チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~   作:CarasOhmi

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#27 チート勇者 vs 龍の王

 ――私の気分は、高揚していた。

 かの「勇者」と剣を交えるという、私の悲願。ついにその日が訪れたのである。

 

 かつて、英雄技能(チートスキル)で魔界を荒らし回った先代勇者【西禍】イサミ=サイジョウ。

 勇者討伐の功績で玉座に上り詰めた先代魔王【暴君】ベルゼアル=イーヴリット。

 

 もはや昔話になりかけている、魔族領域における暴虐の象徴に、その伝説の後継者に、戦いを挑むことが叶ったのだ。

 

 ……別に私は、「カイト=イセ」個人を殺したいというわけではない。

 彼個人に対して、私はさして、恨みなども持っていない。

 

 彼についての報告には、そうした愚なる暴に酔うが如き「悪名」などはない。

 私もまた、誇り高きグレタ陛下の配下として、そのような悪名を纏うわけにはいかない。元来、私たちは互いに憎しみ合う理由もないし、人魔の双方が膠着状態にある現状では、進んで殺し合う必然性もない。

 

 ……だが、だからこそ、魔族領域が表層的であれ平和を享受している現代において、こうした強者と剣を交える場面など、私の人生には訪れることはないであろうと、確信もしていた。

 

 ……だが、好機は訪れてしまった。動くべき大義名分も立ってしまった。

 ならば、ここで動かなければ……龍族の戦士としての名折れ。これを逃してしまえば、この先の後悔も尽きないだろう。

 

 ……陛下には必ず、私の行いの落とし前をつける。

 すべてが終われば、愚かな配下である私の首を差し出しても構わない。

 

 

 

 ――だが、この一時。

 この戦いだけは、誰にも譲らない。

 先代魔王に反旗を翻したあの日から、私はこの時の訪れを、ずっと待ち焦がれていたんだ。

 

 

 

「――来い、勇者カイト」

 

 私は、我が愛剣である龍鱗剣(ドラゴンスケイル)を両手に持ち替え、駆け寄る勇者に迎撃の構えを取った。

 

 

 

 ――決闘が、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

照明魔法(ライト)――っ!」

 

 突如、視界を眩い光が襲った。

 発光地点は勇者の手元。大母聖教会が信仰とともに伝道する、暗所を照らす照明魔法。

 

 奴は、この簡易神聖呪文に、膨大な魔力を注ぎ込むことで、その手元を太陽のごとく発光させた。奴の動き出しを捉えるべく、その動向を凝視していた私の目をくらませるために。

 

 私の視界が、多少なりとも像を見られる程度に元に戻った時。

 ヤツの大剣は既に私の首元に迫り――

 

 たった今、その刃が私の首に触れた。

 

 

   * * *

 

 

 俺の大剣は、龍王アンナの首をとらえた。

 俺の魔法による目くらましは成功し、目の前の女の首は、俺の力任せの斬撃により、宙を舞っているはずだった。

 

「……んな、バカな」

 

 眼前の光景に、目を疑った。

 

 剣はヤツの首に当たっている。だが、一ミリも刃は食いこんでいない。

 さながら、岩に向かって棒を叩きつけたかのように、俺の手には痺れだけが、じんじんと伝わってきた。

 

「初手から、こんな姑息な手段を取るとはな」

「……魔法禁止って書かれてなかったからな」

 

 俺の減らず口に、奴は歯を剥き出しにして笑う。

 

「構わんよ。自由に使えばいいさ。魔法と剣技を自在に操ることこそが、勇者という職能(ジョブ)の特性なのだろう」

 

 そういって、奴は左手を握り、俺の腕に向けて裏拳を放った。

 

 

 

 

 ――喰らえば、俺の両腕の肉と骨が、千切れ飛ぶ。

 直感的に悟った俺は、大剣に力を籠め、奴の首から得られた反発力をもって、大剣の重量に振り回されるように、上体を逸らし、後方に飛び退いた。

 

 俺のみぞおちの上を、奴の「うろこに覆われた」拳がかすめる。同時に、かすかに拳が触れたシャツが、その下に着込んだ鎖帷子がはじけ飛び、地面に落ちて軽い金属音を鳴らした。

 

 俺は、のけぞった姿勢のまま大剣を後方の地面に突き刺し、その先端を起点に、宙返りする様に跳躍し、奴の顎に右足で蹴りを入れ、左足で肩を蹴り、剣の後ろに着地し、再び剣を抜いて、奴に向かって構えた。

