チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~   作:CarasOhmi

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#25 海原の大将軍、襲来

 ―――― 当該パーティーの試練(トライアル)完遂を確認。

 ―――― 古代遺物(アーティファクト)裁の聖剣(バスター・パニッシュメント)」を進呈いたします。

 

 宝物殿に無機質な声が響き渡る。

 祭壇に降り注ぐ、天井までそびえる白い光の柱。

 台座を伴ってせり上がるように出現したのは、青白く輝く一振りのロングソード。

 

 

 

 エリスから話を聞く限り、この武器は「魔族特効の武具」ということで、魔王討伐の旅では必ず力になる存在、だそうだ。

 

 ……外聞に反して、案外第一王弟は魔王討伐に本気なのかもしれない。

 正直、イヤだなぁ。

 

 ……それで、(さばき)聖剣(せいけん)

 俺には剣の目利きが出来るわけではないが、それでも、遠目から見た印象で、この剣がただものではないことは、確かに察せられる。思うに「魔力」を知覚出来るようになった時点で、日本にいた頃とは別の感覚機能が開いたのかもしれない。

 

 第一印象としては、見たままに「清廉で神秘的である」と感じられる。

 あるいは、一切の慈悲無く魔を滅ぼす「独善的な暴力」を讃えた、人類の「不寛容の器」とも。

 

 大分穿った目ではあるが、青魔族(ブルーデーモン)の子がひどい目に遭って、やべぇ金持ちの奴隷にされそうになってたの見たからな……。ちょっと複雑だ。

 

 

 

「……じゃあ、回収に向かうか」

「そうですね、いつまでも勝利の余韻に浸っていて、魔獣でもやってきたら手間です」

「このエリア、魔獣なんて入れんのかね」

試練(トライアル)の趣旨を考えると、不確定要素の介入は避けるために、簡単に対魔結界とかは張ってると思うけどね」

「急ぐことはないか……ゆっくりする必要もないけど。さっさと済ませて街に帰ろうぜ」

「賛成ぇ~」

 

 ……なんだかんだ、パーティーメンバーも「やり遂げた感」の裏に疲れがたまってるのは目に見える。

 街に帰ったら高い宿とってゆっくりするか。予算面はエリスと相談だけど、まあ王命を成し遂げた後だ。打ち上げで士気を上げるのもそうだし、宝剣を入れた魔導金庫(チェスト)を、その辺の安宿で預かってもらうのは大分怖い。

 

 ……ってそれ、これからの旅でとる宿もランク上げないと厳しいかもなぁ。一度王都に帰って、直接報告と、国王に予算のお伺い立てた方が良さそうかもな。

 

 そんなことを考えながら、俺たちは背筋をほぐしながら、高い所にある祭壇に向けて、一歩、また一歩と歩み寄り、階段に脚をかけ――

 

 

 

 

 

 

 ――「死」を想起する悪寒。

 

 俺とジーンは、後衛の三人の手を引き、後ろに飛び退いた。

 自分でも理解の及ばない、俺たち二人の本能的な行動に、彼女たちは目を丸くしていた。

 

 しかし、次の瞬間、俺たちの目の前にあった階段は、一直線に深くえぐり取られた。目の前で起きた意味不明なまでの破壊に、彼女たちの顔面は蒼白になった。

 

 

 

「――ふむ、危機察知も、咄嗟に起こした行動も悪くない。流石は勇者パーティーと言った所か」

 

 声が聞こえたのは俺たちの右手。

 数十メートルほど距離の開いた石畳の上に、大剣を構えた女が立っていた。

 そして、女の声とともに、身体をうろこに覆われた爬虫類のような剣士たちが、グリーンのマントを羽織った耳の長い剣士たちが、宝物殿の唯一の出口を封鎖した。

 

「攻略報酬を得るだけの資格は持ち合わせているのだろう。……だが、申し訳ないな。このダンジョンは、もう随分と昔に私が攻略している。その報酬については『予約済み』だった、とでも言うべきかな」

 

 女は、大剣を肩に担ぎ、俺たちに、一歩、また一歩と歩み寄る。

 不気味に静まり返った宝物殿に、かつん、かつんと、響く足音。

 

 局部のみを守る軽装の鎧。

 うっすらと脂肪の乗った鍛え上げられた筋肉。その四肢を覆う深紅の「うろこ」。

 それはさながら「自身の肉体こそが最高の鎧である」と誇示するかのように。

 

 

 

 ―――― 警告。

 

 

 

 ……「死」に纏わりつかれたような緊張から、俺たちを現実に引き戻したのは、宝物殿に響く無機質な声だった。

 

 

 

 ―――― 当該設備の宝物殿に、魔族の侵入を確認。

 ―――― これより迎撃のため、宝物殿対魔防衛機構、五体を召集。

 

