難易度1000の異世界生活 ――バカ騎士とポンコツ魔法使いに囲まれて―― 作:晴ノ日
人は命を宿した時、ごく稀に神様からの贈り物を授かることがある。
って、どこかの頭のいい人はこう言った。
運が良いのか悪いのか分からないけど、僕はその神様の贈り物を授かって不思議な力を使うことができる。
授かった力の名前は【取引】。
まぁ、簡単に言うと。水のない砂漠でも、深海100mのところでも、どんな場所でも自由に買い物ができる能力だ。
必要なものはお金だけ。
これさえあれば何もない場所でも、武器を生み出したり、食べ物を作れたりすることができる。
材料がないのに、バースデーケーキを作ったのもこの力のおかげ。
神様の贈り物にしてはちょっと地味かもしれないけど、なかなか便利な力だ。
でもまぁ、うちは金欠だから、あんまり使えないけど。
○○○
誘拐された娘――リシアの捜索の依頼を受けた僕たちは朝早くから出かけた。
依頼者が待っている場所はランシャという町。
遠いので僕たちは馬車に乗って移動。
1人片道4000ゴールドの運賃を払ってランシャに向かって出発した。
ちなみに運賃は僕たちに馬小屋を貸してくれてる馬主のおじさんから。
家賃も払ってないのにお金を貸してくれるなんて器の大きい人なんだ。
よし、報酬をもらったら家賃とお礼にランシャのお土産を渡そう。
まぁ、僕たちが行方不明者にならなければの話だけど。
でもランシャは何が有名なんだろう?
エナの話によると、これと言った特徴のない普通の田舎町らしい。
でもランシャでは異常現象が起きている。
それはランシャに雪が降っていることだ。
別に雪が降っていること自体はおかしくはない。
だけど今、ランシャはつい最近まで40度を超える猛暑だった。
それにランシャは冬になって、気温が低くなっても雪までは降ることはないみたい。
これは氷河期の前兆やらモンスターの仕業やら神のいたずらやら雪が降っている原因を推測しているが、未だに分からないままだ。
「………寒っ」
馬車から降りて僕が口にした第一声はこれだ。
そしてランシャを歩いている時でも僕は再び「寒っ!」と言った。
ケネデルはちょうど良い気温だったのに、ランシャはこんなに寒いの?
生えている木々、住人たちの家、地面、街全体が雪で白く染まっている。
空からは雪。地面を見ると村人たちの足跡がいっぱいあった。
最近まで猛暑だったのに、いきなり雪が降るっておかしな話だが、一体原因は何だろうか?
そんなことを考える余裕は僕にはないな。
「へっきゅしっ!!」
……あぁ……絶対風邪引いた。
「だらしないわねサク。そんな貧弱な体しているから風邪引くのよ。少しはバカオオガミを見習って筋トレしでもたら?」
「うるさいな……筋肉は関係ないだろ?」
「そもそもランシャに行くっていうのに、なんで薄着なの?雪が降っていたことは知っていたわけでしょ?」
「防寒着欲しかったけど……お金がないから買うのをやめたんだよ」
「ふーん」
「それにしても寒いな……僕寒いの苦手なんだよ」
「ふふーん! なら任せなさい!「お願いしますエナ様」って頭を下げたら、サクの寒がりを直してあげる!」
誰がするかよ!
