「そういえば後輩、聞いたか?」
「何をです?」
「ここ最近、ブラックマーケットでトリニティの生徒の目撃情報があるんだってさ。
あ、変なことは考えない方がいいぞ。私の友達が身代金目的にそいつを捕まえようとして返り討ちにされたからな。
ま、後輩だったら行けるかもな!試してみるか!?」
「...いえ、やめておきます。」
唐突に頭を殴りつけられた様な感覚だった。
正義実現委員会がブラックマーケットに来ている。
何故か?そんなの十中八九、私を探すためだ。
私は今の拠点にもどると、急いでここを離れる準備を始めた。
だって、私のこんな姿を、彼女の期待にそえずに諦めて堕ちきった姿なんか、イチカに見られたくない。
ここを離れて、何処に行くのか?
ブラックマーケットに居座ろうにも、きっと彼女達は諦めずに捜索を続ける。
他の学区には当ても土地勘も無ければ、私の行方不明届が広がっている。
そんな疑問を他所に、私は荷物整理の手をとめない。
ここまで私が私だとバレずにやってこれたのは、ブラックマーケットだからだ。そうでなければすぐに私の目撃情報が先生の元にでも行っていただろう。
何処に行くのか、そんな疑問に答えが出ないまま、何とか荷物整理を終えた。すぐにでもここを離れられるようにしておく。
今日はまだ傭兵の仕事が残ってるから、それを終えたらすぐにでも出発しよう。
そう決めて、私は仕事へと向かうためにヘルメットを装着し、外出するのだった。
「それじゃあ今日も、いつもの組との抗争だ。クライアントによるとなんか相手も気合い入れてるらしいから、こっちもちょっと頑張るぞ。給料分は働かなきゃな。」
「了解です。」
傭兵の仕事を始めて約1週間、傭兵仲間との連携もだいぶ慣れてきた。
が、私にとっては今日がここで仕事をする最後の日だった。せめて迷惑はかけないように、出来る限り相手の戦力を削れるように戦ってみようと息巻いていた。
「奴らが来たぞ!手筈どおりに!」
その号令を聞いた私は、潜んでいた家屋の屋根上から顔を出して相手の様子を伺う。
相手は傭兵集団とそれを取り囲むオートマタで構成されていた。
「...たしかに、いつもより多いですね。」
「だな。お前には悪いが、私らの中でいちばん強いのはお前だから、頑張ってもらうことになるかもな。」
「...給料分くらいは、頑張らせてもらいますよ。」
そう返事をした私は、前方へ向けて合図を送る。それを受けて相手集団に奇襲をかける形でLMG部隊が屋根上からの掃射を開始した。
「奇襲だ!屋根上にいる!」
指揮官らしき生徒がそう叫んだが、当の部隊員は混乱していた。闇雲に撃ち返す者、身を守ろうと縮こまる者、その場から逃げ出そうとする者の入り乱れる敵部隊は文字通り混沌としていた。
混乱を知らず、プログラム通りに動くオートマタ達は果敢にも撃ち返していたが、地の利と数的、精神的に優位に立つこちらの攻撃に次々と沈んでいく。
私はそんな中、敵部隊後方の逃げ出そうとする者が多く居る場所に向かって手榴弾を4つほど投げ込んだ。
「し、手榴弾!!」
「止まるなよ!邪魔だろ!」
それに気づいた者は引き返そうと立ち止まるが、そうなると後ろから来ていた人達とぶつかる事になる。
そのまま身動きの取れなくなった部隊後方の生徒たちは手榴弾の爆発から逃れられずに巻き込まれ大半が地に伏し、倒れなかった者も負傷することとなった。
そのまま部隊の真ん中にスモークグレネードを投げた私は、屋根から飛び降りてLMG部隊に集中している人達の中に紛れ込む。その中を姿勢を低くしながら進んでいく私は、道中いくつもの手榴弾を落としていた。視線を上げている相手はそれに気づくことなく...
ドオォォォン!!!
