「うわぁぁ!」
「前出過ぎ!1回引いて!」
「すっ、すみませーん!!」
私は現在、自分の部隊とイチカの部隊、それと他の小隊4つと一緒に不良生徒たちの鎮圧に繰り出していた。
普段通りの不良生徒の鎮圧であれば、私の部隊だけでも十分なのだが、今回は流石に相手が悪かった。
「開発の邪魔をするなー!」
「ここに温泉を掘るんだー!」
そう、今回の相手は温泉を掘るために、わざわざ重機を率いてトリニティ自治区までやってきたゲヘナの温泉開発部だったのだ。
さすがに数が多すぎる上に、爆発物を大量に扱う相手であるため下手をするとこちらが一瞬で全滅しかねないレベルだ。しかもツルギ先輩もハスミ先輩も今は不在にしているため私とイチカが現場で隊長として鎮圧を行っていた。冗談じゃない。
「イチカ!そっちは!?」
『こっちも手一杯っす!悪いけど救援は出せないっす!』
向こうも厳しい状況らしい。まあ人数差も凄いからね...仕方ないか。
これは私も無理しないとかなー...
「全員1度退避!ひと塊になって多人数で相手をして!」
私はみんなに指示を飛ばすと同時にスモークグレネードを投げつけた。
それが煙を吐き出すと同時に飛び出した。
「うわっなんも見えない!」
「あいた!ぶつかってくるなよ!」
「こっちのセリフだよ!ぶつかってきたのはお前だよ!」
...みんな元気だなぁ。そんなに声を張り上げると位置がバレバレだよ。
私は聞こえてきた声の方向に手榴弾を投げつける。それが爆発すると同時に煙の中に飛び出していった。
煙の中で出会い頭に不良生徒達を倒していると、煙の外から声が聞こえてきた。
「もぉ〜!煙でなんにも見えないじゃん!?」
...温泉開発部って聞いてちょっと嫌な予感はしてたけど、補習授業部の2次試験の時に相手した火炎放射器の子の声が聞こえてきた。...どうしようかな...
そんなことを考えながら煙の中を走り回り、次々に不良生徒を気絶させていると、少しづつ煙が腫れてきた。
周りを見ると、煙の中にいた不良たちはほとんど倒れているものの、その外には温泉開発部の増援が大量にいた。その中にはしっかりと火炎放射器の生徒の姿もある。
私はその生徒と目が合った瞬間、ものすごい勢いで手榴弾を投げつけた。多分、過去一番速く身体が動いたと思う。
「あー!!あの時の!!」
火炎放射器の生徒は飛んでくる手榴弾を気にすることもなく、私を指さしてそう叫ぶと程なくして手榴弾の爆発に巻き込まれた。
「ゲヘナじゃ見ない顔だなって思ったら、トリニティの人だったんだ!!」
爆発に怯むことなく、そう会話を続ける姿に私はドン引いた。なんでノーリアクションなんだよ。
私は引きながらもスモークグレネードを火炎放射器の生徒に投げつける。
「もー!また煙!」
その声で、彼女が移動していないことを確認すると、私は大きく回って相手に接近する。
彼女は前方に炎をこれでもかと噴射し続けているため、煙の中でも位置が分かりやすかった。そこに向かって手榴弾を投げ込む。
「きゃあああ!?」
今度はリアクションがあった。良かった。相手もちゃんと人間だ。最初はツルギ先輩みたいな爆発をものともせず突っ込んでくるバーサーカータイプかと思った。
そんなことを考えていると、手榴弾を投げ込まれる瞬間が見えていたのか、炎がこちら側にやってきた。
「そこかー!!」
「アッツ!?」
咄嗟に引いて火傷、とまでは行かなかったもののギリギリだったので炎の温度を間近に感じることになった。
反応が遅れてあれに飲まれていたらと思うとゾッとする。
でもこれなら...そう思って私は、今度はピンを抜いていない手榴弾を投げ込んだ。
「また爆弾!...あれ?ピンを抜き忘れちゃったかぁ?」
そんな訳ないでしょ...と心の中でツッコミを入れつつ移動して再び手榴弾を投げた。今度もピンは抜いていない。
「また!おーい!これピン抜けてないよ!爆発しないよ!」
敵にそれを教えてどうするんだよ...もしかしてアホの子なのだろうか?
とはいえ手加減する理由にはならないので、再び煙幕を張り直すためにスモークグレネードとピンの抜いていない手榴弾を投げつける。
「むぅ...なんなのさ!こっちの気遣いも無視して!!」
いや、トリニティまでやってきて街を破壊する連中の気遣いとか貰う意味ないんですけど...
そんなことを繰り返して相手の足元に手榴弾がいくつも溜まってきた頃。
「部長ー?あ、今戦闘中。煙ばっかでなんにも見えない!しかもピンが抜けてない手榴弾を投げ込んできちゃってさ。...え?逃げろって...なんで?」
聞こえてきた声に相手の一部に狙いがバレたのを悟った私は、今度こそピンを抜いた手榴弾を投げつけた。
ドドドドオォォン!!
