どうか私を、終わらせて   作:めめ師

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私はきっと...

"自分で気付けないなら、私が気づかせるよ。何度でも伝える。ナナは優しいんだって。"

 

イチカさんが私を思って紡いでくれた言葉は私をこの世に縛る枷となる。

 

優しい言葉だ。輝かしい気遣いだ。私の為の思いだ。

しかしそれらは私の心に突き刺さった。

 

あぁ、お礼を言わなきゃいけない。思いに答えてあげなきゃいけない。気付いてあげなきゃ行けない。

それでも私は...私の口を飛び出したのは。

 

「...私が自分を優しいだなんて思うことは、ありませんよ。」

 

そんな相手を否定する、最低な言葉だった。

自分の言ったことを理解し、目に涙が滲む。

私は一体、何を泣いているんだろうか。

泣かせる側でしかないくせに、泣くような資格も無いくせに。

 

与えてもらっているくせに、時間を奪っているくせに、何も返せない。返さない。

片利共生関係と言うやつだろうか。

私にのみ利益があり、イチカさんはひたすら奪われるだけ。

私はそう、イチカさんの優しさを蝕み続ける寄生虫でしかないのだと、実感した。

 

イチカさんの顔を見れない。浮かぶ表情は軽蔑だろうか、失望だろうか。

どうか、私を蔑んでいて欲しい。どうか、私を否定していて欲しい。

 

「...すみません。帰ります。」

 

私はいてもたってもいられなくなり、椅子から立ち上がる。

 

あぁ、今すぐ高所から飛び降りたい。海の底に沈んでしまいたい。

いや、何でもいい。射殺でも窒息でも服毒でも病気でも何でも。

 

とにかく死んでしまえれば。消えてしまえれば。

 

 

そのまま彼女の顔を見ることなく横を通り抜けようとした私の腕を、イチカさんは掴む。

 

「帰さない。」

 

嫌だ。続きを聞きたくない。

だって私はこの期に及んで、止めてくれるんじゃないかと、私を肯定してくれるんじゃないかと、期待してしまっている。

 

でも、ここで肯定されてしまったら、私は一体なんなのだろうか。自分が惨めで仕方がない。私は一体、どこまで堕ちてゆくのだろうか。

 

「言ったよね。サポートするって。頼らせるって。

私は絶対にナナを、離さないから...ナナがどれだけ自分が嫌いでも、私が好きだから...諦めない。」

 

聞いてしまった。肯定されてしまった。

 

これを皮切りに私の目から大粒の涙が溢れてくる。

もう止まらない、止められない。

果たしてこの涙は自己嫌悪によるものか、あるいは嬉しさによるものか。

もはや私にも分からない。

 

 

目を覚ますと私は知らぬベッドに横になっていた。近くにあった時計を見ると4:30を示している。

そして隣には、イチカさん。

 

どうやら私はあのまま気付かぬうちに眠ってしまったらしい。

1人用で狭いだろうに、私をわざわざベッドで寝かせてくれたらしい。その気遣いに感謝しつつ、私はイチカさんを起こさないようにゆっくりとベッドを抜け出す。

 

昨日入ってないのでお風呂に入りたいが、自分の部屋に戻るとイチカさんの部屋を開けっ放しにしてしまう。仕方なく、急いで自分の部屋から下着を取ってきて、イチカさんの部屋のお風呂に入らせてもらう事にした。

 

私がお風呂から上がるとイチカさんが起き上がってきていた。

なるべく静かに入ったと思ったんだけどな...

 

「おはようございます...すみません。起こしてしまいましたか?」

「おはようっす...シャワーっすか?」

「あぁ、借りました。ありがとうございます。」

「良いっすよ。ドライヤーはそこあるんで。」

 

ものすごいハキハキしてる...イチカさん朝強いのかぁ、良いなぁ。

 

「ありがとうございます。借ります。」

 

髪を乾かしたあと、私はイチカさんと一緒に食堂に来た。

イチカさんはいつものトースト、私は今日はスープにした。

 

「はぐっ...やっぱ美味しいっすね〜」

「イチカさん、ほんと美味しそうに食べますよね。」

「そうっすか?...なんか恥ずかしいっす。」

 

おぅ、照れてるイケメン可愛すぎんか???

