難易度1000の異世界生活 ――バカ騎士とポンコツ魔法使いに囲まれて―― 作:晴ノ日
僕たちが暮らしている街――ケネデル。
遥か昔世界を救い英雄と称えられたリリーアの生まれ故郷。
レンガの建物がずらりと並ぶこの街はリリーアの石像が数か所に建てられて、ケネデルに住む人(特に年寄り)は石像に向かって拝んでいる。
高額で取引される魔石が採れる『グリゾンの洞窟』や多くの学者が調べているが未だに多くの謎が解明されていない『空に浮く塔』などケネデルには名所がいくつもあって、多くの人がこの場所に集まってくる。
この賑やかな街にポツリと建っている古い馬小屋。その馬小屋こそが僕らが暮らしている住処だ。
「ちょっとバカオオガミ!! それで3個目よ。ふかし芋は一人2個までよ」
「そんなルール誰が決めたんだ?」
「ふかし芋は7個。それを3人で分けるのだから、2個に決まっているんじゃない!!」
「1個余るじゃねぇか?」
「それは私のよ!!」
日が沈み空はすっかり暗くなっていた。
隣で馬が眠っている中、エナとオオガミは喧嘩をしていた。
うるさい……頼むから静かにしてほしい。
さっきまでゴブリン10体から逃げて疲れているはずなのに、オオガミとエナはお互い睨みながら1口サイズのふかし芋を奪い合っていた。
「俺は昼飯食べてねぇんだぞ!お前に奪われて!」
「食べたじゃない? 毒キノコを。私は魔法の使いすぎで空腹なの」
「不発ばっかじゃねえか! ゴブリンもまともに倒せないのか? このポンコツ魔法使い!」
「はぁぁぁぁぁぁ!? そもそもあんたがゴブリンなんか連れてこなかったら、あんなに走らなくて良かったのよ!! いい加減その小さい脳みそ、どうにかできないの?」
「なんだとこらっ!」
二人の怒りの沸点が頂点まで高まる。
まるで子供だ。なんでこんなに仲が悪いのだろう……
僕は机(木箱)に乗っている寂しい夕食を見ながら、ため息を吐く。
「男はレディーに優しくするのよ」
「レディーはそんなに小さくないんだよ。なんだその胸? お前はひん……イダっ……イダダダダダダっ!! 顔がぁぁぁ」
「そこは関係ないだろ?」
エナはオオガミの顔を掴み、そのまま握る。
オオガミの反応とミシミシって鳴っている音で、かなり握力があると思われる。
彼女は低身長と平らな胸をコンプレックスに感じている。なので彼女の前で「小さい」やら「貧乳」は禁句だ。殺される。
これはオオガミが悪い。
しかしこのままだとオオガミの命が危うい。助けなければ。
「まぁまぁ、その辺にしてあげてよ。残りの1個はエナにあげるから」
「当然よ」
エナはそっぽを向きながらふかし芋を一口で食べる。しかし物足りなそうな顔をしていた。
確かに少ない。
今日のご飯は輪切りにされたふかし芋と川から汲んできた水。これじゃ満腹になるわけがない。
「全然食い足りねえよ……」
「しょうがないよオオガミ……お金ないんだし。我慢するしかない」
ゴブリンから逃げた後、なんとか電光虫を捕まえて報酬をもらった。
だけど今日の依頼は虫を捕まえるだけの簡単な依頼。簡単なだけあってもらえる報酬は微々たるものだ。
武器のメンテナンス代と酒場の未払いの分を払って今日もらった報酬はほとんど無くなり、夕食の芋を購入して手持ちは0ゴールドになってしまった。
まだ寝泊まりしている馬小屋の家賃も払っていないのに……ヤバイな。
「ねぇ……馬肉なんてどうかしら? 馬肉は生でもいけるらしいわよ」
エナはそう言うと小屋で寝ている馬を凝視した。口にはよだれが垂れている。
「おぉ!馬の肉いいな!それじゃ俺の剣で――」
