転生したら山羊でした〜小さい山羊の奮闘記〜   作:漫画好きのクリオネ

2 / 2
AI使って書いているのでおかしいところがあるかもしれないです


出会い

揺れる馬車の中で、僕はじっと目を閉じていた。

ぼろ布一枚だけの服装では、秋の冷たい風が身に染みる。でも、寒さなんてもう慣れっこだ。六年間、ずっとこうだったから。

奴隷商人に買われてから、僕の日常は単純だった。髪を切られて、それを布に織る。また髪が伸びたら切られる。その繰り返し。

『パシュミナ』なんて称号、何の役にも立たない。いや、むしろ呪いだ。この「天使の産毛」とやらのせいで、僕は商品として売買される。今回も、アレッサの貴族に高値で売られることになった。

馬車の中には、僕以外にも何人かの奴隷がいる。その中に、黒い獣人の少女がいた。

黒猫族の女の子。同じくらいの年齢に見える。彼女も、僕と同じような虚ろな目をしていた。

いや、違う。彼女の目には、まだ何かが残っている。諦めきれない何かが。

「......」

彼女と目が合った。僕は小さく会釈する。彼女は少しだけ驚いたような顔をして、それからわずかに頷いた。

それだけの交流。でも、こんな状況で他人と目を合わせられただけでも、少しだけ心が軽くなった気がした。

前世では、アニメやゲームばかりしていた高校生だった僕。事故で死んで、神様に願いを叶えてもらえることになって、大好きだった作品の世界への転生を望んだ。

でも、その世界の記憶は全部消された。今の僕には、前世の一般知識と精神年齢しか残っていない。

この世界が、あの作品の世界なのかどうかすら分からない。

ただ分かるのは、この世界もまた、残酷だということだけ——

 

「ぐるるるるるっ!」

突然、馬車が激しく揺れた。

外から聞こえてきたのは、人間のものではない、低く唸るような咆哮。

「ま、魔獣だ! ツインヘッド・ベアだ!」

奴隷商人の声が、明らかに怯えていた。

馬車の扉が乱暴に開け放たれる。

「お、お前たち! 降りろ!」

僕たち奴隷は、次々と馬車から引きずり出された。

そして、僕は見た。

二つの首を持つ、巨大な熊。その体躯は、人間など簡単に踏み潰せそうなほど大きい。

「奴隷ども、奴を足止めしろ!」

奴隷商人が叫ぶ。その隙に逃げるつもりなのだろう。

僕の体が、勝手に動き出した。首輪の魔術契約のせいだ。逆らえない。

(ふざけるな......!)

武器も何も持たされていない。つまり、死んで時間を稼げということだ。

他の奴隷たちも、同じように魔獣に向かって歩いていく。

男の奴隷が、真っ先に熊の前足に薙ぎ払われた。

たった一撃で、上半身と下半身が分離する。

血が飛び散った。

「ひっ......!」

僕の体が震える。

(また、だ......また、こんな......!)

村が襲われた時のことを思い出す。

あの時も、こうして理不尽な暴力が降りかかってきた。

僕以外の村人は、全員殺された。

(死にたく、ない......!)

僕は必死に魔力を髪に込めた。

髪が伸びる。硬くなる。体を覆っていく。

岩のように硬い髪の繭。ユニークスキル『岩毛籠り』。

「なんだあれは!?」

誰かの驚きの声が聞こえた。でも、今はそれどころじゃない。

繭の中で、僕は震えながら耐え続けた。

外からは、悲鳴と、肉が裂ける音と、骨が砕ける音が聞こえてくる。

(怖い、怖い、怖い......!)

でも、繭を解くわけにはいかない。解いたら、死ぬ。

どれくらい時間が経っただろう。

気づけば、周囲の音が変わっていた。

「......声?」

誰かの声が聞こえる。女の子の声と、男の人の声。

でも、男の人の声は、どこか不思議な感じがした。

「綺麗な剣」

「ありがとよ! でも、そんな場合じゃないから!」

剣......? 剣が喋ってる?

恐る恐る、繭に小さな隙間を作って外を覗いた。

そこには、あの黒猫族の少女が、美しい剣を握って立っていた。

白く輝く不思議な金属に青い縦線が入った刀身。ロングソードのような形をしている。抑えた色合いの上品な金色の鍔には、勇ましい狼の彫り物と赤い飾り紐。柄には赤と白の組み紐で、格子模様が編み込まれている。

(綺麗な剣......)