 

それから私たちは学校に行き、そのまま授業を受けた。

私が集中できていたかは...微妙だけど、一応ノートは書いていた。

 

放課後になって私はイチカさんと別れて救護騎士団の病棟に来ていた。

入口の方に蒼森先輩がいたため声をかける。

 

「お疲れ様です。蒼森先輩。」

「あぁ、ちゃんと来ましたね。では参りましょう。」

 

ちゃんと来ましたねって...来ないと思われてたんか?

まあサボろうとはしたから正解なんだけど...

 

こうして私たちが案内された診察室へと入っていくと、そこには鷲見さんが待っていた。

 

「あれ...鷲見さん?蒼森先輩ではないんですか?」

「私はカウンセリングには向いていませんので。ご安心を、セリナさんはちゃんとカウンセリングの出来る方です。」

 

そう言って蒼森先輩が部屋を出ていった。私が鷲見さんに促されるままに椅子に座ると、鷲見さんが話し出す。

 

「それでは早速はじめましょうか。

まずは...ナナさんの症状についてですね。

消えてしまいたい...ということで合っていますか?」

「...はい。」

 

なんだかこうもはっきり口に出されると気まずくなってしまう。

 

「希死念慮、ですね。実際に会うのは初めてですが、しっかりと寄り添いますので、御協力お願いいたします。」

「...私は、あまり意味があるようには思いませんが。」

 

あぁ、つい口を出てしまった。私は自分のこれを他人に言ったことはないため、カウンセリングなどは受けたことはないが、正直自問自答と何ら変わらないのではと思えてしまう。

 

「そんな事はありませんよ。誰かに話を聞いてもらうだけで心が軽くなることもありますし、自分一人では気づけないことも多くあります。」

「...そうですか。」

 

まあ説明をされようと自分の気持ちは変わらないと、ついぶっきらぼうな返事をしてしまった。

あぁ、この人達も私なんかの為に時間を作ってくれたというのに...

 

「では、ナナさん、あなたはどうして消えてしまいたいと願っているのですか?」

「...私が、生きる意味が無いからですかね。」

「生きる意味...ですか。

...たしかに多くの人は生きる目的を持っています。楽しみを持っていたり、欲しいものがあったり...

ですが、必ずしも必要なものではありません。そういった意欲的なものが無くても、生きていていいんです。」

 

そのくらいわかってる。でも...

 

「生きる意味が無いなんてものは、結局自分を否定するための言い訳でしかないんです。私は結局どこまでも...私が嫌い。死んでしまいたい。

私にはそれしかないんです。」

「...それでは、自分を肯定できるように、目的を探しましょう。私も、手伝いますから。ね?」

 

何でそんなに、協力してくれるんだ。私なんかのために、動いてくれるんだ。

私なんか、何にもできないのに、何にも返せないのに。

 

「私は...人の期待に応えられない、人を否定することしかできない...それしかしない...

何も持ってない、何も生み出さない...そんな私が嫌いだから。

生きる目的が見つかったのだとしても...自分を肯定したくないです。」

 

私の答えに鷲見さんが顔を少し歪めた。

 

「ナナさんの言うように出来る人なんてほとんどいません。多くの人は、理想的に生きられないんです。

それでもみんな生きています。

それはほとんど、自分が好きだからでも、やりたいことがあるからでもありません。

みんな、ただ生きていたいんです。理由がなくても、理想的でなくても。

希望を求めて、理想を願って。」

「...私とは真逆ですね。

私は希望を求めて、死を願ってる。

自分が嫌いなのも、全部を否定するのも、漠然と消えたいだけ。」

「他人との違いを嘆いてはいけません。みんな違うんです。よく言うでしょう?みんな違ってみんないいって。人との違いは多様性の証です。

苦しみを嫌って、消えたいと願うなら、みんなで苦しみを取り払いましょう。

...もうこんな時間、今日はここまでですね。続きはまた後日と致しましょう。」

 

そう言って診察室の扉を開けた鷲見さんに促され外に出る。そして廊下を歩きながら私は誰に言うでもなく、呟いた。

 

