どうか私を、終わらせて   作:めめ師

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正実2年生のツートップ

「ねぇねぇ、どっちが勝つと思う!?」

「私はイチカ先輩!!」

「ナナ先輩だって強いよ!ナナ先輩の戦闘すごいんだから!!」

「それはあなたがナナ先輩の部隊だからでしょ!えこひいき!」

「イチカ先輩だって!部隊指揮すごいよ!!」

「ナナ先輩もすごいよ!」

 

現在正義実現委員会の1年生が楽しそうにそう話していた。というのも、今日の放課後の訓練では、ナナ対イチカの対人戦闘訓練が実施されるからであった。

 

イチカは後輩たちの憧れの2年生のかっこいい先輩。

ナナは今でこそ正義実現委員会所属であるが、たまに手伝いに来てくれた謎の強い先輩という立ち位置であった。

そんなふたりの対人戦闘訓練、果たしてどんな結果となるのか。みんなその話で盛り上がっていると、やがて放課後になった。

 

 

そんな様子を学校の色んなところで聞いた私はイチカと話していた。

 

「...なんか盛り上がりすぎじゃない?」

「そりゃ昨日からずっとその話で盛り上がってたっすからねぇ。しかも2年生の間では何やら賭け事が行われてるらしいっすよ。ちなみにこれが今のところの結果っす。」

「えぇ...」

 

イチカに見せられたスマホの画面を見ると、2年生のグループモモトーク内のアンケート機能で私とイチカの投票が行われていた。

イチカが7割、私が3割だ。

ちなみにイチカもしれっと自分に投票してた。

 

「...そういう事されると、俄然燃えてきちゃうなぁ。」

「おっ、やる気になったっすか?悪いけど、手加減はしないっすよ。」

「当然。」

 

私はこれまでイチカと戦ってきて、まだ1度も勝ったことがない。それもあって元々やる気はあったのだが、下馬評でここまで差をつけられると、覆してやりたくもなってくるものだ。

つい漏れた笑みを、イチカに向けた。

 

「...ナナ、なんか変わったっすね。」

「そう?特に自覚はないけど、変えてくれたのはイチカだから。」

「そうっすか。それなら、嬉しいっす。」

 

イチカも笑みを返す。

それから2人、隣合って正義実現委員会の訓練場へと歩いていくのだった。

 

...そんな様子を遠くから眺める後輩たちの一部が興奮から気絶していたが、2人がそれに気づくことはなかった。

 

 

「2人とも、今日のあなたたちの戦闘訓練はみんなから期待を寄せられています。お互い頑張ってください。」

「了解っす。」

「...なんか仰々し過ぎないですか?」

 

イチカは隣で普通に返事しているけど、私はさすがに流し切れなくてハスミ先輩に質問した。

 

「特に1年生にとってはナナとイチカの戦闘訓練を見るのは初めてですし、2人とも2年生のツートップとして憧れの視線を向けられていますからね。」

 

あ、その評価まだ生きてるんだ...

 

「それに3年生の中でもどちらが勝つかの予想が行われていますからね。...ほらこれです。」

 

そう言ってハスミ先輩のスマホ画面には先程のイチカと同じモモトークのアンケート画面が表示されていて、今度は私とイチカがどちらも五分五分の票数であった。

こっちもか...と私もイチカもふたりして苦笑いを浮かべた。

 

それから少しして、戦闘訓練のためにみんなが訓練場に集まっていた。

 

しかも観客がめっちゃ多い...

ちょっと緊張してきたな...

 

私が訓練場のスタート位置で身体を伸ばしていると、スタート合図のブザーが鳴った。

 

「よし、やろう。」

 

今回のステージは割とスタンダードな広間にちょくちょく遮蔽物があるタイプ。向こうに小さく見えるイチカも遮蔽物へと走り込むのが見え、私も同じように遮蔽物へと隠れる。

そのまま私はイチカが銃を撃ち込んでくる隙がないよう慎重に次の遮蔽物へと走り込む。

そうしてステージ全体のうち、3割ほどを進んだ頃にイチカの銃弾がこちらに飛んできた。

とは言っても私は遮蔽物に隠れているので、当たらずあくまで牽制程度のものだ。

 

