イチカさんとのお出かけの帰り、服やらゲームセンターで取ったぬいぐるみやらで荷物が結構増えてしまったため、ふたりで分担してそれなりに大きい袋を抱えていた。
「ナナ、今日はどうだったっすか?」
「ちゃんと楽しかったですよ...また来たいと思えるくらい。」
私の返答を聞いたイチカさんは満足気に頷いた。
「それは、良かったっす。」
ただ、この楽しさも、思い出も、また来たいという願望も、また、私を縛る。
それからふたりで帰路を歩いていた時、ふと大通りが騒がしくなっていた。
「お前が先に手ェ出してきたんだろが!」
「はああ!?ぶつかってきて謝りもしなかったくせに何言ってんだよ!」
どうやら不良同士のいざこざらしい。人混みの隙間から様子を伺うとまさに一触即発と言った様子だった。今にも銃撃戦が始まるだろう。
その予想の通り、人混みによって見づらいが銃声が聞こえだしたため、銃撃戦が始まったのであろうことが察せられた。
「ナナ、ちょっと行ってくるんで、荷物見ておいて欲しいっす。」
「えっあっ...」
イチカさんがぬいぐるみの入った袋を地面に置いて人混みの中へと入っていった。
やがて手榴弾の爆発音が聞こえ、野次馬たちが散っていく。それによって様子が見えたのだが、一対一の喧嘩だと思っていたのが気が付けば20人くらいの乱戦になっていた。
地面に倒れている影も結構あり、実は相当な戦闘が繰り広げられていたのだろう。
イチカさんも言葉での説得を諦めたのか、喧嘩両成敗と言わんばかりに銃を撃っている不良たちを片っ端から制圧していた。
私はそれをただただ眺めていただけなのだが、不良も残りわずかとなった所で、真ん中で撃ち合い続けていた不良にイチカさんが飛び出して言った瞬間、私の近くに倒れていた不良のひとりが起き上がり、携えたスナイパーライフルをイチカさんへと向けていた。
イチカさんはもしかしたら気づいているかも。もし気づいていなくても、1発くらいなら大したダメージにはならない。不良だってさっきまで倒れていてフラフラだ。外してくれるかも。
私の頭の中では加勢をしない言い訳ばかりが並べられていた。
それでも私は、気が付けば。
拳銃を抜いて、目の前の不良の頭目掛けて、引き金を引いていた。
静寂の中、イチカさんと目が合う。
イチカさんは目を見開いて私を見ていた。
私はイチカさんから視線を外し、自分の手元にある愛銃、An Endと目の前に倒れる不良を交互に見る。
あぁ、私は今、人を撃ったのか。撃ててしまったのか。
咄嗟のことで助けようだなんて頭になくて、むしろ頭にあったのは助けない理由ばかりで。
人を撃ちたくないからと、言い訳ばかりを並べていたはずなのに。
気が付けば、他人を傷つけていた。傷付けられていた。
それを認識した私の頭はやけに冷静で、ただ1つ。
あぁ、こんなものか。とだけ考えていた。
それからまもなく、現場に正義実現委員会の休日当番の人が到着して、イチカさんがほぼ制圧して居たから、ほとんど事後処理を終えてから退散していた。
私も現場にはいたものの、ほとんど何もしていない為事情聴取は受けず、逆に不良集団を制圧したイチカさんは色々と聞かれていた。
私はその様子を遠目に見ながらさっきの事を考えていた。
どうして撃てたのだろうか?
こんなものか、とは一体なんだったのだろうか?
