私たちは早朝に起きて蒼森先輩が作ってくれた朝食をふたりで食べた。
「病院食って味が薄いって聞きますけど、結構美味しいっすね。」
「これはお2人用に作ったものですので、病院食とはまた違います。至って健康体の方に病院食を食べていただく必要はありませんので。」
それにしたって蒼森先輩、料理上手だな...めっちゃ美味いぞこれ。
ご飯を食べ終わったあとは学校の準備のために1度寮に戻ろうとすると蒼森先輩が外まで案内してくれた。
「ご馳走様でした。美味しかったっす。ありがとうございました。」
「ありがとうございました...その...ご迷惑をお掛けしました。すみm」
「謝罪は必要ありません。救護の必要な方に救護を届けただけですので。」
そう言って片手をあげた蒼森先輩に私は会釈だけを返し、そのまま寮へと向かい学校の準備を終えたあと、再び校舎へと向かっていった。
その道中出会った正義実現委員会の先輩や同級生が心配して寄ってくるが、私はみんなに迷惑をかけてしまった追い目から顔をあげられず、一言も発することが出来なかった。
その間ずっと、イチカさんが周りのみんなを宥めてくれている。
「ほらほら、ナナにも事情があったんすよ。あんまり詰め寄ったら可哀想っす。」
あぁ...私はまた、自分のエゴで...
「迷惑じゃないっすから。」
「...え??」
「私がやりたくて私の為にやってることっす。負い目に感じる必要はないんすよ。」
そうは言われても...私の罪悪感は消えない。イチカさんの時間を奪ってしまっている事実に変わりはないのだから。
「...ごめんなさい」
「こういう時はありがとうっすよ。」
私は罪悪感を抱えたままお礼なんて言う気にはなれなくて押し黙った。
そのまま教室に入り、授業を受けるが私は全然集中できておらず、今日はノートもまともに取れなかったし、内容も一切覚えてない。
私の頭に渦巻くのはみんなに迷惑をかけた後悔と罪悪感、今日の放課後、正義実現委員会に向かった時にどう謝罪するべきか。そしてずっと傍に控えて私を励ましてくれているイチカさんへの謝罪だった。
放課後、結局どう謝罪するべきかを何も思いつかないまま、ぐちゃぐちゃになった頭をどうにか動かして正義実現委員会の扉を開ける。
扉の開く音に振り向いたみんなは私の姿を見つけると一斉に駆け寄ってきた。
「ナナちゃん!良かった、大丈夫!?」「ナナ、大丈夫だったのか!?」「ナナちゃ〜ん!良かったよぉ〜」
「おーい、みんな落ち着くっすよ。ほら、ナナがびっくりしちゃってるっす。ね?」
イチカさんの声にみんなが散っていく。
それぞれの会話に戻っていくも、視線は私にチラチラと向いている。
私は謝罪もできずに黙って俯くだけで、前へと進んでいくイチカさんに手を引かれてついて行くだけだった。
やがてイチカさんが歩みを止める。私はふと感じた視線に顔をあげると、そこには早乙女委員長と剣先先輩が立っていた。
2人ともこっちを黙って見つめるばかりで何も言わない。
イチカさんも黙ってこちらに顔を向けていた。
...あの、何を?
あぁ、謝罪しろという圧か。
「...この度は私の身勝手でご迷惑をおかk」
「いや、そうじゃない。」
ん?そうじゃないって何?謝れって意味じゃないなら何すればいいのか分からんのだが...
「...すまない。私達も、なんと言うべきか...言葉が見つからないんだ。」
「...とにかくだ。無事でよかった。
...救護騎士団の蒼森から事情は聞いた。私からはとりあえず一つ。
誰もお前を迷惑だなんて思っていない。何でもかんでも一人で気負うんじゃないぞ。」
「...ごめんなさい。」
あぁだめだ。涙が出てくる。負の思考が止まらない。昨日からずっとそうだ。私の、私を責める言葉だけは何時までも鳴り止まない。
お前のせいだぞ、お前は生きてるだけで迷惑を振りまくんだ、あの時死んでしまえばよかったのに。
あぁ、なんで私は生き残ってしまったんだろう...なんで醜く生き永らえてしまったんだろう。
「...ごめんなさい。」
そんな私の様子を見てイチカさんが私を両腕でふわっと包む。
「大丈夫っすよ。誰もナナを責めないっす。誰もナナを否定しないっす。
...自分を認めていいんすよ。」
イチカさんがずっと励ましてくれているが、その声も私には響かない。きっと私は、これから先...自分を認めることなんてないのだろう。
「...ごめんなさい」
せっかく励ましてくれているイチカさんの言葉を真っ向から否定する自分の思考に吐き気を覚え、嫌悪感を誤魔化すように、私はまた。
自分勝手な謝罪を口にするのだった。
その日私は、訓練に参加することなく、イチカさんが演習訓練を行っている様子をただただぼーっと眺めていた。
...イチカさん、ほんとに動きいいな...遮蔽物の先にいる相手の動きを完全に分かりきっているように、その死角を掻い潜って相手の予想だにしないルートから飛び出す。
ほんとに凄いな...リロードした後、空のマガジンを放り投げるのと同時に逆側から飛び出す。
戦略もすごいけど、飛び出した一瞬で照準合わせて頭に弾丸叩き込んだぞ...