「「「「ぐあああ!?」」」」
爆発に巻き込まれてしまった。
そのまま混乱する残党をほかの傭兵に任せて私は未だに煙の中にいる残りに狙いを絞った。
彼らは今、自分たちの前後で鳴り響いた手榴弾の音に警戒していた。...警戒と言うよりは動揺、狼狽と言った方が正しいか。事実、中からは喧嘩するような声が聞こえていた。
「さっきの爆発音聞いたろ!他が無事だとは思えねぇ!」
「だからと言って無防備に出てったって私らもやられるだけだ!ここは煙が晴れるまで待って...!」
「喧嘩してる場合じゃねぇよ!どうすんだよこれ!」
「それを今話してんだよ!」
混乱する気持ちも分かるが(私がそうなるように仕掛けたから)そんなにも声を張り上げてしまったら、どこにいるのかが外からも丸わかりだった。
私は倒れる生徒から適当に借りたARを煙の外から敵がいるであろう場所に向かって掃射した。
マガジンいっぱいに撃ち終わると、私をそれを捨てて横に場所に移動、それからまた別の武器を拾って掃射。それをあと2回繰り返すと、やがて煙が晴れてきた。
煙の先に未だに立っている相手は運が良かったか、あるいはその場に縮こまっていた人だけ。対してこちらは怪我人を探す方が難しいほど万全の状態と言える。
そうなってしまえば残りはもう多勢に無勢、流れ作業だった。
その後、掃討戦を終えた私は、いちばん世話になった先輩に声をかけていた。
「あの、先輩。」
「ん?どした?」
「急な話なんですけど、私今日でここを離れることにしました。」
「...そうか。お前が来てから...1週間ちょっとか?短かったけど、まあ助かったよ。ありがとな。」
一緒に仕事をしていた人が急に居なくなることはブラックマーケットではよくあることなのだろう。
急な挨拶にも関わらず、先輩は優しく応じてくれた。
私はそれに感謝しつつ、別れの挨拶をして...
「...ナナ?」
少し前、先生から寄せられたブラックマーケットでのナナの目撃証言。
それを聞いた私は、私だけでなく正義実現委員会のみんなも、補習授業部の人達も、みんな喜んでいた。
ナナはまだ生きていると。
その証言をくれた人達に感謝を伝えるように先生に言って、私はその足でブラックマーケットへと向かった。
後輩たちもやる気を出している。
絶対に。ナナを死なせない。
生きて、帰ってきて。
また、一緒に。
それから1週間ほど経って、未だにナナは見つからないけれど、それでもみんなのやる気は落ちることは無い。
そんなある日のこと、高いところに登って何か手がかりがないかを私は探していた。
...ふと聞こえた爆発音に視線を向けた。
爆発音なんてブラックマーケットではしょっちゅう聞くもの、特別でもなんでもない。
トリニティでの警戒中ならまだしも、ここでそれにいちいち気を取られていては満足に捜索なんて出来やしない。
そんなことは分かっている、のだが。
私はこの後、自分の第六感と言うべき感覚に感謝を伝えることになる。
爆発音が聞こえてきた方向から目を逸らせず、そのことを疑問に思っていたところ...
爆発音が聞こえた場所が大量に煙を噴き上げていた。
「...っ!!?」
私はその光景を見た瞬間に駆け出した。
高台から飛び降り、痛む足を気にする余裕もなく走る。
「D-8地区方向に煙幕確認!ナナと思われるっす!全員今すぐ向かってください!」
『『『『了解です!!』』』』
返事を聞くこともなく私はひたすらに走る。
やがて件の場所に到着すると、その場所には大量の傭兵が寝転がっていた。
走っている途中でも幾つもの爆発音が聞こえていた。余程激しい戦闘だったのであろうことが予想できる。
「はぁ...はぁ...何処...何処に...」
息を切らせながら、私は傭兵たちの中を進んでいく。
途中ですれ違う傭兵たちの顔を一つ一つ確認しながら進んでいくも、ナナは見つからない。
焦りを募らせながら私は進んでいく。
その後に倒れる傭兵たちがいなくなってくると、そこには話している二人がいた。
1人はよくいる傭兵の格好。
そしてもう1人は...