それならと、その射撃の合間を縫って私はそのまま遮蔽物をひとつ、またひとつと射撃や手榴弾の牽制無しに進んでいく。それから私の拳銃も有効距離に届くくらいにはイチカとの距離が近づいた頃、私はスモークグレネードを私とイチカの間に投げつける。

その煙が広がるのと同時に私は走り出した。

イチカの方向ではなく、イチカのスタート位置、ステージの向こう側に向かって。

 

それから広がった煙の範囲外から遮蔽物に隠れて煙の中を観察する。

特に動きは見えない。物音もしない。

少しすると煙も少しずつ晴れてきた。

煙の向こうには周囲を警戒するイチカの姿が見えた。

遮蔽物の裏側に入るものの、私は今逆にその奥にいるため、私からすると丸見えだった。

 

...とはいえ、私の持ち武器は拳銃と手榴弾。奇襲には有効だろうが、その一撃を利用して試合を終わらせるほどの火力はない。

とはいえ、こういう状況でどうするのかは事前に決めていたため、それを試そうと私は前にでる。

 

ゆっくり進み、イチカが隠れている遮蔽物の後ろにまで来た私は手榴弾のピンを抜き投げつける。

その物音に気づいたイチカがこちらを振り向くと同時に横に飛び出す。

その瞬間に私もそこに最初のものと送らせてピンを抜いた手榴弾を投げつけた。

イチカはそれすらも反応して再び横に飛んだのだが...

焦って動きが直線的になったイチカの動きを、私は読んでいた。

 

一瞬で飛び出してイチカに肉薄した私は拳銃を撃つと同時に蹴りを入れる。

銃弾はイチカに当たったものの、蹴りは防がれた。

イチカは瞬時に体勢を立て直して蹴りを返してきた。それを後ろに飛んで避けた私を追撃しようと足に力を込めたイチカを...

 

足元に転がった手榴弾の爆発が襲った。

 

 

「うっ...!いつの間に...!?」

「イチカは焦ると動きが分かりやすくなるよね。あの時に気づいたんだ。」

 

私はそう言ってスモークグレネードをイチカに投げつけ、それを撃ち抜いた。

イチカの目の前で広がった煙は瞬く間に周囲を包み込んだ。

私はその場にピンを抜いた手榴弾を落としてその場から退避する。

そこにイチカが飛び出してきたが、煙の中足元に転がった手榴弾には気づかず、爆発に巻き込まれてしまった。

 

「がっ!?」

 

私をそれを確認すると後ろに下がって煙の外に出る。

そのままさっきと同じように外から観察をしていると...

 

私のいた場所に正確に銃弾が飛んできた。

 

「...っ!?」

 

私がそれに怯んだ瞬間にイチカが煙から飛び出してきた。

イチカが繰り出してきた回し蹴りをしゃがんで避け頭上に銃弾を飛ばす。しかし焦って撃ったそれはイチカには当たることなく銃を振ってきたイチカに頭を殴られた。

 

私は怯みつつもイチカに牽制射撃を飛ばしながら後ろにあった遮蔽物へと下がる。

 

イチカの方もさっきのように不意打ちで手榴弾を当てられてはたまらないと考えたのか、遮蔽物に身を隠した。

 

戦場は膠着状態。ステージには一切の音がなく観客たちも言葉を発さずに固唾を飲んで戦いを見守る。

 

その静寂を破ったのはイチカから。

遮蔽物から飛び出すと同時にアサルトライフルを撃ち込んできて私の動きを制限する。

 

イチカの動きを音で察知した私は、手榴弾を投げ込むとそのまま遮蔽物をイチカの方向に蹴り飛ばした。

 

「なっ!?」

 

さすがに遮蔽物が飛んでくるのは想定外だった様でイチカは咄嗟に横に飛ぶ。私は次の遮蔽物目掛けて走りながらイチカに向けて数発発砲をした。

イチカも負けじと撃ち返してきたが、私はすぐに遮蔽物にたどり着きほとんど被弾はなし。

 

ここまでは完全に私の方が有利だったが、果たしてこのまま押し切れるかどうか...イチカが相手なのだから、やっぱり油断は禁物だ。

 

