とりま今書いてる分を毎日投稿!します!(3話分だけね。)
ブラックマーケットにやってきておそらく一か月は経っただろうか。
ずっと節約をし続けて抑えていた資金もついに底をついた。
もう四日間の間、何も食べていなかった。
私は今、暗い路地裏に寝転がっている。
腹の虫を抑えながらただただ無為に、時間が経つのを待つ日々。
このままここでずっと寝ていれば、私は死ねるのだろうか。
そんなことをずっと考え続けていた。
しかし、私の感じる空腹が、食べ物を求める心が、私の願望を否定する。
私はやはり死にたくないのだと、自覚する。
それでももはや、求めるものを手に入れる術がなくなっていた。
どこかで傭兵などのバイトでもして稼ごうかとも考えたが、私は今あまり表に出て活動することができなかった。
きっとみんな、私を探しているから、向こうには先生もいる以上、捜索の手はキヴォトス全土に、それもブラックマーケットにすら及んでいるであろうことは容易に想像できた。
そこまでして、みんなから逃げるのは、私の心が折れてしまったからだった。
もうみんなに向けられる顔なんてない。
もうみんなをまっすぐ見られない。
もうみんなを肯定できなくて、肯定されたくない。
みんなはわたしのことなんて忘れて、幸せに生きていけばいいんだと心の底から思う。
私はこのまま...ここで...
「やっと買えましたね...えへへ...最初の一口貰ってもいいですか?」
「ヒヨリはその一口が大きすぎるからダメ。ヒヨリは最後。」
「そ、そんな...やっとありつけた食糧をまだ食べられないなんて...辛いですね、苦しいですね...
きっとこの先も、この虚しさが続いていくんですね...」
「ちゃんと残してあげるから。」
聞こえてきた声とその内容、というよりは"虚しさ"という言葉に、私は顔をそちらに向けた。
すると話していた3人のうちの一人、ピンク色の髪の子と目が合った。
「...どうしたの?」
「そこ...人が倒れてる。」
「えぇっ!?行くんですか!?」
3人は私のいる路地裏へと入ってきて、私の前に立った。
「...なんですか?」
「大丈夫?どうして倒れてるの?」
「気にしないでくだs」ぐぅぅぅ...
不意に腹の虫が声を上げた。
まあずっと鳴っていたから偶然というわけでも、決してないのだが。
「お腹すいてるの?...これ、食べる?」
「ちょっと姫、私達も分がなくなる。」
「ごめん、私のわがまま。この人にあげられないかな?」
「...はぁ...わかった。」
溜息を吐いた黒髪の子の同意をもってピンク髪の子が、私の前におにぎりを差し出してくれた。
「...ほんとにいいんですか?」
「うん、私たちよりも、困ってそうだから。」
私はおにぎりを受け取ると、人目も気にせずに貪った。
蒼髪の子が私が一口食べるごとに声を上げていたが、私はもはやそこまで気にする余裕なんてなかった。
「...ありがとうございました。すみません。」
「いいの。私がやりたくてやったことだから。」
「わたしはそこまで賛成じゃなかったけどね。」
「私のおにぎり...」
あの...ほんとによかったの?後ろの二人そんな感じしないけど...
というか、この人たちって...
「どうして助けてくれたんですか?」
「さっき言った通り、私がやりたかったから。」
「...バニタスバニタータム、全ては虚しい。それがあなたたちの学んできた教えでしょう?
わたしを助けることも、無意味なんじゃないんですか?」
私は確信をもってそう零した。
その裏では、助けてもらった身でありながらそんなことを言う資格なんてないのに、と自己嫌悪に沈んでいるが、何とか表には出さないようにする。
「な、何で知ってるんですか!?」
「ヒヨリ、黙ってて。」
「あなた、トリニティの生徒でしょ?それを知ってるってことは...アズサの友達?」
「...知ってたんですね。」
私は驚きながらも、そう返す。
「調印式での警備係で、警戒するべき生徒は全員共有されてた。それなのに当日に知らない子がいたから、それも警備の責任者として。それで、警戒するようにって連絡があったの。」
「そうなんですね。それで、どうして?」
どうして、私なんかを助けたのか。
その質問の裏に隠れた意図は、果たして。自分でも、もはやわからない。
「私も、救われた側だから。今度は、私が返す番だから。」
救われた...アリウス分校は、エデン条約の襲撃者たちが救われたとは...
