チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~   作:CarasOhmi

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#15 「やさしい人間」になろう!

「……ゆ、勇者様っ!?」

 

 何を……?この男は、いったい、何をしている?

 武器を収めた奴は、囚われていた子供に視線を移した。

 

「坊や、あの人は魔族の偉い人で、信用できる人なんだな」

「……う、うん」

「じゃあ、もう大丈夫。あの人についていけば、おうちに帰れる。もう安心だから、あの人の所に行きな」

「……!」

 

 少年は、私の足元に走り寄り、私の足にしがみついた。

 そして、私の影から勇者に視線を送る。

 

「……どういうつもり?」

「どうもこうもないだろ。さらわれてた子供を、保護してくれる大人に引き渡しただけだよ。……それとも、実は子供を取って食っちまう、悪い魔族だったりするのか?」

 

 一瞬、足元の子供が、びくりと身体を震わせる。

 

「……ふざけないで!誉れ高い魔王の側近である私が、そんな非道な真似を……」

「じゃあ、解決だ。俺は魔族領域に向かわずに済むし、その子も安全に家に帰してやれる」

「………………」

 

 

「……何が目的?」

「損得勘定じゃねぇだろ。子供が泣いてるの見て、いい気分な大人がいるかよ」

「……たいした人道家ね」

「……俺の故郷じゃ、異国の迷子でも安全な場所に届けてやるのが、まともな大人の責任だったんだよ」

「………………」

「……人間が、その子を傷つけたのは、同族として、悪かったと思うよ。けど、だからってそんなクズの同類として、あんたに殺されてやる謂れはない」

「………………」

「俺は、俺の故郷のやり方で、この世界で生きてる。……それがきっと、誰にとっても一番良い道になると、俺自身が信じてるから……そうしたいんだよ」

 

 

 ……ようやくわかった。

 

 この男は、底抜けに危機感が薄い。きっと、元居た世界が、相当なぬるま湯だったのだろう。

 この世界の現実を知り、軌道修正もしているのだろうが、価値観の根底が「善性への信仰」に基づいている。

 さながら、世に「真なる卑劣」など、存在しないとでも言うかのように。

 

 ……「先代の勇者」とは、まったく別の人種だ。

 一体、どんな甘い環境で生きてきたら、こんな人間に育つのか……。

 

 ………………

 

「……私も、これ以上あなたと交戦するつもりはないわ。『たまたま』通りかかっただけだから」

「そりゃ、どうも。……命拾いしたよ」

 

 ……あんな化け物じみた戦いを見せておいて、よく言うわ。どういう自己評価してるのよ。

 

「……けれど、心しておくことね。次に会うときは、殺し合い。それが、魔王と勇者の宿命なんだから」

「………………」

 

 私は、その場でしゃがんで子供を抱きかかえ、影で翼を編んだ。

 

 ……もはや、ここに長く残る必要もない。私のことを、この男に教えてやる必要もない。もう姿も見せまい。

 今後も変わらず、この男の調査と監視は継続する。それが、私に与えられた任務なのだから。

 

「……あっ」

「?」

 

 その場で羽を広げた私に、勇者は声をかけた。

 

「その……、損得勘定じゃないけどさ、貸しを作るのが嫌なら、ひとつだけ頼まれてくれないか?」

 

 ……さっきまで殺し合いをしていた相手に、ふてぶてしい男だ。

 

「……一応聞くわ、言ってみなさい」

 

 

「……もし、人間の子供がさらわれて、ひどい目にあってるのを見たら……同じように、助けてやってくれよ」

「………………」

 

 

「……私が、そんなことをするお人好しに見える?」

「俺には、そう見えたな」

「……勝手な思い込みね」

「いいや」

 

「あんたは……魔の民(アスラ)の王『エミリア=ターコイズ』は、さらわれた子供を放っておかない。そんな、『やさしい人間(ひと)』だよ」

 

 

 ……はぁ。

 

 ばかばかしい。

 こんな甘ちゃんが、魔王軍の最も警戒する、最重要人物だなんて。

 呆れて何を答える気も起こらないわ。

 

 私は、背中の翼をはばたかせる。

 保護した子供を決して落とさぬよう、力強く抱きかかえた私は、その場で飛びあがり、魔族領域の上空を目指して、飛び立った。

 

 

 

   * * *

 

 

 

「……で、そのまま帰ってきたわけ?」

「し……仕方ないじゃない!子供の保護が最優先でしょ!」

「いや、それは仕方ないとは思うよ?でもさぁ、あんだけ私に大きなこと言ってさぁ……」

「あんたは、マッサージ受けて悶絶してじゃれついてただけでしょ!一緒にしないでよ!」

「うーっ……」

 

 子供を送り届けた私は、ノアと幕舎で状況の共有……という名の、情けない正当化合戦を繰り広げていた。

 

 はあーっ……。

 くやしいけれど、結果だけ見れば、私もノアと同じ、あの男の甘さに絆されただけってことか。

 

「……まあ、個人的には、『悪い男じゃない』ってのは共感できたわよ」

「ふーん」

「……でも、任務は任務。敵は敵。今後も、あの男の動向と弱点を探り、対策を練ること。ここは変わらないわ。今後はより慎重に、接触を控えるべきね」

「……まあ、私の方は顔は割れてないし、姿も変えられるから、近くで探れるけどね」

「ぐっ……」

 

 めちゃくちゃ意趣返ししてくる……相当根に持ってるわね。

 

「まあさ、すぐ戦争にならないってのは良いことじゃん。油断はせず、ちゃんと線引きしてさ、調査してこうよ」

「……そうね。私も【悪魔の瞳(イビルアイ)】で、引き続き勇者たちの動向を探ってくわ」

「勇者個人の人格がどうであっても、アルフィード王家や他のパーティーメンバーの意向次第で、魔族に損害が出る可能性もあるしね」

「………………」

「じゃ、そろそろ私はおいとまさせてもらうから。……魔王様にいい報告できるように、お互い頑張ろーね」

「はいはい……」

 

 

 

 ノアも去り、静まり返った幕舎の寝床で、横になった私は一人、今日の出来事を反芻する。

 

 人間の悪意。

 同胞の裏切り。

 理を外れた力。

 善性から差し伸べられる助けの手。

 

 種族を問わぬ「愛」――

 

 勇者の、あの男の、柔らかな笑顔が、閃光のように私の脳裏に蘇る――

 

 

 ――あんたは……魔の民(アスラ)の王『エミリア=ターコイズ』は、

 さらわれた子供を放っておかない。そんな、『やさしい人間(ひと)』だよ。

 

 

 ~~~~~~~~ッッッ!!

 

 

 臆面もなく恥ずかしいこと言わないでくれないかなぁ、女泣かせの優男がっ!

 ……あなたが私の、何を知ってるって言うんだよっ!

 

 

 

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