「あは...あははは!」

「...イチカ?」

 

イチカが不意に笑いながら私の方に飛び出してきた。

さっきとは比べられないほどに速度が増していて、振り下ろしてきた銃を手で受け止めるも、威力が段違いで腕が痺れてしまった。

 

「ナナ!楽しいね!」

 

おっと、イチカって意外とそっち系?ツルギ先輩側だったのか。冷静なタイプだと思ってたから意外だ。...とはいえ。

 

「うん。楽しいよ。」

「あははは!」

 

私はこれまでイチカと戦った時は、ブラックマーケットでの最後の戦闘を除いて一方的にやられてきてばかりだった。最後のブラックマーケットでの戦闘においても、万全とは言えない状態での戦闘だった。

そんなこれまでのものとは違い、今回の戦闘は、お互いに万全で、初めてしっかりと拮抗した戦いができていた。

 

そんな状況で、私もイチカと同様に、この戦闘を楽しいと思えていた。

うん、楽しい。まだ戦っていたい。イチカと並んでいられるこの時間を、もっと。

 

そんなことを考えながら私はイチカに撃ち返す。

イチカはそれを銃身で受け止めながら私に蹴りを入れてくる。咄嗟に腕を入れてガードするが、それでもやはり威力は殺しきれない。

後ろに下がりながら足元に手榴弾を落とす。ピンは抜いてはいない。

 

イチカはそれを無視しながら私に接近してくる。

イチカからの猛攻を何とか受け止めながら銃の横薙ぎをしゃがんで躱すとイチカの後ろ側へ向けて発砲した。

 

イチカは咄嗟に後ろにあった手榴弾の爆発を警戒して後ろを振り向き、腕を交差させたのだが...

 

 

手榴弾が爆発することはなかった。

私が撃ったのは何でもない場所。手榴弾を撃ったというブラフだ。

 

そして隙だらけになったイチカの背中を蹴り、今度こそ手榴弾に銃弾を当てた。

無防備な状態から蹴られたイチカはバランスを崩して前のめりになり、その先にあった手榴弾が爆発、もろに爆発を食らったイチカは、そのまま倒れ込んで気絶したのだった。

 

「はぁ...はぁ...勝っ...た...?」

 

私は倒れたイチカを認識するまでに少しの時間を要した。それを認識した瞬間、観客席からの歓声が聞こえてくる。

 

私は呆然と倒れるイチカを見たあと、イチカを抱き上げてステージを後にするのだった。

 

 

「ナナ先輩、かっこよかったです!」

「イチカ先輩に勝っちゃうなんて!」

「完全にイチカの方が強いと思ってたよ!」

「ナナちゃんやるじゃーん!!」

 

演習場からでると、観客席から降りてきたみんなに囲まれていた。

褒めてくれるのは嬉しいんだけど...

 

「と、とりあえずイチカを救護騎士団に運ぶから、みんなどいて〜!」

 

今は、イチカを運びたいから後にして欲しいなぁ。

そこにハスミ先輩がやってきた。

 

「お疲れ様です、よく頑張りましたね。ナナも疲れたでしょう?イチカは私が運びましょうか?」

「いえ、大丈夫ですよ。私が運びたいんです。」

 

なんだかイチカに勝てたというこの達成感を感じていたいし。イチカが起きたらしっかりと勝ち誇ってやろう。

 

「私が運びたいって...もしかしてナナイチ!?新解釈!」

「私はこっちもあるって信じてたよ!やっぱりナナ先輩しか勝たん!」

「ナナ先輩もイチカ先輩もかっこいいから似合うのがずるいよねー。」

 

 

 

「正義実現委員会の訓練だと言うのは理解しますが、あまりやり過ぎないように。これは明らかにやりすぎですよ。」

「いやぁ...私もイチカも、ちょっと熱くなってしまって...」

 

救護騎士団の病棟にイチカを運んだ私は、イチカの治療を担当してくれた蒼森先輩に説教をされていた。

 

「はあ...本当に気を付けてください。

...それと篠崎 ナナさん、少しよろしいでしょうか?」

「...はい、大丈夫ですよ。」

 