 

 ……剣戟も、蹴りも、喰らっても微動だにしてねぇ。岩じゃねぇのかコイツ。

 

 

「剣技だけでなく、体術も達者とは……勇者は器用なことだ」

「……悪かったな、器用貧乏でよ」

 

 俺の言葉を聞き、くくっと笑いを漏らす。

 いくら手札が色々あろうが、有効打のひとつも通せないんじゃ、どうしようもねぇんだよ。嫌味な女め。

 

 ……しかし、一連の攻撃で気づきも得られた。

 あいつの硬度、これは筋肉や骨……もあるんだろうが、それだけじゃねぇ。

 

 ――「(うろこ)」だ。

 奴は、俺の攻撃が命中する瞬間、その衝突部位に瞬時に深紅の鱗を展開している。おそらくこれが「龍の魔人」の体質。

 強靭な鎧の役割を果たす龍の鱗を、自身の体表に出し入れすることで、敵の攻撃を弾き返す。目くらましの時の初撃においても、奴は首や手首などの重要部位をうろこで覆っていた。腹や太もも、脳天に突き刺していれば有効打になったかもしれないが、大剣は突きには不利だ。

 

 俺は、ショートソードを抜いた。

 ……もとより奴は重戦士。同じ土俵の力比べは明らかに分が悪い。

 

「見切り」と「鱗」が防御の要だというのなら、こちらは速度と手数だ。

 ヤツの防御より早い太刀筋で、奴の防御を突破する。

 

 俺は、大剣を奴の心臓に向け投擲した。

 その剣は、鈍い衝突音とともに、龍王の持つ巨大な剣に弾かれ、後方の石畳に突き刺さる。それと同時に、俺は奴への間合いを詰め、手に持ったショートソードで初撃を打ち込む。

 

 その一閃はヤツの鱗に遮られるが、俺はそのまま刃を左下に滑らせ、奴の右太ももに向けてショートソードの太刀筋を翻す。しかし、これもまた鱗に遮られる。

 

 鱗の展開は早い。生半可な剣技でこれは突破できない。

 だが、同時展開できる面積に制限があるのか、全身を覆うことはしない。付け入るスキはあるはずだ。

 

 ならば――

 

 

加速魔法(アクセラレーション)――」

「!」

 

 俺の脚が、体幹のばねが、筋肉の伸縮速度が、魔力によって急速に強化され、時計回りに回転する俺の身体は、一撃、もう一撃と、速度を増しながら奴に斬撃を浴びせかける――!

 

御影(ミカゲ)遁法(とんぽう)諸刃車(もろはぐるま)』」

 

 

 

 御影(ミカゲ)流は、魔族領域との緩衝地帯に近い、南方の温帯列島より伝来した、剣術と遁走術を組み合わせた、隠密向けの軽剣術流派。

 ……そう、日本人には馴染み深い「忍者(ニンジャ)」の流派だ。

 そして、この世界の忍者は自身の体一つで任務をこなす硬派な特殊諜報員ではない。平然と「魔法」を使っちゃうタイプの「NINJA」である。

 

 この世界における「魔力」は、現世の中国武術の「内功」「外功」のようなもの。経絡を循環する「気」を、内に留めるか、外に放出するか。その「気」が「魔力」に置き換わったようなものだ。……と勝手に思ってる。

 戦士は体内での魔力運用に優れ、魔術師や僧侶はアウトプットに優れる者に適性がある。魔力総量の多い魔族は、生まれながらに人間以上に強い膂力を持つ。……龍《ドラゴン》は言わずもがな、だな。

 

 加速魔法(アクセラレーション)は、身体を巡る内なる魔力の働きを増幅させる、身体機能特化型の倍加魔法(マルチプライヤー)だ。

 剣技の習熟者においては体内の魔力操作も迅速であり、その効果は相乗的に伸びる。有効時間は極めて短いが、ここでヤツの「鱗」を突破できるなら、それで十分。

 

 

 

 そして、狙い通り、奴の身体の各所に斬り込まれる斬撃は、大剣とうろこだけでは防御しきれない。手数に防御が追い付かない。

 

 ――そして、俺の剣閃は、奴の左腕をとらえた。鱗の防御は間に合わない。ついに、俺のショートソードが、奴の素肌に触れた。

 

 

 

「――ふんッ!」

 

 奴は、左拳を握り締めた。

 

 

 

 ……おいおい、嘘だろ。

 鱗ない所に当てても、筋肉で剣を止められんのかよ……。

 出血もしてないし、皮が少し切れただけか?