おそらくあの襲撃には裏の事情があって、きっと先生がそれを解決したであろうことが想像できた。だって、先生だから。私の知らないうちにそんなことになっていてもおかしくはないだろう。
「...あなたを救ったのはわたしじゃないし、さっきも言ったように私には何も返せませんよ。」
「お返しを望んでたわけじゃないの。ただ...わたしも先生みたいに、やってみたかったから。」
やはり先生だったか。
そう思いつつも、私は身に着けた拳銃と手榴弾を地面に並べた。
「せめてこれくらいは...お返しにもならないかもしれませんが。」
「...装備を見るに、これが全部でしょ?あんた、これを全部手放したらブラックマーケットで生活なんて出来なくなるよ?」
「ぶ、ブラックマーケットどころか、キヴォトスのどこでも生活できなくなりそうですが...」
「特に問題はありません。私は別に、生活するつもりもありませんので。」
私の言葉に、3人は目を見開いた。
「...死ぬつもりってこと?」
「ど、どうしてそんな...」
「別に驚くことですか?あなたたちもそういう教育を受けてきたんでしょう?すべては無意味だって。」
「それはそうだけど...私たちは半ば強制的なものだったから...」
強制的...やっぱりアリウスには何かしら事情があったらしかった。
「いや、その気持ちは...私もわかるから。」
「ミサキさん...」「ミサキ...」
ミサキと呼ばれた彼女は、私の言葉に同意してくれた。
「Vanitas Vanitatum et Omnia Vanitas、全ては虚しいものである。
その教えを、あの人は否定したけど、それでもやっぱり世界はそういうものだと思う。」
「...後半は、私も知りませんでしたけど。」
「そう?とにかく、世界の真理はそういうもので...きっと何をしたところで、私たちに意味なんてなくて、生きていても死んでもどっちでもいい。神様なんてものは、私たちに興味もないんだと思う。」
そう語る彼女の顔は、それでも晴れていて、どこか吹っ切れたような表情をしていた。
きっと彼女も、先生に救われたうちの一人なのだろう。
...とはいえ、その言葉の中にはどうしても同意できないものがあった。
助けてくれた恩人たちに対して失礼だとは考えつつも、私の口はそれを止められなかった。いや、止めようともしていなかったが正しいか。
「...私に意味がなくても。あの子達は、イチカ達は報われなきゃいけない。絶対に。」
「...虚しいって言う割に、まだ信じてるものがあるんだね。」
黒髪の彼女は驚いたような表情で私を見返してきた。
きっとこれが、アリウスと私の違いなのだろう。
アリウスの子達のいうバニタスバニタータムは、世界の真理で、誰も彼もの行動に、努力に、想いに、意味が無いと。
私にとっては、そんなわけがなくて、正義実現委員会のみんなの掲げる正義は正しくみんなの道を照らしてくれるし、補習授業部のみんなだって努力がきちんと報われた。
虚しいなんて言葉は、何をしようと誰かの迷惑にしかなれず、誰かを否定することしか出来ないような、前に進んでいく人間の隣にいられないような人間に向けられたものだ。
「あなたは、報われて欲しい人がいるの?」
「はい。...こんなこと、私が願えたものじゃないってのは、分かってますけどね。」
それを聞いたピンク髪の子は少し考えて、私に向き直った。
「ねぇ、私たちとくる?」
「急に何を...?」
「姫、これ以上はさすがに...」
「さっきも言ったでしょ?今度は私が返す番だって。
...私自身にはできることは少ないけど、先生だったらなにか出来るかもしれない。」
その言葉に彼女の真意を理解した。先生の元に連れていこうとしているんだと。
まあ彼女はこっちの事情なんか知る由もないのだから、きっとその判断は最善で。
...私にとっては、最悪だった。
「いいえ、すみませんが、これ以上はお世話になれません。」
「...そっか。」
私の否定に、何を思ったか、ピンク髪の子は少し微笑みながらそう言う。
その後お礼を言って、なけなしの返礼である私の装備品も受け取って貰えず、その場で私たちは別れた。
彼女たちに食べ物を貰ったことで、少し動く余裕ができた。自分達だって厳しいだろうに、わざわざ善意で助けてもらった命を無意味に捨てる気にはなれず、バレない程度なら、バイトでもしてお金を稼ぐくらいはしてみようと思った。
そうしてポケットに手を突っ込み...
