チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~   作:CarasOhmi

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#26 ガンミトラスの決闘

「『金環の四天王(テトラクラウン)』……だと?」

 

 ジーン達は言葉を失っていた。魔王直属の四人の「王」。魔界における最大戦力の一角と言っても、決して過言では無い存在。それと、俺達は向き合っている。

 

 ……ジーン達には、エミリア=ターコイズとの邂逅については伝えていない。俺が青魔族(ブルーデーモン)の子供を助けたことについて、三人に漏れたらトラブルになると判断したためだ。

 

 だが、子供の件を抜きにしても、俺は彼女達にしっかり伝えるべきだったのだろう。この旅において、四天王との邂逅は、現時点でも既に「ありえないこと」ではなくなっていたのだから。

 

 この際、はっきり言おう。

 俺は、四天王を……「金環の四天王(テトラクラウン)」を甘く見ていたのだ。

 

 【鬼王】エミリアが、目の前の子供のためを思い、人間である俺の命を取ることなく去って行ったこと。現時点での俺にも、彼女との善戦が可能であったこと。

 これらの出来事から「殺されることはない」「話せばわかる」とたかをくくり、ありもしない友誼を期待し、危機意識を失っていたのだ。

 

 

 

 断言できる。

 この女と……【龍王】アンナ=バイオレットと戦えば、俺たちの命は無い。目の前に転がるゴーレムの残骸が、それを雄弁に物語っている。

 

 ……ではどうする?

 入り口には、奴の配下と思われるエルフ、リザードマン、龍の魔族が退路を塞いでいる。

 奴らは、その辺の猪妖魔(オーク)の山賊とは訳が違う。魔族領域の剣術を修めたであろう、軍属の戦士達……戦闘のプロの集団だ。

 

 ……「歯が立たない」とは言わない。

 だが、少しでも手こずれば、背後から龍王の大剣が襲いかかる。

 縦か横かは知らないが、俺たちの体は真っ二つになることだろう。

 

 なら、アーティファクトを手に取って、それで戦うか?

 

 ……無理だな。

 奴の方が祭壇に近い。近寄ろうものなら先の斬撃で粉微塵だろう。

 それに、奴の目的はおそらくあの剣だ。なおのこと俺の接近を許すわけもない。

 

 ……いっそ、降伏して助命嘆願でもするか?

 せめて、非戦闘員のエリスだけでも見逃してくれと……。

 

 ……いやエリスにも戦闘に参加してもらったから、その道理も通るかわからん。

 そもそも、エミリアの件で相手の善性を高く見積もってるきらいもある。

 殺されずとも、魔族の奴隷として……考えたくもねぇな。

 

 それに、エリスに限ったことじゃない。

 三人だって「名誉の戦死」すら得られず、魔族に弄ばれる可能性はあるだろう。

 現実問題として、人間と魔族は敵対関係。誰が誰を憎んでるかなんて、わかりゃしない。

 

 

 

 なら、腹を括るしかねぇ。

 ……この女を、(たお)す。それ以外に道はない。

 ダメだの、ムリだの、甘ったれたことを言ってる場合じゃねぇ。

 

 ……殺るんだよ。

 

 

 

「……良い目だな。闘志に溢れている」

「……追い詰められりゃ、ネズミもネコを噛み殺すんだよ」

 

 俺の啖呵に呼応するように、三人はエリスの前に出て、剣を、杖を構えた。

 ……後先は考えていられない。今、ここで、総力をあげて、四天王の一角、龍王を潰す。

 俺達は互いに視線を交わし、その意思を確認した。

 

 

 

 

 

 

「まあ、待て」

 

 女は、石畳の上に大剣を突き立て、大地を震わせた。

 攻撃が来ると思っていた俺たちは、走り出そうとした足に伝わる振動に怯み、その走り出しを中断させられた。

 

「……別に、お前達をここで皆殺しにするつもりもない。魔王様からも、そのような命は受けてないものでな」

 

「…………」

 

 知らねぇよ。

 つーか、現に一振りで俺らを皆殺しに出来そうな奴に、そんなこと言われて「良かったぁ」なんて気を抜けるか。こんだけの力を持っておきながら、心理戦でも挑んでんのか?

 

「我々の目的は、裁の聖剣(バスター・パニッシュメント)の回収。お前達との交戦は、必要があれば厭わないが、こちらも勇者どもを相手に、無為な損耗をしたいとは思わん」

「……そりゃどうも」

 

 ……本当は脅威とも思ってねぇだろ。

 入り口を塞ぐ兵どもも「かわいそ」みたいな視線送ってるじゃねぇか。

 おかげで、【無自覚最強】の出力も安定してるよ。敵から「侮られている」証拠だ。

 

「……だが、いくら平和的に解決ができると言っても、貴殿らも『魔族に国宝を持って行かれる所を、指を咥えて見ていました』なんて、王に報告するわけにもいくまい?」

「……じゃあ、置いていってくれないか?」

「そうは行くまいよ。勇者が、魔族殺しの聖剣を持ち出すなど、我々の安全保障を脅かす大問題だ」

「…………」

 

 当たり前だが平行線だな。

 お互い、自国の安全が第一。それを脅かす兵器を目の前にしてるのに、暴力を伴わない落とし所なんてあるわけねぇ。

 

 

 

「故に」

 

 龍王が、地に刺した剣を抜き、その切先を俺たちに向けた。

 決して届く距離ではないが、決して安全とは言えない、その「圧」に、俺は怯む心を振り払うように、剣に手をかけた。

 