 

 奴は俺を睨み、右手に持った巨大な剣を振り下ろす。俺はそれを横跳びで避けたが、ショートソードは大剣の重量を感じることすらなく、鍔から先を少し残して、刀身の大部分を消滅させ、その代わりのように、金属の粉末をあたりに散らした。

 

 ……この大剣、威力もヤバいが、側面に龍の鱗のような突起がついてて、これが鮫皮よろしく斬撃の方向に引っかかるように並んでるんだな。斬撃というか「削り取る攻撃」と見るべきだ。

 事実、俺のショートソードの残骸も、切断面は綺麗なものだ。これを喰らったら、人体なんてミンチを通り越して紅葉おろしだ。

 ……この期に及んで、トラックよりひどい死に様になるなんて、あんまりだろ。

 

 俺はよろけるように、奴の横に逃げた。

 そして、丸腰になった俺に、ジーンがロングソードを投げて寄越した。俺はそれを手に取って、再び構えを取る。

 それを見て、龍王は満足げに口角を上げる。

 

「良いぞ、武器が壊れた程度で諦められては面白くない。もし、使う獲物が無くなったら、私の部下の武具も貸してやるぞ?」

「……そりゃどうも。ドラゴンをぶった斬れる業物にしてくれると助かるよ」

 

 龍王は、左掌を開き、力を抜いて、腰の辺りまでおろした。

 ……やっぱり、刃は全然食い込んでないし、出血も皆無だ。こんなバケモノに剣が通るのかよ。

 

 ……いや、「力を入れて」止めたってことは、完全に無防備なら、攻撃自体は通るはず。完全無敵でないのは確かだ。

 

 ……だが、その前提として「鱗の防御を掻い潜り」「筋肉の緊張による硬化前に」ヤツに刃を通す必要がある。

 今回の猛攻も、「加速魔法(アクセラレーション)」と、【ランク反転】で最大化した「御影流忍術(ミカゲ・アーツ)」の軽体術を組み合わせて、どうにかこうにか入れられたものだ。再現性だって怪しい。

 

 ……そして、奴の「筋肉防御」への判断切り替え。これは鱗の防御が追い付かないと察知した後に行った対処だ。おそらく「触覚」からそれを判断している。

 つまり「肌に剣が触れてからの筋肉防御」でも、俺の攻撃を防ぐのには間に合ってしまうってわけだ。

 

 ショートソードで攻撃が軽いからってのはあるだろうが、大剣はそんな身軽に扱えるものでもない。そもそも、大剣術は忍術の体系に含まれてないし、こんな猛攻をするのは無理だ。

 ロングソードは……臥狼一元流の「護り」の剣術で、手傷を負わせられる相手か?

 

 

 あまりの先の見えなさに脱力する俺に、奴は凶悪な笑みを浮かべながら、大剣を握り締め、一歩、また一歩と近づいてくる。

 

 使える手札はロクにない……もう詰んだかもしれんな……。

 いっそ、お互い五体満足なここらで降参してしまえば、契約魔法で平和的に解散できるし、それで良いんじゃねぇのって誘惑にも駆られる。

 

 

 

 ……でもなぁ。

 

 対魔の装備であるアーティファクトを持ち去られたら、それこそコイツみたいなバケモノは永遠に倒せなくなるんじゃねぇかな。

 

 向こうから戦争起こさないでくれりゃ、俺としてはどっちでもいいんだけど、エミリアの領域侵犯の件を考えると、それも過信だよなぁ……。

 そうなりゃ、西方世界ではどんだけの人間が殺されたり、奴隷にさせられるんだろうな……。俺たちパーティーだって、他人事でいられるわけでもねぇ。

 

 俺は、この怠惰で諦めの早い姿勢に、市民から、仲間たちから、エリスから、軽蔑の視線を向けられながら、ジリ貧の闘いを続けるわけだ。

 きっと、その度「あの時、真面目に聖剣を守っていれば……」って、後悔することになるだろうよ。

 こういう場面で諦めるような奴は、いつまで経っても、誰からも信頼なんてされねぇ。

 

 

 ……ああ。ダメだ。

 やっぱり、ダメだよな。

 

 

 

 

「ダメだよな。勇者として……諦めちゃ、さ」

 

 

 チート野郎とは言え、一応「勇者」。

 現世の俺からすりゃ、ガラにもない感じなんだけど。

 もう少し、もう少しだけ……踏ん張ってみるか。

 

 

 

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