ボカアアアァァァァン!!!!
「「「「うぎゃああああ!!?」」」」
「...えぇ...」
貯まった手榴弾は誘爆を繰り返し、より大きな爆発へと変わり...
更にその上の規模を行く大爆発が、相手を襲うのだった。
多分だけど、相手が持ってた爆弾とかに反応してでっかくなったんだと思う。その衝撃に周囲の煙は一瞬にして晴れ、不良生徒たちは1人残らずその場に倒れ込んでしまった。
とりあえずと、後輩たちに拘束を任せて、私は温泉開発の作業現場だとか話していた場所へと向かうのだった。
「正義実現委員会の部長と副部長が居ないタイミングを狙ったから、警戒するべきはイチカだけだと思っていたんだが...まさか正義実現委員会所属だったとはね、トリニティの爆弾魔さん?」
現場にたどり着くなり、その中央にいた生徒にそう言われていた。その呼び名...ブラックマーケットに居た時に呼ばれていたもののはずだけど...
「...よくご存知で。」
「なに、有名な話さ。戦い方が特徴的だからね。すぐに分かったよ。
ブラックマーケットで聞いた話だからトリニティでは会わないと思っていたんだが...正義実現委員会だったとはね。」
「最近入ったばかりだからね。見たところ、あなた一人みたいだけど...観念してくれないかな。」
そこにいた白衣を着た生徒はとぼけたように手を広げた。そしてその手にはなにかのボタンが握られていた。
私はそれを見て警戒する。
「おっと、気づいてくれたかな?...そう。これはここに仕掛けられた爆弾のスイッチだ。もしこれを押してしまうと君も私も巻き込まれてしまう。そうはなりたくないだろう?それならこれから言うことを...」
「...あなたと私が巻き込まれる?」
「あぁそうだ。」
「私たち以外は?」
「ここに来ていないなら巻き込まれることはないが...」
「よし、じゃあ押そうか。レッツ、ゴー。」
私はそう言って白衣の生徒に近づいて手に持ったボタンを押そうとする。
白衣の生徒はそれを見ると、ものすごい勢いでスイッチを遠ざけた。
「ままま、待ちたまえよ!ま、巻き込まれるんだぞ!?地盤ごと壊して地面を掘り返す強力な爆弾だぞ!?痛いだけでは済まないんだぞ!?」
「でも私たち以外は巻き込まれないんでしょ?それならいいよ。行ってみようか。」
「ヒェッ...」
白衣の生徒が顔を歪めて私を見る。私はそれを意に介さず再び近づいた。
「悪いけど私は、自分が被害を受ける分には構わないからね。ほかのみんなが巻き込まれないのなら、いくらでも。ほら早く。」
「ワ、ワァ...」(՞⸝⸝o̴̶̷̥᷅ ⌑ o̴̶̷̥᷅⸝⸝՞)
泣いちゃった!
...冗談はさておき、私は白衣の生徒の手からスイッチを取ると、それを押すことなく白衣の生徒を縛り上げた。
「こっちは制圧完了。リーダーと思しき生徒を捕まえたよ。」
『マジっすか!お手柄っすよ!こっちも後ちょっとで終わるんで待ってて欲しいっす!』
「りょうかーい。」
...今の反応といい、イチカのことを呼び捨てしてたことといい、やっぱりこの生徒とイチカって知り合いなのかな?
私が拘束して以降ずっと泣き止まない白衣の生徒を見張りながら待っていると、少ししてイチカがやってきた。
「い、イチカ!助けてくれ!」
「うわっ、汚っ!近づかないで欲しいっす!」
おう辛辣。イチカは縛られたまま飛びついた白衣の生徒を雑に投げ捨てると私の元に来た。
「いやー、単身カスミさんを捕まえるなんてお手柄っすね。」
「あ、やっぱり知り合いだったんだ。ゲヘナの不良とって...どういう繋がり?」
「あー...ちょっとティーパーティーの依頼で遺物を運ぶことがあって...その時に...色々あったんすよ。」
「ふうん...」
割と馴れ馴れしいというか、距離が近くてちょっと気になるけど、まあ今度聞くことにしよう。
それから捕まえた不良生徒を輸送車に詰め込んで、それでも多すぎて足りなかったから2往復して、ようやく運び終えたところでイチカから話しかけられた。
「ナナ、カスミさんから聞いたんすけど...自分を蔑ろにしたらダメっすよ。」
「あぁ、そのこと。別に蔑ろにした訳じゃないよ。あの状況での最適解はあれだもん。あそこで引いて逃げられるのは1番最悪だし、仮に自分を巻き添えに爆発させたとしてもそれで捕えられるなら良いかなって。」
「...それを蔑ろにしてるって言うんすよ。」
そんなつもりは無いんだけどなぁ。
むしろあそこで増援を待って味方が増えた時の方が爆発された際のリスクが大きくなっちゃうし...
