どうか私を、終わらせて   作:めめ師

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正しい私は、きっとこうだ。

「...本気...なのか?」

 

早乙女委員長が私の持ってきた正義実現委員会の制服と辞表を眺めながら私に問う。

 

「はい。私にはもう、正義を、責任を、背負えない。」

「戦場に立てなくなったことなら気にするな!お前はまだ一年だ!これから、先がある!正義実現委員会には戦えなくても、できる仕事はいくらでもあるんだ!」

 

早乙女委員長が私を引き留めようと声を荒らげた。

ここまで感情を表に出す早乙女委員長は初めて見る。少し怖かったけど、それでも私の意思は変わらない。

 

「仕事があるかどうかではないんです。正義に私は、相応しくない。」

「正義は、お前には重かったのか...?

正義は、お前を救えなかったのか...?

教えてくれ、ナナ...」

 

早乙女委員長が縋るように私に問うてくる。

彼女は正義実現委員会の委員長だ。きっと"正義"に対して思うことがいくつもあるのだろう。

 

「...ごめんなさい、早乙女委員長。あなたを悲しませたかったんじゃないんです。あなたの信じる正義を否定したかったんじゃないんです。

いつの日か、言ってましたよね。正義とは、自分を正しいと信じる心だと。

それは...それが、正しいんだと思います。

...だからこそ、私は相応しくないんです。」

「ナナ...お前は...」

 

これ以上は聞きたくなかった。これ以上は話したくなかった。

だって私では、否定することしか出来ない。私を気にかけてくれた先輩を裏切ることしか、出来ないのだから。

 

「本当にごめんなさい。

...もう行きます。」

「まっ、待て!!」

 

早乙女委員長の静止を無視して、私は病棟を後にした。

 

それから私は再び、あの時の噴水を訪れた。どうしてかは自分でも分からない。再び沈もうとしたのか、あるいは沈めないことを確かめようとしたのか。

 

しかし、それらは行動に移されることはなかった。

噴水には先客がいて、彼女は縁に座って本を読んでいた。

私は、それを見ると諦めて引き返そうとした。

 

「あなたもここが目的だったのでは?別に構いませんよ。」

 

人前で噴水に飛び込む訳にはいかないが、ここが目的だったのは事実なので、大人しく噴水へと歩みを進める。

 

「急に声をかけてしまってごめんなさい。でも、なにやら悩んでそうだったもので。

私は浦和ハナコ。特にどこにも所属していない平凡な女子高生です。あなたは?」

 

浦和ハナコ。あまり周りに興味のない私でも聞いたことがある。

私と同学年の子で、容姿端麗。それでいて、非の打ち所のない天才だと。

 

「...篠崎 ナナです。今はどこにも所属していません。」

「今は...とう言うことは、以前はどこかに?」

 

おぅ...そういう意図は無かったのにちょっとした言葉遣いで気づかれてしまった。

 

「以前、というか先程まで正義実現委員会に。」

「先程まで...悩んでいたのはそれですか。」

「悩んでいたつもりはないんですけどね。私としてはしっかりと決別したつもりです。」

「...どうして、辞めちゃったんですか?」

 

なんか結構踏み込んでくるな...別に不快感とかがある訳でもないから良いけど、そんな深堀る?

 

「正義に、私は相応しくありませんので。」

「正義に...そうなんですね。」

 

ええい私のことは別にいいんだよ!深掘っても面白いもんなんか出ないぞ!

 

「そういうあなたはどうなんですか?

なにやら色々なところに引っ張りだこだと噂程度には聞いていますが。」

「...知っていたんですね。」

「あくまで噂程度です。非の打ち所のない天才だとか。

まあ、私には関係の無い話です。むしろ色々なところに勧誘されるだなんて、考えるだけでもめんどくさい。」

 

私がそう答えると浦和さんは少し目を見開いて私を見た。...何??

 

「ふふふ。そんなこと初めて言われました。そうなんですよ。めんどくさいばっかりで、みんな上辺だけで私を判断して、誰も"私"を見ないんです。」

 

ふむ...天才にしか分からない苦悩と言うやつかな?

 

「まるで私とは真逆ですね。私の場合は、みんなが私を見るから。見てくれるから。私は私を縛ってしまう。

さっさと終えられたら、どれだけ楽だったことか。」

「.........」

 

おや?浦和さんが私を見たまま動かなくなってしまった。

 

「...どうしました?」

「...あなたは...いえ、なんでもありません。

...そろそろ私は行きますね?それでは...おやすみなさい。」

 

...何だったんだ?