 

 

「人間領域の勇者カイトよ……これより貴殿に……聖剣を賭けた『決闘』を申し出るっ!」

 

「!」

 

 龍王は、俺に向けた剣を微動だにさせることなく、口角を釣り上げ、鋭い牙を剥き出しにして、豪快な笑みを見せた。

 

「何人たりとも手出しは無用っ!私か!貴殿が!この大地に膝をつくまで!一対一の戦いを所望するっ!生命(いのち)を失うかは時の運!精根尽き果てるまで、互いに剣を交えようぞ!」

 

 宝物殿に、奴の声が響いた。

 

 ……他の仲間には手を出さない、か。

 そりゃあ……願ったり叶ったりだが……。

 

「……あんたがゴネて、賞品を渡さなかったり、決闘を終えた後に、騙し討ちや仕返しで、俺の仲間を殺さない保証があるのか?」

 

 俺の言葉に矜持を傷つけられたのか、龍王アンナは露骨に不機嫌な表情を見せた。

 

「……疑り深い男だ。『戦士の矜持にかけて』では不足か?」

「不足だね。俺はあんたのことなんて欠片も知らん。……信用する要素がねぇ。保証なしの口約束で、命なんざベットしてやるかよ」

 

 ……我ながら、生殺与奪を相手に握られて何を、という感じだが、ことは仲間の命と王家の威信だ。俺が死んだ後それが履行されないんじゃ、無駄死にだ。

 約束を反故にされて仲間が殺されても、死んじまったら助けるどころか、文句すら言えねぇ。

 

「……まあ、構わんよ。貴殿のような疑り深い男のために、私は『これ』を持ち歩いている」

 

 龍王は懐から一本のスクロールを取り出し、一筆書き加えて俺に投げた。

 中を改めると宣誓の文言と、魔術式、奴のものと思われる血判が記されていた。

 

「アンナ=バイオレットは、貴殿との決闘の勝敗に関わらず、これを終え次第、指揮下にある部下及び同行者を、相手方に危害を加えることなく、この場より撤退させることを約束する。加えて、取り決めとなる古代遺物(アーティファクト)は勝者に譲渡することをここに誓う」

 

 ……契約書か?

 俺は、メルとカトレアに視線を送り、中をあらためてもらった。

 

契約魔法(コントラクト)の証文ね。文言に同意し血判を押した者の行動を制約する……強制呪法(ギアス)を保証にするものよ。偽装も見られないわ」

「大母正教会にも類似のものはありますが、神罰などの代償による強制ではなく、使用者の行動を制約する呪いを担保にするようです。周囲のものが止めれば履行されない場合もありますが……」

 

 まあ、あの女を止められる部下がこの場に居るかっつーと、まああの中には居なさそうだよな。奴自身の強さが、契約履行の保証ってわけか。

 ……運よく俺が奴を殺せてしまったら、これを履行する者も居なくなり、弔い合戦不可避だが、ジーンもメルもカトレアも無傷なら、ここからの脱出は何とか可能だろう。

 

「同意するなら、そのスクロールを起動するがいい。まあ、私としては五人がかりでかかってきても構わんぞ?その場合は取り決めなどは野暮だろう。全員屍になる覚悟でかかって来ることだ」

 

 

 

 ……どの道、選べる立場になんてねぇってことか。

 まあ、殺されるのが俺だけになるなら、上出来だろ。殺されてやるつもりもねぇが。

 

 俺は、スクロールの魔法陣に手を添え、奴の記した契約魔法(コントラクト)を起動し、承認した。

 

「悪いが、仲間も剣も渡さない。総取りさせて貰うぜ」

「……そう来なくてはな」

 

 

 

 俺は、ジーンに渡した大剣をロングソードと交換し、奴を見た。

 ……あいつ、ゴーレムの重量武器も平然と破壊してたから、これ使っても通じるか怪しいところはあるんだが。

 

「……俺の剣が折れたら、ロングソードの方を投げてくれ」

「それ……決闘への介入にならねぇのか?」

「丸腰の相手を斬りたがる奴でもなさそうだし、まあ多目に見てくれるだろ」

「適当な人ですねぇ、あなたも……」

 

 憎まれ口を叩く仲間達だが、俺を心配させまいとしているのか、切れ味はいつもより浅い。……気を使われると、余計死亡フラグみたいでイヤだな。

 

 エリスと目があう。彼女は、ただ心配そうに、手を震わせながら俺の方を見ていた。

 

「……心配はいらない。俺は『勇者』だからね」

「…………」

「みんな、無事に帰れるさ。エリスも安心して……」

「勇者様」

 

 遮るように、エリスは口を開いた。

 

「どうか、命を大事に……無事に、戻ってきてください」

「……」

 

 ああ。

 この子、怖いとかじゃなくて、俺を心配してるのか。

 本当、優しくて、たくましい子だな。

 

 ……後がないと自覚すると、この子がいつも以上に愛おしく感じられてくる。

 映画とかの定番の「この戦いが終わったら結婚しよう」とか、死亡フラグ立てちゃうキャラの気持ちが、身をもってわかったよ。絶対言わないでおこう。

 

 ……結婚かぁ。もう、夢のまた夢だな。

 俺もさ、女相手に殺し合いする世界なんかじゃなくて、都内の庭付き一戸建てで、可愛い嫁さんと一緒に、平穏に暮らしたかったぜ。

 

 

 

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