チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~ 作:CarasOhmi
「『
ジーン達は言葉を失っていた。魔王直属の四人の「王」。魔界における最大戦力の一角と言っても、決して過言では無い存在。それと、俺達は向き合っている。
……ジーン達には、エミリア=ターコイズとの邂逅については伝えていない。俺が
だが、子供の件を抜きにしても、俺は彼女達にしっかり伝えるべきだったのだろう。この旅において、四天王との邂逅は、現時点でも既に「ありえないこと」ではなくなっていたのだから。
この際、はっきり言おう。
俺は、四天王を……「
【鬼王】エミリアが、目の前の子供のためを思い、人間である俺の命を取ることなく去って行ったこと。現時点での俺にも、彼女との善戦が可能であったこと。
これらの出来事から「殺されることはない」「話せばわかる」とたかをくくり、ありもしない友誼を期待し、危機意識を失っていたのだ。
断言できる。
この女と……【龍王】アンナ=バイオレットと戦えば、俺たちの命は無い。目の前に転がるゴーレムの残骸が、それを雄弁に物語っている。
……ではどうする?
入り口には、奴の配下と思われるエルフ、リザードマン、龍の魔族が退路を塞いでいる。
奴らは、その辺の
……「歯が立たない」とは言わない。
だが、少しでも手こずれば、背後から龍王の大剣が襲いかかる。
縦か横かは知らないが、俺たちの体は真っ二つになることだろう。
なら、アーティファクトを手に取って、それで戦うか?
……無理だな。
奴の方が祭壇に近い。近寄ろうものなら先の斬撃で粉微塵だろう。
それに、奴の目的はおそらくあの剣だ。なおのこと俺の接近を許すわけもない。
……いっそ、降伏して助命嘆願でもするか?
せめて、非戦闘員のエリスだけでも見逃してくれと……。
……いやエリスにも戦闘に参加してもらったから、その道理も通るかわからん。
そもそも、エミリアの件で相手の善性を高く見積もってるきらいもある。
殺されずとも、魔族の奴隷として……考えたくもねぇな。
それに、エリスに限ったことじゃない。
三人だって「名誉の戦死」すら得られず、魔族に弄ばれる可能性はあるだろう。
現実問題として、人間と魔族は敵対関係。誰が誰を憎んでるかなんて、わかりゃしない。
なら、腹を括るしかねぇ。
……この女を、
ダメだの、ムリだの、甘ったれたことを言ってる場合じゃねぇ。
……殺るんだよ。
「……良い目だな。闘志に溢れている」
「……追い詰められりゃ、ネズミもネコを噛み殺すんだよ」
俺の啖呵に呼応するように、三人はエリスの前に出て、剣を、杖を構えた。
……後先は考えていられない。今、ここで、総力をあげて、四天王の一角、龍王を潰す。
俺達は互いに視線を交わし、その意思を確認した。
「まあ、待て」
女は、石畳の上に大剣を突き立て、大地を震わせた。
攻撃が来ると思っていた俺たちは、走り出そうとした足に伝わる振動に怯み、その走り出しを中断させられた。
「……別に、お前達をここで皆殺しにするつもりもない。魔王様からも、そのような命は受けてないものでな」
「…………」
知らねぇよ。
つーか、現に一振りで俺らを皆殺しに出来そうな奴に、そんなこと言われて「良かったぁ」なんて気を抜けるか。こんだけの力を持っておきながら、心理戦でも挑んでんのか?
「我々の目的は、
「……そりゃどうも」
……本当は脅威とも思ってねぇだろ。
入り口を塞ぐ兵どもも「かわいそ」みたいな視線送ってるじゃねぇか。
おかげで、【無自覚最強】の出力も安定してるよ。敵から「侮られている」証拠だ。
「……だが、いくら平和的に解決ができると言っても、貴殿らも『魔族に国宝を持って行かれる所を、指を咥えて見ていました』なんて、王に報告するわけにもいくまい?」
「……じゃあ、置いていってくれないか?」
「そうは行くまいよ。勇者が、魔族殺しの聖剣を持ち出すなど、我々の安全保障を脅かす大問題だ」
「…………」
当たり前だが平行線だな。
お互い、自国の安全が第一。それを脅かす兵器を目の前にしてるのに、暴力を伴わない落とし所なんてあるわけねぇ。
「故に」
龍王が、地に刺した剣を抜き、その切先を俺たちに向けた。
決して届く距離ではないが、決して安全とは言えない、その「圧」に、俺は怯む心を振り払うように、剣に手をかけた。
「人間領域の勇者カイトよ……これより貴殿に……聖剣を賭けた『決闘』を申し出るっ!」
「!」
龍王は、俺に向けた剣を微動だにさせることなく、口角を釣り上げ、鋭い牙を剥き出しにして、豪快な笑みを見せた。
「何人たりとも手出しは無用っ!私か!貴殿が!この大地に膝をつくまで!一対一の戦いを所望するっ!