そして、彼女の前には——

「やぁ!」

少女が動いた。

その動きは、信じられないほど速く、そして美しかった。

一瞬で魔獣に接近し、心臓を貫く。

巨大な魔獣が、あっけなく倒れた。

「すごい......」

思わず呟いてしまった。

彼女は、僕と同じくらいの年齢の、やせ細った奴隷だったはずなのに。

あんな風に戦えるなんて。

いや、違う。あの剣のおかげなんだろうか。喋る剣......。

少女は剣と何か話している。念話だろうか。

それから、遠くから奴隷商人が走ってきた。

部下らしき小男の姿は見えない。もう死んだのだろう。

「生きてるのは1匹だけか! しかも、ツボが割れてるじゃないか! 大損だぞ。くそ!」

奴隷商人は、死んだ奴隷たちのことなど気にも留めず、壊れた荷物の方を嘆いている。

そして、少女に近づいていった。

「お前がツインヘッド・ベアを倒したのか?」

「はい」

「どうやって......。なんだその剣は?」

「拾った」

「それをこっちによこせ」

「......ん」

「おい、なんだその目は!」

「ごめん、なさい」

「ちっ、ケダモノが。陰気な目つきしやがって」

パシン!

奴隷商人が、少女の頬を平手で叩いた。

「あぅっ」

少女が蹲る。

商人は無理やり剣を奪い取った。

僕は繭の中で、拳を握りしめた。

(ひどい......!)

彼女は魔獣を倒したのに。僕たちを助けてくれたのに。

それなのに、感謝もせずに、暴力を振るうなんて。

「おい、ケダモノ。使える品物を積み込め。そうしたら、町まで出発だ」

少女は痛む体を引きずりながら、立ち上がった。

首輪の契約のせいで、逆らえないんだ。

僕も、同じだ。

(くそ......!)

無力さが、胸に突き刺さる。

その時だった。

「くぺっ?」

奴隷商人が、妙な声を上げた。

次の瞬間、白く輝く剣が勢いよく飛び出して、商人の顔面に突き刺さった。

血飛沫が上がる。

商人の体が、地面に倒れる。

「......え?」

少女も、驚いているようだった。

剣が、浮いている。

そして——

『えーと、これからどうしよう?』

剣が喋った。

少女は、剣の方を見ている。

僕は、恐る恐る繭を解いた。

髪が元の長さに戻っていく。

「あの......」

声をかけると、少女がこちらを振り向いた。

「......生きてた」

「う、うん......僕も、なんとか」

少女は、僕の方に歩いてきた。

「大丈夫?」

「うん。僕は、大丈夫。君は?」

「平気」

そう言って、少女は僕の前にしゃがみ込んだ。

「髪、すごかった」

「あ、ありがとう......。君も、すごかったよ。あの魔獣を、一撃で」

「剣のおかげ」

少女は、浮いている剣の方を見た。

『おう、感謝しろよ?』

剣が喋った。本当に、喋る剣なんだ。

「感謝する」

少女が真面目に答える。

なんだか、少し可笑しくて、僕は思わず笑ってしまった。

「ぷっ......ごめん」

「?」

「ううん、なんでもない。ねえ、君の名前は?」

「......ない」

「名前、ないの?」

「うん」

「そっか......。僕は、モルン」

「モルン」

少女が、僕の名前を繰り返した。

『俺は剣だ。よろしくな、モルン』

「よろしく......剣さん」

なんだか、不思議な出会いだった。

喋る剣と、強い少女。

そして、奴隷商人は死んだ。

「これから、どうしようか」

僕が呟くと、少女は首を傾げた。

「わからない」

『とりあえず、街に行くか? このままここにいても仕方ないし』

「そうだね......。アレッサの街、って言ってたよね」

「うん。そこに行く」

少女は立ち上がって、商人の死体から鍵を取り出した。

そして、自分の首輪を外す。

「これ」

少女が、僕に鍵を差し出してくれた。

「ありがとう」

僕も首輪を外す。

長い間つけていた首輪が外れた瞬間、不思議な開放感があった。

「自由......」

「うん」

少女が、小さく頷いた。

その顔は、相変わらず無表情だったけれど、どこか晴れやかに見えた。

 