「あぁ...そういえば捨てたんだったな。」
いつも入っていた数字の書かれたレジ袋が無かったことを思い出し、代わりになりそうなものを探すところから始めるのだった。
「姫、あいつどうするの?」
「とりあえず先生に話をしてみようかなって。」
「そう...言っておくけど、ブラックマーケットで食いっぱぐれてる人間なんて、きっとそこら中にいる。それをいちいちあんなことしてたら、キリが無いよ。ただでさえ、私たちだって余裕がないんだから。」
「うん、わかってる。だから今回は私のわがままだって言ったの。とりあえず...食べ物を探すところから始めよ?」
「はぁ...せめてさっきのを全部渡さなくても良かったんじゃないの?」
「私のおにぎり...」
未だにつぶやくヒヨリに、私は笑って歩き出した。
きっと大丈夫。だって私たちだってこうして前を向けてるんだから。
「"その子ってもしかして...こんな顔じゃなかった?"」
その後に訪れたシャーレでさっきの話を先生にすると、1枚の紙を差し出された。そこにはあの子の顔があって、行方不明届と書かれていた。
「そう、この子。もしかして先生、ちょうど探してた?」
「"うん!本当に助かるよ!良かった...まだ生きてたんだね...ありがとうアツコ、これでまた一歩前進だ!"」
子供のように喜んでどこかに電話をかける先生に思わず笑いつつ、先生の役に立てたことを心の中で喜んだ。
あの子自身は多分死ぬつもりだったんだろうから、ありがた迷惑だなんて言われるかもしれないけど、多分そんなの、誰も望んでいないだろうから。
先生も、あの子が報われて欲しいと思っている子も。きっと。
「そっち行ったぞ!」
「了解。」
仕事仲間の声を聞いて、こちらに走り込んできた不良に銃弾を浴びせかける。
それを受けて倒れた不良を見送ったあと、周りを見渡す。
もうここに、立っている敵対勢力はいない。それを確認すると、私は大きく息を吐き緊張の糸を解いた。
私は現在、その辺に落ちていたヘルメット団のものと思しき、一部が欠けたヘルメットを被って日雇いの傭兵をやっていた。
「いやー今日もおつかれー!お前が入ってから結構楽になったよ!この間のやつも相当強かったけど、お前の方が派手だし見応えあるな!」
「...どうも。」
日雇いの仕事ということで収入はそこまで期待していなかったが、想像以上の給金を貰えており、最初は心もとなかった食料や手榴弾、スモークグレネードどころか、調印式以降ボロボロのまま着流していた服すら調達出来ていた。とはいえ余裕があるとは言えない状況でもあるのだが。
私を雇った猫の獣人曰く、かなり大事な抗争だから役に立つなら相応の報酬を用意する、との事だった。
そんなところに私の得意とする対多戦闘が役に立った形だ。
まだ傭兵業を初めて数日程度だが、意外とこういうのも悪くないんじゃないか、いっその事このまま傭兵業を続けながらブラックマーケットで生活するとというのも、良いんじゃないかなとすら思えていた。
私はこのままで...みんなもきっと、私を忘れて...
「ナナ...何処にいるんすか...」
最初はミサキとバニタス談義でもやってもらおうかなって思ってたんですけど、よく考えたらミサキが知らない人とそこまで深く話すわけねぇよなとこんな感じになりました。
なんかナナの生死感とバニタス感がブレブレな気がしないでも無いですが、最後に向けて一貫性は持たせるように頑張るます。