宝物殿に、奴の声が響いた。
……他の仲間には手を出さない、か。
そりゃあ……願ったり叶ったりだが……。
「……あんたがゴネて、賞品を渡さなかったり、決闘を終えた後に、騙し討ちや仕返しで、俺の仲間を殺さない保証があるのか?」
俺の言葉に矜持を傷つけられたのか、龍王アンナは露骨に不機嫌な表情を見せた。
「……疑り深い男だ。『戦士の矜持にかけて』では不足か?」
「不足だね。俺はあんたのことなんて欠片も知らん。……信用する要素がねぇ。保証なしの口約束で、命なんざベットしてやるかよ」
……我ながら、生殺与奪を相手に握られて何を、という感じだが、ことは仲間の命と王家の威信だ。俺が死んだ後それが履行されないんじゃ、無駄死にだ。
約束を反故にされて仲間が殺されても、死んじまったら助けるどころか、文句すら言えねぇ。
「……まあ、構わんよ。貴殿のような疑り深い男のために、私は『これ』を持ち歩いている」
龍王は懐から一本のスクロールを取り出し、一筆書き加えて俺に投げた。
中を改めると宣誓の文言と、魔術式、奴のものと思われる血判が記されていた。
「アンナ=バイオレットは、貴殿との決闘の勝敗に関わらず、これを終え次第、指揮下にある部下及び同行者を、相手方に危害を加えることなく、この場より撤退させることを約束する。加えて、取り決めとなる
……契約書か?
俺は、メルとカトレアに視線を送り、中をあらためてもらった。
「
「大母正教会にも類似のものはありますが、神罰などの代償による強制ではなく、使用者の行動を制約する呪いを担保にするようです。周囲のものが止めれば履行されない場合もありますが……」
まあ、あの女を止められる部下がこの場に居るかっつーと、まああの中には居なさそうだよな。奴自身の強さが、契約履行の保証ってわけか。
……運よく俺が奴を殺せてしまったら、これを履行する者も居なくなり、弔い合戦不可避だが、ジーンもメルもカトレアも無傷なら、ここからの脱出は何とか可能だろう。
「同意するなら、そのスクロールを起動するがいい。まあ、私としては五人がかりでかかってきても構わんぞ?その場合は取り決めなどは野暮だろう。全員屍になる覚悟でかかって来ることだ」
……どの道、選べる立場になんてねぇってことか。
まあ、殺されるのが俺だけになるなら、上出来だろ。殺されてやるつもりもねぇが。
俺は、スクロールの魔法陣に手を添え、奴の記した
「悪いが、仲間も剣も渡さない。総取りさせて貰うぜ」
「……そう来なくてはな」
俺は、ジーンに渡した大剣をロングソードと交換し、奴を見た。
……あいつ、ゴーレムの重量武器も平然と破壊してたから、これ使っても通じるか怪しいところはあるんだが。
「……俺の剣が折れたら、ロングソードの方を投げてくれ」
「それ……決闘への介入にならねぇのか?」
「丸腰の相手を斬りたがる奴でもなさそうだし、まあ多目に見てくれるだろ」
「適当な人ですねぇ、あなたも……」
憎まれ口を叩く仲間達だが、俺を心配させまいとしているのか、切れ味はいつもより浅い。……気を使われると、余計死亡フラグみたいでイヤだな。
エリスと目があう。彼女は、ただ心配そうに、手を震わせながら俺の方を見ていた。
「……心配はいらない。俺は『勇者』だからね」
「…………」
「みんな、無事に帰れるさ。エリスも安心して……」
「勇者様」
遮るように、エリスは口を開いた。
「どうか、命を大事に……無事に、戻ってきてください」
「……」
ああ。
この子、怖いとかじゃなくて、俺を心配してるのか。
本当、優しくて、たくましい子だな。
……後がないと自覚すると、この子がいつも以上に愛おしく感じられてくる。
映画とかの定番の「この戦いが終わったら結婚しよう」とか、死亡フラグ立てちゃうキャラの気持ちが、身をもってわかったよ。絶対言わないでおこう。
……結婚かぁ。もう、夢のまた夢だな。
俺もさ、女相手に殺し合いする世界なんかじゃなくて、都内の庭付き一戸建てで、可愛い嫁さんと一緒に、平穏に暮らしたかったぜ。