苦しみが嫌なら、それを取り払おうなど...そんなもの。

 

「それこそ...叶わぬ理想でしょう。」

 

 

病棟を後にした私は一人、無人の射撃訓練場に来ていた。昨日整備した拳銃を試すためだ。

 

私はカバンを下ろし、そのまま既に出てきている的に照準を合わせる。

そのまま引き金を、引く。弾はまっすぐと飛んでいき、的の真ん中より少し上側を貫通し穴を開けた。

 

それを眺めた私は、拳銃の残弾を確認し、しっかりと弾が出ることを確信した上で、自分のこめかみに拳銃を当てた。そしてそのまま引き金にかけた指に力を...

 

「何をしている!」

 

込める前に拳銃が奪われ、人差し指は空を切った。

私が声の元に顔を向けるとそこには剣先先輩がいた。

 

「剣先先輩...」

「カウンセリングが終わったと聞いて探していた。

...こんなこと、もうするな。」

 

私は返された拳銃を眺め、再び構えるとその先を剣先先輩へと向ける。

剣先先輩は私の行動に目を見開いて私に飛びかかろうとするが、ふと足を止めた。

多分、気付いたのだろう。剣先先輩に向ける拳銃が、構える私の腕が、剣先先輩を真っ直ぐ見据える私が...

大きく、震えていることに。

 

「ナナ...」

「剣先先輩...撃てないんです。私は、人を。

私は、自分が人を傷付けられるようになるのが...怖い。恐ろしいんです。

私が撃てるのは、的と...自分だけ。

私には私が撃ててしまう。

それでもまだ生きながらえてるのは、醜くしがみついてるのは...死ぬのが怖いから。それだけなんです。

 

...すみませんでした。カウンセリングは特に何もありませんでしたよ。」

 

私は足元のバッグを掴むと、固まった剣先先輩の隣をするりと抜けて帰路に着くのだった。

 

 

ずっとそうだ。早乙女委員長も、剣先先輩も、蒼森先輩も、鷲見さんも、イチカさんも。

私の為に、私を思ってくれている。

 

私だけが...みんなを裏切り続けている。

 

 

鷲見さんにああは言ったが、本当は違うのだ。

 

終わりを望む言い訳として自分を否定するのではない。自分を嫌うのではない。きっと逆だ。

言い訳なんかではなく、私は本当にどうしようもないクズで、誰かを裏切り続けて、それを自覚しながらも変える気がないから。変えられないから。変えないから。

私は本当に事実として、救いようのない人間なのだ。

 

だから、死ぬべきなんだ。

 

 

帰宅後家で寛いでいると、イチカさんから夕飯の誘いが送られてきたが、既に買い物を済ませていると返事をして、それを断った。

そしてそのまま溜息をつきながら、夕飯を買いに外へと出かけるのだった。

 

 

翌朝、食堂でいつものように朝食を食べているとこれまたいつものようにトーストの乗った皿を持ったイチカさんがやってくる。

ちなみに私も今日はトーストにした。

 

「ナナ、おはようっす。今日、一緒にどこか遊びに行かないっすか?」

「おはようございます。......特に予定もないので構いませんよ。」

 

今日は学校は休みだ。最初は罪悪感から断ろうかと思ったが、それを考えているうちにイチカさんが目を開き、その視線が鋭くなったので大人しく了承する。

 

...結構表情に出てるって言われたしな...多分今の思考も読まれたんだろう。

 

 

「ご馳走様でした。」

「ご馳走様っす。それじゃあ今から準備ってことで、終わったら寮の玄関に待ち合わせにするっすよ。」

「分かりました。」

 

準備とは言っても特にすることもないな...

普段持ち歩いてる財布とか鍵みたいな貴重品を手提げのお出かけ用鞄に移し替えて...拳銃は持った...

よし行くか。

 

イチカさんは...まだ来てないな。

とりあえず連絡だけはしておくか。

 

『準備終わりました。待ってます。』

『予想はしてたけど早いっすね。

もうちょっと待って欲しいっす!』

 

とりあえずSNSでも見て時間潰すか...