第二話:解放

フランは師匠——名前がついた剣と、何か話している。

念話なのだろう。僕には声が聞こえない。

でも、フランの表情が、ほんの少しずつ変わっていくのが分かった。

無表情だった顔に、わずかな感情が浮かぶ。

「壁を突破する」

フランが口に出して言った。

師匠との会話の一部が、こうして聞こえてくる。

「私は、強くなる。絶対」

その声には、強い意志が込められていた。

僕は黙って聞いていた。

フランは、何か大きな目標を持っているんだ。

それは、きっと僕なんかには想像もつかないような、重いものなのだろう。

「本当?」

フランの声が、少し明るくなった。

「ありがとう」

師匠が、フランに何かを約束したんだろうか。

フランの横顔が、少しだけ嬉しそうに見えた。

それから、名前の話になったようだ。

「ない」

フランが言う。

「奴隷契約をすると、名前がなくなる」

ああ、そうだったんだ。僕も同じだ。

僕には「モルン」という名前があったけれど、それは奴隷になる前の名前。

奴隷商人は、僕を「ヤギ」とか「商品」としか呼ばなかった。

「8歳の時に、奴隷にされて、名前が消された」

フランは、4年も奴隷だったのか。

僕は6年。フランより長い。

でも、フランの方が、ずっと強い。

心が、強い。

「フラン」

フランが、自分の名前を言った。

「私はフラン」

嬉しそうだった。本当に。

名前を取り戻せたことが、そんなに嬉しいんだ。

「師匠」

フランが剣に名前をつけた。

師匠、か。

なんだか、ぴったりだと思った。

「うん」

フランが満足そうに頷く。

僕は、少し離れたところで座っていた。

邪魔をしちゃいけない気がして。

でも——

「モルン」

フランが、僕の名前を呼んだ。

「?」

「こっち」

フランが手招きする。

僕は立ち上がって、フランの隣に行った。

「モルンも、首輪外す」

「え?」

「師匠が外してくれる」

師匠が、外してくれる?

でも、どうやって?

首輪は契約魔術で縛られているはずだ。壊したら死ぬ。

「大丈夫。信じて」

フランがそう言った。

僕は、フランを見た。

彼女の目は、真っ直ぐだった。

「......うん」

信じよう。

フランを、そして師匠を。

『じゃあ、やるぞ。動くなよ』

師匠の声が聞こえた。

フランが師匠を握っている。その師匠の刀身が、僕の首輪に触れた。

(怖い......)

体が震える。

でも、フランが僕の手を握ってくれた。

「大丈夫」

その小さな手の温かさに、少しだけ落ち着いた。

『契約魔術、発動』

師匠が何かをしている。

首輪から、魔力が流れていくのが分かった。

バチ、バチ、と小さな音がする。

何度も、何度も。

そして——

パキン。

首輪が、外れた。

自然に、ぽろりと。

「あ......」

僕は首輪が地面に落ちるのを、ただ見つめていた。

6年間、ずっとつけていた首輪。

それが、今、外れた。

「......っ」

涙が出そうになった。

でも、泣かなかった。

前世が男だったからか、それとも、この6年で涙が枯れてしまったのか。

「これ」

フランが、何かをくれた。

鍵の束と、ズダ袋。

「一緒に分ける」

「......ありがとう、フラン」

僕は初めて、心からお礼を言った。

『さて、これからどうしよう。何かあてはある?』

師匠が聞く。

「町がある」

フランが答えた。

「あっち」

フランが東の方を指差す。

「僕も、一緒に行っていい?」

思わず聞いていた。

フランは、少しだけ驚いたような顔をして、それから頷いた。

「うん。一緒」

『おう、3人で行こうぜ』

師匠も言ってくれた。

なんだか、嬉しかった。

生まれて初めて、仲間ができた気がした。

 