 

まあいいや、浦和さんも居なくなったし、私は私のやりたいことをやるか。

 

私は噴水の縁から立ち上がり噴水に貯まる水をじーっと眺める。

やがて私の頭の中にあの時の恐怖が浮き上がってきた。

 

死にたくない。怖い。苦しい。

 

いつの間にか呼吸が荒くなっていたらしい。足から力が抜けその場に座り込んでしまった。

 

「ナナちゃん!」

 

あれ...浦和さんが走って戻ってきた。

浦和さんは私の隣にしゃがみ込むと私の肩を掴んだ。

 

「大丈夫です。落ち着いて。落ち着いて下さい。」

 

私は浦和さんに促されるままに呼吸を整えた。

 

「どうして...戻ってきたんですか?」

 

呼吸の戻った私の口をまっさきに飛び出したのは、そんな言葉だった。助けてくれた感謝ではなく、どうして助けたのかと、そう言った意味の言葉。

 

「...っ!やはりあなただったのですね。正義実現委員会の、死を望む人間というのは。」

「...噂にでも、なっていましたか。」

「いいえ、私が勝手に人の会話を聞いた上での推測です。...すみません。」

 

なるほど...これが天才か。

 

「それは、何に対する謝罪ですか?」

 

本来なら、話の流れから、話を盗み聞いて、勝手に推測したことに対する謝罪しかないだろう。

けれど、目の前の天才は私の質問の隠れた意味に気づいたらしく、顔を歪めた。

その謝罪は、私の自殺を邪魔したことに対するものか?と。

 

「...他意は、ありません。あなたが死んじゃうんじゃないかと、心配だったんです。」

「別にいいでしょう。私が死のうが誰が死のうが。あなたの明日が脅かされる訳でもあるまいし。」

 

私はもはや、取り繕うことをやめた。変に隠そうとしたところで、この天才はすぐに気付くだろう。

 

「目の前で死なれてしまっては、気持ちよく明日を迎えられないでしょう?」

「...だから去った後に始めたんですけど。」

 

私はなんだか気まずくなって、浦和さんから目を逸らして言う。

 

「見知った方が亡くなると言うだけでそうなんです。だから、戻ってきました。」

「...あなたも私に、呪いをかけるんですね。」

()()。ですが、私のはあくまで後押しです。あなたを心配する人は、他にもいるでしょう?例えばほら、あの方とか。」

 

そう言って浦和さんが指をさした先、イチカさんがこちらに走ってきていた。

 

「...あとは、あの人に任せるとしましょう。それでは、また会いましょう。」

 

浦和さんはそう言って立ち上がって去っていった。

...効果の有無はともかく、最後まで呪いを残して。

 

「ナナ!やっと見つけた!」

 

浦和さんが去っていった先を見据えたまま、私はイチカさんの方を見ない。

 

「...お疲れ様です。今日のパトロールは終わりですか?」

「うん...そんなことより、フタバ委員長に聞いた。

ほんとに辞めるの?」

「はい。だって私にはもう、背負えないから。」

「...そう。ナナがそうしたいなら、否定しないよ。」

 

...意外だ。てっきり引き止めてくるのかと思っていた。

 

「なら、もう...」

「それでも、私たちは友達でしょ?」

 

イチカさんが私を真っ直ぐ見て言った。

 

心が叫ぶ、警鐘を鳴らす。これは否定しなきゃと。

そうでないと、呪いは終わらない。しがみついてしまう。縋ってしまう。

自己嫌悪に苛まれながら、一生懸命に否定の言葉を模索する。一つ浮かんではイチカさんの悲しむ顔を想像し、消えていく。一つ浮かんでは心の中で自分を殴り、消していく。やがて私の口からでたのは

 

「...そうですね。」

 

否定を諦め、肯定を表す単純な言葉のみだった。

 

 

 

それからの日々は早かった。教室の影でひっそりと日々をやり過ごし、誤魔化す日々。

 

それでも尚イチカさんは私に構ってくれていた。

 

私を心配してくれていた。

きっとそうだろう。

彼女は最後までサポートすると言ってくれた。

 

私には彼女がどうして私に構ってくれるのか、未だに分からない。責任感なのか、はたまた別の何かか。

 

いや、イチカさんだけではない。他の正義実現委員会の人たちも廊下で会えば、食堂で会えば、授業で会えば、私を心配して声をかけてくれる。

 

私を心配してくれるのは嬉しかった。でも、それと同時に嫌だった。

まるで、私を責めているようで。

正義実現委員会はお前以外全員が正しく"正義"なのだと。

 

まあ、もう辞めたのだけれど。

 

だから正義実現委員会はこれで正しくなった。まさに正義を実現するべく日々を奔走している。異物を加える事なく。

 

必然的に私は周囲を避けだした。

声をかけられるのが怖くて、心配されるのが怖くて。

 

...それは心配させるのが億劫だとか、そういうものでは無い。ただ、私が周囲から責められたくないだけ。

私は未だに変われない。変わる気がない。

私はずっと、私だけしか見ていないのだ。

 

それがどんなに惨めで、どんなに虚しくて、どんなに自己嫌悪を積み重ねることになろうとも、周りを心配させるよりはマシと自身に言い聞かせて。

その言い訳を抱えて、私は自分の世界に籠る。

 