偉そうに笑うエナに僕はイラっとする。雪玉を投げつけてやろうと思ったが、オオガミのほうが早かったみたいだ。
「うえーい!! 雪合戦だ!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
オオガミはどこにいる?と思っていたけど、どうやら雪玉を作って騒いでいた。そしてエナの顔面に当てる。
ナイスショット!! オオガミ。
小さく喜んでいる僕に対し、エナはご立腹だ。
雪玉を作り「うりゃぁぁぁぁぁ」と剛速球を投げる。球速は落ちることはなくオオガミの顔面にヒット。そのまま後ろに倒れた。
ありがとう、オオガミ。君のことは忘れないよ………僕が心の中でお別れの言葉を言っていると、
「痛ぇよ!!!!」
とオオガミは素早く起き上がった。
「………この私に雪をぶつけるなんていい度胸してるわね………後悔するわよ」
エナの冷たい眼差しを見て、僕は雪を当てなくて良かったと思った。エナは雪玉を硬く作り、オオガミの顔に向かって投げつけた。
そのまま命中と思いきや、
「無駄だっ!!」
オオガミは装備している盾を構えた。盾に防がれ、エナが投げた雪玉はオオガミに当たらなかった………おいおい。モンスターと戦っているわけじゃないのに、無駄な体力を使うなよ。
「………へへへっ効かねぇぜ。お前のへなちょこボールじゃ、俺様の盾を破ることはできねぇぞ」
煽るな、煽るな。バカオオガミ。エナがすぐ乗るんだから。
エナはすぐに相手の挑発に乗る。
負けず嫌いだし、プライドが高いから。だから相手の挑発に怒り、罠に引っかかることが度々。そこが彼女の弱点の一つ。
売られた喧嘩は必ず買う………それがエナである。
「盾を使うなんて卑怯じゃない!! いいわ!! あんたのその自慢の盾、壊してあげる」
壊しちゃダメだよ。これからモンスターと戦うかもしれないんだから。
「上等だ。俺とお前、どっちが上か決めようぜ」
エナとオオガミは睨み合う。
エナが雪玉を作り、すぐさま投げると、オオガミは盾で自分の身を護る。そして反撃のため雪玉を一投。しかしエナに回避された。
投げて、避けて、投げての繰り返し。無数の雪玉が飛んでいる。
迷惑なことに街中で雪合戦をやっている。
僕は止めようとしたが無理だった。あぁ、ダメだ。
こうなるとエナとオオガミの戦いはしばらく終わらない。
エナとオオガミの相性は悪く。同じパーティーに所属しているにもかかわらず毎日一日一回以上は喧嘩。
ちなみにランシャに着く前に馬車でもう三回も揉めている。
何なのこの二人?
「おーーい!! エナ、オオガミ。何やっているんだよ!? ランシャの人たち逃げてるから、街を襲撃しに来たと思われるから!」
僕の声は二人に聞こえていない。お互い夢中で雪玉を投げ合っている。
飛んでくる無数の雪玉のせいで町は大パニック。ランシャの住人は雪玉から当たらないよう悲鳴を上げながら逃げており、命中して倒れている人もいた。
もう他人のふりをしようかな………と考えた僕のところに、
「あの私の娘を探してくれる冒険者の方ですか?」
おじさんが話しかけてきた。僕は見た瞬間、金持ちだなぁと分かった。
高そうな黒いコートに空腹には困っていない小太りな体型、指には赤い宝石がはめられた指輪、そしてチョビ髭。逃げている村人と違って品がありそうな人物だ。
「え?……あぁ、はい」
僕が答えると、
「遠いところからわざわざ来てくださって、ありがとうございます。あなた方のような心優しい人を待っておりました」
頭を下げて丁寧に挨拶するおじさん。思わず僕も「あぁ、はい」と戸惑いながら頭を下げてしまった。
第一印象はすごく良い。すごく優しそうな人だと感じた。
正直富豪は悪いイメージしかない。財力が他人よりあるだけで、奴隷をこき使い、偉そうに周りを見下している………そんなイメージがあったからだ。
「申し遅れました。私、シュガ・リーランドと申します。リシア………リシア・リーランドの父でございー、ぐはっ!」
シュガさんが喋っていると、雪玉が顔面に直撃。
威力が強かったからか? そのまま気絶。ゆっくりと倒れる小太りのおじさんを見て僕は唖然としていた。
「「………あっ」」
エナとオオガミは倒れたシュガさんに気づき、声を漏らす。
いや、「……あっ」じゃねぇよ。