馬車から使えそうなものを集めた。

フランは奴隷商人が持っていた防具を身につけている。革鎧と、小さな盾。

僕には合うものがなかったので、とりあえず小男が持っていたマントを羽織った。

ぼろ布よりはずっとマシだ。

師匠は、馬車の幌に包まれて、フランの背中に括り付けられている。

「じゃあ、出発」

フランが歩き出す。

僕も続いた。

森の中を進む。

フランの動きは、驚くほど軽やかだった。

さっきまでと、まるで別人みたいだ。

『師匠を装備している効果で、身体能力がかなり強化されてるんだ』

師匠が説明してくれた。

どうやら僕も会話に入れてくれているらしい。

「すごいね、師匠」

『はっはっは。そうだろう』

なんだか楽しそうな声だった。

30分もしないうちに、森を抜けた。

「すごい。師匠すごい」

フランが目を丸くしている。

『まあな。気配遮断のスキルもあるから、魔獣にも会わなかっただろう』

「本当に......こんなに楽に森を抜けられるなんて」

僕も驚いていた。

普通なら、もっと時間がかかるはずだし、魔獣との遭遇も避けられない。

それが、こんなにあっさりと。

師匠の力は、本当にすごいんだ。

森を抜けた場所で、師匠がフランの首輪を外す作業を始めた。

契約魔術を何度も使って、レベルを上げていくらしい。

『レベル7で、契約を上書きできた』

パキン、という音と共に、フランの首輪も外れた。

「......ありがと」

フランが、少しはにかんだような顔をした。

かわいい。

思わずそう思ってしまった。

『さて、これからどうしよう』

「町に行く」

「うん、アレッサって街だよね。奴隷商人が言ってた」

「そう。あっち」

フランが指差す方向は、東。

方向感覚のスキルがあるのだろう。

『じゃあ、そこを目指すか』

こうして、僕たちは歩き出した。

自由になった、3人で。

 

草原を歩いていると、突然師匠が警告した。

『待て! 魔物の気配だ』

「どこ?」

『前方、100メートル先。数は......5体』

フランが剣を構える。

僕も身構えた。

そして、草むらから飛び出してきたのは——

「ゴブリン......!」

緑色の肌をした、小柄な人型の魔物。

でも、その手には粗末な武器が握られていて、目は獰猛だった。

「フラン、3体頼む。モルンは2体だ。大丈夫か?」

『師匠が聞いてくる。』

「......やる」

僕は覚悟を決めた。

前世では戦闘なんてしたことがなかった。

でも、今は違う。

この世界で生きていくためには、戦わなければならない。

ゴブリンが襲いかかってくる。

僕は魔力を髪に込めた。

髪が伸びる。硬くなる。

『岩毛籠り』

全身を覆うまではいかない。頭と肩を中心に、髪が岩のように硬くなる。

ゴブリンの棍棒が振り下ろされる。

でも、硬くなった髪が防ぐ。

「っ!」

反動で体が揺れる。

でも、大丈夫。

僕は頭を下げて、ゴブリンに突進した。

『頭突き』

ゴン!

硬くなった髪ごと、ゴブリンの腹に頭をぶつける。

ゴブリンが吹き飛ばされた。

そして——

(このまま......!)

体が弾むように跳ね返る。

硬い髪の球体のようになって。

もう一体のゴブリンに向かって、体が飛んでいく。

ゴン!

二体目にもぶつかった。

心の中で、技の名前を呟く。

(『ピンボールアタック』......!)

二体のゴブリンが地面に倒れている。

動かない。

「やった......!」

僕は髪を元に戻した。

少し離れたところでは、フランが3体のゴブリンを鮮やかに倒していた。

「モルン、すごい」

フランが、僕を見て言った。

「え?」

「その技、すごい」

「あ、ありがとう......」

照れくさかった。

『なるほど、髪を硬くして防御しつつ攻撃か。面白い戦法だな』

師匠も褒めてくれた。

「でも、まだ完璧じゃないから......もっと練習する」

「うん。一緒に強くなろう」

フランが、僕の手を取った。

「うん!」

僕は力強く頷いた。

フランと師匠がいれば、僕も強くなれる気がした。

そして、僕も二人の役に立てるかもしれない。

そう思えた。

『よし、じゃあゴブリンを解体して、街に向かうか』

「解体?」

『魔石とか、素材が取れるんだよ。それを売れば金になる』

「なるほど......」

師匠はいろいろ知ってるんだな。

フランが慣れた手つきでゴブリンを解体していく。

解体スキルを持っているらしい。

僕も手伝おうとしたけど、見たことのない作業で、結局見ているだけになってしまった。

「モルンは、次は頑張って」

「う、うん......」

フランが優しく言ってくれた。

なんだか、フランがお姉ちゃんみたいだ。

同い年のはずなのに。

いや、僕は前世を含めれば30歳近いはずなのに。

でも、不思議と嫌じゃなかった。

むしろ、心地よかった。

解体を終えて、僕たちは再び歩き出した。

アレッサの街を目指して。

自由な、3人で。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。