前に戦った時のことを考えると多分私が気づいてないだけで他にも色々やっているんだろう。
...私には絶対出来ないな。
見事演習に勝利したイチカさんが講評を終え、私のいる演習場観戦用の2階へ手を振り、ピースサインを向けた。
私は未だ、自分のエゴに他人を巻き込んでいる罪悪感を拭いきれていない。
いや、拭うつもりがないというほうが正しいな...
その罪悪感が膨らむのを感じ、私はイチカさんから目を逸らし、演習場を後にした。
それから私がやってきたのは、最初の方に使った後、みんな次のステップに進んだため無人となっていた射撃訓練場だった。
私は普段担いでいたショットガンを地面に下ろし、代わりにカバンの奥底から私の普段使いの拳銃を取り出した。...普段使いと言っても実際に撃った経験は購入時にしかないが。
なぜショットガンではなく拳銃なのか、自分でもよくはわからない。
そういう気分なだけか、あるいはわたしがこの銃に名付けた意味を再び考えるためか。
キヴォトスでは自身の愛銃に名前をつけるのが一般的だった。まあ私の場合、愛銃と呼ぶほどの思い入れはこの銃にはない訳だが...
それはそれとして、私の銃の名はAn End。
TheではなくAn。
状況を指定しないただ漠然とした終わり。
私が望むもの。
そういう意味を込めて私は名付けた。
私は今も、同じだろうか?死にたくないと思ってなお、終わりを求めているのだろうか?
それを確かめたくて、私はアン エンドを自身のこめかみに当て、引き金に指をかける。
...うん。特に恐怖はない、その気になればこのまま撃てる。
とはいえ、こめかみに拳銃を打ち込んだ程度でキヴォトスの人が死ぬことはないから、こんなものはなんの指標にもなりはしないのだが。
意味の無いことをしているなと自覚してため息をひとつ吐く。
そして私は目の前に並ぶ的にAn Endの照準を合わせた。
1発、2発、3発と連続して撃った。
...全部外した。壊れてるのかこの銃?後で整備しないとな...
私はアン エンドを制服に収め、地面に無造作に置いていた支給のショットガンを適当な机に置いた。
するとそこで後ろから声をかけられる。イチカさんだ。
「銃、変えるんすか?」
「...はい。こうなった以上、私がショットガンを持つ意味もないですから。」
ショットガンの扱いや立ち回りを教えてくれた剣崎先輩には申し訳ないが、今の私には、とてもショットガンを撃つ気にはなれなかった。
...死ぬ気もないくせに、死にたいだなんて宣っていた、気色の悪い過去を思い出してしまいそうで。
イチカさんが射撃場の入口から歩いてきて私の隣に並ぶ。
「...私はもう終わるつもりでしたが。」
「いいじゃないっすか。ちょっと付き合ってくださいよ。」
「...ちょっとだけですよ。」
私が了承するとイチカさんは肩に提げたアサルトライフルを流れるような手つきで構え、次々と的に当てていった。
ほんと綺麗だな...
私もそれに習って再び拳銃を取り出し、的に向けて弾を放つ。
...まじで当たらないな...
「ははっ、全然当たってないじゃないっすか。
それ、普段使いの銃じゃなかったんすか?」
「...撃つ機会なんて無かったのでほとんど今日が初めてみたいなものですよ。まともに整備もしていないですし、見ての通りの結果です。」
「ちゃんと整備しないとダメっすよ?いざと言う時、自分を守ってくれる銃なんすから。」
...別に、いざと言う時こそ私の望んだ状況だから...
そういう時は、いっその事...
「まーたそう言う顔をする...こらっ!自分を卑下しちゃダメっすよ。」
イチカさんが子供を嗜めるような口調になり、私は少し恥ずかしくなった。それを誤魔化すように私は再び、的に向かった。
それ以降も全然的には当たらなかったが...
そうこうしているうちにやがて、チャイムが鳴った。今日の訓練はこれで終わりだった。
「...私なんかに構ってて良かったんですか?自分の訓練は?」
「なんかじゃないっすよ。
...安心するっす。ちゃんと許可もらってるんで。」
そう言って銃を片付け、一足先に射撃訓練場を出ていった。イチカさんを見届け、私は再び自身のこめかみにAn Endを当てる。
私はまだ、引き金をしっかりと握れていた。
私が帰ろうとしたところに剣先先輩がやってきた。
「きょ、今日はどうだった?リフレッシュはできたか?」
めちゃくちゃ目が泳いでるな...この表情は...緊張???
