っかかっていたそれは、果たして偶然なのか。それともナナちゃんがそうなるように置いていったのか。
どちらにしても、ナナちゃんがこれを捨てたというのには変わりなかった。
果たしてどうして、これを捨てたのか。
もしかしたら...
嫌な想像を、ついしてしまう。
それを無理やり押しのけて私は今日もパトロールに出るために準備を始める。
『先生、本日も目撃証言は届いていません。』
「そっか、分かったよ。アロナ、ありがとう。」
『いえ、早く見つかるといいのですが...』
ナナが姿を消してから、未だに情報は入ってこない。
各学園に捜索のお願いをしてはいるものの、やはりトリニティ程の熱量がないことが原因だろうか。それとも実際にいないからなのか。
ほかの自治区からすれば、失踪者など、何処かの不良集団に入っただけだと思われても仕方がないことだ。むしろここまで話が広がることの方が異常だと、ハスミは言っていた。
だとしても今は、無理を言って各学園の治安組織どころか、温泉開発部、美食研究会、ヴェリタス等にも捜索のお願いをしている。
それでも見つからないのは...
いや、まだブラックマーケットが残っている。
きっと大丈夫。まだ、ナナは生きている。そのはずだ。
だって、未来あるあの子が、自ら命を絶っただなんて、そんなこと、あるはずがないのだから。
プルルルル...
かかってきた電話を見るとハスミからだった。
「もしもし?」
『お疲れ様です、先生。先程、トリニティ自治区の全域を捜索し終え、ナナは見つかりませんでした。』
「...そっか...」
私はハスミの報告を聞いて、つい落胆してしまった。
つまりナナはトリニティには居ないのだと。
『しかしこれを受けて、ティーパーティーより、ブラックマーケットにおける正義実現委員会の捜索隊派遣の許可が降りました。』
「!!ほんとに!?」
良かった。これでようやく一歩前進だ。
実際のところこれまでの話から、ナナの行方の本命はブラックマーケットであった。
しかし、無法地帯に他区域の治安組織が、それも大人数が押し掛けるのは、多くの誤解や問題を生みかねなかったため、ナギサも許可を出しあぐねていたのだが、それがついに許可が降りた。
これなら見つかるかもと、希望が見えてきたことに私は興奮を胸に、自分の仕事へと戻る。
『イチカ、先程ティーパーティーよりブラックマーケットにおける捜索隊派遣の許可が降りました。』
「ほんとっすか!?分かりました、すぐにでも向かいます!」
『いえ、今日はもう夜も遅いですから、明日からにしてください。』
「それは...そうっすけど...」
『イチカ。あなたもここのところずっと休んでいないでしょう?ナナも心配ですが、あなたも同様に心配なんです。』
「...分かりました。」
本当は直ぐにでも向かいたい。少しでも早くナナを探したい。
でも、ハスミ先輩の心配も無下にできず、私は後輩と一緒に学園へと戻っていくのだった
翌朝、私は学園で部隊のみんなが揃うと同時に、ブラックマーケットへと出発した。
部隊のみんなも、いつもより早い時間から集まっていて、みんなナナが心配で直ぐにでも捜索を始めたいのだと分かった。
みんなのその気持ちに感謝しつつ、私は車へと乗り込む。
ブラックマーケットに到着すると同時、私はナナの友達の彼女たちを尋ねた。
「久しぶりスね。」
「久しぶりっす。私たち正義実現委員会もブラックマーケットでナナの捜索が出来るようになったんで来たっす。」
「助かる、私たちだけじゃナナさんの捜索は全然進められないから...」
彼女たちからスマホのマップを見せられた。
「このマップが、ウチらが捜索を終えたところス。でも、ウチら素人だからちゃんと探せてるかと言われると微妙かもしれないス。」
「そこは仕方ないっすね。とりあえずまだ終わってないとこを探しましょ。
...とはいえ、気が遠くなりそうっすね。」
マップ上で見ると、ブラックマーケットの1割あるかどうか程度なのに、拡大していくと、その広大さが分かる。
加えてティーパーティーから許可が降りたとはいえ、あくまでブラックマーケット。
不良に絡まれる可能性も十分にあるため、トリニティでやっていたように単純な人海戦術は取れない。
あくまで部隊単位で動くだけだ。
今まであの人たちがやっていたところを、私たちが入っていくだけ。正義実現委員会の捜索隊は分けるにしても4部隊。
単純に効率が5倍になると考えれば十分に感じられるが、実際の捜索効率は非常に悪い。
その上ブラックマーケットの敷地が広すぎるため、かなりの長期戦を覚悟しておくべきだろう。
「イチカ先輩...あの人たちは...?」
「あぁ、ブラックマーケットに拠点を置くナナの友達っす。これまでブラックマーケットでの捜索をお願いしてたんすよ。」
「ブラックマーケットの...友達...!?」
あ、そうか。この子達はナナがブラックマーケットによく行っていることを知らないんだった。その上友達だと紹介された相手は一見、よくいる不良だ。驚くのも無理はない。
まあ、説明しようにも色々と...ナナのプライバシーに関わるし...
...ナナが戻ってきた時にでも、自分で説明してもらうことにしよう。
「だから早く、戻ってきてね...ナナ...」
誰に言うでもなく呟いた言葉に、返事はない。
当たり前のことだとわかっていながらも、その事実に私は不安を抱えるのだった。
ナナをどうやって救おうか...ナナのメモロビどうしようか...うーん、うーん...
毎日これに悩みすぎて夜も眠れません。昼にぐっすりです。うへ〜。