 

「ナナ〜、この後放課後、一緒にどうっすか?前に行ったカフェの予約が取れたんすよ。」

 

あぁ、止めてくれ。もう私に構わないで。これ以上私を責めないで。

 

「良いですよ。特に予定も入れていませんし。」

 

...上手く笑えているだろうか?イチカさんは私の表情に敏感だから、言ってこないだけで、実はバレているのかも知れない。それでも私は、騙し通せていると信じて、ひたすらに取り繕う。

 

放課後、2人で制服のまま(イチカさんはいつもの黒い、正義実現委員会の制服で私はトリニティ総合学園の標準である白い制服)件のカフェへと出かけた。

 

イチカさんは正義実現委員会の活動が忙しいだろうに、私のために時間を作ってくれている。

その事実はずっと私を蝕んでいく。

 

友達だなんて、親友だなんて、なんとも虚しいものだ。ひたすらに一方が搾取するだけの関係。私はそれが嫌で、断ればいいだけなのに、イチカさんにだけは、取り繕うことを辞められなかった。私はやはり、彼女に期待してしまっているのだろう。

イチカさんなら、もしかしたらと。

私は何を期待しているんだろうか?自分から手放したくせに...

 

最近はずっとこうだ。何をしようと、何を考えようと、私は私を責め立てる。自己嫌悪は鳴り止まず、まるであの日のようだ。いや、それよりも長い。

最近はずっと眠れてなくて、授業も集中できていない。

その分空いた時間に勉強はしているからテストの点数は一切問題ないけれど。

 

ただ、自分を責め立てている時間はなんとも心地が良くて、私を否定する分だけ、イチカさんを、正義実現委員会のみんなを肯定出来ている。心の底から彼女たちの活動を応援できる。

 

きっと初めからこうするべきだったのだろう。死なんか最初から求めず、救いなんか手放して、消えたいという願望を抱えながら、自分を責め立てて生きていく。

きっと私は、ずっと矛盾している。そういうものなんだろう。

 

「...ナ?」

 

矛盾はきっと、私にはお似合いだ。それこそが私の"正しい"姿なんだろう。矛盾していれば私は誰かに迷惑を振りまくこともなく、私の存在は私の中だけで完結する。

 

「...ナ...ーい!」

 

きっと私の成すべき正義はこの形で、正解だったんだ。

ようやく自分のするべき事を見つけられたようで、私は...

 

「ナナ!!」

 

肩を叩かれ気が付いた。様子を見るにイチカさんがずっと声をかけてくれていたらしい。そういえばカフェに着くまでブラブラしているんだったな。

しまった。取り繕えていない。

私は咄嗟に表情を作って答える。

 

「...どうかしm」

「もういいっすよ。取り繕う必要はないっすよ。ナナはナナのまんまでいいんすよ。

私がナナと一緒にいるのは、同情とかでも責任とかでもないっす。

私はただ、ナナといるのが楽しいから。ナナといたいから、一緒にいるんす。

それは決して、ナナが何かを背負うべきじゃないんすよ。」

 

あぁやっぱりバレていたのか、きっと私の心の内もイチカさんには筒抜けだ。

それならどうして、イチカさんは私を誘ってくれるんだろう?どうして私に構ってくれるんだろう?

 

「...すみません。」

 

「ナナ。謝らなくていいよ。私がやりたくてやってるの。ナナを責めたいんじゃないの。ナナと楽しみたいの。だからね、ほら、行こ?」

 

イチカさんが私に手を差し出してくれる。

...どうして。私は出会った時からずっと、迷惑しかかけてこなかった。どうしてイチカさんはそんな私と楽しみたいと思ってくれるのだろう。思えるのだろう。

 

「イチカさんは、どうして...私を嫌いにならないんですか?イチカさんだけじゃなくて、ほかのみんなも。私には返せるものなんてないし、迷惑を積み重ねるだけ。

...どうして私を見限ってくれないんですか?」

 

あなた達が私を見限ってくれないと、私は私を、諦められないのに。

 

「ナナが好きだから。みんなも、私も。それじゃ理由にならない?」

 

私が聞いているのは、そういうことじゃなくて、どうして好きだと思えるのかという事なのだけれど。きっと私と彼女たちとでは決定的に何かが違うんだと、答えを諦めた訳ではないけれど、それ以上の追求をやめ、私はイチカさんの手を取った。

 

「...いえ、それでいいですよ。」

 

それからのカフェでのスイーツは美味しかったし、イチカさんとの話はとても楽しかった。

 

また来たいと思える程に。




ご安心ください。ナナはハナコを見た時にちゃんとデッ!!って思っています。

そして増えていく呪い...どなたか祓えるお方はいらっしゃいませんか!?

現状なんにも考えてないんだけど、ナナのメモロビいる?

  • いる。
  • いらない。
  • どっちでもいい。
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