私はふと気になって自分のこめかみにAn Endを押し当ててみた。
引き金を握る手には、しっかりと力が込められていた。
あっやべ。同級生に見られた。
...とりあえず口元に人差し指立ててしーっってやっておくか。
それからイチカさんへの事情聴取が終わりふたりで再び帰路に着いた時、イチカさんがゆっくりと話し出した。
「...撃てたっすね。」
「そうですね。」
「大丈夫っすか?...気持ちとか、その...色々と。」
「どうやら大丈夫みたいです。
ご迷惑をお掛けしました。もう...大丈夫だと思います。」
私には確信があった。もう、撃てる。
躊躇はあるけれど、罪悪感もあるけれど。
それでも、今までみたいな怯えて縮こまっているだけでは居られないだろう。
私も、私だって。
正義実現委員会なのだから。
ナナが心配だ。
これまでずっと銃を持つ手が震えていた。
人に向けた時は震えも大きくなり、表情も歪んでいた。
きっとナナは、人を傷付けたくないのだろう。傷付けるのが怖いのだろう。
そう、思っていた。いや、実際にそうだった。
今日、私はミスをしてしまった。
初めてのナナとのお出かけで気分が舞い上がっていたのもあったのだろう。
ナナに...撃たせてしまった。
それ自体はただの私の凡ミス。反省こそすれど、そこまで引きずるようなことではなかった。
だが、私のフォローで人を撃ったのはナナだ。
人を撃つことにあんなにも怯えていた彼女だ。
きっと抱え込むだろう。きっと罪悪感に押し潰されるだろう。
そう、思っていたけど。
撃った後の彼女を見た。
ナナにしては珍しく、表情が読めない。
ただ、いつものような自己嫌悪に苛まれている雰囲気はない。
むしろ、どこか、安心したような...
色々と事後処理を終え、ナナに直接大丈夫か聞いてみた。
彼女はなんでもないかのように大丈夫だ、とだけ答えた。
相変わらず表情は読めないままで、そんな事今まで無かったから。つい、黙ってしまった。
ナナもそれっきり黙っているから、帰路に着く二人の間には静寂だけがあった。
やがて寮に着いた時...
「今日はありがとうございました。
...楽しかったです。また、行きましょう。」
ナナはそう言って私に背を向け、自分の部屋に向かう。
「あっ...」
私は何も言えないまま、ナナに向けて手を伸ばすも、届かない。なんだかナナが遠くにいるように感じて、怖くなる。
「何をやってるんだ、私は...
私が、しっかりしないと...」
そう自分を鼓舞してみるが、不安はぬぐい去れない。
私はそれを誤魔化すように、私たちの、形に残った今日の思い出を、手に持った袋にでかでかと居座るぬいぐるみを、抱きしめた。
私は今日、学校はお休みだったけど、正義実現委員会の一員として休日も行われている治安維持活動に参加していた。
特に不満はなかった。むしろ自分から志願したいくらいだった。
私の中にあったのは、先輩の役に立とう、とだけ。
そう息巻いている中、昼過ぎのなんだか眠くなってくる時間帯に通報が入った。学園から近い場所で、急いで向かってみると、現場は既に制圧されきっていて。現場の中心に立っていたのはイチカちゃん。
演習やパトロールで目覚しい活躍を続ける、私たちの代のお手本となる人。私服だけど、もしかしてたまたま現場に居合わせて制圧したのかな?