 ―――― 近衛守護兵(ロイヤル・リポジトリガード)LV.3、起動。

 ―――― アーティファクト防衛のため迎撃(インターセプト)フェーズに移行。

 

 

 

 その声と同時に、地面に展開された魔法陣から、先程より一回り小さい……それでも、三メートルほどの体躯を誇るゴーレムが出現し、赤く輝く単眼で、女を睨み付けた。

 そして、不敵に笑う彼女に、前衛の二体が大剣を振りかざし、斬りかかった。

 先程と比較して、体格が小柄な分、動き出しが早い。それでいて、先程と同じ、決して軽いわけではない大剣と、強固なクロムのような甲冑。

 

 それは「試練」ではなく「迎撃」にふさわしい、無機質で効率化された純粋な殺意。

 

 今度のゴーレムは、その両腕が胴に接続されて、より繊細な操作が可能になっているようだ。その太刀筋はより人間的なものであり、「切断」を志向する人間の剣技の応用が見て取れる。

 対峙するものにとっては、先のゴーレム以上の脅威にもなり得る「剣術使い」の防衛機構。

 

 俺たちは、あの女の首が宙に舞うのを確信――

 

 

 ――――――

 

 

 ――出来るはずがなかった。

 

 

 俺たちの本能は、「こいつとは戦ってはいけない」と全力でブレーキを踏んだ。

 それは目の前の、「たかだか」ゴーレム五体程度で、覆りはしない。

 

 女は、ゴーレムの大剣を、その刃を、「握り潰して」止めた。

 

 ……そうとしか言いようがない。金属の剣には、陶器のようなヒビが走る。

 それはもはや凶器ではない。まるっきり、子供のおもちゃだ。

 

 

 

「……ふん、前に来た時にも相手をしてやったものだが、やはり機械よ。魔族に宝を渡すまいとする姿勢にも、まるで気持ちが乗っていない。出来合いのゴーレムを向かわせるだけなど、芸の無いことだ」

 

 女は、右手で握りしめた剣、そこから繋がるゴーレムを「鈍器」として、正面のゴーレムに向かって叩きつけた。

 衝突した二体のゴーレムは、その胸に相互に巨大なクレーターのようなくぼみを作り、眼の光を失い沈黙した。

 

 そして、左手のゴーレムを、ハンマーを打ち下ろすように、後衛の一体に振り下ろす。殴られたゴーレムは縦に押しつぶされるように、ぺしゃんこにへしゃげ、叩きつけたゴーレムは、腕を引きちぎられ、地に伏せた。

 女は、そのゴーレムの頭を踏みつけ、粉砕し、前進する。

 

 最後の一体。そのゴーレムは、魔石のエネルギーを集束し、目を青く輝かせる。

 そう「レーザービーム」だ。こればかりは、喰らった者はまともに……

 

 

 

 女の抜き手が、ゴーレムの頭部を貫いた。そして、頭部のエネルギーの充填された魔石を、その手のひらでつかみ、握りつぶした――!

 

「……すッこんでろ、瓦落多(ガラクタ)が」

 

 瞬間、エネルギーの行き場をなくしたゴーレムは、自身のレーザーで爆発炎上した。半身を融かし沈黙するゴーレムの下半身を、女は勢いよく蹴飛ばすと、その残骸は百メートル以上離れた宝物殿の向かいの壁に、轟音を立ててめり込み……やがて地面に落下し、自壊した。

 

 魔石を握りつぶした掌は、頑丈な深紅のうろこに覆われ、爆発により一切の欠損を起こしていなかった。

 女は、丸太ほどもあるかのように感じられる太い尾で、ゴーレムの残骸を蹴散らし、前に進む。背中にある、蝙蝠のような小さな翼は、彼女の歩みに合わせ、ひら、ひら、とわずかに揺れていた。

 

 女の身の丈は俺より高く、一八〇センチ以上はあった。

 威圧感を持って俺たちを見下ろすその瞳は、海面を彷彿とさせるような青。前髪で片目を隠す、紫がかった無造作なショートヘアは、一連の戦闘で巻き起こった爆風の余波でかすかに揺れ、さながら切り落とされたかのような短い角が二本覗く。

 

 ……噂には聞いていた。

 魔族領域の奥地には「(ドラゴン)」の形質を持つ、極めて強大な膂力を持つ者がいると。

 単独個人で千騎の働きをする、凶悪な戦士の部族が存在すると。

 

 

 

「お初にお目にかかるな、人間世界の勇者殿。私は、龍の民(ドラゴン)を統べる者。魔族領域を囲む広大なる海原の覇者にして、当千千騎の大将軍――」

 

 女は口角を上げ、緊張と恐怖から、まともに息も出来なくなった俺たちに、ゆっくりと、自身の名を告げた。

 

 

「『金環の四天王(テトラクラウン)』の一角。【龍王】アンナ=バイオレットだ」

 

 

 

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