 

 

「ごめん!お待たせっす〜!」

 

あ、来た。っておぅ、結構気合い入ってるな...

 

適当な黄色のスカートにこれまた黄色のシャツを着ただけの私と違ってイチカさんは白のズボンに黒のジャケット、髪を後ろでまとめて帽子を被っていた。

おまけに化粧してるな?

 

なんか私のとの差が大きすぎてちょっと恥ずかしくなってきたな...

 

「じゃあ行くっすよ!」

「どこかあてはあるんですか?」

「最近できたらしいカフェがあるんすよ!昼頃に予約してあるんで行きましょう!」

 

...無計画の私とは大違いだな...

 

私たちはお昼までの時間を潰すために学園近くのデパートに繰り出した。

私はイチカさんに手を引かれるままにちょっと高級そうな服屋さんへと入っていく。

 

それからの私は完全に着せ替え人形だった。

下はフリルのついた花柄の可愛らしいスカートから脚の長さをアピールするような大柄なパンツまで。...私そんなイチカさんほど足長くないんですけど!!

上は花柄のスカートに合わせたワンポイントのトップスからストリート系の大柄なジャケットまで。...こういうのはイチカさんが着てこそでしょ!!

でも私もだんだんテンションが上がってきて、試着後のお披露目の際にポーズなんか決めちゃったりしていた。

しょうがないじゃん。服なんてこんな真剣に決めようとしたことないんだから!

 

「良いっすねぇ、可愛いっすよ!ナナもノって来たっすねぇ!じゃあ次はこれっすよ!」

 

こんな感じでずっとおだてられてるんだから、そりゃテンション上がるでしょ!

 

その後、私が疲れている間に試着した服のほとんどをイチカさんがレジに持って行って会計をしていた。「プレゼントっす!」なんて言われて渡されたが、合計8着ある上にお値段なんと15万円。たっか。

さすがに受け取れないとゴネたもののもう会計を済ませてしまっていたため後の祭り。お金を払うというも「プレゼントっすから!」の一点張りで断られた。

その後何とか、半分は払うという形で決着したのだった。

 

それからいい時間になって、イチカさんに連れられてやってきたカフェは人で賑わっていた。どうやら完全予約制らしく、行列ができていたわけでは無いものの、店内が全席満員なのを見るに相当人気があるのだろう。

 

私たちが店内に入っていき、案内された席に座ると隣の席から声をかけられた。

 

「あれ、ナナにイチカ。奇遇ですね。ふたりでお出かけですか?」

「あれっハスミ先輩じゃないっすか。そうっすよ、デートっす!」

 

視線を送るとそこには羽川先輩がいた。ていうかデートて...

それにしても相変わらずでっ...

羽川先輩のテーブルにはパフェやらパンケーキやらロールケーキやら、甘いものが大量に置かれていた。ほかの椅子には人がいない為恐らく全部一人で食べる気なのだろう。あれらが全部集中した結果があのトンデモプロポーションなんだろうな...

 

「ハスミ先輩...もしかしてそれ、全部一人で食べるんすか?」

「勿論です。こんなに美味しいスイーツ達はちゃんと食べてあげないと可哀想ですから。」

 

羽川先輩の返答に流石のイチカさんも若干引いていた。

その後何やらふたりがアイコンタクトで会話を始めたが、私には全く内容が分からなかったので諦めてメニューを広げる。

 

おぉ、メニュー豊富な上にどれもものすごく美味しそうだ。

 

「ナナは何にするっすか?」

「そうですね...このドリアと、食後にアイスクリームにします。」

「了解っす。それなら私は...ナポリタンとパフェにするっすかね。」

 

届いた料理は物凄く美味しかった。他にも色々あったしまた機会があったら来たいな...スイーツも豊富だったし、ランチ以外にも丁度よさそうだ。

 

それからカフェを後にした私たちはゲームセンターに立ち寄り、クレーンゲームやプリクラ等を楽しみ、休日を存分に満喫するのだった。




多分曇らせ好きな人がこの作品書いてたら今頃ナナはテラー化してる。

現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?

  • いる。
  • いらない。
  • どっちでもいい。
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