「駄目だよ!僕たち罪人になっちゃうじゃないか!」
「大丈夫よ。1頭ぐらいいなくなっても気づかれないわよ!……じゅるり」
「気づくよ!オオガミじゃないんだし!ちょっと二人ともストッーーーープ!」
一線を越えないように腹ペコで思考停止しているオオガミとエナを必死で止める。
なんとか二人の暴走を止め、罪人になることは阻止できたが僕はかなりの体力を使ってしまった。
こっちだってお腹は空いているんだよ。本当にやめてくれ。
○○○
「サク、明日はちょっと難しい依頼に挑戦してみない?」
空腹を紛らわすために水をがぶ飲みしているエナは明日受ける依頼について僕に提案をしてきた。
確かに、難しい依頼を受けるのもいいかもしれない。
依頼は危険な依頼ほど報酬は高くなる。
今まで命大事に簡単な仕事を受けていた僕たちだったが、借金地獄というこの現状を抜け出すには、少し命の危険があっても仕方がないのかもしれない。
「そうだね。じゃ
ファイアバードは突進しか攻撃方法はない。もし攻撃が当たったとしてもケガは火傷ぐらい、僕の
エナも納得したと思ったが、
「いや、私はこれがいいと思うの」
エナは日焼けした紙を僕に突き出す。
これは……依頼書?
「攫われた娘を取り戻せ……?」
僕はびっしり書かれた依頼書を読み上げる。
どうやら富豪の娘が何者かに連れ去られたようで、その娘を無事に依頼主まで連れて帰ることが依頼のようだ。
依頼書には「リシア」という娘の名前と特徴、それに分かりやすいように娘の写真が載っていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 行方不明者14名!?」
依頼の内容を見ていると「行方不明者」の数に驚愕して、僕は大声を上げた。
その恐ろしい数字に僕は「却下!!」と突き返した。
「なんでよ!!」
「こんなの危険すぎるって! 死に行くもんだよ!!」
「これを見なさいよ!! 報酬120万ゴールドよ。これでどれだけのお肉が食えると思っているのよ?」
「でも、行方不明者14名だよ! 14名!」
「それはかなり危険かもしれないけど、やってみる価値はあるんじゃないかしら?」
報酬は高い。
馬小屋の家賃が払えて、酒場の未払い分が全部払い終わって、新しい武器を買っても、おつりがもらえる額。
喉から手が出るほど欲しい。でも、行方不明者の数が気になる。
行方不明者14名。つまりこの街に帰って来てない冒険者が14名いるってことだ。
誘拐された子供を助ける依頼は珍しくないのだが、誘拐事件に行方不明者14名はさすがに多すぎる。絶対何かあるはず。
この依頼は絶対に受けたくない。と僕は言うが。
「こんな生活もう嫌なの!! こんな臭い馬小屋にショボいご飯! 私はもっと贅沢な生活を送りたいの!! 高級なお肉をお腹いっぱい食べたいし、服や杖も好きなだけ買いたいの!!」
「なんて強欲な……」
机を強く叩きながら言うエナ。
こうなったらエナは止まらない。なんとかしなければ。
「ちょっとオオガミ! エナになんとか言ってあげてよ」
僕は助けを求める。
「俺は騎士としてこの少女を助ける。強いやつは弱いやつを助けないといけないからな」
このバカが!!
「困っている人を見捨てられないのね。さすが騎士ってところかしら」
「あぁ」
エナとオオガミは共に笑い合って握手する。
さっきまでこの二人がふかし芋で喧嘩していたのが嘘みたいだ。よく見るとオオガミの顔には五ヶ所赤い跡が残っている。たぶんエナに握られたときにできたものだろう。
……なんでこんな時に仲良くなるんだよ。
僕は呆れてため息を吐いた。