この人でも緊張するんだな...まあ、私のせいか。
「まあ、そうですね。わざわざ時間を儲けてくださってありがとうございます。」
私がそうやって頭を下げると後ろからやってきたイチカさんに頭をチョップされた。
「こら、ツルギ先輩は事情を知ってくれてるんすから、正直に言わないとダメっすよ。
まだやっぱりメンタルの方が安定しきれてないっすね。当分は演習やパトロールはやらずにメンタルケアに集中した方が良さそうっす。」
「そうか。イチカ、ありがとう。」
結構痛い...私は本心のつもりだったんだけど...
「明日は救護騎士団からカウンセリングがあると聞いている。放課後はこっちの方に来なくてもいいから、カウンセリングの方を優先しろ。」
うげぇ...めんどくさ...サボるか?
「...分かりました」
「...ちゃんと行くんっすよ?」
「分かってますよ」
「今サボろうって考えたでしょ。
ナナは結構表情に出るっすから、分かるっすよ。」
「...はぁ...分かりました。ちゃんと行きますよ。」
それから帰宅途中のこと、私がいつものように夕飯を買おうとしたところ、イチカさんから声がかかった。
「ナナ、今日私の部屋に来るといいっすよ。」
「え...いや、大丈夫ですよ。」
「来るといいっすよ。」
「...いや...」「来るっすよね?」
「...はい」
開いた目の圧に押し切られてしまった...最近こういうの多くない?
「お邪魔しまーす...」「いらっしゃいっす。」
相変わらず綺麗な部屋だなー...
「それじゃあ夕飯作るんで、くつろいでて。」
「分かりました。」
テレビは...あんまいいのやってないな...適当にSNSでも見とくか...
「お待たせっす〜。今日はオムライスっす。」
おおー美味しそう。イチカさん強いし勉強もできるみたいだし料理も出来るってもう最強では?
そんなハイスペック超人、マンガとかでしか見ないぞ。
「むぐむぐ...美味しいです。」
「それは良かったっす。ナナの為に作ったかいがあるっすね。」
そう言ってウインクを飛ばしてきた。...かっこいいな。さすがイケメン、絵になる。
それから食べ終わってふたりで片付けと皿洗いを済ませたあと、テーブルに座って喋っていた。
「このあと何するっすか?なんかやりたいこととか。」
「あー...銃の整備やりたいなーとは思ってましたけど...」
「そういえばそうっすね。じゃあ私もやりますか。
ちょっと待ってるっす。ブルーシート持ってくるんで。」
ブルーシートを広げたテーブルの上でイチカさんのアサルトライフルと私のハンドガンを分解していた。
「...ナナ、まだ自分に自信は持てないでしょうけど、私が支えるっすから。ちゃんと生きて、一緒に学校生活を楽しむっすよ。」
「...やっぱりその話ですか...そう言って貰えるのはとても嬉しいことです。
...でもやっぱり、変わりません。」
そう言って私は組み上げた拳銃を自分のこめかみに当てる。
「...引き金が、引けてしまうんですよ。
私はまだ、人を撃てない。撃つのが怖い。私が...他人を傷つけられるようになるのが、怖い。
それでも自分だけは、違うんです。私はやっぱり、自分を大切には思えない。私は私が、嫌いなんです。」
今組み上げたての拳銃のため弾は入っていない。今引き金を引いたところで弾なんて出ることはない。
だがこれは、そういう話ではない。心の問題だ。
その意図はイチカさんにも伝わったらしく、イチカさんは私の話を黙って聞いていた。
「ナナは、優しいんだよ。優しすぎる。
だから周りに迷惑をかけたくないって頼らずに全部一人でやろうとしてしまう。その優しさを、自分に向けられないんなら。ナナから優しさを向けてもらった私たちが、ナナに返すよ。」
「...私が優しいなんてあるわけないでしょう?」
だって私は、全部エゴで。迷惑をかけたくないのも、巻き込みたくないのも、何も出来ない自分が嫌で、嫌いで。
「自分で気付けないなら、私が気づかせるよ。何度でも伝える。ナナは優しいんだって。」
優しい声色でイチカさんが私に語りかけてくれている。
その声色に私は思わずもしかしたら...とさえ思ってしまった。
しかし即座に自己嫌悪が心を支配した。
まだ希望を持てるのかと、持とうとしているのかと。
あぁ、私は本当に恵まれているんだなぁ。こんな素敵な友達が私の為に一生懸命になってくれている。私を励ましてくれている。
...私から返せるものなんて何ひとつとして無いのに。私は否定することしかしないのに。
こんな素敵な出会いは...思い出は...
私の望みを、願いを。
死を。
阻む、呪いとなって、私に纏わりついていた。
こいつどうやって晴らせばいいんだよ(怒)
とりあえず先生来るまでにはちゃんと進めます。
前回のタイトル気に入りすぎてナナの銃の名前になりました。
現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?
-
いる。
-
いらない。
-
どっちでもいい。