すごいなぁと感嘆しながら事後処理を進めていく。
そんな中ふと、横を見ると壁にもたれかかって座る子がいた。
ナナちゃんだ。
正義実現委員会に入ってすぐ、実戦で結果を残した人。2年生の怖い人、ツルギ先輩に指導を受けるすごい人、という印象だった。少し前に行方不明になったと騒ぎになって私だけでなくみんな心配していたけれど、すぐに見つかったのでその後のことはみんな気にしていなかった。
もしかしてイチカちゃんと出かけていたのかな?ふたりはなかよしだもんね...と思っていると何を思ったのか、ナナちゃんが腰に提げた拳銃を抜くとそれを自分の頭に向けた。
私はびっくりして動けなかった。
ナナちゃんはそのまま拳銃を下ろすと、私と目が合う。
少し目を見開いたあと、ゆっくりと唇に人差し指を当てて微笑んだ。
直前にやっていた行動といい、その表情といい、なんだか私は怖くなってナナちゃんから目線を逸らした。
その後は何事もなく休日当番の業務を終え、いつものようにみんなでワイワイ喋っていた。
そんな中私に話題が振られ、特に何も考えていなかった私はついこう切り出してしまった。
「そういえばさっき凄いもの見ちゃって...ナナちゃんがさ...」
翌日、授業を終えて正義実現委員会の活動に来た私は剣先先輩と早乙女委員長の元へと行き、とある報告を行っていた。
「...本当にいいんだな?」
報告の内容は使用する銃の変更と、人を撃てるようになったため、演習およびパトロールに復帰させて欲しいというものだった。
「はい。もう...大丈夫です。」
「わかった。復帰を許可しよう。
だが、演習もパトロールも誰かの目がある場所でやれ。1人での活動はまだ、許可出来ない。」
まあさんざん周りを振り回してきたんだから、そうなるのも当然だろう。むしろ寛大なくらいだ。
「ありがとうございます。」
「それじゃあ早速だが、今日ツルギは演習が予定されていた。ナナ、いきなりだが行けるか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
私は演習場へと移動している道中、剣先先輩に話しかけられていた。
「急にだな。何があったんだ?」
「銃の変更については...目的が変わりましたので。...死ぬためにショットガンを担いでいた私との、決別のようなものです。
撃てるようになったのは...詳しいきっかけは分かりません。ただ、昨日人を撃って。こんなものかと、納得しましたので。」
「......そうか。」
それきり喋らなくなった剣先先輩と一緒に演習場についた。
演習場には先に対戦相手が到着していた。
「ツルギちゃーん、対戦お願いねー」
「あっ...ナナちゃん...」
...?私の相手が私を見る目がなんか怪しい。挙動不審というか、何かを探るみたいに。まあいいや。
「よろしくお願いします。...私の顔になにか着いていますか?」
「あっいや 、なんでもないよ...!」
うーんなんだろ。なにか隠してる気がするんだけど...まあ探ったところでわかんないだろう。それより今は演習に集中しないと。
それから私は演習開始位置に付き、開始の合図と共に飛び出した。
ショットガンでの戦いはだいぶ慣れてきていたが、ハンドガンとなると立ち回りも戦い方も変わってくるだろう。ましてや私はハンドガンですら初心者だ。
ショットガンの動きを参考にある程度のやるべき動きは予想できるが、答え合わせも出来ない状況。それでもやるしかない。
とにかく今回の相手の武器はアサルトライフル、リーチでも攻撃力でも継戦能力でも、様々な点において劣っている。
勝る部分があるとすれば取り回しのしやすさだろう。理想を言うならこれで相手を翻弄しつつ弾切れを誘って反撃したいところだが、私はまだそんなアグレッシブには動けない。どうしたものか...
今回は今までの演習場とは違って開けた場所に障害物が点在している程度、姿を隠して相手を翻弄するというのは難しいだろう。
現に今も、私のいる障害物目掛けて定期的に弾が飛んできている。
だが飛んでくるのはせいぜい1発、リズムも掴んだため、隙を見て他の障害物に移るのは簡単だろう。しかしその後どうするか...接近しようにもリーチ差は絶望的だ。とりあえず牽制射撃の間を縫って私は前にある障害物へと移った。私が飛び出した瞬間フルオートで弾がばら撒かれた。
うひゃあ、危ないな...けど、あれだけ撃ったなら多分リロードが必要だろう。
そう踏んだ私は相手の隠れている障害物目掛けて3発ほど弾を撃ちながら走り出す。正直慣れないハンドガンを片手で、それも走りながら撃っているので照準はブレブレ、弾は全てあらぬ方向に飛んで行っていた。牽制射撃どころか牽制にもなっていない、ただ発射音を鳴らしているだけだ。相手がこれに怯まず顔を出してきた場合、私の負けだろう。