ヘルメットを被る生徒。
顔は見えない。服も違う。拳銃らしきものは見えるがナナと同じものかは分からない。
そもそもナナの持つ拳銃はよくある型でそれを持っているからと言ってナナかどうかは分からない。
だけれど。
私の勘が告げる。あれはナナだ。
何が理由だろうか。何処に共通点を見出したのか。
自分でも分からないが、それでも確信を持っている。
「...ナナ?」
呟いた言葉に、ヘルメットを被った傭兵...ナナがこちらを向いた。
「後輩?」
「...っ!すみません!」
「おい!どうした!?」
そう言ってナナは駆け出した。
「待って!ナナっ!!」
ナナの声だ。そう思ったのはナナを追って走り出してからのこと。
ナナの後ろを私は走る。
ナナがふと、足元でスモークグレネードを爆発させた。私が追いつく頃には既に辺り一帯に煙が広がっている。
十字路で煙が広がったせいで何処に向かったのかが分からない。
私はいつもの様に、ナナと戦っていた時のように、周囲の音に集中する。
ガタンッ!
音の聞こえてきた方向に向けて私は走り出す。
煙をぬけた先には...
行き止まりの路地裏があった。
私はつい、舌打ちを零してしまった。
ブラフだった。騙された。
普段であればあんな音に騙されることなく冷静に足音を聞き分けられていただろう。
ナナを見つけて、久しぶりに姿を見られて、油断してしまった。
再び周囲の音に集中してみるが、もう何も聞こえない。
私は先程までの自分を呪いながら、元の道へと戻って行った。
「ナナはどこ」
さっきナナと話していた傭兵の胸ぐらを乱暴に掴んで、私は問い詰めていた。
集合してきた後輩たちが怯えている気がするが、そんなのは今気にしてなんか居られない。ようやく見つけたのだ。絶対に、逃がさない。
「し、知らねぇよ!あの後輩とは、あくまで仕事仲間だ!名前だって今初めて知った!...うぐぅ!」
本当に何も知らない様子の傭兵に舌打ちを零して乱暴に離す。私は後輩を連れて先程の通路に向かった。冷静に煙の晴れた十字路を見てみると、ナナの足跡は特に残っていなかった。
何処にいったか全く分からない。
でも、ナナは確かにいた。
見つけた。久しぶりに会えた。
そう、前向きに考えつつ、捜索の網を広げようと後輩たちに指示を出すのだった。
見つかった!見つかった!見つかった!
私は人気のない路地を走る。
イチカに見つかった。探しに来ていた。
...探して、くれていた。
そのことに、つい喜んでしまった。
嬉しくなってしまった。
私は路地裏で息を整える。
嬉しくなってしまったけど、それでも、イチカの前には出られない。
結局私は、逃げたのだから。
イチカの願いから。みんなの期待から。
そんな私が、どうしてイチカの元に姿を現せようか。
やっぱりイチカには、私を忘れて好きに生きて欲しい。
「イチカ...ごめん...」
溢れてくる涙を堪えることもせずに、私は路地裏にうずくまった。
出ていくために準備した荷物も、もう取り行く気も起きなかった。
今になって、逃げたことへの後悔が。イチカと一緒にいられないという不安が。私を襲う。
こんな所まで、探しに来てくれて。追いかけてくれて。見つけてくれて。
イチカは私を望んでくれていると、分かっている。私が戻ってくることを願ってくれていると、分かっている。
それでも。
「ごめん...グスッ...ほんと、ごめん...」
イチカの隣には、私はやっぱり、居られないから。
いい加減大人しくイチカの隣に立て!!!
お前にはイチカがお似合いなんだよ!!!
クソデカ感情すぎてそのデカさに自分が臆してるのほんと...!さっさとイチカと先生に救って欲しいですね。