難易度1000の異世界生活 ――バカ騎士とポンコツ魔法使いに囲まれて―― 作:晴ノ日
依頼を受けることにした僕たちは、イルム団の情報を集めるため聞き込みを始めることにした。
部屋を出て廊下を歩いていると、細身の男性に声をかけられる。
僕たちにクッキーを運んでくれた執事だ。確か……名前はマルトトーゼさんだった。
改めて見ると、マルトトーゼさんは整った顔立ちをしている。
ほっそりとした高身長に、鋭い青い目。髪はきっちり七三に分けられていて、美意識の高さが感じられる見た目だ。
「お客様。ご主人様の依頼はどうするつもりですか?」
「受けるつもりですけど?」
唐突の質問に僕が返答すると、マルトトーゼさんは浮かない表情を見せ、深く頭を下げた。
「お願いですが……ご主人様の依頼を断って頂けないでしょうか?」
思いがけない言葉に、僕たちは驚きを隠せなかった。
我慢できなかったエナが、思わず声を荒げる。
「ちょっと、あんた! 何を言ってるのよ!?」
「私がおかしなことを言っているのは承知しております。しかし、皆さんも分かっていますよね? もう……お嬢様はここに帰ってくることはない。
淡々と、残酷な言葉が続く。
「今頃、奴隷として売られているか……もしくは、ランシャの地で凍えているか。そのどちらかでしょう」
マルトトーゼさんは巾着袋を取り出し、僕たちに差し出した。
「こちらを受け取ってください。この中には今回の報酬120万ゴールドが入っています。どうかこれでお引き取りください」
「冗談じゃないわよ!! 確かにお金は欲しいけど、何もしないでもらうなんて私のプライドが許さないわ!!」
「あの………マルトトーゼさん。どういうつもりですか?」
「………もう、これ以上シュガ様の依頼のせいで行方不明者を出すわけにはいきません。お客様は、この依頼で何人が行方不明になっているか、ご存じですか?」
「14人ですよね?」
「はい。行方不明者――つまり、死亡者の数です」
その言葉に、空気が一気に重くなる。
「お嬢様を捜索するためにランシャを訪れた冒険者は、何人もいます。しかし……全員、捜索の途中で何者かに殺害されました。おそらく、イルム団でしょう」
マルトトーゼさんは、僕たちの装備を一瞥する。
「……見たところ、皆さんはまだ駆け出しの冒険者ですね。おそらく、高額な報酬に目が眩んで、この依頼を受けられたのではありませんか?」
図星だった。
マルトトーゼさんの言う通り、僕たちは報酬の高さに惹かれてランシャへ来た。
「私は、これ以上無駄な死人を出したくないだけです。言いづらいことですが、あなたたちは弱い。行っても、死ぬだけでしょう」
僕は黙り込む。返す言葉もない。
死者が14人出ていると考えると、どれくらい恐ろしい依頼か分かる。
しかし、エナはマルトトーゼさんの態度が気に食わなかったのか、顔を赤くした。
「はぁ!? 私が弱いですって!?」
エナが顔を赤くして噛みつく。
「あんた、ちょっとイケメンだからって、人を見下してんじゃないわよ!!」
「そうだそうだ。確かにエナは呪文よくミスるし、魔法も滅多に当たらねぇけどな。根性はあるぜ」
……オオガミ、それは言っちゃダメなやつだ。
エナは「ミスんないわよ!!」否定するが、オオガミは「ミスっているだろ!」と言う。そして「ミスる」「ミスらない」の無駄な言い争いが始まる。
エナ………ミスっているぞと思ったが、僕は巻き込まれたくないので心の中で言った。
「ですが!」
マルトトーゼさんが声を張り上げるが、エナがそれを遮る。
「あんたバカね!!私が行くって言ったら行くの!! 誰にも口出しさせないわ!! 分かった!?」
あまりの剣幕に、マルトトーゼさんは言葉を失い、小さく呟いた。
「……どうかしている」
「すみません……心配して言ってくれているのは分かります。でも、この二人はこうなったら止まらないんです」
僕は苦笑しながら続ける。
「それに……娘さんが助からないと決まったわけじゃありません。駆け出しでも一応冒険者ですから、やれることはやりますよ」
「………」
マルトトーゼさんは深いため息をつき、頭を抱えた。
しばらくして何かを決断した顔をした。
「………分かりました。そこまで言うならお客様の実力を試させてください」
「試す?」
「えぇ、お客様はランシャの腕利きの狩人と戦ってもらいます。そこでお客様が本当にお嬢様の捜索をお願いしていいのか確かめさせていただきます」
「何よ!私たちのことが信用してないわけ!?」
「はい。ですから私を信用させてください。それでは私は狩人と話をつけておきます。お客様はしばらくお待ちください」
そうして、彼は廊下の奥へと去っていった。