幸い相手は顔を出さずに、私は無事目的の障害物へとたどり着いた。しかしここからもまだだ。あと数メートルも進めばハンドガンの有効射程距離に入るだろうが、相手もそれを分かっているだろうからより警戒されるだろう。先程のようにただ牽制しながら飛び出すだけじゃ返り討ちにされるだろう。
...それなら、どうせならやってみるか。
私は懐から手榴弾を取り出すとそのまま相手がいるであろう場所に向かって
相手は慌ててその場から離れ、別の障害物へと走っているが、走り込んでくる私には気づいていない様子。
私はそのまま走りながら相手へと照準を合わせてマガジンいっぱいまで撃ち切ったのだった。
そこまでは良かった。だが悲しいかな。技術というのは簡単には上達しない。
走りながら撃った私の弾は全てあらぬ方向へと飛んでいき、そのまま私は弾切れを起こした。
...敵の目の前で。
そこからは言うまでもないだろう。演習結果は私の負けとなった。
「えーじゃあ講評だけど、ハナ、最初の牽制射撃は発射間隔が分かりやすすぎる。飛び出されて焦るのもわかるけど、絶対そこで撃ち切らないようにね。今回みたいにリロードの隙をつかれちゃうから。せめて数発残して飛び出してきた相手を撃てるようにすること。
それと最後の手榴弾。手榴弾が飛んできたってことは相手はこっちを動かしたいの。つまりその隙を狙ってる。今回は接近戦に持ち込むためのブラフだったけど、咄嗟の移動にも相手への牽制と相手を見ておくのは忘れないようにね。」
「はい!」
そして先輩は苦笑いを作りながら私の方を見た。
「次にナナちゃんだけど...全体的な動きは良かった!ブラフもそうだし、移動するタイミングもそう。
...だけど、最後で全部台無しね。武器を変えたばっかで慣れていないのはわかるけど、あーいう時こそ冷静にね。どんなに状況を整えても焦って外したら全部パーになっちゃうから。」
「.........はい。」
私は決着以降、最後の失態が恥ずかしすぎて顔を真っ赤にしながらずっと手で覆っていたのだった。
講評を終えると剣先先輩が私の元へやってきてボソッと聞いてきた。
「一応聞くが、躊躇して外したわけでは無いんだよな?」
「ただただ外しただけです...言わせないでください。恥ずかしいです...」
「わ、悪い。」
穴があったら入りたいとはこの事だろう。今だけは希死念慮がどうとか関係なしに消えてしまいたかった。
演習が終わり、私は以降ひたすら射撃訓練場へ籠ることにした。
先輩に演習やパトロールに復帰させてくださいと言った結果があれではさすがに合わせる顔がない。早く上達しなければ...
「ナナ、お疲れっす〜。演習どうでした?」
「お疲れ様です、イチカさん。
正直上手くいったと思ったら全部が瓦解しましたね。もはやジェットコースターです。」
「...???」
それから私は顔を赤くしながらイチカさんに演習でのことを話した。
「あはははは!!っははっははは!!ゲホッゲホッ!」
「そっ...そんな笑わなくても良いじゃないですか!!」
「ごっごめ...ゲホゴホッ!」
めちゃくちゃ笑われた。こいつ...!!
もはや逆に心配になるほど噎せてやがる。
悪いのは私だけど、さすがにイラッとしたので笑いすぎて倒れ込むイチカさんにチョップを落として私は射撃訓練に戻った。
「あー笑った。慣れない武器っすもんね。仕方ないっすよ!」
「思ってないでしょ。」
「バレたっすか?...でもいいじゃないっすか。あとは当てるだけだったのならすぐっすよ。聞いた話だと、立ち回りはもう身についてるみたいですし。」
「すぐ...だといいんですけどねぇ...」
それからすぐチャイムがなった。
私は片付けをしながら未だにちょっと顔がニヤケているイチカさんの脇腹をつつきながらそのまま家路に着くのだった。
ようやくプラス(?)側に物語が進みました。
これでもまだナナは消えたいと思ってるんですけどね。
撃てるようになったから消えて無くなるまでの間、みんなの役に立てるとか考えてるよこいつ。
イチカ〜!救ってあげて〜!!
現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?
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いる。
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いらない。
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どっちでもいい。