 

 

私は蒼森先輩に連れられて、病棟の屋上に来ていた。

 

「篠崎 ナナさん、無事に学園に戻ってこられたようで、安心しました。」

「その節は本当に、ご迷惑をおかけしました。...もう、大丈夫です。」

「...あなたは、救われたのですか?」

「えぇ。私はみんなに、イチカに、救われました。

...まだ、前を向けているかどうかは分かりませんが...イチカが私を、引っ張ってくれますので。」

 

私の答えに、蒼森先輩は安心したような笑みを浮かべた。

 

「それは、良かったです。一時期のあなたは、本当に吹けば消えそうなくらいの印象を覚えましたので。」

「...本当に、特に蒼森先輩には、色々と...」

「いえ、謝らなくても構いません。あなたが救われたというのであれば、それで十分なのです。」

「それでは...ありがとうございます。私を、諦めないでくれて。蒼森先輩も、みんなも。お陰様で、私は今、生きています。」

「えぇ。それで良いのです。それでこそ、私の救護にも意味があったのだと思えますので。」

 

蒼森先輩は、私を抱き寄せて頭を撫でる。

少し気恥ずかしかったけど、これも迷惑料だ。こんなのじゃ釣り合わないほど、蒼森先輩は私を気に掛けてくれた。

 

蒼森先輩も、本当にありがとうございました。

 

 

 

それから病室に戻ってくると、イチカが起き上がっていた。

 

「おはようイチカ。体は大丈夫?」

「あぁ、大丈夫っす!いやー負けたっすねー...ナナ、強かったっすよ。」

「...イチカの癖を知ってるからこそって感じだったしなー。しっかり勝てたかと言われると...」

「いやいや、ナナのブラフにしっかりと引っかかって負けたから。文句なしの負けっすよ、負け。」

 

そういうイチカは、なんだか物悲しそうな表情を浮かべていた。

 

「...ずっとナナを引っ張っていくつもりだったから、負けてやるつもりなんて一切無かったんだけどね...」

「イチカ...大丈夫だよ。どんな事があっても、イチカは私のヒーローだから。

...私を引っ張りあげたんだもん!このまま最後まで連れて行ってくれないと!」

「ナナ...ありがとう...」

 

そう言ってイチカは安心したような笑みを浮かべたのだが...やがてその表情が段々と焦ったようなものになってきた。

 

「それで...その...」

「イチカ、どうしたの?」

「いやー...その...途中楽しくなっちゃって...」

「うん、楽しそうだったね。」

「えーっと...その...忘れてくれないっすか?アレ...」

「何を言ってるの?」

 

どうやら事情を聞くにイチカにとってはあの状態は黒歴史的なもので、あまり表には出さないようにしていたらしい。だから忘れて欲しいのだと。

 

 

私はそれを聞くと、深くため息を着いた。

 

「...あのさぁ、イチカ。」

「な、なんすか?」

「イチカは私を受け入れてくれて、それで私には受け入れずに忘れろって言うの?」

「うっ...!」

「絶対に忘れない。あれも、イチカでしょ。だいたい、楽しむことの何が悪いの?私だって楽しかったのに!それを忘れろだなんて、絶対に言わないで!」

「わ、悪かったっす!だってあれは...黒歴史だし...」

「イチカ。」

「うっ...分かったっす。」

 

どうやら分かってくれたらしい。それならよしとしよう。

 

「...ナナ、ありがとう。」

「うん、それでいいよ。」

 

それから私たちは、なんでもない話で笑いあった。先日の温泉開発部との接点について、イチカのらしくないミスとどうしてあんなに馴れ馴れしそうだったのかを聞いた。

 

こんな風にこれからも、お互いを認め合って、受け入れて、知り合っていきたいものだ。

これからも、ずっと。

あなたの隣で。




ナナも成長したってことでどうでしょう?
まあ色々と戦闘経験積んでるし、戦闘指揮もするようになって周りが見えるようになったとかで、どうにかこう...ね?
攻撃力は元々あるんで(大量の手榴弾)それを如何に当てるかっていうのがナナの戦闘です。拳銃は空気。
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