「まあ他の選択肢があればそっちを選ぶし、自分から傷付きに行くようなことはしないから安心してよ。」
「...まあ、それならいいっす。」
とりあえずイチカも納得してくれたということで、この話はここでおしまい。
とりあえず今は捕らえた温泉開発部をゲヘナの風紀委員会に引き渡すことを考えよう。
既に連絡はイチカが取ってくれているから、私たちの仕事はほとんど輸送車の護衛くらいだ。
輸送車を2台も出して、なるべくゲヘナに対する偏見を持たない子達を連れてトリニティとゲヘナの境界に来ていた。
「ゲヘナの不良の引き渡しって、ちょっと懐かしいな...」
「あれ、ナナはやったことあるんすか?」
「あぁ、ちょっと前に補習授業部を手伝ってた時に、トリニティに入ってきたゲヘナの不良を捕らえたでしょ?それの引渡しに私も立ち会ってたんだよ。」
「あー、そういえばそんなこともあったっすね。そういえばハスミ先輩から補習授業部も手伝ってくれたとか聞いたっす。」
そんなことを話しているとゲヘナの自治区の方から複数の輸送車がやってきた。
「あなたたちが温泉開発部引き渡しの責任者かしら?」
そういいながら輸送車から降りてきたのは、ゲヘナの風紀委員長だった。...相変わらず圧が強いな...
「あー!お前はあの時の!!」
聞こえてきたもうひとつの声に視線を向けると銀髪ツインテールの風紀委員の生徒がいた。
「あ...お久しぶりです。」
「これはどうも...って違う!あの時はよくもやってくれたな!」
「イオリ、知り合いなの?」
「知り合いというか...実は...」
私とこの生徒との接点は、第二次特別試験でゲヘナに入った時だ。その時に、補習授業部のみんながテストを受けられるようにと、私が温泉開発部の火炎放射器の生徒と、この銀髪ツインテールの生徒を単身相手したのだ。
まあ私は時間を稼いで逃げただけだし、特別試験の方は会場が爆破されて答案用紙ごと燃え尽きたことで不合格になっちゃったんだけどね。
「あんな苦しい言い訳をしてまでゲヘナに来るだなんて...!」
「いやぁ、あれほんとなんですよね。先生にでも聞いてみたらどうです?爆破で試験はうやむやになっちゃいましたけど、実際に試験はやってましたし。」
「...どういうことなの?」
風紀委員長さん、あんまり気にしない方がいいと思います。トリニティってこんな感じなんで。
「まあ過ぎたことは良いじゃないですか。とりあえず今は温泉開発部の回収をお願いします。」
「...ナナ、ちょっとたくましくなったっすね。」
それ良い意味で言ってる?
「分かったわ。とりあえず少しづつ車に移していきましょう。」
「了解しました。」
それから私たちは輸送車に詰まった温泉開発部の生徒たちを少しづつゲヘナの輸送車の方に移していった。
その途中、温泉開発部の部長が私を見た途端に、泣いちゃった!と思ったら風紀委員長に渡した瞬間に私を見た時以上に号泣した。
え、何?トラウマか何か?
まあ、普通に考えて悪いのはそっちの方だろうから同情はしないけど。
それからゲヘナの輸送車への移動を終えて、引渡し作業完了の報告書に風紀委員長のサインを貰ってから学園へと帰ることになった。
「ナナ、思ったより交流広いんすね。」
「広いというか...今回とか敵対した相手だからね。
それに、それを言うならイチカだって。温泉開発部の部長と知り合いだったなんて意外。」
「私も敵対...とは言いきれないっすけど、巻き込まれた側っすよ。」
「そんなこと言われたら、何があったのか余計に気になるなぁ...」
やっぱり今度教えてもらおう。
それから学園へと帰ってくると、そこで待っていたハスミ先輩が出迎えてくれた。
「2人とも、お疲れ様です。色々と任せてしまったすみません。」
「いえ、ハスミ先輩も外せない会議だったんでしょう?仕方ありませんよ。」
「そうっすよ。それに無事に制圧出来ましたし。」
というか温泉開発部の部長もツルギ先輩とハスミ先輩がいないタイミングを狙ったって言ってたし。
「ありがとうございます。2人とも、お疲れ様でした。今日はもう上がってもらって構いませんよ。」
「そうっすか?それならお言葉に甘えさせて貰うっす。ナナ、これから一緒に遊ばないっすか?」
「うん、いいよ。それではハスミ先輩、お疲れ様でした。」
「えぇ、お疲れ様です。」
それからイチカと街中に繰り出して、めいっぱい遊んだ。久しぶりのイチカとのデートはとても楽しかった。
もはや開き直ってナナは強くなってます。
もうええでしょ。ナナは強いです。(確信)
イチカと正実2年生の名実ともにツートップ張ってもらいます。